え?OFA?何それ……   作:南亭骨帯

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サブタイトルは【オリジン´】、ダッシュがつきます。
珍しくシリアス一辺倒の今回は後書きを書きたくないのでこちらに書きました。
ヒロアカ世界原作に混ざった異物は何も一人ではないのです。





死柄木弔:オリジン´

 

 少し時は遡り強化合宿が始まる前。

 街の片隅にあるとあるバーでは一人の男がイヤな静けさの中、いつもの様に酒を呷ることも無く椅子に腰かけたまま微動だにしない。それがもう一人の存在である黒霧に緊張感を与えていた。

 

(……死柄木弔が、こんな雰囲気を纏うようになるとは)

 

 死柄木から見た『先生』に命じられるまま彼のお目付け役のような位置にいた黒霧だが、先日のブローカーの仲介から数日と経たずにこの変化だ。

 常に子供の癇癪じみた危うさを纏っていたこれまでと違い、今の死柄木弔は凪いだ水面を思わせる。なのにピリピリと死んだ感覚をナニカが刺激するのだ。

 

 何時間にも感じられた数分が過ぎて、死柄木は重い口を開けた。

 

「……黒霧」

「はい。どうしました?」

「トバせ。『先生』の目が届かない場所に」

「…………わかりました」

 

 これまでの命令とは明確に異なる、有無を言わせない強さの命令。何故、どうしてと尋ねる間隙は無かった。そして不思議と逆らおうという気も起きない。自分が知る限りでは『先生』の目が届かない場所に【ワープゲート】を接続する。

 

 ワープ先はとある砂浜の端っこ。随分前から不法投棄が絶えずゴミの山と化していたのだけれど、どこの誰かも知らない人物が処理したらしくつい最近蘇ったことで有名な海岸だ。『先生』はこういった場所は好まないこともありまず監視の目は無い。

 そもそも『先生』の監視自体かなり緩めにされている。何せつい最近までの死柄木弔は本当にただ規模が大きいだけの子供の八つ当たりしかしてこなかったのだから当然と言われてしまえばその通りだ。

 

 ワープした死柄木弔は何を切り出すでもなく、誰かの手の間から水平線の先を見つめている。

 

「……死柄木弔?どうしたのですか?」

「あ?」

「あの日からどうにも貴方の様子がおかしい……一体ショッピングモールで何があったのですか」

「……」

 

 フードで顔を隠していた事もあって顔は割れていないものの、ニュースにヴィラン連合という名前が乗る程度には死柄木弔を世間に知られた。聞けばショッピングモールで雄英生徒と出会したとだけ言っていた。

 彼に何らかの変化を齎したナニカがあるとすればそこしかない。

 

 黒霧の質問に死柄木がポツポツと話し始める。初めて純粋な心配で手を差し伸べてくれた彼との遭遇について。

 

「俺には昔の記憶が無かったって言ったよな」

「ええ。それはいつか貴方の意思で辿り着くべきものでもあると」

「……全部じゃねえが、思い出した」

「……何と」

「この手でお父さんもお母さんも、華ちゃんもモンちゃんも……俺が、殺した。殺して、しまった」

 

 彼が思い出したのは今の自分に至る瞬間……過ちという引き金を引いた時の事だ。

 

 

 

 今思えばお父さんにも何かしらの事情があったのかもしれないけれど、あの家では『ヒーローの話題は禁止』という個性社会でも珍しい部類にあるルールが設けられていた。

 ()はそう聞いた、程度にしか知らないけれどお父さんのお母さん……僕にとってのおばあちゃんとお父さんの間で何かあったらしい。

 

『君のお父さんはね……お父さんのお母さん、君にとってのおばあちゃんとあまり一緒にいられなかったんだって』

『そうなの?』

『私も詳しくは知らないんだけど、ご近所さんだったんだ。時々私のお母さんも気にかけてたから……』

 

