本編前にお知らせです。
この度R-18版のスピンオフを執筆させていただきました。本作のあらすじにURLを載せていますので、興味が湧いた方は是非。
……初のR-18なのであんまり自信ありませんが。
『ヒーロー殺し』の事件が未だに後を引いていた保須市。普段以上に警戒態勢が敷かれており、パトロールするヒーローも増員されていた。
しかし悪意は想像よりも強大で。街には火の手が上がり悲鳴が響き渡る。見境もなければ理性もない、脳無による暴虐が振り撒かれている。
手足の長い脳無、翼を生やした脳無、体格のいい脳無……そしてUSJにいたもののプロトタイプと思われる脳無が、複数のヒーローをものともしない。
被害は増える一方。戦力も人手も何もかもが不足。ヒーローが居るからと安心していた市民達の頭に絶望が現れ始め───
「
「
二人の乱入者によって不遜にも蹴破られた。
兎の脚が巨体を沈め、兎に習う有精卵が羽ばたく悪意を叩き落とす。一瞬の静寂が周囲を支配した。
「オイオイオォイ!とんでもねえ大物ばっかりじゃねえか!」
「コイツらUSJで見た脳無って奴らに似てます。もしかしたら“複数の個性”を持ってるかもしれません」
「……へえ?」
「み、ミルコ!?」
「もう一人は……体育祭2位の子か!」
「スゲエ……!一発で倒しやがった!」
「今時の学生って皆あんな感じなの?やっば」
急に降って湧いた希望にヒーロー達も市民達もここに来て士気を取り戻す。恐怖に鈍っていた足を動かしてこの場を離れ、ヒーロー達は二人のアシストに徹する事を選んだ。
この場に残る脳無はあと一体。見かけからUSJの脳無と同じタイプだと予想。遠距離ではなくフィジカルに任せた近接型。
地面に亀裂を入れながら間飛達へと向かって駆け出す。そこに俊敏性は感じられなくとも、タダならぬパワーがある事だけは分かる。
「こういう奴は……速度で轢き殺すに限らァ!」
十数発打ち込んだ辺りで、違和感に気づく。手応えならぬ脚応えがいまひとつ……おそらく効いていない。何かに阻まれた訳でもないのに、ダメージとして成立していない。これはどういうことだ。
「なんだコイツ!?効いてねえ!」
「後から聞いたんですが、俺が相手した事のある奴は【衝撃吸収】って個性を持ってたらしいです」
「アイツも同じの持ってるってか?」
可能性としてはある、とだけ間飛は返す。あんな生命倫理に反するような要素の塊だ、可能か不可能かはさておきそういう想定はしておくべきだろう。
事実、他の脳無が一撃で沈められるミルコの蹴りをあれだけ受けて尚、膝を折ることさえしないのだ。
難しい事を考えるまでもなく、ミルコが辿り着いた答えは変わらず。『無効』ではなく『吸収』ならば限界がある。限界が来るまで蹴り続ければいいだろう。
「いや、ちょっとコイツ俺にくれませんか」
「あ?」
「試したいんで」
「……ちっ、しゃーねえなあ」
「なので、代わりに
とあるメッセージを開いた端末をミルコに渡し、脳無の前に立ちはだかる。後ろで首を傾げている気配がするが、とりあえず任せても問題は無いだろう。
満月乱蹴で蓄積していた衝撃を解消していたのか、大人しくしていた脳無も再び動き始めた。クラウチングスタートのつもりか、両手の拳を地面に着き体勢を低くして構える。
間飛の脳裏を過ぎるのは昨日──職場体験二日目の朝──聞かされたミルコの考え。雄英体育祭を、液晶越しの間飛を見た時の印象は『窮屈そう』だったと。
アイツは絶対何か隠し持ってるタイプだと思い、もし自分のところに来た時はその隠してる何かを突き止めてやろうとさえ考えていた。
ところが本人に何かを隠しているような自覚もなければ、窮屈という言葉も何を指しての発言なのかさえわかっちゃいなかった。
『お前さ、自分の100%がどれぐらいなのか把握してねえのか?』
『使ったことが無いので……多分これぐらいって感覚ならあります』
『……んんー…………私の目がおかしくなかったら、だけどな?』
決勝戦の爆豪との撃ち合いよりも、準決勝の轟との撃ち合いの方が威力が高かったのではないか、と。
最後の足掻きとはいえ轟の一撃は明らかに爆豪のソレと同等以上だったはず。だと言うのに結果は真逆……轟を一方的に捩じ伏せていながら、爆豪とは相討ちに終わった。
疲労や負傷を考慮したとしても違和感しかない。轟と爆豪の何が違ったかと言われると、精々【爆破】のみの必殺技か炎と氷の合わせ技かというものくらいだ。
