え?OFA?何それ……   作:南亭骨帯

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目標がある奴は強い

 

 

 

 

 腹立たしい。腸が煮えくり返るほど腹立たしい。

 目の前の相手を舐めきって負けた俺も、憎い親父由来の個性に助けられた俺も、お情けの繰り上がりでこの場に立っている俺も。

 

 全部、全部。何もかもが嫌になる。

 

 何が『お前に勝つぞ』だ。1回戦敗退とはいえ緑谷は本気だった。その緑谷に打ち勝った普通科の生徒も本気だった。じゃあ俺は?

 全力……ではあった。俺の右側で、母さんの氷で全力を出して、いた。左側は?

 本気を出していたはず、だ。負けたくないから、親父を否定したいから。俺は本気で、全力を尽くしていたんだ。負けたくせに?

 

 炎を使えば勝てたかもしれなかったのに?

 

「…………うるせぇ」

 

 もう、どうでもいい。とにかく親父を否定したい、俺から遠ざけたい。例え負けたとしても……

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 試合開始直後、轟の取った行動はやはり開幕ブッパ。皮肉なことに炎による体温の回復もあり、万全の一撃だったそれは1回戦の瀬呂戦と同等の威力を持っている。

 舞台に生み出されるのは1回戦の時と同様のもの。超巨大な氷塊が観客席すらも覆い隠しており、間飛の姿を見失った観客の1部は『また瞬殺か!?』と浮き足立っている。

 

『……さすがに避けるだろうな。ワンパターンとまでは言わずとも、傾向は読めていたんだろう』

 

「改めて見るとやべー規模してんなおい」

「……」

「俺の個性は【洗脳】じゃねえんだぞ?会話にくらい応じてくれよ」

 

 しかし相澤の実況がそれを否定する。轟の初動は大抵開幕ブッパ、それも相手に向かって波のように放っていた。手段も軌道も読めているのならば【瞬間移動】で回避出来ないはずがない。

 氷の上──舞台の範囲内──から見下ろしながら、轟の氷結攻撃の威力を思い知る間飛。なるほどこれは舐めプが出来るわけだ。

 

「しっかし、邪魔だなこれ」

「……何を?」

「俺は勝ちたいしアピールもしなきゃならないんでね。観客の目を塞がれるのは困るんだわ」

 

 

CRASH!!!

 

 

『っハァ!?何したアイツ!?いきなり氷がぶっ壊れたあああ!?』

 

 

 狙いを定めもせず、真下に向かってデコピンを放った。緑谷でも同じ事象を起こすことが出来ていたのだが、まさかほぼノーモーションでそれを起こされるとは。

 間飛の一撃で氷塊全体がキラキラと砕けていく。一部の小さな塊を残しながら氷塊の大半が消された。

 

 轟の顔に動揺はない……否、そもそも今の轟の顔には表情が無い。気がかりがあるとすれば、感情が抜け落ちた空っぽのソレではなく、もっと強いナニカに塗りつぶされているように見えることか。

 

「お前に事情があるってのも聞いたし、心操の件も同情するよ。でもな」

「…………」

ここに立つなら本気でやれよ(・・・・・・・・・・・・・)

「…………うるせぇよ」

 

 重みを感じる言葉に何も乗せられていない、反射的な拒絶だけが口に出される。重みも無ければ意思も感じられない、形だけの言葉。

 

 再び氷結を、と轟が冷気を放つと同時に間飛の姿が掻き消える。ワープか、なんて無感情に理解しながらも身体の動きは未だ鈍い。

 おそらく背後だろうと振り返ろうとして、轟の視界が大きく揺さぶられた。

 

「左だよ。後ろばっかり取ってもつまらねえだろ?」

「く……この……!」

「……なーんで左側の奴にわざわざ右側の個性使うかね」

 

 大して威力の乗っていない裏拳。轟の横っ面を叩いた一撃を見せつけるように、右腕を持ち上げたまま気だるげに呟く。

 不意の打撃によろめきながらも、右足を起点に氷結攻撃。冷気が舞台を這いながら氷の軌跡を生み出していく。ワープ。また回避……から左側を殴られる。

 

