ほぼほぼ原作で草ァ!!
ギャグ成分足りなくて草ァ!!
なので番外編⑤も更新しました。二話分更新なのでお見逃し無く。
それではギャグ成分不足気味の本編どうぞ。
「血ィ見せろやァ!!」
踏み込みだけで地面に亀裂を入れ、たった一歩で数メートルもの間合いを一息に食い潰す。束ねられた筋繊維はそのままマスキュラーの身体能力を強化している。
さして警戒もしていない子供相手故か、そもそも武術の心得など持ち合わせていないのか。構えも何も無い体の捻りとパワーに任せて力づくで緑谷に拳を叩き込む。
「っあ゙あ゙っ!!」
「はっ!やるじゃねえか!」
狙いが見え見えのテレフォンパンチ。格闘技の素人である緑谷でもどこからパンチを出してくるのかが分かる大振りなモーション。マスキュラーの拳を避けつつ横っ腹にカウンター気味に左の拳を打つ。
ドスン!と鈍い音を立てて突き刺さるものの、数歩下がらせるのがやっとのダメージだ。クリーンヒットとは言い難い。
「ああ……知ってたら教えてくれよ。爆豪ってガキはどこにいる?」
「……ッ!?それを知って、どうするつもりだ!」
「知るかよ。それよか答えは知らないでいいか?いいよな?」
ヴィラン連合の目的とやらにマスキュラーは興味は無い。ただ己の欲望のままに戦い、殺すことを楽しむだけだ。むしろ緑谷が貴重な情報源でないことを祈り、目の前の玩具で遊びたがるように笑う。
「ついでに教えてやるよ。俺の個性は【筋肉増強】!!皮下に収まらねえ程の筋繊維で速さも!力も底上げされるのさ!」
「ってことは、それは筋繊維か……!」
「そうだよ!分かるか?テメェは俺の完全劣等型なんだよ!!」
計画性など頭に無い。弱点を探るなら探れとでも言いたげに己の力をひけらかす。典型的な実力誇示型のヴィランに見られる自画自賛、そして他人を見下し己の力を至上とする考え。
何よりも恐ろしいのは、奴はその上で多くのヒーローを捩じ伏せて来たという事実。油断も傲慢も抱えたままで今も娑婆を歩いていられる程の実力だ。
「完全劣等型……!?そんなの、やってみなくちゃ分からないだろ!!」
「はっはははァ……!お前、最ッ高だな緑谷ァ!そうだな!やってみなくちゃ分かんねえ……なら、やってみろやああああ!!」
そんなマスキュラーは自分に立ち向かってくるヒーローを殺すのが楽しくて仕方がない。そこに老若男女の区別はなく、向かってくる者が何者であれ容赦はしない。
腕だけに纏わせていた筋繊維が上半身を包み込む。最早グロテスクにさえ見える姿はより一層の恐怖を掻き立て、増やされた筋繊維の数が目に見えてマスキュラーのパワーを想像させる。
屈強な体格からの強引な拳骨。やはり緑谷に届くことはなくとも、叩きつけた地面を盛大に砕き石片を巻き上げる。この地面ですら小さなクレーターを生み出すのだから人体がソレを受けた時など想像するまでもない。
右に大きく横っ飛びして回避した緑谷は、岩肌を蹴ってマスキュラーへと突貫する。フェイントも何も無い馬鹿正直な突撃。
「いい動きだが……間に合っちまうぜ!?」
「ッッッ!!」
虚を突いたつもりか。拳骨の後隙でも狙ったようだが、マスキュラーの増強された筋肉は硬直を殺す。地面から拳を引き抜いてもう片方の拳を構えて迎撃を選択した。
「は?」
「ここ、だァッ!!」
「──!?」
しかし、緑谷は攻撃に移らない。つけた勢いを殺すことなくマスキュラーの股下を滑りぬけると、背後に回ってすぐさま跳躍。ほんの一瞬マスキュラーの視界から消え失せ、ガードも回避も間に合わせない。
予想外の挙動はマスキュラーから思考力を奪い、面白いように緑谷のパンチが後頭部にクリーンヒットした。
「ッア……!痛ってえな……オイ!!」
「うっ!?」
舐めていたとはいえ遥か格下からの一撃。楽しく好きなように殺しを出来ると思っていたのに、と苛立ち紛れに力任せの裏拳。爆ぜるような音を立てて振り抜かれるも、紙一重のレベルで何とか避ける。
地面にベチャリと落ちてすぐ、追撃が来る前に緑谷の手がマスキュラーの足を払った。【筋肉増強】が無い足元は未熟な【フルカウル】でも容易く払い除けられた。
「うおっ……」
「S……MAAASH!!」
「は───ごえ゙ッ!?」
ガクン、と落ちてきた顎に強烈なアッパーが炸裂。筋繊維による守りが無く、緑谷に確かな手応えを返した。
超パワーで殴りつけられたマスキュラーの肉体はふわりと宙を舞い、ドスン!!と重量感のある音を立てて地面へと落ちた。
(やっぱり……!あの筋繊維のせいで死角が増えてる!それに筋肉が肥大化したから、可動域が狭くなってるのか!)