『もしかしたらビビってンのかもな』
『誰が爆発さん太郎なんぞにビビるかよ』
『そっちじゃねえよ!……お前のパワーに、だよ』
『…………自分のパワーに』
個性を発現したばかりの子供達によく見られる現象。自分の手にある能力がどれほど危険なのかが分からない為、必要以上に個性の使用を恐れてしまう事がある。
もし後付けの個性に同じ現象が起こるのであれば。受け取ったタイミングによっては個性発現したての子供以上に、もしくは無意識に。より強く己を縛り付けてしまうのではないか。
たとえ100%を発揮していると思っていても、実際は本来の70%程度で収まってしまっているのではないか。
感覚のズレを矯正する手段はいくつか存在する。最も安全な方法はプロヒーローや専門家の監視の元で個性を使用し、自分の限界値や個性の最大限を知ること。
一度自分の能力の正体を確認し、恐れるものでは無いことを理解する。そうして個性への抵抗感を和らげていくのが一般的だ。
『……あれは長けりゃ半年、一年はかかる。雄英高校の有望株が費やしていい時間じゃないだろ?』
『どうすっかなあ……三ヶ月でも勘弁して欲しいのに』
『なあに、もっと手っ取り早い方法があるぜ?』
時間はかけられない。ならばより早く、確実な手段を取るしかない。
『100%を誰かに向けて使っちまえばいい』
今の最大限を知る。それだけだ。
『……100%じゃなかった、って事は俺にまだ隠された力が』
『どっかで聞いたフレーズみたいだな』
『ガフッ!?……ブ、
『何だそれ?』
◇
「──おおっ!!」
「……ハァ、つくづく……惜しい」
未だ誰にも知られることの無い戦い。数多くのプロヒーローを葬ってきた凶刃は飯田を捉えられず、しかしてステインにも痛手という痛手は無い。膠着状態というのは正しく今の状況を指すに相応しい言葉だ。
今だってそう。【エンジン】が唸りを上げて速度を乗せた真一文字の蹴りは空を切るばかりで、ステインは強引な回避から反撃に移れずに距離をとるばかり。
「それだけの力を持ちながら復讐者に堕ちるとは……意志が強いだけに勿体無いと言わざるを得んな」
「ハッ……ハァッ……!それを、お前が言うのか!」
「……何?」
もう何度思ったか分からない。目の前の存在が『死なせるには惜しい』と。
それをまさか同じ思いを抱かれているなどとは思ってもみなかった。自分が何人ものプロヒーローを殺害し、少年の兄をも黙らせたヴィランだとわかった上で、そんな事を言い出すとは。
乱れた息を整えながらも、飯田は言葉を続ける。
「お前の個性が何なのかは分からない。だが、現時点で使われていないのは確かだろう」
「そうだ……俺はお前に個性は使用していない」
「……純粋な身体能力と体術のみで、お前はこんなにも強い。僕が未熟であることを差し引いてもだ」
「……?さっきから何が言いたい。無駄話の相手をしてやるつもりは───」
「ならば何故!何故お前が
「────」
ステインの犯行はプロヒーローを狙ったものばかりで、被害者のほとんどはヒーローに有るまじき行いをしてきた者ばかりだった。
いつしかステインの思想は誰もが知るところとなった。それは『贋物のヒーローを許さない』という思想。
多くの専門家がステインについての分析と考察を上げており、その全てに共通するのは『ステインの中には確たる本物のヒーローというビジョンがある』ことだ。
曰く見返りを求めることはなく、自己犠牲の果てに得うる称号こそがヒーローだと。
でも、飯田にはその『本物のヒーロー』とやらがどのような存在なのか分からない。分からないが、目の前の男がそんなものとは程遠いということだけはわかる。
「いつか現れる本物を待つのではなく、お前自身が本物になれば良かったはずだ!」
「……れ」
「他人を殺すことも無く、ヴィランに堕ちることも無く!真っ当な手段で訴えかけるべきだっただろう!?」
「黙れ……」
「自分で成し遂げられなかった半端者が!他人に理想を押し付けるなああああっ!!」
「黙れええええッ!!」
血に染まった羨望では歩けない道。失望の果てに手放した未来の否定。ステインの──赤黒血染の有り得たかもしれない在り方を斬り捨てんと、凶刃が閃いた。
過去間飛「右うでに秘められし力が……!」
現在間飛「オイ、アイツから殺していいのか(震え声)」
ステインこんな風に叫ぶキャラなのかしら……?キャラ崩壊だったらすみません。