雄英高校の食堂はいつも生徒で溢れかえっている。弁当を持ってきている生徒も食堂に来て友人達と共に食事をとり、物足りないからと食券機で追加を注文する者もしばしば現れる。
また日本国内でもトップクラスのマンモス校ということもあり、個性もアレルギーも千差万別。ランチラッシュというヒーローを軸に今日もキッチンはフルスロットル。
OBOGも忘れられないランチラッシュ飯を頬張りながらも、A組生徒の会話内容は期末テストの演習試験についての考察だった。
「普通科目はまだ何とかなるとして、演習試験って何をするんだろうね?」
「突飛なことはしないと思いたいが……」
「普通科目は何とかなるんや……」*1
「一学期でやった事の総合的内容……って相澤先生は言ってたね」*2
「戦闘訓練と救助訓練……あとは基礎トレぐらいかしら」*3
緑谷と飯田、麗日と葉隠と蛙s…梅雨ちゃん。相澤先生から聞いたヒントとも呼べない情報不足の告知から考えてみるけれども、たった一言『総合』で纏められてはどうしようもない。
結局は万全の状態で、何が来ても対応できるようにしておくしかない。緑谷がそう結論付けようとした時、ワカメヘアーでは軽減し切れぬ衝撃が後頭部に走る。
「あイタ!!?」
「ああゴメン。頭が大きいから当たってしまった」
「えっと……B組の……もの、ものだ君?よくも!」
「名前ぐらいは覚えようか!?物間だよ!?……まったく、これだから野蛮なA組は」
わざとらしく謝るのは物間寧人。何かとA組に対抗意識を燃やしては妙なちょっかいを出してくるB組の問題児……そんな印象が強い男子だ。
今回もまず友好的な雰囲気には見えず、何かしらちょっかいを出しにでも来たのだろう。
「まあいい……ンそんなことよりぃ!君達ヒーロー殺しに遭遇したんだって?」
「!」
「USJといいよくトラブルを引きかふっ!」
「やめな。洒落ですまん話いじるの」
すわ一触即発かと思われた瞬間、さっそうと現れた拳藤が物間の首筋に手刀を一発。スドッ!!と決して軽くはない音をたてて打ち込まれたそれは的確に物間の抵抗力を削ぎ落とす。
力が抜けて膝から崩れ落ちる身体に対し、拳藤は傾くよりも早く物間が持っていた昼食を回収。あまりの早業に一瞬何が起こったのかさえ分からなかった。
「ごめんなA組。こいつちょっと心がアレなんだ」
「拳藤君!」
(心が……)
お詫びにという訳では無いが、拳藤が演習試験についての情報をくれた。情報源はというと先輩に知り合いがいたから聞いてみたのだとか。なるほど物間と違って信用しても問題なさそうだ。*4
その内容というのが入試の時のロボットを相手にする実戦演習らしい。四種類の仮想ヴィランとして用意されていたロボット達を思い出し、緑谷達は僅かに安堵した。
こう言ってはなんだが、今更ロボット達相手にそう苦戦はしないだろうという自信がある。あの時は一撃が限界だったけれど、今は安定したフルカウルがある。
他の者達も同様、戦闘力に困る女子陣は少々困っているようだがそれでも内容が割れただけマシというものだ。
恨めしそうに呪詛を吐く物間を再び締め上げながら、拳藤は緑谷達から去っていった。
◇
一方間飛。クラスの垣根が無くなる昼休みであれば自然と集まるメンバーも固定されるようになる。
何の示し合わせも無しに間飛と心操、発目と小大の四人が集まって食事を取っていた。
「期末テストか……俺は
「ん」*5
「サポート科は普通科目に加えて演習試験……用意されたパーツからアイテムの用途を読み取って組み立てる、と聞きました」*6
「何だそれ普通に面白そうだな」
彼らの話題も当然期末テストについて。違いと言えば普通科とサポート科がいる為、学科毎に内容が異なる事を知って面白がっている。
ヒーロー科の二人……間飛と小大は演習試験についてはほぼ無反応。小大が少々不安だと言うくらいだ。
「ん」*7
「お、わかるか?」
「……そういやお前結構長い間調子崩してたな。大丈夫だったのか?」
「何とか。まだ完璧には治ってないけど」
「ならば私のアイテムは如何ですか!?」
「今はノーセンキュー」
一時は目に見えて不調だった間飛だが、現在は比較的大丈夫に見える。本人曰くまだ完璧では無いそうだが、少なくとも先日の青白い顔に比べれば全然健康的だ。
─────
ちなみにその時の三人の様子を少し紹介しよう。
『……ん?』*8
『ん』*9
『ん。ん……』*10
『具合悪そうだけど、大丈夫か?』
『いやいいよ。無理して付き合わなくていいって。そんな状態のお前と本気で殴り合い出来ないって』
『……ヤバくなったらすぐ言えよ?』
『間飛さん今日は──……あの、何かありました?』
『こういう時はどんなアイテムよりも休息です。まずは横になった方がいいですよ』
『私が言うのも何ですが無理はしちゃダメですよ?サポートアイテムも身体がついてこなければ無意味なんですから』
……めっちゃ良い子。
─────
日頃から散々化け物じみた戦闘能力を持つ間飛だが、弱った姿はやけに幼く見えた。日常生活では大人びている事が多いだけに新鮮なものを見た気分になる。
ただそれ以上に普通に心配になる。なんと言うか、いきなりフッと消えてしまいそうな雰囲気を纏っていた。そりゃ【瞬間移動】でポンポン消えてるけども。
「前にもそれっぽい話聞いたけど……お前自分の事に無頓着過ぎないか?」
「そうか?」
「わかります」
「ん」*11
「そうか……」
心操が聞いた話というのは【フィジカルギフト】を継承した時の話。軽くスプラッタな日々を一年間耐え抜いたという内容なのだが、普通にドン引きしていた。
小大と発目も聞いてはいたけれど、詳細を知るとスーッ……と血の気が引いて顔を青白くさせていた。
間飛の言動や態度の節々から時折感じる『自分はどうでもいいや』という感覚。ヒーローなら自己犠牲は珍しくないとはいえ、さすがに度を越した滅私奉公のような考え方はやめた方がいいだろう。
心操なりに友人を思っての忠告だった。
「【フィジカルギフト】の継承は俺も誤算だったよ。あんなに負荷が増えるとは思わなかったんだ」
「それも不思議ですね。二年から一年にするだけでそんなに変わりますか?」
「さあ?ただ俺の場合は
「高すぎてもダメなのか……難しいな」
が、間飛にはあまりしっかりと届いていないらしい。
間飛自身は『出来るからやってるだけ』のスタンスは変えていないし、それがプルスウルトラの精神で限界突破した結果だとも思っちゃいない。故に響くはずもない。
「そういや心操、ヒーロー科の編入の目処は立ったか?」
「実は……って、あと───」
「───へえ?」
小さな凝りは残ったままだが、昼休みという時間に縛られた以上はどうしようもなく。深く追求も出来ずに午後の授業が近くなり有耶無耶なまま解散することになった。
〜絶不調の時〜
間飛「おっす──オロロロ」
心操「おわぁ!?大丈夫かお前!?」
間飛「よっ」鼻血ダラー
小大「……!?」
間飛「頭痛が痛い……」
発目「とりあえず水飲みましょ。あ、すいませんそちらの方頭痛止め持ってたりしません?」