かつてとある作家はこう言った。
──青春?若いヤツらにはもったいないね。
歳を重ねれば重ねるほど、若い頃の時間がどれだけ貴重な物なのかを理解する。その重みを知った時には若者とは呼ばれなくなり、若者から『最近の年寄りは……』なんて扱いを受ける年齢にいる。
そんな貴重な時間を刹那的に生きて無駄にする若者達への皮肉、或いは警告としてその作家は言ったのかもしれない。
如何にエリート校であろうとも若者であれば青春をエンジョイする権利は誰にでもあるわけで。たとえ日中の訓練がどれだけ辛く苦しかろうとも、青い春を楽しめるのならばどんなイベントであれ楽しむつもりでいた。
「大変心苦しいが補習連中は……これから俺と補習授業だ」
「ウソだろ!!?」
……残念なことにそれも学業に支障が出ていなければ、の話だったが。
元を辿ると訓練ばかりでは息苦しかろうとピクシーボブが考案していたイベントとして、クラス対抗の肝試しをしようという話だった。
しっかり訓練した後はしっかり遊ぶ……これぞアメとムチなのだと。
補習連中、特に芦戸はそれを聞いて元気がモリモリ湧いてきた。ヴィラン云々で安全がどうこうは理解しているつもりだけれども、そこは花の女子高生、いついかなる時も遊びたいという気持ちは忘れない。
日も暮れて月が顔を出した頃になって、まさかの『やっぱダメ』発言はあまりにもあんまりじゃないか。
残念無念、また来年。相澤の捕縛布から抜け出すことも叶わず、補習連中四名はズルズルと引き摺られて行った。
「じゃあルール説明ね!」
先攻はB組。A組は二人一組で三分おきに出発。ルートの真ん中に名前を書いた御札を置いてあるのでそれを回収して戻ってくる。
脅かす側は直接接触は禁止。己の個性を上手く活用、組み合わせて脅かしネタを作らなければならない。
創意工夫でより多くの人数を怖がらせたクラスが勝者だ。
「二人一組……あれ、21ひく4だから一人余るんじゃ……」
「あー、それなんだけどさ」
「間飛くん?」
「俺パス。運営側に回るわ」
「え?」
組み分けを行う前に間飛が手を挙げた。肝試しの運営に回りたいとの事だ。
その理由は個性伸ばしの成果……探知能力の強化。どれだけ抑えても何処に誰かしらが潜んでいるのかは分かってしまうらしく、どんな仕掛けでも脅かすことができない肝試し程面白くないものはないだろう、と。
なのでラグドールと共に中間地点で御札の管理に務めるとの事。
「代わりに脅かす側に回った時は頑張るから許してくれ」
「……【瞬間移動】の全力脅かしってヤバそうだな」
「なあに、精々ショックで心臓が止まる程度に抑えるさ」
「程度で済ませちゃダメなヤツだよな!?」
不穏すぎる言葉を残してラグドールと共に間飛は森の中へと入っていった。二人に続いてB組もゾロゾロと森の中に向かう。
常闇・障子と爆豪・轟。耳郎・葉隠に八百万・青山……そして次は麗日と梅雨ちゃんのペアの番だ。
「うう……怖いよ梅雨ちゃん。めっちゃ悲鳴上がっとる……」
「響香ちゃんと透ちゃんね。手を繋ぐといいわ。大丈夫よ、私平気なの」
ヒーロー志望でも怖いものは怖い。ビクビクと忙しなく視線を動かしながら、人の手を握るにはやや強い握力で梅雨ちゃんの手を取る。
普段から冷静沈着で頼もしい同級生がこんなところでも頼もしい。この組み合わせになったことに麗日は心の中で盛大に梅雨ちゃんを崇め奉っていた。
くん、と二人の鼻が同時に妙な臭いを嗅ぎつけた。A組は慣れ親しんでいるだろう、焦げ臭い空気。さては何かの拍子に爆豪あたりが何かをやらかしたのかと思案する。
まあ奥にはラグドールもいるはずだし、と恐らく問題ないだろうと二人は足を進めた。
◇
遠くの空を見ていると、話になかった黒煙が上がっている事に気づいた。そのような仕掛けをラグドールが持っているとは聞いていないが、何かあったのか。
よく見れば森の奥から薄らと淀んだ霧が流れているのが確認できる。まさか山火事か、とピクシーボブがマンダレイに【テレパス】の使用を求めた瞬間。
「飼い猫ちゃんは邪魔ね♡」
「な───」
ゴドンッ!!と鈍い音が響き渡る。屈強な身体の男(?)が手に持った、人の背丈ほどある棒状の物がピクシーボブの側頭部を思い切り殴りつけた。
「何で……!万全を期したはずじゃ!?」
「な、何でここに───
ヴィランがいるんだよォ!?」
マンダレイが【テレパス】を発動。生徒と教師達全員にヴィランの襲来と指示、会敵した場合の対処を通達する。
「チャオ……雄英高校の皆さん?」
「私達はヴィラン連合……開闢行動隊」
「この子、プロヒーローよねえ……」
「この子、頭潰しちゃおうかしら?」
「ねえ、どうしちゃおうかしら?」
(((絵面が濃い!!)))
