「いやほんとに……ごめんなさい」
「…………はぁ」
【ワン・フォー・オール】の詳細が分からない。
さすがに想定外にも程がある返答に相澤先生も怒りを通り越して呆れてしまった。一回通り越すどころか殺意に昇華されてたけど……。
何故分からないのか、と尋ねると『ほとんどブラックボックスだから』としか言えないようだ。ただでさえ人から人へと渡って来たのだから幾分か失伝していても不思議では無い。
現にオールマイトの活躍はその類稀なるフィジカルによるものばかりで、仮にパワー以外に継承するものがあったとしても使えない……或いは把握していない可能性はあった。
「私が知らされたのは【個性を与える個性】と【力をストックする個性】が混じりあって生まれた物だということ……そして【オール・フォー・ワン】を討つ為の希望とも」
「なら、オールマイトさんが受け継いだのはその脳筋極まりないパワーだけなんですか?」
「トゲトゲしっ!?」
参ったな……俺の【フィジカルギフト】との違いを把握しておきたかったんだけど……オールマイトが知らないんじゃ他に知ってる人もいないだろうし。
この感じだとグラントリノってお師匠さんも知らなそうだ。サー・ナイトアイも年齢を考えれば知ってるはずがないと思われる。
「……確認なんですけど【ワン・フォー・オール】の後継者って緑谷であってます?」
「っ、ああ……そうだけど。わかるのかい?」
「【ワン・フォー・オール】と【フィジカルギフト】が似てるって前提が無かったら辿り着いてませんけどね……で、あってるんですね」
オールマイトは複雑そうに小さく頷いた。色々と知った後だと後継者は緑谷以外有り得ないだろうしな。思えばグラントリノの時点で何かしら気づくべきだったか。
元々俺の考察では緑谷の個性は【出力が高すぎる身体能力強化の個性】だと思ってた。人間が優しくアリをつまみ上げる事が難しいように、強過ぎる力が肉体を損壊させてしまっているのだと。
しかし実際は俺と同じ後付けのエネルギー……十数年かけても制御出来なかったのではなく、単純に慣れてなくて持て余しているだけだ。
「オールマイト、提案があります」
「何だい?」
「緑谷に【ワン・フォー・オール】の使い方、教えられるかもしれません」
「……!」
【ワン・フォー・オール】と【フィジカルギフト】の違いを知りたかったのは他でもない、間違いなく同系統であるという確証が欲しかったから。
万が一【ワン・フォー・オール】の方は歴代継承者の個性も引き継いでまーす……的な個性だったら俺の手に負えなかった。*1
俺だって【フィジカルギフト】を受け継いでから長いわけじゃないけど、少なくとも緑谷みたいに身体をぶっ壊すような事にはなっていない。何かしらのアドバイスぐらいは出来るはずだ。
「一つ気になる事があるとすれば、やっぱオールマイトでも把握してない部分ですね」
「役立たずでごめんね……?」
「まったくです」
「相澤君が無慈悲」
現No.1の個性。いくら発展途上ったってあんなに宝の持ち腐れ起こしてちゃ話にならない。今すぐオールマイトみたいにやれとは言わないし言えないけど、同級生にNo.2の血筋で個性をある程度形にしてる奴がいるんだから。
もし許されるのならば、俺の手で
「だがどうするつもりだ。確かに【ワン・フォー・オール】と【フィジカルギフト】は似ている……が、似ている止まりだ。全く同じ個性じゃないぞ」
「……ステインの一件の後、ちょっと緑谷と話したんです。そしたらアイツ、フルカウル?とかいうやり方が出来たって言ってました」
「フルカウル?」
「薄く全身に発動させるやり方だそうです。確か6……いや5%?ぐらいで。それをトレーニングに流用させてもらおうかと」
フルカウルという成果を聞いたオールマイトが顔を綻ばせた辺り順調に育ってはいるんだろう。対照的に相澤先生の顔はちょっと顰めっ面だけども。
緑谷には悪いが俺も相澤先生と同じ感想だ。センスの問題と言われりゃそれまでの話だけど、俺の感覚としては『まだそこかよ』って感想になる。
多分『オールマイトの個性』という印象が強すぎるせいでアクセルベタ踏みがニュートラルな状態になっているんだと思う。実際はもっとフラットな意識で、自然体で発動するものを緊張や力みが邪魔をしている。
「もっと言うならアイツパンチしか使わないんですよね」
「え?……あ、ホントだ!?」
「自分の弟子だって言うならちゃんと見ててくださいよ」
「こ、個性にばかり目が行ってしまってて……」
ちょいちょい相澤先生がチクリと刺してんな。まあ現状を作り出した元凶だし妥当か?
