強化合宿:三日目。
今日も今日とて個性伸ばし。相澤が『死ぬほどキツい』と評するだけのことはあり、補習組の四名の動きが悪くなり始めてきた。
それもそのはず、補習組は他の生徒よりも四時間も遅く就寝が許されている。本来ならば九時間眠れる所を半分以下しか眠れていないのだから、他と比較しても疲労の蓄積が目に見えて分かる。
しかし現在。皆の心配は彼らには向いておらず補習組ではない一人に向けられていた。
「「「間飛ィィィ!!?」」」
「……何があった」
「わ、分かんねェッすよ!?オイラ倒れる瞬間見てたけど本当にいきなりフラッと倒れてて……!」
「間飛さん!大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
開始早々から目隠しを装着し、相澤の攻撃が始まる前に少し歩き回っていいかと言うので好きにさせていた。すると少し離れた位置で相澤が目を離していた時、不意に間飛が糸の切れた操り人形の如くぶっ倒れた。
明らかにマズイ倒れ方をした間飛に現場はパニック。慌てて間飛を起こしてみれば嘔吐している上に目と鼻から血を流していた。
もしやヴィランの襲撃かと相澤が警戒を強めた瞬間、間飛が小さな声で話し始めた。
「ち……ちが……」
「落ち着け。血が出てるがそう多くは無い」
「違うんです……」
「……何?」
「範囲広げ過ぎました……!!」
「………………は?」
間飛曰く、この強化合宿の前から独自で個性伸ばしに着手していたらしい。体育祭の【フィジカルギフト】の成長を感じて【瞬間移動】も何かしらの強化が望めるのではないか、と。
職場体験先の候補としてミルコを挙げていたのも、その戦闘力やヒーロー活動もだが動物系の個性によく耳にする『第六感』のヒントを得られないかと思っていたからだ。
その結果徐々に空間把握能力が鍛えられており、今まで薄らぼんやりとしていた認識はより確かな物へと変わった。同時に処理する情報量も増えた。
すると常日頃から個性伸ばしを行っていた間飛の頭は二十四時間フルスロットル。皆に心配をかけていた期末テスト前の不調の原因はそう、処理する情報量が増えたことによる脳のオーバーヒートだった。
……もうお分かりだろう。彼の言う範囲を広げ過ぎたとは探知能力の射程を急激に伸ばし過ぎた、ということなのだ。
「……つまり、なんだ。今のお前は文字通り頭が破裂しそうだと?」
「だいたいそんな感じっス……!」
「今で何mまで広げた」
「えっ……と、こっから宿泊施設全部入るくらいは……ァッ」
宿泊施設……全部?間飛の返答に思わず相澤は振り返る。ここは施設の安全の為にそれなりに距離を取った場所、ここから施設までがそもそも300mはあるのではないか。
(探知範囲も急激に伸びているのか……?)
「はあっ、少し落ち着いたァ……!」
「……間飛。今のお前のワープ距離の限界は何メートルだ」
「へ?」
探知範囲と移動可能距離は別物と分かっていても、相澤は尋ねずにはいられない。間飛は少し考える素振りをした後、パッ、と消えた。
「一度でいけるのはここまででーす!」
「そこから動くな。距離を測る」
「え!?なんです!?」
「……距離を測るからそこから動くな!!」
「はーい!」
間飛が【瞬間移動】を使った。それを理解した相澤は間飛にその場待機を指示すると、歩数を数えて歩幅をなるべく統一して間飛の方へと歩いていく。
一応は自分の訓練に戻った生徒たちも固唾を飲んで見守り、未だに八百万や緑谷は間飛の体調を心配している。
そして相澤が間飛の元に到着した。
一歩を50cmに固定して歩いた歩数は800歩。メートルに直せば400mだ。
「……伸びてるな」
「マジすか」
「ああ。それはそれとして顔洗ってこい。汚いぞ」
この短期間で30%以上の射程延長。明らかに異常な成長曲線だ。才能と一蹴するには少々難がある現実に頭を抱えたくなるけれど、グッと堪えてひとまずはゾンビかと言いたくなる顔面を処理させることにした。
