職場体験三日目の朝。日頃の授業と比較しても間違いなく濃い時間を過ごしていたが、俺は逃げることを止めよう。
思えば最初から間違っていたのかもしれない。
薮を突いて蛇が出ようが龍が出ようが関係ない。覚悟はいいか?俺は出来てる。俺は意を決して敵へと尋ねた。
「アンタ一人だけ貞操観念逆転してんのか!!?」
「てい……何?何だって?」
───目を覚ました時、そこには豊かな胸部装甲が御座いました。
寝起きの視界全てを埋め尽くすマッターホルン*1に何事かと跳ね起きてみれば、わざわざ分けたはずの部屋にミルコが侵入してきたという事実だけが何とか理解出来た。*2
喉の奥から『私が来たァ!』と言わんばかりの存在感を示す悲鳴を呑み込み、一度深呼吸をして───強めにチョップを入れた。
如何にプロヒーローの最前線で張り合うミルコと言えど、睡眠中の無防備な状態であれば一学生のチョップでもそれなりのダメージが入るといういらん知識は置いといて。
俺の代わりに遠慮なく悲鳴をあげたミルコへの開口一番の言葉がさっきのヤツである。
「職場体験を受けて貰ってるという自覚はあるけども!アンタ初日から人様の性癖に何してくれてんですか!?」
「お、おう……何か、すまん?」
「すまんじゃねえよ!だいたい昨日の組手後の風呂とか!他にも色んなところで擦り寄ってきて、誘ってんのかオラァ!?」
「さ、誘っ……!?」
この俺間飛移は、自分で自分に陰キャというレッテルを貼り続けている。例え友人から『お前のような陰キャがいるか!』だの『間飛で陰キャなら俺は深淵キャじゃろがい!』だの言われてもだ!
陰キャとは魂の所作……!満員電車で初対面の女性が近くにいる時、授業の一環で女子と手を繋がなければならない時。異性との接触への過度な緊張が、人を陰キャへと育て上げるのです。
そんな陰キャに対し、この罪人がやった事を列挙してみようか。
ひとつ。面倒くさいからというあんまりな理由で下着等のセンシティブなプライベートを晒しあげ、自宅というテリトリーへと引きずり込む。
ふたつ。一々『どんだけ鍛えてるかの確認』とか『妙な癖が無いかの確認』とかいってベタベタとボディタッチを連発してくる。
みっつ。特に風呂関連だが、時短だとか暑いからとかいって裸体を見せようとしてくるんじゃねえよマジで。
「すっげえ真面目に聞きますよ?マジで『ソッチ』を求められてます?」
「……」
「あのー……?」
答えにくいのは分かるよ。でもね?俺はもっと聴きにくかったの。実力的に俺より上とはいえ、男と女という壁は下手な銀行の金庫の壁よりも分厚いんですから。
それとも何かしらの法律に引っかかってしまう事を恐れてたりします?だとしたらそんなつもりは無いからさっさと話してくr「すまんッ……!」…………はい?
「……その『すまん』は、何の謝罪なんです?」
「いや、その……お前からすりゃ言い訳に聞こえるかもしれねえけどよ、半分以上は【個性】が原因でな……?」
「個性……【兎】が原因って何……あっ(察し)」
………………そう、来ましたか。
我らがミルコの個性は言うまでもなく知れ渡っており、あまりヒーローに詳しくない人でも彼女のコスチュームを見れば瞬時に理解出来てしまう。
その個性こそが【兎】だ。同級生の蛙吹梅雨の【蛙】と同じような括りにある、動物の特徴を人体に宿すタイプの個性。
兎の特筆すべき能力と言えばやはり『脚力』に置いて他ならず、ミルコの戦闘スタイルもまた脚力にものを言わせたスピードと攻撃力を活かしている。
しかしその兎の無視できないもう一つの有名な能力があって、それが『繁殖力』だ。嘘か誠か兎のロゴマークで有名な成人向け娯楽雑誌の『プ○イボーイ』は、人間と同じく一年中発情出来る動物だから選んだとか。
勘のいい方々はもう理解出来た事だろう。つまりは───
「
「何か変なの混じって無かったか?」
やはりO田A一郎は天才じゃったか……!
