分からないとしきりに繰り返した幼い声。耳に焼き付いたように消えてくれないアイツの恐怖や困惑、今の自分がどんな過程を辿ってここに居るのかさえ見失った迷子みたいな背中。忘れられそうにない。
──いいなあ。
USJで相澤先生をボロボロに痛めつけ、保須市に脳無を解き放って街を滅茶苦茶にした。善悪で考えるなら間違いなく悪人。しかし俺が話をしたアイツがヴィランかと言われると……判断できねえな。
爆豪なら『テメェの都合なんざ知るか』って初手から殺しにかかりそうだな。いやそうでもないか?アイツ意外と冷静だしな。
──皆の⬛︎⬛︎はカッコイイ……でも。
……あー、クソ。紛うことなきクソだわ。今自分のメンタルが不安定なのが自覚出来るぐらい、調子がクソだ。普段ならあんなもん思い出そうとも思わねえのに。
──俺の⬛︎⬛︎は何で……。
はいはいカットカット。【フィジカルギフト】を受け継いだ時点でンな事諦めたろ。とっくに通り過ぎた苦しみを掘り返してんじゃないよ。
「…………間飛くん?」
「……あ、すんません」
またボーっとしてた。何してんだ俺は。
死柄木と遭遇してス○バに連れ込んだ後、注文する時にこっそり飯田にチャットを送っていたおかげでヒーローと警察が早めに駆けつけた。
まあ【ワープゲート】が仲間にいる連中だ。広範囲を捜索したところで見つかるはずもなく。死柄木弔と直接会話をした俺は警察署へと連れられて事情聴取中。少しでも情報が欲しいと塚内さん……確かオールマイトの友人とか言ってた人と話していたのだが。
「……『分からない』、か」
「その、こんな事言っていいのか分からないんスけど……子供がそのまま大きくなったみたいな感じで、何も考えてなかったみたいな……」
「君の率直な感想だろう?構わないよ」
「ウス……」
散々暴れておきながら何がしたいのか分からない。それを他でもない死柄木本人が泣きそうな顔で零していた。あれを見て恐ろしいヴィランでした、とはとても言えない。
本当ならあの場で少しでも長く引き留めてヒーロー達の到着を待つべきだったのかもしれない。塚内さんは寧ろ俺の対応を賞賛した。普通なら恐怖からパニックになってもおかしくは無いところを、冷静に会話と情報共有を出来たことは凄いことだ、と。
「ただ……何故ス○バに?」*1
「腹減ってたんで」*2
そこは許してよ。学生気分でワイワイ買い物しに来てたんだから。
◇
そんな事もあった為か、既に伝えられていた合宿先はキャンセルされた。例年合宿先として世話になっていたらしいが、現時点で誰にどこまで伝わってしまっているのか把握出来ていない以上は仕方ない事だろう。
しかし合宿自体を取りやめることは無く、当日になるまで行先は教えないようにして合宿を行うという。
そういや期末テストで赤点になったのは上鳴と芦戸、砂藤と切島の四名だった。根津校長による高層ビルのピタ○ラスイッチ攻撃とセメントスのコンクリート包囲網に負けたとか。何その現代社会でヤバそうな攻撃ツートップは。
そんで林間合宿当日。
「でも良かったな!補習アリとはいえ全員で行けてよ!」
「そうだな補習アリ」
「言葉のオブラートって知ってる?」
「そこになければ無いですね」
瀬呂酷いな。もうちょい切島に優しくしてやれよ。【硬化】じゃ身体は硬くなっても心は硝子だぞ。
向こうじゃ物間が煽り散らかそうとニヤニヤしてたけど拳藤さんが恐ろしく早い手刀()*3で意識飛ばしてた。あれ今度教えてもらおうかな……?
