運動をすれば筋繊維が切れる。切れた筋繊維は休息を挟む事で再生し、より強くより頑丈になっていく。再生の為にはちゃんとした食事が必要不可欠で、栄養バランス等に気をつけた内容や量を摂取するべきだ。
「
「はふぅ……生き返るわ」
「浅漬けもっとないか?」
(女子力完敗してる……?いやいやウチだって何か……なに、か……)
「オカン、おかわり」
「オカンじゃないよ!ママと呼びな!!」*1
「ノリノリじゃねえか」
そんな能書き腹ぺこの少年少女には知ったこっちゃない。腹の虫を黙らせんが為に欲望のまま箸を進め、肉!米!豚汁!浅漬け!の黄金コンボを発動。ヒョイパクヒョイパクと口の中へと放り込まれていく。
どこぞの孤独にグルメを満喫されてるお方ならば『うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ』と表現しただろう。カロリーという名の燃料を次から次へと補給し続けている。
一応相澤から『休憩を挟むがあまり食べすぎないように』と言われているのにいいのかお前ら。*2
ちなみに間飛は一足先に相澤やプッシーキャッツの方々と共に食事を終えている。だからこうして給仕よろしく扱き使われているのだ。
「……そういえば間飛くん」
「どうした?米ならまだあるけど」
「あ、うん。それは貰うけど……プッシーキャッツの人達と一緒にいた男の子って誰かのお子さん?」
「ああ洸汰君か。マンダレイの従甥だってさ」
近くを通ったついでに緑谷が間飛に聞いたのは何故かずっとこちらを睨みつけていた少年について。何かした覚えも無いのにずっと不機嫌そうな顔をしていたものだから気になっていた。
その正体はマンダレイの親戚にあたる子供。何やら込み入った事情があるらしく間飛も深くは聞かなかったらしい。
一つだけ言えるとすればこの個性社会には珍しくヒーローを嫌悪しているような態度をとっているのだとか。
「何があったかは知らねえけど軽々しく踏み込んで良さそうでもなかった。もっと知りたいってンならマンダレイにでも聞いた方が早いかもな」
「そっか……ありがとう」
「気にすんな。そんで昔話盛り一丁ッ!」*3
「多いよ!?」
文字通り山の如く茶碗を飛び出して盛られた白米に驚愕しつつも、何だかんだ完食した自分を恐ろしく思う緑谷だった。
◇
部屋に荷物を運び終えて腹具合も大体良くなってきた頃、相澤に呼ばれたA組がジャージ姿のまま宿泊施設前の広場に集まっていた。
想定よりもずっと早く到着した為、明日からの訓練内容の説明をした後は自主トレがしたい人だけ自主トレをしていて構わないと言われている。
既にどこか眠そうな者もそれなりにいるが、相澤が注目、と言った途端に全員がキリッと視線を集中させた。調教具合が伺える。
「本格的な強化合宿は明日から。今日はこの後からは自由時間……自主トレがしたけりゃしてもいいが軽めに終わらせるように」
「え、いいんですか?」
「時間は有限。だからこそ取れる時に休息は取るべきだ。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免の取得」
USJ、ショッピングモールのヴィラン連合。職場体験中のステインと脳無など、ヒーロー科とはいえヴィランが身近過ぎるのが現状。いつ接触するかも分からない悪意に立ち向かう為の力を手に入れる準備だ。
全員がゴクリと息を飲む中、相澤は手に持っていた球体を爆豪へと渡す。何を、と手元を見てみれば入学初日に行われた体力テストで使用されたボール投げの測定器。
「前回の……入学直後で705.2mだったな。どれだけ伸びてるか確かめてみろ」
「おお!成長具合の確認!」
「この三ヶ月色々あったしな!爆豪なら1kmとかいくんじゃねえか!?」
「いったれバクゴー!」
あの時と同じく『まずは現状を知る』ということだろう。そういう事ならば遠慮は要らないと爆豪は獰猛に笑いながらグルグルと肩を回す。
右手に掴んだボールを腰の捻りと共に大きく引き絞る。ギチィッ……!と音が聞こえそうなほど深く引き絞られ、掛け声と【爆破】と共に射出された。
「んじゃ、よっこら…………
くたばれ!!!」
FABOOOOM!!
