【ワン・フォー・オール】を全身に、予めスイッチを入れておく。全力と比べると情けない出力だけど、たった一発で使い物にならなくなる役立たずよりはずっとマシだ。
【フルカウル】と名付けた使用方法は底を尽きていた自信をほんの少し取り戻し、自分が無価値では無いと証明できたような気がして嬉しかった。
これなら僕も戦える、って。
「でも……速い!」
「なんつう反応速度してやがるッ!!」
「氷に炎……誰かに指摘された経験があるだろう?個性にかまけ、挙動が大雑把だと」
甘い考えはあっさりと両断された。
3対1で手数も攻撃力も負けていないはずなのに、個性による身体能力ではないのに。まともな痛手も与えられず、こちらの方が徐々に削られている。
未熟なのは自覚している。しかしここまで圧倒的な差があるとは!
近接戦闘は凌ぐのがやっと、轟くんの支援は“見てから回避”が間に合ってしまう。逆に踏み込まれてしまえば僕たちが引き下がるしかない。
無個性ではないけれど、個性を使わずともこれ程の動きが出来るのか……!
「飯田くん!轟くんッ!」
「ッ!ああ!」
「任せろ」
このまま続けてしまうと削り切られる。ならばいっそ勝負に出るべきだ。まだ万全に動けるうちに仕留め切る。
今まで僕と飯田くんで轟くんに届かせないようにしていたけど、あえて轟くんの防御を放棄する。危険度は上がったが僕たちの自由度も上がった。
そして同時に轟くんの炎と氷を阻む味方がいなくなった。
「───ッ!?(あの子供……まだ上があるのか!)」
「ッ今だ!」
氷結が地面を這って蝕み、火炎が真っ直ぐに焼き尽くす。防ぎようのない広範囲攻撃を前にステインは中空へと跳び込み、相反するエネルギーの砲撃を回避する。
空中なら避けようがないだろう。
攻撃と同時に作られた氷の足場を伝い、フルカウル/エンジン音を稼働させる。コイツをここで倒す!
「SMASH!!」
「レシプロ……!エクステンドォッ!!!」
「グ……ガッ───!?」
やった、届いた!でも……浅い!
この土壇場で芯をズラされた。飯田くんの蹴りはともかく、僕のパンチを軽減された。
「に、せ者があああっ!!」
「しまっ……!」
殺られる!
「───え?」
「っあ…………!?」
処刑の刃に割り込んだのは兎の足。幸運の象徴とされたラビット・フット。辛うじてつなぎ止められていた意識を容赦なく打ち抜く。
無慈悲で豪快な一撃は路地裏からステインを蹴り飛ばし、道路脇のフェンスへと叩きつけた。
白と青紫を基調としたコスチューム。鍛え上げられた四肢を惜しみなく晒し、どこか獰猛な獣を思わせる笑み。そして何より───兎の耳。
トップヒーローの一人、ミルコだ。
「んだよ一撃で終いかよ!漁夫る気なんざ無かったってのに……」*1
「え……み、ミルコ……さん?」
「ん?おう、ミルコだ!」
想定外なんてものじゃない。そもそも思考の余地にさえ入らない人物の乱入。何故こんな所に彼女が?
そこでようやく思い出した。同級生……間飛くんが職場体験先として選んだのがミルコだった。じゃあ間飛くんもこの近くに来ている?
「そこの『ヒーロー殺し』をとっ捕まえに来たんだけどよ……のーむ?とかいう奴らもいたからそっちの相手しててな。間飛の奴は残りの一体を任せてきた」
「よ、よくここが分かりましたね……?」
「ああ、それは間飛からこれ渡されてな」
取り出されたのは間飛くんのスマホ。そっか、飯田くんの位置情報をそのままミルコに教えたのか。
……というか、轟くんもここにいるってことは今保須市にエンデヴァーとミルコが居るって事?
「……ステインも運がねえな。親父とミルコがいるとは」
「それは……そう、だな」
どうしよう。普通にちょっと同情しちゃった。
って、そのステインは!?
