泣くだけ泣いてスッキリしたらしい唯が顔を出し、やけにキリッとした顔で「ん」*1と言いながら出てきた。あらやだイケメン。
それじゃあ3人で観戦に戻ろうか……とはならず。俺だけちょっとリカバリーガールの所に用事があるんだわ。悪いね。
今から切島とバクゴーの試合が始まるくらいか。俺の試合には十分間に合うだろう。
「ちわーッス……?心操?お前何でここに?」
「ん……間飛か」
出張保健室に来て真っ先に目に入ったのが心操だった。次の対戦相手だからなるべく出くわしたく無かったんだが……保健室でかち合う分にはどうしようもないか。
しかし一つ気になるのは心操が毛布を被せられていること。轟の氷結攻撃は寒かっただろうけど、いくらなんでも引きずり過ぎだろ。寒がりかオメー……いや待て。
「……お前、まさかそういう事だったりする?」
「察しがいいな。俺は棄権だ」
「マジかぁ……低体温症的なヤツか?」
「的なやつというか、そのままだよ。あくまで可能性らしいけど……」
よく見てみれば微かに手先が震えている。元々良くなかった顔色も更に悪くなっていた。
轟との試合はかなり長引いていた。制限時間ギリギリでジャッジキルという幕引き……その間心操は汗をかきながらも轟の個性によって冷却された空間にいた。
心操曰く「轟の体に霜が降りてたから勝負に出た」らしいが、その時点で心操の体操服にも霜が降りて所々凍っていた。遠目でも分かる。
トドメに逃げ回る途中で何度か鋭利な氷で切り傷が出来ていたり、最後の方で足首を捻っていたらしい。それらをリカバリーガールに治癒してもらった今、心操の体力はスッカラカンというわけだ。
「ただでさえ低体温症気味なのに体力が底を尽きて……これは無理だろうって」
「えー……俺お前と戦うの楽しみだったんだけど」
「…………俺もだよ」
話は既にミッドナイト先生達にも伝わっているようで、裏方ではどうすべきかと話し合っているらしい。頼むから不戦勝だけは勘弁してくれよ……?
っと、そういや俺は俺の用事があるんだった。
「すまん俺もリカバリーガールに聞きたい事があってな……」
「アタシにかい?」
「はい。体育祭が始まる前から感じてたンスけど……どうにも身体に違和感があって」
「……お前も棄権か?」
「ニヤニヤすんな風邪っぴきめ」
思ったより凹んでねえし。嬉々として仲間を増やそうとすんじゃねえよ。お大事になクソッタレ。
身体の違和感。何がどう、とは具体的な言葉を使って表現出来ないのだけれども。ただの走り込みからパンチ一つキック一つ取っても妙な感覚が拭えないでいる。
なんと言うか……こう、これで合ってるはずなのに『何か違くね?』という疑問が脳裏にこびり付いているというか。
「今まで無意識でやってた事を意識すると出来なくなった時のもどかしさ?みたいなのがずーっとあってですね……」
「ふうむ……ひとまず見てみようか。怪我はしてないね?」
「してないです。病気の方が疑わしいッスね」
試しに上を脱いでアチコチ見てもらったけど、やはり俺の知らない怪我もなければ病気の可能性も見られず。原因らしい原因は特定出来そうにない。
そうなると成長痛だとか筋肉痛が原因では?と聞かれたけど、別に痛くも無いし怠さも無い。ムズムズする感覚はあるんだけどね。
「…………と、なると……個性関係かねえ?」
「でも、体育祭前からですか?」
「……無くはないだろ。原因が他人の個性とは限らないんだから」
「えっ、俺の個性が原因なの?」
マジか。原因俺なのか。じゃあどうしようもねえじゃん。
幸い現時点で致命的な何かがありそうな気はしないし、放って置いたからって後悔するような事でもなさそうだ。病気は無いというお墨付きが出ただけでも有難いと思っておこう。
「……そういや俺の試合どうなるんだ?」
「それなら決まったよ!」
「「お、オールマイト!?」」
「HAHAHA!私が来た!ってね。騒がしくてごめんね?」
びっくりしたあ……。何で保健室と一番遠そうな位置にいるアンタがここに来るんだよ。心臓がトリプルアクセル決めながら口から出るところだったわ。
オールマイトが伝えてくれた俺の試合についての情報についてだが。どうも心操が棄権した代わりに轟が上がってくるらしい。
アイツもだいぶ冷えてたんじゃ?と思ったが、左の炎で瞬く間に戻ったらしい。おのれ強個性。
「あー……心操少年。君も大変不本意だとは思うけど……その、気を落とさずに──」
「大丈夫です」
「──へ?」
「まだ、終わってないんで。
「…………ああ、そうだとも!」
ンだよ轟の個性よりよっぽど強いやんけコイツ。唯といい心操といい最近の若者はメンタルつよつよか?
……てかこれどっちかって言うと、心操よりも轟の方が不本意だろうなあ。
◇
「……あ?どういう事だ?」
切島を叩きのめして戻ってきた所に伝えられた事実を、眉間に皺を寄せて聞き返す。バッチリ聞こえていたし理解もしているけど、納得は出来ない。
「だから、シンソー?って人が轟との試合で力尽きたらしくて」
「それだと死んだみたいじゃね?」
「どうやら身体を冷やし過ぎた上に治癒で体力を使い果たしてしまったらしい。心操君が棄権する事になったので、轟君が繰り上げになるそうだ」
「……チッ、そうかよ」
半分舐めプ野郎は気に食わないが……少し同情する。おそらく教師陣で話し合った結果出た結論であり、今から本人がどれほど不服申立てをした所で覆すことは出来ないだろう。
もし半分舐めプ野郎がジャッジ負けじゃなくて場外、或いは気絶等の戦闘不能なら結論は違っていたかもしれない。それも後の祭りだが。
自分を打ち負かしたヤツが出れないからと、お情けで与えられた挑戦権に喜べるヤツじゃねえ。うっかり聞いちまったエンデヴァーの件もあって精神的にはズタボロだろう。
(半分舐めプ野郎の相手は……陰キャ前髪か)
シンソウとやらが陰キャ前髪に勝てるとは思っていなかった。だがそのシンソウ以上に今の半分舐めプ野郎じゃ陰キャ前髪には勝てない。次の次の相手は決まったようなもんだ。
何もかもが望ましくない状況には同情する。だがそれはそれとして相手を舐めきって手を抜いていたテメェが悪い。今のアイツに許されているのは諦めて受け入れることだけだろう。
「あれ?そういや間飛どこいった?」
「さっき保健室に行ってたよ」
「あ゙あ゙!?」
テメェもかよ!ふざけんなァ!!!
◇
『えー……準決勝進出やる前にお知らせがあるぜ!』
『心操リスナーが2回戦で身体を冷やし過ぎたのもあって、棄権を宣言した』
『んで、協議の結果判定負けとなった轟焦凍を繰り上げとして準決に行かせる事になったぜ!』
『そんじゃ改めて!!お前らテンション落とすんじゃねえぞ!!?』
「…………」
「随分と悲惨な面してんねぇ。まるで『私は世界で一番不幸な人間です』とでも言いたげな面だ」
「うるせぇ……!」
「……おー、怖々。目付きが爆発さん太郎みてえ」
『準・決・勝!!轟焦凍
『START!!』
心操「寒くてぴえん」
小大「ん(負けてぴえん)」
間飛「え、えーと……一人残っちゃってぴえん……?」
心操「嫌味か?死ねよ」
小大「ん(キズツイタナー)」
間飛「……ぴえん」