「それも多分オールマイトさんに引っ張られてますね。馬鹿の一つ覚えみたいにパンチしかしないから」
「私が悪いのかなそれ……」
「本人は『まずは形から』ってタイプなんでしょう。わかりやすいイメージはそこら中に転がってるんですから」
オールマイトが悪いか悪くないかで言えば良くは無いとだけ。
……大きな声では言えないんだけど、オールマイトの授業ちょっと分かりにくい事が多いんだわ。実技とかになると感覚派過ぎて理解できないし、本人にも語彙力が無いのか擬音で説明されても困る。
唯一【ワン・フォー・オール】を長年使ってきた教師だけど、緑谷は理論派って感じだからなあ……。感覚派のオールマイトとは相性が悪いだろ。
「で、どうです?」
「う、ううむ……しかし、私にも師匠としての面子というものが……!」
「俺は賛成だ」
「相澤君!?」
「オールマイトさんと緑谷の相性が悪いというのもそうですが……同じ立場の人間と試行錯誤する方がアイツは伸びます」
「……そうなの?」
あっ、オールマイトが教師の経験差で黙らされた。
「そういやオールマイトは受け取ってからの訓練はどうしてたんです?」
「いやあ、私はすぐに使いこなせたから……」
「……そりゃ参考になりませんわ」
◇
「というわけで俺が来た」
「ごめんまだわかんない」
ステイン戦の怪我も治って職場体験再開──……のつもりだったのに、グラントリノの所に来てみれば見知ったクラスメイトの顔があった。どうして。
いや確かに君の話は聞いたけども。それはそれとしてオールマイトは何をやってるの!?誰にも知られちゃいけないって言ってたのは貴方じゃないですか!?
ほらぁ!グラントリノの顔が怒りのあまり能面みたいな顔でスンッ…ってしてるじゃん!これ僕悪くないですよ!?
「……俊典は後でシバくとして、小僧。お前なら緑谷を鍛えられるってのは本当か?」
「頭に“多分”とか“おそらく”とは付きますが。幸いフルカウルってのを習得したらしいので、突破口ぐらいは見せられるかと」
「へえ?」
あ、良かった……機嫌直った。
間飛くんから見た僕は『凄く勿体ない使い方をしている』という印象らしい。何処がどう勿体ないと……って思ったけど、今の僕は無駄な動きとか使い方が多いのは否定できない。個性抜きなら心操くんに負けるぐらいだし。
「緑谷はフルカウルをどんなイメージで使ってる?」
「へ?えっと……今までは必要な場面に応じて一部にスイッチを入れる感じでやってたのを、最初から満遍なくスイッチを入れる……って感じかな?」
「やっぱりそうだよな」
やっぱり、とは?
「いいか緑谷……これからのお前のトレーニング内容を伝える!」
「お、押忍!?」
「それ即ち───
常にフルカウル2%だ!!」
「に、2%……?」
間飛くん、それ減ってない?
オールマイト「だからこういう時はグッ!と……」
オールマイト「ケツの穴引き締めて叫ぶんだ!」
オールマイト「そこは……ほら、プルスウルトラの精神で」
(((ちょいちょい雑になるなこの人)))