体育祭の代休も終わり、あれだけの激闘も傷一つ疲れ一つ残すことなくさっぱりした二日後。残念ながら天気もさっぱりと晴れ!とはいかずにシトシトと雨が落ちてくる。
こういう時の電車やバスは、窓の外を意味もなくぼんやりと眺めてしまうのは俺だけじゃ無いだろう。スマホを手に取る気にもならない。
「……なあ、アレって雄英体育祭の」
「一年の部の二位の人じゃない?」
「あの腕であのバカ威力使うのか」
「あら♪生で見るともっとカワイイ♂じゃない!」
そうすると他の客の話し声もよく聞こえてくるな。人混みの向こう側でボソボソと俺の事を話し……何か変なのいなかったか?
体育祭の後ということもあってか、話し声のほとんどが俺についてのものばかり。さすがに直接声をかけてくるような剛毅なものはいなかったらしい。出来れば朝は俺もそっとして置いて欲しいから、そのままでいてくれ。
「……何かアレだな。体育祭の時はそうでも無かったけど」
「一人で黙ってるとなんと言うか……」
「陰キャっぽいというかパッとしないというか」
「アタシ地味な子も好きなのよねぇ……いい事思いついたッ♪」
……よし、次の駅から走ろうかな!
「おはよう。全員体育祭の疲れは取れたか?」
いつも通り気だるげに、眠そうな目を擦りながら相澤先生が尋ねる。丸一日の休日があった上に負傷は全てリカバリーガールに治療された。元気いっぱいですとも。
「そうか。今年の体育祭は特に激しい攻防が多かったからな。特に最終種目のトーナメントのメンバー、なんかあったらリカバリーガールんとこに行っとけよ」
「俺爆豪の連打で結構痛めつけられたしなあ……後で一応行くべきか?」
「切島なら大丈夫じゃね?最後らへんの爆豪とか間飛よか軽いだろ」
「アレと比べてやるなよ……」
「おいまだ途中」
おお……もう既にA組全体が躾られてるな。ちょっと声のボリューム上げただけで一気に静かになった。パブロフのナントカみたいだ。
今日のヒーロー情報学はちょっと特別、という話が行われた。特別という言葉から『そんなに難易度の高い授業なのか……?』という不安を抱いたけれど、コードネーム考案だと知って全員がまたはしゃいだ。
「……というのも、先日話した『プロヒーローからのドラフト指名』に関係してくる。一年生への指名は有望株への……『お前に興味を持っている』という意味合いが強いが」
「やっぱ二、三年からですか?本格指名とかは」
「ああ。だからまだ妙な期待はするなよ。むしろ目をかけられている事を意識しておけ」
そして体育祭の結果を元にプロから来た指名の結果が発表された。
───────
間飛:5,503
爆豪:4,289
轟:2,916
常闇:390
上鳴:305
飯田:301
八百万:98
麗日:20
瀬呂:18
───────
「例年はもっとバラけていたんだが……今回は上位三名に偏った。それともう一人、普通科の生徒である心操にも二千七件の指名があったそうだ」
二千……?プロ共は節穴かよ。あんな将来性の塊をスルーとかどんなおめでたい頭してるんだよ。その倍、なんなら俺より指名が来ててもおかしくないだろうに。
それはさておき、指名の有無に関わらず職場体験をしてもらいたいらしい。インターンとは違うのか?とも思ったが、今回はあくまでもお客様の立ち位置だとか。
それで必要になって来るのがヒーロー名。体育祭で散々アピールしといてなんだが、個人情報の隠匿や指示伝達などの面で必要となって来る。
「まぁ仮ではあるが、適当なもんは……「付けたら地獄を見ちゃうわよ!!」
「この時の名が!世に認知されてそのままプロの名前になっている人が多いからね!」
むふー、とドヤ顔で登場したのはミッドナイト先生。ああ、この手のセンスは相澤先生には無さそうだからな。査定の担当をしてもらうのか。
名付けに必要なのは『意味』だ。自分が将来なりたい姿や、自分自身を強く表す意味合いを持たせることが重要となる。まさに「名は体を表す」という事だろう。
……え?発表形式?マジで?