 数回、同じような光景が繰り返された。間飛は軽々と轟の氷結を避けては執拗に左側から攻め込み、対する轟も頑なに右側の氷でカウンターや迎撃を試みる。誰にしたって妙な状況だ。

 

『……何で炎を使わないんだ?』

『右側ばっかり使ってるよな』

『今もほら!あそこで炎を使えば……』

『もしかして手抜きか?』

『不本意なのはわかるけどさあ』

『はー……やる気の無いやつだな』

 

『オイオイオイ!?何か不穏な空気になってきたんじゃね!?どーするよ!』

 

『知るか』

 

 徐々に観客達のどよめきも大きくなりつつある。その内容の大半は間飛ではなく、頑なに左側を使わない轟に向けられるもの。

 プレゼントマイクも相澤もマズイ空気だと理解は出来るけれど、対処出来るようなことでは無い。ドクターストップを入れることさえ怪しい領域だ。

 

 とうとう何度目かの打撃に轟が膝を突く。身体に降りた霜と鈍い痛みが、彼の限界に近いのだ。

 

「ぐっ……」

「はーバカバカし。何でこんな奴の相手しなきゃならねえんだか」

「…………」

「お前とやるぐらいなら心操とやる方が100倍有意義……いや、ゼロは所詮ゼロだわな。悪い」

 

 そりゃそうだろう。このまま同じことを続けるだけで……炎を使わないと分かりきっている左を攻め続けるだけで、間飛の勝利は確定している。防御も迎撃も出来ないのだから当然だ。

 間飛も全力を出す様子は見られない。何せ片手間にやっても勝てる相手なのだから、こんな所でわざわざ本気を出してやる理由なんてない。

 

「何も……何も知らねえくせに……ッ!」

「……ハァ?」

「俺が!俺がこの炎をどれだけ憎んでるか……!」

 

 膝を突いたまま間飛を睨む。目の前の男子は自分の事なんて何一つ知らないくせに、何も関係なんか無いくせに。何の権利があってそこまで言われなきゃならないのか。

 自分だって望んでこうなったわけじゃないのに。どうしてお前なんかに───

 

 

「知るかよバアアアカ!!」

 

「ゴボッ……!?」

 

 

『よ……容赦なくぶん殴ったああああ!?アイツ鬼だぞ!わざわざ殴りにくい腹を狙っtアウチ!?何Soon……!?』

 

『舞台近くのマイクを切らせてもらう。生徒達のプライバシーもあるんでな』

 

 

 一刀両断。今自分が受けたのは拳による殴打……純然たる打撃のはずなのに、何故かその言葉が轟の脳内を過ぎった。

 

 吹っ飛ばされる事はなく、鈍痛に2、3歩後ずさってその場にしゃがみこむ。痛い。重くて強くて、どこにも逃げてくれない痛みだ。

 

「テメェの事なんざ知るか!俺がテメェの事で知ってんのは名前と性別と年齢ぐらいじゃボケカス!」

「……?」

「耳かっぽじってよく聞けや!!」

 

「怒りだの憎しみだのなんて知るか!そりゃテメェの都合だろうが!?」

 

「なァんで俺がテメェの都合に配慮して気持ちよく勝負してやらなきゃならねえンだよ!頭エンデヴァー*1かテメェ!?」

 

「ンフッ」

「ミッドナイト先生……ここは黙っててください」

 

「……頭、エンデヴァーってなんだよ」

「あ゙!?自分勝手クソヤローって意味だドアホ!!」

 

 自分勝手クソ野郎。自分の身の上話を聞いた上でのエンデヴァーへの感想なのだろうが、余りにも身も蓋もない。言葉のオブラートという概念を知らないのだろうか。

 

「お前ここがどういう場所かわかってンのかゴラァ!?」

「……雄英体育祭」

「そうだけど違ェよ!ここは自分のなりたい未来の為に競い合う場所だろうが!先生の話聞いてなかったか!?」

 

