「それじゃあ演習試験を開始する」
いつも通り気怠げに相澤が告げる。何故か横にはスナイプやセメントスといった他の教師達も立っており、如何に生徒数が21名いるといっても流石に過剰では、と思う人数が揃っていた。
赤点を取ってしまえば林間合宿置いてけぼりという罰が見えているので、生徒達も真剣ではあるけれど内容を知っているからか浮ついた雰囲気が隠しきれていない。
相澤から何をするか情報でも仕入れて把握しているだろう?と聞かれると正直に仮想ヴィランとの実戦演習だろうと返事をしている。
「でも残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
「校長先生!?」
「今何処から出てきた?」
「それよりも変更って……」
彼らの余裕を一言で打ち壊したのは我らが根津校長。相澤の首元に巻き付けられた捕縛布からひょこっと飛び出し、器用に地面へと降り立つ。
変更の理由。それはヴィラン活性化の恐れだ。
ヴィラン連合やステインといったネームドが台頭してきた昨今、これからの社会はますます対ヴィラン戦闘が激化するだろうという説が信憑性を増してきた。
───ロボとの戦闘は実践的では無い。
そもそも仮想ヴィランのロボット達は『入学試験という場で人に危害を加えるのか』という
特に相澤はその意見に強く賛同を示していた。普段からマスゴミを嫌うアングラヒーロー、世の中のクレームの大半が無意味な感情論である事などとうの昔に嫌という程知っている。
「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視する……というわけで、諸君らにはこれから
「先生方と……!?」
「ちなみにペアの組と対戦する教師は既に決まってる。諸々の情報から独断で組ませてもらったから発表してくぞ」
轟・八百万VSイレイザーヘッド
緑谷・爆豪VSオールマイト
芦戸・上鳴VS根津校長
青山・麗日VS13号
口田・耳郎VSプレゼント・マイク
蛙吹・常闇VSエクトプラズム
瀬呂・峰田VSミッドナイト
葉隠・障子VSスナイプ
砂藤・切島VSセメントス
飯田・尾白VSパワーローダー
「……あれ?間飛くんは?」
「確かに。間飛だけ呼ばれてねえな」
以上、と打ち切られた組み合わせ。しかしA組最強格である間飛の名前が呼ばれなかったことに全員が気づいた。にわかに騒がしくなるA組生だが、数秒もすると相澤がひと睨みで黙らせてしまう。
それでも疑問は拭えず説明が欲しいと視線だけで強い訴えを行う。
「それなんだが……ヒーロー科編入を希望してる奴がいる」
「……」
横一列に並んでいた教師達の後ろから一人、見覚えのある紫色の髪が出てきた。
忘れもしない雄英体育祭。緑谷と轟に勝利というジャイアントキリングの立役者、普通科C組心操人使。やや緊張した面持ちでA組の前に現れた。
「心操ぉぉぉおおお!?」
「……“もう少ししたら”とは言ってたけどさぁ、早すぎやしねえか?」
「早いに越したことはないだろ?」
間飛も知らない装備──口元を覆い隠すマスクらしきものと相澤の持つ捕縛布。二つの未知を携えてニヒルに笑いながら、夢に一歩近づいて見せた。
本来ならば……否、歴代を遡ってもこれほど早いタイミングでヒーロー科編入の希望が現実的になる者はいなかった。何せ普通科とは競争に負けた者……配慮せずに言ってしまえば『ヒーロー科に入れないけどせめて雄英に』という生徒が来ることが多い。
それを雄英体育祭で分かりやすい結果で示し、合理性を重んじる相澤に可能性を貰えるまでに上り詰めて来た。
「そういうわけで間飛のペアは心操だ。先の発表で名前を呼ばなかったのはそれが理由だ」
「じゃ、じゃあ……対戦相手は……?」
「俺だ!」
ずいっと出てきたのはB組の担任ブラドキング。【操血】という自身の血液を操る個性を持ち、様々な形状で凝固することで多種多様な用途に使い分ける。
しかし個性一辺倒ではない。異形型でもないのに194cmという身長と体格の良さは確かな身体能力を感じさせ、真っ向勝負では一筋縄ではいかないと圧だけで語りかけてくるようだ。
「お前らには一つだけ縛りを設ける。決着は心操がつけろ」
「……!」
「はい」
実は、という程でもないがこの演習試験において間飛の扱いには相当困っている。
というのも戦闘力においては既に並大抵どころかビルボードのランキング上位より強いんじゃないかという評価になっており、オールマイト以外の教師では太刀打ちできない可能性が高い。
そこで心操だ。少々心苦しいが心操は
「先に言っておくが心操が編入する事になったらB組行きだ」
「えーっ!?何で!?」
「A組じゃないのかー……でも何でだ?」
