「間飛くん何してるんだろう……?」
合宿初日から訓練の時間になると、間飛くんは目隠しをした後はひたすらに相澤先生から攻撃されていた。あれが彼の何を強化する事に繋がるのかまったく分からない。
だから夕飯の時なんかに時間があれば話を聞いて見たかったんだけど……B組の女子の人や障子くんと話をしてて割り込むにはちょっと躊躇う。
というか間飛くん本当に器用だね……?余所見しながら凄い速度で野菜の皮むきしてる。えっしかも包丁でしてる?ピーラーじゃなくて?
「……どうした?緑谷」
「あ……轟くん」
「間飛の方をじっと見てたが、何かあったのか?」
「別に何も無かったけど、間飛くんは個性の何を伸ばそうとしてるのかなって」
「腹立つよな!一人だけ女子と仲良くしてやがって……!!」
ごめん峰田くん。今はちょっと黙ってて。
轟くんも気になってはいたようで確かに、と短く返事をしてくれるけどその目はじっと間飛くんを観察している。
女子の人が離れるとまたアイマスクを降ろして目を使わずに動き出す。相変わらず見えて無いはずなのに皮むきの速度は衰えていない……けど、野菜の皮残ってるからやめて欲しいかな。あ、その為に障子くんが横にいるのか。なるほど。
「……間飛がどうかしたか?」
「え……し、心操くん!?何でここに?」
「ああそっちには話がいってないのか。体育祭のリザルトが良かったお陰で編入が決まってな……早いうちからの編入を許されたんだ」
「……体育祭で俺も負けたからな。次は負けねえ」
「出来れば勘弁して欲しいかな……」
す、凄い……!この三ヶ月で普通科からの編入を許されるって、相当努力したんだね。僕も負けてられない!
「で、間飛のアレが気になってるんだろ?」
「うん。ずっと目隠ししてるから気になっちゃって」
「間飛に聞いたんだけど空間把握?の方向に伸ばすんだとか……」
「空間把握……そうか!目視しなくてもワープ出来るって言ってたからレーダー機能みたいのが備わってるのか。じゃあ視界を閉ざしてるのは周囲を五感以外で察知しようとしてる?【瞬間移動】と【フィジカルギフト】に索敵能力……何て強力な組み合わせなんだ」
「緑谷。心操が困ってる」
「……お前そんな感じなんだな」
しまった。いつもの癖が。ごめんね心操くん。
間飛くんが何を伸ばそうとしてるのかはわかったけど……あれだけで伸びるものなんだろうか?感覚強化の類がどんなものなのか知らないから憶測でしかないけど、目を使わなければ伸びるというものでも無いんじゃないだろうか。
「轟ー!こっちも火ィちょーだい!」
「ん、分かった。今行く」
「あ、僕も行くよ。ありがとう心操くん」
「ああ」
お腹も空いてるし早くご飯食べたいからね。頑張ってカレーを……?洸汰くん、どこに行くんだろう?
◇
宿泊施設から少し離れた小さな洞穴。切り立った崖の上にフェンスも無い場所で一人、出水洸汰は膝を抱えてお腹を空かせていた。ぐぅ、と遮るもののない夜空に微かに響く腹の虫に目を向けるけれど、食べるものなんて持ってきていない。
どうしようかな、と思っていると自分のものでは無い足音に気づいた。
「お腹空いたよね?これ食べなよ」
「……ッ!?テメェ!何故ここが……!」
「あ、ごめん。足跡を追って……ご飯食べないのかな……と」
そこにいたのはもじゃもじゃのワカメヘアーの少年、緑谷出久。その手には皆で作ったカレーを持っており、この開けた場所でも逃げ場がないくらいにいい匂いを漂わせている。
思わず視線がカレーに向いてしまうけれど、その目は鋭く拒絶の意思が見える。友好的な雰囲気は微塵もない。
「……いいよ、いらねえ。言ったろ?つるむ気などねえ。俺のひみつきちから出てけ」
「ひみつきちか……!」
お腹は空いているけど、だからといって仲良くしてやるつもりは無い。ハッキリと拒否を示して出ていくように強く言い放つ。