相変わらずの天才的な制御能力。少し手元が狂えばあられもない方向へと飛びかねない【爆破】によるブーストを乗せた投擲。雲にも届くかと思われた渾身の一投の記録は……。
711.8m
伸びていることは伸びている。しかし前回の記録からは精々6m程度の距離しか伸びておらず、期待していた他の生徒や爆豪自身も想定よりずっと少ない成長に驚愕していた。
一言で言えば『思ったより伸びてない』に尽きる。この中でも特にストイックなはずの爆豪でこれならば変化が無い者だっているだろう。
体育祭や演習試験などの山場を超えてきて尚、育ったと言うには僅かな進歩に困惑する。
「お前達はこの三ヶ月間を色々あったと言うが、その成長のほとんどは精神面や技術面。或いは多少の体力や筋力が育っただけだ」
「……!そうか!」
「気づいたようだな。今見た通りで
相澤の指摘にハッとさせられた。今までの訓練は全て『個性を使った上での動き方』の訓練でしかなく、その内容のほとんどはシチュエーションに則した動きや考え方を教えられていた。
思い返せば筋トレや体力作りはしていたけれど“個性”を鍛えるという着眼点には至らなかった。
例えるならばハードウェアとソフトウェア。今までは肉体というハードウェアの改良増設や使い方の練習をして来たのであって、個性というソフトウェア自体は細かなバグ潰しはしてもアップデートはされていない……と言ったところか。
「先に言っておくが……死ぬほどキツい」
「し、死ぬほど……!?」
「ああ……くれぐれも死なないように、な」
ところで気のせいだろうか。生徒の恐怖心を煽る時だけ相澤がやけに生き生きとした顔で笑っているのだが。これは気のせいだと思うべきだろうか。*4
……気のせいという事にしておこう。
話は変わるが、あれだけ懇切丁寧に脅しておけば流石に自主トレに来るやつは少ないだろう、と相澤はタカをくくっていた。
常日頃訓練内容に対して『○○には気をつけろ』とか『✕✕を甘く見るな』と言うことはあっても『□□はキツい』などのモチベーションを削ぐようなことは言わないようにしている。
そこを敢えて強い言葉で教えたのだからすぐに終わるのだと思っていた。
「ッ……!スマァーッシュ!!!」
「次の手がバレバレなんだよクソカス!」
「……やっぱ爆豪と緑谷相手だと簡単にはいかねェな!」
「余所見をしていいのか轟君!!」
「委員長もなァ!!」
フルカウル15%の緑谷によるパンチを爆豪が器用に爆風を操って回避。その二人を絡めとるつもりで氷結を放つも素早く範囲内から逃れられた事に舌打ちする轟を狙う飯田のスピードが乗った蹴りを切島が【硬化】で受け止め、カウンターの手刀が振り抜かれたが空振り。速度に任せて離脱された。
まさかのA組でも戦闘力上位の五人による組手。スピードもパワーもタフネスもフルに使われている(と思われる)攻防が何度も繰り返され、コロコロと相手が入れ替わっては決定打になり得ぬまま続いている。
(んでコイツは……まあいいか)
そこから少し離れたところ、具体的には自主トレ監督をしている相澤のすぐ側には目隠しをしたまま突っ立っている間飛がいる。不定期に時々相澤がハリセンでぶっ叩こうとしており、今のところ95%は被弾している。
実の所一足先にラグドールと会っているので間飛は既に“個性伸ばし”を行っている。期末テスト前の絶不調状態はそこから来ていたのもある。
スパァン!!
「あ痛ァ!?」
「……まだ遅い。それに五感で避けようとしただろ」
「うっ……はい」
「後一回完全に避けたら終わりな」
しかしあの体調不良全てが“個性伸ばし”によるものでは無かった。幸い原因は判明しているので出来ればこの強化合宿の期間中に克服して貰いたいのだが……。
「……あ」
「冷痛い!?」
「轟の氷が飛んできただけだ気にするな」
「不意打ちにも程がある……!」
どうやらまだまだ先は長いらしい。この後結局完璧な回避には成功せず、夕飯の時が来た為に泣く泣く終了した。
上鳴「オカン俺もおかわり」
瀬呂「俺も俺も」
芦戸「オカン!私もー!」
轟「……オカン、俺もおかわりくれ」
間飛「乗らなくていいから」