「アイツなら気絶してるよ……お陰で俺も動けるようになった」
「ネイティブさん!大丈夫ですか?」
「個性が解けたんだろうな……結局能力は分からず終いだったが」
「今のうちに武装解除と捕縛をしておこう……うわコイツどれだけ持ってるんだ」
ちょっと呆気ない幕引きだったけど、死人も出ることなくステインを捕らえられた。それは喜ばしいことだろう。
やがてそう時間もかからずに他のヒーロー達が到着し、ステインの身柄を引き渡した。グラントリノには滅茶苦茶怒られたけど……間に合わなかったら死人が出ていた事を思うと間違ってなかったと思う。
それにしてもよく僕たちだけでステインを倒せたものだ。3対1という数的有利はあっても動けない負傷者を一人抱えていたし、攻撃力では勝っていても殺傷力では完全に負けていた。
「加減されてたんだろうな……」
「僕は……加減されていた、のか?」
「いやいやいや。加減されてなかったら死んでるでしょ」
「しかし僕は君たちのように『本物』とは言われなかったが……」
「えっ、そうなの?」
ステインは何を基準に真贋を分けていたんだ……?飯田くんは立派なヒーローになれる人だと思うんだk「復讐してやると宣言したからかもしれないな」……いや何してるの!?
「ちょっ、飯田くん!!?」
「な、なんだ?」
「飯田……悪いことは言わねえからやめとけ。お前には似合わないぞ」
「復讐に似合うも何も無いのではないか!?」
よくよく聞いてみると間飛くんに勧められたマンガから啓蒙を受けたらしく、怒りや恨みでは無い『運命への決着をつける』為の復讐だったと。
そんなのどのマンガにあったのか聞いてみたら、勧められたマンガの中でも一際濃い絵柄の作品だった。えっ、飯田くんこれ読んだの?
「むっ、絵柄で忌避するのはよくないぞ緑谷君!これには人間賛歌という素晴らしい考え方が……」
「伏せろっ!!?」
「え───うわっ!?」
その時、大きな翼が安寧を引き裂いた。
ミルコが言っていた脳無の一体と思われるヴィランが猛スピードで飛行し、鳥類を思わせる足で僕を鷲掴みにした。
負傷した頭から血を滴らせながらどこかへと飛び去ろうとする。クソっ……油断した!
グラントリノが、ミルコが。轟くんと飯田くんが何とかしなければと思った瞬間。
「──偽物が蔓延るこの社会も」
「徒に力を振りまく犯罪者も」
「粛清対象だ……」
「全ては」
「正しき」
「社会の為に……!!」
思想犯の瞳が燃えていた。
瞬く間に脳無は地面へと引き摺り下ろされ、抵抗する間もなくナイフの一突きで生命活動を終えた。
赤黒血染:個性【凝血】
対象の血液を経口摂取することで動きを封じる。
血を舐めとるというシリアルキラーを思わせる行為が、彼にとっての確かな信念の武器となって命を奪う。
「何故ひとかたまりで突っ立っている!?そっちに一人逃げただろう!」
「ッ!エンデヴァーさん!あっちの方は……」
「生意気な小僧がほとんど片付けていた!して……あの男はまさか……っ!」
ヒーロー殺しか。という声は飲み込まれた。
およそ瀕死の人間とは思えないプレッシャーがその場の空気を殺した。
「贋物……正さねば、誰かが……血に染まらねば……!」
「
「来い。来てみろ贋物ども」
「俺を殺していいのは
──本当に僕たちと同じ人間なのか。
もはや死に体のはずなのに、主要な武装はほとんど取り上げられているのに。エンデヴァーとミルコがいるのに……!少しも臆していない……!
ダメージ自体は消えていないだろうけど、まだコイツは
「
音も予兆もなく現れた彼の手で、今度こそステインの意識が刈り取られた。
「ま、間飛……か?」
「よう、とどろ──いやショート、か?」
「あ、ああ……いやそれより、そいつ……」
「『ヒーロー殺し』だろ?隙だらけだったから顎先叩いて気絶させた」
エンデヴァーもミルコも、グラントリノさえも。誰一人として動けなかった重圧の中、一人平然とステインを仕留めた友人は……不気味な程にいつも通りだった。
※
※ステ様が本編よりダメージ控えめだったせいで間飛からワンパン喰らうまで戦う気満々だった模様
間飛「ヒーロー殺しおるやんけ一発入れたろ」オラッ
ステイン「アフン」
間飛「あれ?ワンパンKO?」
周囲の方々「「「ええ……?」」」