それに対して緑谷は拒否に困るとかショックを受けるでもなく『ひみつきち』という単語に強く惹かれていた。仕方あるまい、男は心の中にいつも男子小学生のセンスを飼っている。いくつになってもそういったワードには男子小学生の心がソワッとしてしまうのだ。
何言ってるか聞いてないのかお前……的な視線を向けた後、そっぽを向いて洸汰は続ける。
「間飛兄ちゃんも……個性を伸ばすとか張り切っちゃってさ、気味悪い。そんなに
「(間飛……兄ちゃん?)君の両親さ……ひょっとして水の個性の『ウォーターホース』……?」
何やら聞き捨てならないワードもあったが。それよりも先にマンダレイから聞いた情報*1から推察される殉職したヒーローの名を、確かめるように出した。
反応は直ぐに帰ってきた。バッと振り返りながら「マンダレイか!」とお喋りな保護者の名前を出す。間違ってはいないが特定に辿り着いたのは緑谷のヒーローオタクによるものだ。
調べていくうちに顔をしかめるくらいには悲しい事件で、それに対して世間の反応は『命懸けで戦った勇気あるヒーロー』なんて持て囃しをされていたのを覚えている。
それを言葉にすれば「残念な事件だったね」としか口にできない。
「……うるせえよ」
「頭イカレてるよみんな……」
「バカみたいにヒーローとかヴィランとか言っちゃって……殺し、合って」
「個性とか言っちゃって……ひけらかしてるからそう、なるんだバーカ」
それを個性による超人社会の被害者の前で口に出すのは憚られる。ありふれた悲劇であっても悲劇ならば泣く者がいるのだ、辛いのはお前だけじゃないという言葉が何の慰めになろうか。
「……僕、の友達さ、親から個性が引き継がれなくてね」
「…………は?」
だから、語れるのは自分が体験してきた悲劇だけ。ありふれているのかは分からないけれど、中身のある想像じゃない辛さ。
【無個性】は先天的なもので稀にあるらしく、彼のように両親が個性を持っていても産まれてくる可能性があった。
残酷なことに緑谷の夢はヒーローになる事で……ヒーローになるには決して手に入らない
年齢一桁の子供がそれを受け止められるほど強い心を持っている訳もなく、その事実を受け入れられずボロボロと涙を零しながら必死に両親の個性を使えないかと練習していた。
手を伸ばして物を引き寄せようと悶え、何も起こらず。咳き込んでも苦しくても火を噴きたいと懸命に唇を尖らせてフーフーと息を吐くだけで。
「……個性に対して色んな考えがあって、一概には言えないけど」
「そこまで否定しちゃうと、君が辛くなるだけだよ」
それ以上の会話は叶わず、緑谷はカレーを置いてひみつきちを去った。
◇
「疼く……疼くぞ……!早く行こうぜ!」
「……まだ尚早。それに、派手なことはしなくていいって言ってなかった?」
「ああ……急に出てきてボス面しやがってな。まだ幾分かアッチの方がマシだ」
風にざわめく森の奥。宿泊施設から離れた場所で、途方もない悪意が集まりつつあった。
頭部全体を覆い隠すガスマスク、無数のチューブがついたマスクと腰に取り付けたタンク。全身を包むローブの巨体、焼けただれた肌の青年。正に異様な集団と呼ぶに相応しい。
「今回はあくまで狼煙だ」
「虚に塗れた英雄達が地に堕ちる……その輝かしい未来の為のな」
楽しみ、といった声音で荼毘は嘲笑う。彼の目は何を見ているのか。
「……ていうか、これ嫌。可愛くないです」
「裏のデザイナー・開発者が作ったんでしょ。見た目はともかく、設計や機能は理に叶ってるはずだよ」
「そんなのはどうでもいいです。可愛くないのが嫌なんです」
「ああ……!もう我慢できねえ!もうやっていいだろ!?」
「肉……断面……」
(……何で俺がコイツらの手綱握らなきゃならねえんだ?)
……とりあえず、仲間達の面倒から見ようか。
──Q.リーダーは誰にしますか?
トガ「荼毘君で」
荼毘「えっ」
巨体「コイツでいいだろ」
ガスマスク「右に同じ」
荼毘「えっえっ」
──じゃあ、リーダーよろしく
荼毘「」