 (けい)ちゃん、と呼んでいたお姉さんはたまに来ては僕と話をしてくれてた。僕が覚えてる限りでは十回にも満たない回数だけど、その時間が凄く好きだったのを覚えてる。

 恵ちゃんの前ではお父さんも優しくて、僕に酷いことをしようとすると恵ちゃんが止めてくれてた。恵ちゃんがいる時だけはヒーローのお話も許してもらえて、恵ちゃんが来るよと教えられた時は凄くはしゃいでた。

 

 それでも恵ちゃんが帰ったらまたいつも通り。ヒーローの話はしちゃいけなくてお父さんはたまに僕を叩いたりして、その度にごめんと謝って来る。

 

 ……お父さんの建てたあの家は、僕を優しく微かに否定していた。

 

 全てのきっかけはあの日おばあちゃんの写真を見てしまった事だろう。また泣いていた僕を励ましたかったのか、華ちゃんはお父さんの書斎に忍び込んで一枚の写真を持ってきた。

 そこには小さい頃のお父さんとおばあちゃんが、仲良く微笑んでいる様子が映されていた。

 

『転孤!!書斎に入ったな!?』

『ひっ……!?』

『見たな……?』

 

 僕達が書斎に入ったことを知ったお父さんは……酷く怒っていた。険しい顔で眉間に皺を寄せて、僕を叩こうと──して、やめた。僕に手のひらがぶつかる既のところで止められて、でも子供の僕には恐ろしくて。

 ボロボロと零れる涙は止まらずしゃくりを上げて泣いていた。何でそんな事をするの、誰か助けてよ、って。

 

 お父さんの顔は怒っていて、でも何かを我慢しているみたいで。深くため息をついて僕に言った。

 

『あれはおばあちゃんだった(・・・)。でもな、ヒーローになって……他人を助ける為に家族を傷つけた』

『……っ!で、でもっ……!?』

『……書斎に忍び込んだ事を反省するまで、しばらく外にいろ』

 

 口を挟む余裕もくれないお父さんはそれだけ言うと、握った拳をブルブル震わせながら家の中に戻って行った。

 

 

 ──どうして……?

 

 ──どうしてそんな事を言うの?

 

 ──お父さんなんか、嫌いだ……!

 

 

 日も落ちて風が冷たくなり始めた。グズグズと泣きべそをかく僕に寄り添うモンちゃんは柔らかくて温かくて、モフモフの毛に手を突っ込んで抱き寄せていた。

 荒れた肌は刺すような痒みを引き起こし、涙で濡れた目元をゴシゴシと擦るものだから余計に痒くなって。ついにはガリガリと音を立てて引っ掻くように。

 

 

 音もなくモンちゃんが崩れ落ちた。

 

 

『……え?』

 

 ほんの一瞬。目を離した瞬間にモンちゃんは血溜まりになっていて、崩れた顔の一部から何も映さない目がこちらを見ていた。

 柔らかな体毛に包まれていた左手は生温い血液に塗れて、虚空を支えるように持ち上げられたまま。

 

 突然の出来事に僕は酷く恐怖した。年齢一桁の子供が体験していいことじゃない。隣にいた温い生命は生臭い赤に変わり果てた。

 

『どうしたの──……!?』

『ひゅっ……!っ──!!』

 

 ごめんね、と謝りに来た華ちゃんも。僕の隣の赤に気づいて、悲鳴をあげて逃げようとした。

 

 置いていかないで、と伸ばした手が華ちゃんに触れる。何とか届いた手が華ちゃんの服を握り、また一つ赤い【崩壊】が起こる。

 ビキリと華ちゃんの身体に亀裂が走り、一瞬のうちにボトボト崩れ落ちた華ちゃんだったモノは動かなくなった。

 

 凄く悪いヴィランが僕らを狙ってるんだと思っていた。モンちゃんも華ちゃんも、そいつに崩されてしまったのだと。

 

