「やっぱりアイツはどっかイカレてんな……」
苦虫を噛み潰したような顔でグラントリノはボヤいた。
アイツ、とはつい先日日本中を騒がせていたネームドヴィラン『ヒーロー殺し』にトドメを刺した雄英生徒、間飛移のことだ。
自分の管理下に無かったとはいえ、トップヒーロー達ですら足を止める殺気を前にして微塵も動揺していなかった。それどころか『隙だらけ』とまで宣う始末。
ミルコの速度もエンデヴァーの苛烈さも無い、ただ目の前に現れるだけの乱入。あまりに静かな割り込みが返って不気味さを際立たせていた。
結論から言えばステインも脳無達も捕縛が完了した。戦った人物には緑谷達だったりパトロールしていたプロヒーロー達も含まれているのだが、ほぼ全てのヴィランを戦闘不能にしたのは間飛一人だ。
エンデヴァーが現場に到着した時にはUSJのプロトタイプだけが動いており、それ以外の脳無は尽く叩きのめされていたらしい。翼を持つ脳無は回復するなり飛び立ってしまったが、職場体験中の生徒としては大金星と言える。
しかし残念な事に先んじてステインと交戦した生徒達は戦闘許可を得ていない状態だった為、泣く泣く彼らの功績と違反を同時に隠蔽するしかなかった。
代わりと言っていいのか、間飛はミルコから戦闘許可を貰っていたのでほぼ全ての栄誉を背負わされていた。エンデヴァーと共に戦った、という扱いになるらしい。
「ありゃ確かにお前が後継者に選ぶことはねえな。お前と似てるようで……限りなく遠い」
『……正直、今回の話を聞いてもさほど驚きはありませんでした。彼は『自分なら出来る』と思ったなら躊躇わないので』
「なるほど……間飛の小僧は出来ることしかしてねえが、なまじ本人の出来ることが多すぎて無茶してるように見えちまってるのか」
直接この目で見て理解させられた。緑谷の奴が焦る理由もわかる。常にあんな眩しいものを見せられ続けていればどうしたって不出来な自分と比較してしまうだろう。
あれを見た後では偉そうな口で説教も出来やしない。ヒーローが己の無力さを痛感している時、外野が如何に言葉を尽くそうとも己自身が許さないのだから。
ただ、今のグラントリノにはそんな事を話している暇は無い。今回の一件で間飛を放置する訳には行かなくなったからだ。
敢えて公衆電話からかけていたので、フリーの状態のスマホを起動する。ちょいちょいと画面を弄ってネットニュースを開いてみれば、やはり間飛の写真が簡単に出てきてしまう。
数ある記事の中、写真ではなく動画が掲載されたものもあった。音を消した状態で再生すると、無音の液晶にオールマイトを思わせるラッシュを放つ少年の姿があった。
「俺が間違えたんだ、ヤツも恐らく同じように勘違いしてるかもな」
『【瞬間移動】を併用していることも大きいでしょう。超パワーと【瞬間移動】を両立する個性など聞いたことがありません』
「大方【瞬間移動】の個性を持つ子供に継承させたとでも思われてそうだな……」
我らの英雄オールマイトが【ワン・フォー・オール】を持つように、遥か昔から魔王として君臨するヴィランがいる。
彼の者の個性をそのまま呼び名とし、人は彼のことを【オール・フォー・ワン】と呼んだ。
オールマイトの手によって討伐されたはずなのだが……ヴィラン連合の裏で糸を引いている可能性があるとしてオール・フォー・ワンの死亡が疑わしくなった。
もし魔王が存命だというのならば、その矛先が向けられるのはやはりオールマイト……並びに【ワン・フォー・オール】の継承者だろう。
で、
『問題は……本っ当に真っ白だって事なんですけども……!』
「ここまで来たらむしろ怪しいだろコイツ。職場体験中も今んところだが、何故か一度もヒーローネームを名乗って無かったらしいし」
『あ、それ一応確認したらしいんですが、どうも『まだヒーローネームに納得がいってないから名乗ってない』との事だそうで』
何でだよ。と突っ込みそうになる。
オールマイト曰く『ワン・フォー・オール』とかいうド級の地雷……ド地雷のヒーローネームを考えていたらしいが、先んじて教師陣に事情を話していたお陰で取り下げさせたらしい。
そう考えるとその場で適当に考えたヒーローネームにはしたくないのかもしれない。
「……もういっそ巻き込んだ方がいいんじゃねえか?下手に黙っといて後から問い詰められた方が面倒だろ」
『いやいやいや!ダメですからね!?彼はあくまでも生徒の一人……我々大人の事情に巻き込む訳にはいかないでしょう』
「つってもよ、この前サー・ナイトアイから連絡が来たんだが」
『えっ……?』