◇
「輝きヒーロー“I can not stop twinkling”」
「最早短文じゃねえか!!」
「じゃあ次アタシね!エイリアンクイーン!!」
「2!?血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!?」
……残念なことにスタートダッシュを切った二人が、寄りにもよって寄りにもよった二人だったせいで空気が大喜利に傾いていた。おかげで三人目が現れる気配がしない。
誰もがこの空気どうしてくれるんだ、と思った時。自ら空気を読みに行かないタイプの蛙吹梅雨が一歩踏み出した。
「小学生の時から決めてたの。FROPPY」
「カワイイ!親しみやすくて良いわ!皆から愛されるお手本のようなネーミングね!」
その結果、見事大喜利の空気は払拭された。ここからは真面目に考えましょうねと、釘を刺すようにお手本のようなネーミングセンスを披露してくれた。
さあさあお笑いはそろそろお終いだと。ようやく発表しやすくなった雰囲気に続々とヒーロー名を考案していく。
「んじゃ俺!
「ヒアヒーロー・イヤホン=ジャック」
「テンタコル」
「セロファン!」
「て……テイルマン」
「被っちまった。シュガーマン」
「
「
「ステルスヒーロー!インビジブルガール!!」
他にも『クリエティ』や『ツクヨミ』など、センス良さげな物から厨二病かと言いたくなるものまで。中には自分の名前そのままの『ショート』や、ヒーローとしてそれはどうかと思うような『爆殺王』*1を発表する者もいた。
では間飛はというと……
「センセー……青山は許されたのに俺の『ワン・フォー・オール』は何でダメなんですか?」
「えーっと……ほら!色んな所でスローガンとして使われているような言葉だから!ね?」
的確に地雷を踏み抜いていた。
見るがいい緑谷の表情を。冷や汗だとか恐怖だとか色んな物が入り交じって作画崩壊を起こしたアニメキャラクターみたいになっているじゃないか。そのうち溶けたり砂になったりするんじゃないだろうな。
オマケに本来とは違ってオールマイトの秘密を教師陣達が共有しているものだから、相澤先生もミッドナイト先生も頭を抱えてしまっている。もうコイツわざとやってないか?という疑問さえ出てきた。
ちなみに当たり前だが、間飛本人には悪意も無ければふざけている訳でもない。だって無関係だもの。
もっと言うなら至って真剣だからタチが悪い。ヒーローの理念として『
「マジかぁ……」
(……イレイザー。この子引っぱたいていい?わざとじゃ無いんだろうけど腹立つんだけど)
(落ち着け。名付けの理由も由来もしっかり考えていたのは確かだ。腹立つのはそうだが)
まだ入学してから短い期間ではあるが、既に散々っぱら振り回されてきた身としてはいい加減にして欲しい。あまり表に出してこなかっただけで疑わしいことがある度に裏を洗っていたのだから。
何より一番ムカつくのが、この怪しさの塊で驚くべき白さという点だ。ここまで来たらいっそ黒であれよと何度思ったことか。
そんな事になってるとは露知らず。間飛は呑気に新しく考えたヒーローネームを発表する。
「んじゃこれ。カノンで」
「『カノン』?人名みたいだけど……理由はあるのかしら?」
「大砲見たいな攻撃力あるんで『キャノン』と、自分に出来ることをやるって意味で可能……英語のcanと合わせてます」
「うん、それならオッケー!」
急にまともに決めるんじゃない。と言いたくなったが、最初にケチをつけたのは自分たちだ。そう思うと特に文句を言えるはずもなく。
残った生徒達も『テンヤ』や『デク』と、ヒーローネームを決定した。
オールマイト「僕もうあの子が怖い」
《if:もしOFAで通ってたら》
AFO「……隠す気ゼロかな?」
Dr.「これバカにされとるのう」
AFO「(#^ω^)ピキピキ」