祝☆本編だけで50話達成!
ノリと勢いとライブ感でここまでやって来れました!ありがとうございます!
本編ではまだ8巻までしか進んでませんがこれからも本作をよろしくお願いします!
カランコロンと転がるようなベルの音。ドアについた小さな鐘が揺れ、来客の存在を教えた。
ほんの少しの軋む音と共に開かれたドアの向こうから、咥えタバコの怪しい男がニヤニヤと面白いものを見たとでも言いたげな顔で声をかける。
「よう死柄木さん。こっちじゃ連日アンタらの話で持ち切りだぜ?なーんかでけえ事でも始まるんじゃねえかって」
「……で、そいつらは?」
グシャリと体育祭に出場していたとある人物の写真を握り潰すと、後にはもう何も残らない。小さな塵がパラパラと落ちて空に溶けて行った。
怪しげな男が連れてきたのは二人。典型的な女子高生の制服にカーディガンを上から着た女の子と、露出した手首周辺や口角から下……鎖骨よりも僅かに下までが酷く焼けただれた男。どちらも表の世界ではまず見ない、狂気を薄らと滲ませている。
「生で見ると……気色悪ィなァ」
「手の人!手の人はステ様の仲間だよねえ!?ねえ!!」
どちらも口角を釣り上げて笑っているものの、天真爛漫な女の子とどこか不気味な両極端。彼らが大物ブローカーによる紹介をされたヴィランだと知らずとも、人によっては何かを感じ取るだろう。
元を辿ればヴィラン連合の戦力補給がしたいという死柄木に応え、黒霧がブローカーに手配を頼んだのが始まりだ。
しかし死柄木は二人を見ると堪えきれないといった様子で手を持ち上げ、彼らを指さして告げた。
「……黒霧、コイツらトバせ。俺の
「死柄木弔」
「餓鬼と……礼儀知らず」
初対面とは思えないトゲトゲしさ。如何に裏社会のクズという自覚があろうとあまりに礼を失した言い草に女の子が抗議の声を上げた。
何が、と言われても嫌いなものは嫌いだ。受け付けないものをわざわざ我慢して受け入れてやる理由がどこにある。
黒霧はひとまず明らかに機嫌の悪い死柄木を宥め、二人の事を聞いておくべきだと説いた。それに何か了承を返すこともなく、顔に付けた自分のものでは無い手の隙間から視線だけで促した。
「んじゃあ……まずこっちの可愛いJK。名前も顔も馬鹿みてえにメディアが守ってくれてるが、連続失血死事件の容疑者として追われてる」
「トガです!トガヒミコ。生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!ステ様は……捕まっちゃったけど、ステ様になりたいです!だから入れてよ弔くん!」
ステ様、という言葉に死柄木の眉がピクリと動く。
そのあだ名はステイン……前回の保須市で手を組むことはできたけれど、相容れないと判断して半ば切り捨てるようにしたヒーロー殺しのことだろう。
不穏な空気が流れ始め、黒霧がひっそりと【ワープゲート】の準備を整えた。いつ死柄木が爆発してもおかしくないと理解した上での判断だ。
次は火傷痕の目立つ男。こちらもまたヒーロー殺しの思想に固執しているという。
「不安だな……この組織に大義はあるのか?」
「……はあ?」
「まさかこのイカレ女入れるんじゃねえだろうな」
「酷いです!急に私の悪口、やめてください!」
名乗れ、と言ったはずが男は不満そうに隣のトガを見た後、フンと鼻を鳴らして笑った。
「……その破綻JKすら出来ることがお前は出来てないだろ。まずは名乗れよ、大人だろ?」
「今は荼毘で通してる」
「通すな。本名を言え」
「出すべき時になったら出すさ。とにかく……ヒーロー殺しの意志は俺が全うする」
最後の一言が死柄木の我慢の限界だった。
幽鬼の如くユラリと立ち上がり、ボサボサの髪がただでさえ手で隠れた顔を隠す。その僅かな隙間から二人を射抜くような眼光。殺すつもりだ。
「どいつもこいつもステインステインと……」