◇
「うええ……口ん中気持ち悪ッ……」
ペッペッ。胃の中から出てきたから当たり前だけどゲロった後の口ん中最悪だな。なんと言うかずっと変な味?風味?的なものが残ってやがる。何回やっても慣れねえ。
それにしてもようやく原因が分かったのはいいんだが、これどう対処すりゃいいんだ。範囲を広げるとこっちが使い物にならなくなるし、かといってこんな有用な物を自重したくはない。
今試しにちょっと前までの限界だった距離まで探知能力を広げると……うえやっぱ気持ち悪くなるわ。無理無理無理。
「あー、なんだろうコレ。ちょっと楽しい」
でも諦めたくない。俺が
雄英入ってから昔の俺を話したのはラグドールくらいか。個性を【サーチ】で見てもらう都合上、その辺のことは隠さない方がいいと思って話したんだっけ。
子供ってのは馬鹿で純粋で、時々大人よりもずっと残酷だ。
『俺の個性な!【火を吹ける個性】なんだぜ!』
『ふん!俺なんか【手で触らなくても物を動かせる個性】だぞ!』
『私の【指先から弾を飛ばす個性】だって負けてないもん』
細かな技術とか堅牢な防御なんて二の次。テレビの向こうのヒーローみたいにカッコよく必殺技が使える個性が一番凄いって思ってる。
だから大抵の奴はオールマイトとかエンデヴァーが好きで、エッジショットとかベストジーニストなんて気にも留めない。
じゃあ俺の【瞬間移動】はどっちだろうってなると、そりゃオールマイトやエンデヴァーには程遠い代物だよ。派手なんてものとは無縁の個性、走っても出来ることを走らなくても出来るだけ。皆の評価はそんなものだった。
『うつるの個性が一番弱い!』
『えー、そうかな?』
『だって必殺技ないじゃん!』
……まあイジメ、とまでは行かなかったけどさ。事ある毎にこうやって俺の名前を出されりゃ気分が悪い。何より幼さは無邪気に無自覚に上下を作り出すから。
こんな扱いは小学校に入っても中々終わってくれなくて。五年生になったあたりでようやくそんな雰囲気はなくなった。
約八年。今現在十五歳の俺の八年間。格付けの下層に居続けてりゃ少しくらい卑屈にもなるわな。客観的に見れば俺はこのクラスでも最上位なんだろうけど、他ならない俺自身が『いやそんなわけない』って否定しやがる。
「……子供時代って面倒くせえな。たかが八年がここまで染み付いて回るとは」
父ちゃんから【フィジカルギフト】の存在を聞かされた時、俺は滅茶苦茶喜んだよ。もうすぐ中学生になるからってちょっと真剣な雰囲気で切り出されて、想像以上に俺が喜ぶもんだからちょっと引いてた父ちゃんの顔も覚えてる。
当時の俺は『俺にも必殺技が手に入る!』程度にしか思ってなかったからなあ……。一年で寄越せって言ったのも早く欲しかったから以外の何物でもないし。
まあ死にかけたけども。二年かける所を無理して一年でやってりゃそうもなる。あの時の俺は本当に馬鹿だったとしか。
『個性を鍛えるなんて……バカのやることだろ。そんなに力を見せびらかしたいのかよ』
『……分かる。俺もバカだと思うわ』
『え?』
『カッコイイかどうかで立場が決まる事もあるからなあ……中には洸汰みたいに思う奴もいるわな』
『…………じゃあ、なんで鍛えようとすんだよ』
どう返したっけな俺。何か一人ポツンといたから声掛けたんだけど、思ってた数倍は警戒心があったからビビったわ。
子供の頃からそういう価値観に気づける洸汰は賢い奴だよ。俺はそれに気づくのに時間がかかり過ぎた。気づいた時にはもう引き返せなくなっちまったし。
「個性って……面倒だな」
それ以外の定規が欲しいもんだよ。いい加減。
ブラキン「……そのピコピコハンマーはなんなんだ?」
相澤「間飛用だ」
ブラキン「は?」
相澤「ハリセン以外の武器でもいけるか試してる。他にもビニ傘と魔法少女ステッキと……」
ブラキン「そ、そうか……」