瓜二つのオカマ達は息ぴったりに交互に話す。片方は棒状の武器を持っているが、片方は簡素な刃物を幾つか持っている。意識を失っているピクシーボブの命を容易く奪うくらいは出来るだろう。
そんな事はどうでも良い。
ゆらり、と虎が一歩前に出る。その目は怒りに燃えており、射殺さんばかりに二人のオカマを睨みつけている。
ピクシーボブは素敵な男性との出会いを望み、スキンケアやダイエットなどの美容にも力を入れて頑張っていた。それを虎は仲間として近くで見て来た。
今、オカマ達の足元で。努力する乙女の心を嘲笑うように血を流させ、あまつさえ頭を砕こうとしている。
「女の顔をキズモノにして……!ヘラヘラ語るな!」
「あらヤダ怖いわねえ……」
「私達だって心は乙女なのよ?」
虎とマンダレイ、オカマ二人が構える。ヴィランとヒーローがぶつかれば戦闘は必須。山岳救助をメインとしながらも戦闘力に後れを取るつもりは微塵もない。
一方生徒達。想定外のヴィラン襲撃にパニック寸前の状況だ。
しかし撤退の指示は出されている。ジリジリと焦燥感に駆られながらも必死に頭を回す。
(待てよ……!?洸汰くんは大丈夫なのか!?)
(B組や先に行った皆は大丈夫だろうか……!)
撤退しなければ、と思いつつも頭に過ぎるのは小さな子供。そして学友達。緑谷と飯田はヴィランの襲撃に動揺しながら他人の身を案じる。
そして緑谷が先に一歩踏み出した。
「マンダレイ!」
「ッ!?」
「僕!知ってます!」
その一言で意思は伝わった。
緑谷は撤退する同級生から一人抜け出し、少年の元へと向かった。
『ラグドール!?聞こえてる!?ヴィランが襲撃して来た!生徒達を連れて逃げて!』
「ハッ……ハッ……!皆、こっち!」
マンダレイによる一方通行の思念伝達。近くにいた数名の生徒、小大と骨抜、麗日に梅雨ちゃんの四名を連れて合宿所を目指して走っていた。
有毒と思われるガスが漂っていたものの、幸いまだ広がりが弱かった。まともに吸ってしまった骨抜を担ぎ、自分で走れる三人には走ってもらっている。
ラグドールと共にいたはずの間飛の姿は無い。
「ラグドール!間飛くんは……!?」
「ッ……!」
「ラグドール!?」
「間飛、君は……!」
「やあ……初めまして、だね?九代目」
「大物気取りか?恥かくだけだからやめときな」
──魔王が、現れた。
芦戸「わァ……ァ……」
切島「泣いちゃった!!?」
相澤「知るか」
芦戸「HEEEEYYYY!?あァァァんまりだァァァ!!」
(((泣き方の癖つっよ)))