「死柄木弔……」
「良くないな……気分が良くない」
殺人すら複数の経験がある二人に向けられた殺気。粘り気を含んでいるようなジットリとした重く、鋭いプレッシャー。ゾワリと背筋が粟立つ感覚。
衝突は一瞬。軟弱なインドアの人間を思わせる風貌からは思いもよらない速度で手のひらを突き出し、同時にトガと荼毘もまた手のひら、或いはいつの間に抜いたのかナイフを突き出していた。
「……落ち着いて下さい死柄木弔。貴方が望むままを行うのなら組織の拡大は必須」
三人の狂気は何者も捉えることはなく、黒霧の【ワープゲート】を通って空に、木目の床に突き立てられた。文字通り瞬く間の出来事を的確に対処して見せた。
黒いモヤの中から語りかける。たとえどれほど気に食わない者であろうとも今が好機。感情論での排斥ではなく先を見据えた受容をすべきだと。
何者であろうと──ヒーロー殺しの思想でさえも、全てを利用すべきだと。
「…………うるさい」
返答は、不貞腐れたように腕を引き抜かれるだけだった。
◇
──信念なき殺意に何の意義がある。
気に食わない。気に食わない。どこまでも気に食わない。
大人数の行き交うショッピングモールの通路一つ。その中の誰か一人でもふとした瞬間に誰かを殺すかもしれないのに、そんな事有り得るものかとでも言いたげにいつも通りの顔で歩いている。
ご大層な信念を語っていたステインよ。この世の大多数の人間には対岸の火事でしか……いや、対岸ですらない。液晶の向こう側なんて存在しないとでも思ってるんじゃないか。
どこで誰がどういう思いで、どれほどの覚悟を持って人を殺そうとも。コイツらはヘラヘラと笑って呑気に生きている。
「うっわ……これ良いのかよ?」
「ヒーロー殺しのヤツか。ぜってー問題になるっしょコレ」
……一方で、お前の思いとはおよそ程遠いところでお前のシンパが生まれている。
何なんだ。
やっている事は同じはずだ。俺もステインも、結局は気に入らないものを壊していただけに過ぎないだろう?
「……お茶でもしながら話そうぜ?
間飛移」
「…………ス○バでいいか?」
「……ああ」
話聞くやつ間違えたか……?
◇
一週間の強化合宿。結構な大荷物になるだろうと言うことでA組の(ほぼ)全員で買い物へ……という話になった。
爆発さん太郎や轟なんかは用事があったり気が乗らないとかで来なかったんだが、ほとんどA組全員が来ることに。それぞれ買いたいものは違うだろうとある程度の人数で分かれて行動していたのだが……
「……甘ェな」
「キャラメルフラペチーノだからな。メジャーだけど甘いっつったろ」
「飲んだことねえから知らねえよ」
「ピザトースト半分やろうか?」
「……頼む」
USJん時の手を付けてたヴィランと遭遇しちまった。まさかこんな所でバッタリとは世間は狭いもんだ。
初手で肩組んで馴れ馴れしくしてくんなあとは思ったが、首に手を当てて『騒ぐな』だから普通にビックリした。お前普通にこういう所とか来るんだな。
通報も騒ぎもしねえからそこらで何か食いながら話そうぜって提案したら普通に受け入れられたけど、警戒心とかどうなってんだオメー。*1
まああんな事やらかしておきながらス○バのフラペチーノをおっかなびっくり啜ってんのは笑えるけど。
「で、話って?」
「……俺が言うのもなんだが、正気か?」
「何が目的かも知らねえし、USJと違ってまだ何もしてねえ。あの場で俺がお前を殴れば俺の方がヴィランだよ」
「はっ、ヒーロー候補がヴィラン殴って捕まるってか」
何も知らない他人からはそう見えるって話だ。何より無駄に暴れられるよかずっとマシ。
「俺は、大体何もかも気に食わないが……今一番腹が立ってるのはヒーロー殺しにだ」
「仲間、って言ってなかったか?」
「……俺は認めてないが、世間じゃそうなってるってだけだ」