ってか、その【兎】の個性が原因の“半分以上”って言ったか?じゃあそれ以外にも何かしら原因があると?
「その……な?昔っから良く言われて来たんだけどよ、私って人と物理的な距離が近すぎるらしくてな?」
「…………まさか」
「ついでに、私の気質も混ざってか『どうせなら強い奴に惹かれたい』ってのもあって、体育祭の見てたから……ほら」
「……………………」
「お、おい?」
「お前もかいッ!!!?」
唯。お前の同類見つけたわ。
◇
もう一つ聞きたいのは『ずっと組手しかしてないけどそれでいいの?』というもの。
初日の片付けはさておき、二日目はヒーロー活動もせずにひたすら組手か実技指導のどちらかしかしてなかった。他所もこんな感じなのか知らないけど、せめて確認ぐらいはしておきたい。
「ヒーロー活動がしたいってか?」
「はっきり言っちゃえばそうなります」
「それなら安心しろよ。元々今日からそっちに移るつもりだったからな」
よかった。こんなんだけど一応ちゃんと考えてはくれてたらしい。家とか距離感とか色々あれだけど。距離感とかアレだけど。
ちなみにさっきの俺の逆ギレからちょっと距離が遠くなった。意識して離してるようだがその度に少し顔を赤くするのはやめてもろて*3。
近場はミルコに怯えきっているのか雑魚しかいないと言うので、じゃあどうするのかと聞けば遠征をするとの事。
「狙いはやっぱりアレだろ!最近話題の『ヒーロー殺し』だ!」
「『ステイン』ですか……学生をそんな奴相手に連れ回すおつもりで?」
「?お前一人でも負けねえのに何言ってんだ?」
いやいやいや。個性も分からない相手にいきなり正面からぶつかるのは勘弁願いたい。ネームドヴィラン相手なんて一秒もあれば死ねるんだから。
「とにかく!私達は夕方には保須市に着くように動くからな!」
「夕方に……?」
「ヴィランが動くのはだいたい暗くなってからだからな!」
急にちゃんとした知識くれるやん。ありがとうございます。
しかし保須かあ……。飯田の一件を聞いてなけりゃ何も考えずに楽しみに出来たんだけど、知ってしまったからには無視出来ないな。アイツは確か、マニュアル?だっけ?
調べた感じ飯田と相性が悪いことは無いだろうけど、どう考えても目的は復讐だろうな。もしかしたらまだステインがいるかもしれない、と。
……絶対拗らしてるだろうな。万が一向こうでアイツと出くわしたら、明るい雰囲気で会話出来る自信がねえよ。
「あ、そういえば!」
「何です?」
「お前!USJでヴィラン連合ってのと戦ったんだろ?」
ああ、ヴィラン連合か。確かそんな事も言ってたような気がする。でも今更それが何なんです?
「そいつらってアレだろ?オールマイトを殺すとか何とか言ってたらしいけどよ……撃退されたっつう失敗から対策してる可能性はねえか?」
「……対策?」
「私も雄英のセキュリティがヤベエのは知ってる。そんな所にわざわざ踏み込んできた馬鹿だろ?懲りてるはずがねえ」
「ワンチャン戦力確保の為にステイン含めて色んなネームドヴィランと手を組んでるかもなー、って」
「ヒーローとは偉業を成した者にのみ許される”称号“!!多すぎるんだよ……英雄気取りの拝金主義者が……!!」
「やっぱり俺は嫌いだね。あんたの面子と矜恃……潰してやるよ大先輩。大暴れ競争といこうか」
ミルコ「そんで……アッ」
間飛「……?」
ミルコ「……///」ススス
間飛「ミ゚ッ゙」
ステイン「協力してやる(今はまだ、な)」
死柄木「そりゃどーも(いい使い捨ての駒だ)」
ステ死柄「「フフフフフ」」
黒霧(……絶対面倒事になりそうですね)