 ……自分のなりたい、未来。子供っぽく言い換えれば将来の夢。自分がいつか叶えたい目標。

 俺は何になりたかったんだっけ。親父を否定……?違う。母さんを助けたい……違わないけど、違う。じゃあ俺は何を……。

 

「俺は俺の目指すヒーロー像の為に!全力でテメェとテメェ以外を蹴落としに来たんだよ!」

 

「テメェが俺を蹴落としてでも勝ちたい理由はなんだ!?それも言えねえならこんな場所まででてくんじゃねえよ!全力でやってる奴らに迷惑なんだよオラァ!!」

 

『本当に容赦ねえなアイツ!?泣きっ面蹴ったぞマジで!』

 

 ……ああ、そうだ。俺が勝ちたい理由、なりたい目標。随分遠く感じる。どうしてか忘れてしまっていた、俺がヒーローを目指した原点(オリジン)

 

 

─────

 

 

『いいのよ、お前は』

 

『血に囚われる必要なんてない』

 

『なりたい自分になっていいのよ』

 

『だって、お前の人生なんだから』

 

 

──────

 

 

 

 そうだ。俺はなりたい自分になる。やりたい事をやる。それで、いいんだ。

 

 

『これは……!?氷じゃなくて、炎か!?』

 

「使った……!左を!」

「……ケッ」

「す、凄い熱気……!」

 

「…………あ゙あ゙あ゙……さっさと倒しときゃよかった」

 

 

 轟を中心に炎が渦巻く。身体に降りた霜は消え去り、冷え固まった身体に熱と柔軟性が、そして轟の目にギラギラとした輝きが現れる。

 

「……何がさっさと、だ。ふざけやがって……!」

 

「お前もヒーローになりてえくせに……!」

 

 

「俺だって……!ヒーローに……!!」

 

 

 轟焦凍:個性【半冷半燃】

 

 氷と炎、対をなす二つの力を持った個性。これまでエンデヴァーへの憎しみから縛られていた炎が、膨大なエネルギーとなって吹き出した。これまで氷のみという半分しか使われていなかった個性が、轟焦凍の全力が解き放たれた。

 

「楽しそうな面しやがって……ようやく本気か?」

「ああ……悪いな」

「謝罪なんかいらねえよ。やる事は変わらんだろ?」

「そうだな……俺も限界が近い」

 

 だからこそ

 

「「これで終わらせる!!」」

 

 

 氷結と火炎が暴れ出す。体温という枷から解き放たれた全身全霊の氷結が、拙いながらも持ちうる全てをつぎ込んだ無我夢中の火炎が、左右から波涛の如く噴き出す。

 受け継がれてきたバトンが、肉体という器を飛び出してパリパリとスパークし始めた。これまで一度もなかった正真正銘のフルスロットル。【フィジカルギフト】の全力が解き放たれる。

 

 

「デトロイトォ!!」

 

「───ありがとな、間飛」

 

 

 

 

WAKOOOOM!!!!

 

 

 

 

 衝突した一撃に拮抗は無かった。

 

 火炎も、氷結をも穿ち抜かれた。

 

 

 

『イレイザーお前のクラスどうなってんのマジで……?』

 

『一方的に勝利……これがアイツの全力か……』

 

『話聞いてる?』

 

 巻き上げられた砂煙の晴れた先、舞台の上に立っていたのは一人だけ。

 そこには拳を振り抜いた体勢で立ったままの間飛が、静かに存在していた。

 

 

『轟焦凍、場外……!!間飛移、決勝戦進出だあああああ!!!』

 

「っしゃあああああっ!!」

 

 

 轟焦凍、準決勝敗退。

 間飛移、決勝戦進出。

 

 

 

*1
※滅茶苦茶自分勝手な奴、の意





エンデ「頭エンデヴァー……だと!?」

ミッナイ「ンフッ、ちょっ、間飛君それ酷ッフフっ」
相澤「……フッ」
セメント「……くっ」
オールマイト「ブフッ!」

心操「……はははw」
小大「んw」
発目「ははは!罵倒の仕方が酷いですね!」

爆豪「……ククッ」
緑谷「ええ……」
飯田「確かに轟君は半分髪色が赤いが……?」

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