「……ここだけの話だが、入試の段階から議論されていた」
「えっ?」
そもそも募集人数は推薦が4名と一般受験から36名……計40名だった。当たり前の様に受け入れていたがA組は21人。募集していた人数よりも1人多いのだ。
その理由のひとつが心操だ。
実技試験で結果は奮わなかったものの、映像で確認してみれば切り捨てるにはあまりに惜しい原石。この非合理的な試験で落とすなど有り得てはならない。そう思った相澤から提案された。
「ってことは、心操の為に一人多く取った、って事ですか?」
「そうだ。それに元々最後の一人は決めかねてたから好都合でもあったんだ」
A組とB組の人数差は心操という有望株の為に空けられた枠。心操はそれを知らずとも期待に応えてここにいる。
クラスメイトになれないのは悲しいが、競い合うライバルであれば大歓迎だ。ここに来て新たな燃料を投下されたA組生達は更にやる気を漲らせた。
◇
「とはいえ、だ。私達教師に勝つだけだとあまりに厳しい。私だけじゃない、他の皆さんも立派なプロだ!」
それぞれが試験場に辿り着き、試験のルールを説明される。
制限時間は三十分。予め支給されるハンドカフスを教師にかける、もしくはペアのうちどちらか一人でもいいので試験場からの脱出。
戦闘訓練と似通った内容だが、決定的に異なるのは『逃走』という勝ち筋を与えられていること。
「なにしろ戦闘訓練とは訳が違う!相手は超、超超超超!!格上だ」
「格上……?イメージないんスけど……」
「
日常的に触れ合うことの多い大人達だが、忘れてはならない。彼らは自分達よりも多くの経験を積み、恐るべきヴィランに立ちはだかる存在であることを。
未だ守られる存在である生徒達とは違う、本物の悪意や殺意を超えてきた強者だ。イメージがどうであれ舐めてかかっていい相手では無い。
「僕らをヴィランそのものと考えてください」
「会敵したと仮定し、そこで戦って勝てるならそれでよし。だが……」
「実力差が大き過ぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明」
轟が、そして飯田が。思い返されるのは職場体験……ステインとの一戦。あの時は無理を突き通して戦闘を継続したけれど、何かしら一つ噛み合わせが違っただけで死人が出ていた。
勝てない相手との無策な継戦。それがどれほど愚かしいことかは痛いほどわからされた。
戦って勝つか、逃げて生き延びるか。二択を迫られる試験だ。
「けど、こんなルール逃げの一択じゃね?って思っちゃいますよね」
軽い調子でオールマイトが話す。
二択を迫られるとは言ったものの、戦わずして済むのであればそれに越したことはない。加えて相手は格上だと念を押すように伝えられたのだから当然の考えだろう。
そこで用意されたのが『超圧縮おもり』だ。
体重の約半分の重量を装着。古典的なハンデではあるが動きを阻害し体力を削っていく。なんとオールマイトでさえもその重量感に少々冷や汗をかく程。
「戦闘を視野に入れさせる為か。ナメてんな」
「HAHAHA!どうかな……?」
軽んじられていると感じた爆豪が青筋を浮かべるも、オールマイトは不敵に笑ってそれ以上の返答はしなかった。
「俺達生徒はステージ中央スタートか」
「逃走成功には指定のゲートを通る必要がある……そう考えるとゲート前で待ち構えてる感じか?」
開始前、心操と間飛は作戦や方針についての話し合いをしていた。二人だけの特別ルールである『決着は心操がつけなければならない』が彼らの選択肢を狭めていることもあり、中々これと言う作戦が決まらずにいた。
決着とは言われたものの、詳細な条件は決められていない。例えば作戦立案を全て心操に任せればいいかと言われるとそうは思えないし、かといって一から十まで間飛が解決していいはずもない。
分かりやすい線引きが無いこともあって難儀している。
「一番は【洗脳】が決まればいいんだが……まずねえか」
「まともに受け答えはしてくれねえだろ。ただ声を変えただけじゃ返事は期待できない」
「……なあ、そのマスクみたいなヤツって何が出来る?」
「ん……これはペルソナコードって言って、俺の声を変えられるんだ。拡声器とかマイクを通すと発動しないんだが────」
『皆位置についたね?』
「っと、もう始まるのか」
「……心操。俺いい事思いついた」*1
「せめてヒーローっぽく笑えよ」
スピーカーからリカバリーガールの声が流れる。どうやら間もなく試験が始まるらしい。
『それじゃあ今から雄英高校一年』
『期末テストを始めるよ!』
『レディ──…………』
『ゴォ!!!』
各試験場で
本気で生徒達を叩き潰すつもりで。
心操「ニヤッ」
間飛「ニチャア」
ブラキン(何やら悪寒が……!?)