雄英襲撃も保須市で放った脳無も、死柄木が起こした行動は全てステインというネームバリューに食われてしまった。
いくら能書きを垂れ流していようともやっている事は自分とそう違わないはずなのに、どうして自分達には何一つ注目が集まらないのか。
自分とステインは何が違うのか、と死柄木は尋ねてきた。
……これ言っていいんだろうか。答えわかっちゃってるけど言っていいのかしら。
「……素直な感想でいいなら」
「何か分かるのか?」
「分かるってか、予想だけどな?まず聞くけどUSJが初犯なんだよな?」
「ああ……バレてねえのもあるが、大々的なのはあれが初めてだ」
じゃあもう答え出てるじゃねえか。
ステインと死柄木達の注目度合いが違うのは当然だろ。何せ死柄木と違ってステインは時間をかけて多くの被害を出してきた。百人殺したヴィランと一人殺したヴィランじゃ注目度合いが同じなわけない。
そもそも雄英襲撃に関しては箝口令が敷かれてる。世間様はヴィラン連合とやらの名前は聞いても死柄木弔だの脳無だのと言った名前は聞かされてないし、注目も何もあったもんじゃない。
「ヴィランに言うことじゃねえがお前らはヴィランの中じゃ新参も新参だろ。このヒーロー飽和社会じゃ一回でかい事やっただけで名前は知れ渡らねえよ」
「……正論だな。耳が痛い」
「ステインでさえまだ五年かそこら。一年にも満たないお前らよか視線は集まるさ」
「じゃあ、時間をかければ俺でもああなると?」
なるかもしれない、とだけ。
というかUSJからずっと不思議だったんだが。
「お前は何がしたいんだ?」
「何が……だと?」
「『異能解放軍』的な思想犯って感じでもなさそうだし、ヒーロー風に言うなら
思想表明とか実現したい世界とか、コイツらにはそういったものは一切無かった。あんな脳無達を抱えるまでの時間をかけた上で、何一つ目的も目標も口にしちゃいない。全てがその場のノリで吐かれた嘘だった。
じゃあただの愉快犯かと言われるとそうでも無さそう。多分何かそれらしいものはあるんだろうけど俺には読み取れない。
今この瞬間にコイツが捕まったとして、何がコイツをヴィランに仕立てあげたのかが分かっていなければ第二第三の死柄木弔が生まれるだけだ。
「俺の……原点……」
「ヴィランに堕ちる奴はそれなりの理由がある事がほとんど。お前が愉快犯じゃないなら何かあったんじゃないかって思ったんだが……」
「…………ない」
「は?」
「……わからない」
「俺は何におこってるんだ?」
「おれは何をにくんでいるんだ?」
「なにが……ゆるせない?」
──演技、という思考はすぐに捨てた。
テーブルを挟んだ向こう側にいたヴィランはいつの間にやら幼い少年に変わっていて、ドス黒い憎悪が消えた迷いに塗れた瞳と目が合ってしまった。
「死柄木──」
「わかんない……!わかんない……!!」
「死柄木ッ!」
「……っあ、あ」
ヤバそうな雰囲気に思わず声を荒げる。他の人から視線が突き刺さるが気にしていられない。もし精神崩壊でも起こされようものなら、どれだけの被害が出る。
本来敵同士であるはずの少年に呼びかけ、死柄木もまた呆然とこちらを見つめている。
「……大丈夫、か?」
「……………………かえる」
「そう……か」
「うん」
到底ヴィランとは思えない、幼い言葉使いで返事をした死柄木はフラフラと頼りない足取りで……小さな背中を揺らしながらどこかへ行ってしまった。
「──間飛くんっ!!」
「あ、ああ……緑谷か」
「今のって……死柄木弔じゃ!?」
「多分……そう、かな?」
警察に通報を……と焦燥する緑谷。急に集まりだしたA組達。その中心で俺はぼんやりと死柄木の小さな背中を思い浮かべていた。
死柄木「……」ズゾゾ
間飛(目ェキラッキラしてんな……)
死柄木(甘くて美味ェ)
※死柄木の好み知らないので滅茶苦茶捏造です