「ん」*4
「おわっビックリした」
「ん」*5
「珍しい?」
「イチャついてンじゃねえぞクラァッ!!?」
背後からぬるりと現れての急な両手肩ポン。出たな雄英忍者*6め。いつもよりテンション高いのは分かるけど驚かすのはやめなさいな。
で、エロブドウはうるせえ。お前自分以外の男女が仲良く話してたら血の涙流しながら割り込もうとするのやめな?そんな事するからモテるモテない通り越して女子から避けられるんだぞ。*7
「あ、先生」
「なんだ?」
「
「……まあ、いいだろう。ただしちゃんと起きろよ」
「アザす」
バスでの移動とはいえ合宿先まで結構かかるだろうし、その間は寝させてもらう。許可も取れたしバスに乗ったら寝るか。
( ˘ω˘)スヤァ…
「……あれ、間飛くん寝てる?」
「……zzz」
「何か酔いやすいとかで薬飲んで寝てるってよ」
騒がしい車内で一人、座席にもたれかかったまま静かに目を閉じている同級生。つい先日ヴィラン連合の一人と出くわした間飛くん。
峰田くんが教えてくれたけど、どうやら眠っているらしい。でも酔いやすい?間飛くんの個性の【瞬間移動】を考えるとむしろ酔いにくいんじゃないかと思うんだけど。
まあそこは人それぞれ。ジェットコースターが大丈夫でもバスは無理という人もいるだろう。わざわざ追究することでもない。
……ああ、でも死柄木弔の件はもうちょっと話をして欲しかった。
あの日飯田くんにだけ『死柄木弔と遭遇した』というメッセージが送られて、やっと間飛くんを見つけた時には死柄木が帰った後だった。
大丈夫かと尋ねてもどこか上の空で、僕達に何かを教えてくれることはなく今日に至る。警察の方やオールマイトから聞いた限りでは何か会話をしていたそうだけど……何を話していたのかも知らない。
「……間飛ちゃんって、いつも一人で動いちゃうのよね」
「あすっ……つ、梅雨ちゃん?」
「自分のペースでいいわよ。USJの時もそうだったでしょう?緑谷ちゃんの後に続いて、一人で脳無の相手をして……」
「オイラあの土煙の中で見たんだよ。アイツ脳無抱えあげてどっかに連れて行ってたぜ」
言われてみればそうだ。普段からA組の人達よりもB組や普通科、サポート科の人達と一緒にいる事が多くて、戦闘訓練で彼が誰かに協力を頼んでいたことはほとんど無かった。
彼は誰かに他の何かを任せる事はあっても、決して自分を助けて欲しいと言った事は無いかもしれない。気づけば一人で片付けて帰ってきてる、という印象だ。
オールマイトが僕に言っていた危うさ、という物に近いのかもしれない。体育祭で負けて泣いていた僕にオールマイトが言ってくれた言葉。
──立ち止まることを知らないんじゃないか。
──このまま突き進んでいては、いつか取り返しのつかない事に。
……なるほど、これを他の人がやるとこう見えるのか。自分がやらなくちゃ、自分一人で何もかも出来るように。本人にその気が無くても傍から見ていてそう感じてしまうと心配になってしまう。
「……僕、早く強くならなくちゃって思ってた」
「ケロ?」
「でもそれ以上に……誰かを頼ることも忘れちゃいけないんだ」
「緑谷……」
僕はオールマイトの個性を貰ったけど、僕がオールマイトになれる訳じゃない。僕はどこまで行っても『頑張れって感じのデク』なんだ。
無理をして駆け抜けてその果てに燃え尽きる必要なんてない。僕は僕なりのヒーローを目指すべきだ。
そしたら、僕も間飛くんみたいに自分らしくいられるのかな。
「もう少ししたら一度止まるからな。誰か間飛を起こしてやってくれ」
……どうやら休憩を挟むらしい。間飛くんを起こしてあげなきゃ。
「間飛くん、休憩だって。起きて」
「…………す」
「す?」
「すっぺらぴっちょん……!?」
「……えっ何今の!寝言!?」
何その寝言。怖……。
──彼の夢の中では三日三晩の宴の後、アブダラ様が降臨した。
間飛「って夢だった」
緑谷「精神科……いや脳外科?」
間飛「真剣な顔して何言ってんだお前」
知る人ぞ知るネタを持ってきました。見覚えのある方はニヤニヤしながらすっぺらぴっちょんしてください。