 華ちゃんの悲鳴が聞こえたお母さん達が部屋の中からこちらを見ていた。何が起こったのか分からないけれど、我が子を守らなければとサンダルに足を突っ込んでこちらに駆け寄ろうとした。

 

 【崩壊】が地面を伝う。迸る亀裂は勢いのままにお母さんの足に到達し、虫が這うようにお母さんの足をも伝う。

 芝生の庭が崩れ茶色い土が露出する。お母さんのヒビはもう頭にまで登っていて、片目に縦の亀裂が入った。

 

『転孤!!』

 

 お母さんが崩れる。僕を抱きしめようとしていた腕は僕に届かず、僕の手がお母さんに間に合わない。触れるよりも早くお母さんがボロボロに崩れ落ちた。

 【崩壊】は進む。お母さんを消した亀裂はおじいちゃんとおばあちゃんにも届いて、顔を上げた時にはとっくにいなかった。

 

 ここに来てようやくこの現象の起点が自分であることに気づいた。触れた端から崩れてしまい、【崩壊】は伝播する。グチャグチャでボロボロの地面の上で込み上げる不快感と得体の知れない感情を処理しきれず、迫り上がる胃の中身をその場にぶちまけた。

 

 泣き喚いていると、とうとうお父さんが信じられないものを見るような目で立っていた。

 

『転……孤?』

『おっ、おっとう……!お父ざ』

 

『ごめ゙ん゙な゙ざい゙……!!』

 

 

 静まり返っていた【崩壊】が再び動きだす。既にグチャグチャだった芝生はより激しく崩れ、落石みたいな音を立てた。

 崩れていく。モンちゃんと走り回ったお庭も、華ちゃんと覗いていた窓も。

 

 

『────すまない』

 

 

 崩れ荒れ果てていく中でお父さんは確かにそう言った。お母さんと同じように僕を抱きしめようとこっちに向かってきてくれてた。

 

 お父さん、と声は出なかった。助けてくれるのとも思わなかった。何故か僕の手は真っ直ぐにお父さんに向けて伸ばされて。

 僕の手がお父さんの胸に触れた。助けて欲しいと手を握るでもなく、怖いよと縋り付くでもなく。何らかの意思を持って胸のど真ん中に触れた。

 

『ごめんな……!ごめんなぁ……!』

『っ───』

 

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎───!!!!』

 

 

 憎悪か拒絶か、或いは復讐か。自分の意思でお父さんを【崩壊】させる。

 亀裂が走る。ひび割れた身体から赤い血が噴き出して、崩れた後には何も残らない。

 

 途方もない快感が全身を貫いて──

 

 

 どうしてと呟く自分がどこかにいた。

 

 

 

 

 これが死柄木弔が思い出したかつての自分の一部。そこから何がどうなって死柄木弔(今の自分)になったのか分からない。

 

「……それで、貴方はどうされるのですか?」

「何も」

「……?」

「もう……俺も俺が何をしたいのか分からない。俺の憎しみにはちゃんと向けるべき誰かがいて、その誰かはとっくに俺自身の手で殺してた」

 

 満遍なく撒き散らされていた殺意の矛先。それが遠い過去に既に役目を終えていた代物だと理解してしまった。

 顔につけていた『お父さん』を手に取る。冷たく固まったソレはもう人体の感触はなく、無機質な物体でしかない。パキパキと音を立てて崩れ……塵も残さず消えた。

 

「黒霧」

「……はい」

「『先生』に聞きたい事が沢山ある。しばらくは様子を見るぞ」

「わかりました」

 

 魔王は何もかもを甘く見過ぎた。蝶の羽ばたきが遥か彼方での竜巻を生み出すように、己の手のひらが常に磐石であるとは限らない。

 

 【崩壊】の矛先が向けられる可能性を少しも考慮しない愚かさが、いつか魔王の足を掬う日も近い。

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