野放しにするぐらいなら手元に、という提案はあっさり却下された。しかしグラントリノが子供を巻き込みに行くのは理由がある。
それが手元にあるサー・ナイトアイからのメッセージ。何故かオールマイトとは直接連絡を取りたくないというので間接的に伝える役割を任されたのだが、どうにも無視できないナニカを感じる。
─────
時候の挨拶等は省略させてもらう。
オールマイト。雄英体育祭で貴方が選んだと思われる後継者を見た。
聞いてた話と違って無個性じゃないし何か想像以上に使いこなしてるけど、もう少しちゃんと話し合って欲しかった。彼なら確かに後継者として相応しいだろう。
恐らく貴方から私の方に職場体験を勧めることは無いと思っていた。なので別の機会を設けて頂きたい。あの間飛移という少年が【ワン・フォー・オール】に相応しい精神を持っているのかを確かめたい。*1
─────
「……ってな感じでな」
『oh......』*2
「アイツまで継承者を見間違えてんだ。もうコッチに巻き込んじまえよ」
久しぶりのサイドキックの狂気を感じ取り、ただでさえ考えることの多いオールマイトは『フヘヘ……』と電話口の向こうで情けない声を上げていた。
◇
一方病院へと連れていかれた緑谷達。重傷こそ無かったけれど、小さな切り傷や裂傷がそれなりに見受けられた為に一夜限りの入院となった。
彼らの話題は当然、昨日の大捕物騒動になる。一部屋に纏められた少年達はスマホの画面を見つめたまま会話していた。
「誰かが撮ってたんだって。あの時のステインと……間飛くんを」
「こうして見返すとやはり違和感が凄いな。あの中で一人自然体でいるというのは」
「……俺に話しかけて来てたが、ろくに返事も出来なかったな」
インターネットではステインの慟哭と間飛の不自然さが映された動画が飛び交っており、削除とアップロードのいたちごっこが続いていた。
彼らは当事者ということもあって思うところがあるのか、悪い事だと分かってはいたけれど動画を保存して見返している。
───もし彼が割り込まなければ、日本中にステインの意志が感染していたかもしれない。
保須市の警察署署長、面構犬嗣はそう言っていた。ギリギリのところで間飛が割り込んで『
実際、間飛へのインタビュー記事の効果もあって世間の声はステインへの批判が想定よりも大きくなっている。
『ステインの英雄回帰?って考え方は否定しないけど……あの子が言ってた事も正しいよね。オールマイトならそんな事はしないよなあって』
『ヒーロー殺しは正論を話してたとは思う。でも結局のところ自分では理想を実現出来なかった犯罪者なんだよね』
『人を殺して正論を語るヴィランより、名誉や金を求めながら人を助けるヒーローの方が偉いのはそりゃそうだよ』
間飛のインタビュー記事には飯田が言っていたような内容も書かれており、多少マイルドな表現にされているが『犯罪者が正義を語るな』的な発言であることは確かだ。
「うわあ……コメント欄が酷いことになってる」
「『笑顔で裏切り者処刑した後に呆然としてる仲間に「裏切り者殺しといたぞー」って言いそう』だの『淡々とし過ぎててサイコパスに見える』だの……結構酷いな!?」
「……というか、その本人はどこだよ」
視聴者達の忌憚のない感想に辟易としている緑谷達だが、そもそも当の本人はこの病室には……なんなら病院自体にもいない。だってアイツ無傷だったし。
そう、あの騒動の中で間飛は完全にノーダメージだった。一人で脳無を何体か倒しておきながら傷一つ無く合流し、死にかけのステインにトドメを刺して終わっている。
じゃあどこにいるのかと言うと、ミルコの家──……でもなく雄英高校にいたりする。
◇
「貴方本当になんて事してくれたんですか」
「すいませんッ!!」
相澤がザワリと髪を逆立て【抹消】を発動しながら、正座するオールマイトを睨みつけていた。その横にはソファに腰掛けた間飛が。アレ?何で生徒が座っててNo.1ヒーローが正座してんの?
ちなみにオールマイトの状態はトゥルーフォームである。あのアメリカンな陰影のついたムキムキマッチョマンボディではなく、強風でペキッと折れちゃいそうな窶れている方。
……え?間飛の前でそんな状態でいて良かったのかって?ダメでしたけど?
「……何で戻ってきて早々にこんな事に巻き込まれてるんですかね俺」
「俺に聞くな」
どうすんだこのカオスな状況。
緑谷(何で……)
飯田(彼も交戦したはずなのに……!)
轟「お前怪我してねえんだな」
間飛「ヤラれる前にヤるの精神大事よ」