大丈夫、と太鼓判を押されていたはずの合宿にヴィランの襲撃。目の前にいるのは人殺しの経験のある凶悪なヴィラン。それでも緑谷は冷静でいられた。
理由は──間飛の存在。
間飛移という自分の上位互換が常にそばに居た。もし彼が存在していなければマスキュラーという己の上位互換に怯え、冷静さを失ってしまっていただろう。
自分より強い人なんていくらでもいるという卑屈とも言える思考が、自分よりパワーに秀でたマスキュラーへの怯えを取り払っていた。
精神が安定すれば頭が働く。頭が働くのならば緑谷の強み、分析力が仕事をする。生死をかけた戦いの中で冷静に頭を回せるのなら、今の緑谷にとってマスキュラーは越えられない壁ではないのだ。
「クッソ……最近のガキってのはよく出来てんな。俺を相手によく戦えた方だ」
「……まるで、もう終わるみたいな言い方じゃないか」
「ああ、終わるとも。こっからは本気で行く」
ガシガシと乱暴に己の後頭部を掻きむしり、口をへの字に曲げてつまらなそうに零した。強がりで出た言葉も何ら意に介さずポケットをまさぐり始める。
ボロボロ落とされるのは様々な種類の義眼。目窪の中に入れるのではなく外側に取り付けるモノクルのようなソレらの中から、どす黒く巨大な瞳孔の描かれた不気味なお気に入りを取り出す。
「ウォーターホース……パパも、ママも……!そんな気持ちで殺したのか……!」
「ッ───……!!」
「ああ……?マジかよ。アイツらの子供ォ?運命的じゃねえか」
昂る殺意に水を差され、面倒くさそうにマスキュラーは答える。
自分はやりたいように……殺したいから殺そうとしていた。ウォーターホースはそれを止めたかった。そこに義務も責務も無く、ただ己のやりたいようにやった結果ウォーターホース達が死んだ。マスキュラーにとって彼らの認識などその程度だ。
「誰が悪いかって?ンなもん出来もしねえ事をやりたがってたテメェのパパとママさ!力もねえ奴が!俺の前に立ち塞がった!それだけだろう!?」
「悪いのは……お前だろ!!」
「はっ、どうせ意見は平行線だろ?口論は無意味だ」
自己陶酔。ウォーターホースの正義も活躍も、洸汰の涙も緑谷の反論をも嘲笑う。彼の中にあるのは強烈な弱肉強食の価値観だけ。強い奴が弱い奴を好きにしていいのだと、強者側に立って笑うのだ。
緑谷は考えを巡らせる。今の自分の手札、取れる選択肢。自分の状況に優先順位……そして、原点。
子供の洸汰から見ても分かる圧倒的な格差。あれだけ叩き込んで尚揺らがないマスキュラーを前にして、それでも緑谷は立ち上がる。
ぶつかったら全力で施設へ走れ、決して振り向くな。緑谷はそれだけを告げると覚悟を決めた。
「大丈夫……ッ!!」
【ワン・フォー・オール】100%!!
反動をも辞さない許容範囲を大幅に超えた出力。先程までとは比にならないエネルギーの奔流。激しいスパークが緑谷の腕で弾ける。
デトロイト・スマッシュ!!
「ッてええなあ!?どうしたァ!!!さっきより弱えぞ!!!」
膨大なエネルギーと多量の筋繊維による衝突。何層にも張り合わされた筋繊維の表層が幾つか引きちぎれたものの、マスキュラーには届いていない。それどころかスマッシュを受け止めた上で押し返してくる。
「大っ……丈夫!!」
「こっから後ろには絶対行かせない!!」
「からっ……走れ!!」
「走れ!!!」
最早腕だけに留まらず、全身で拳を受け止める。最初に限界を迎えたのは大地。両者の足を起点に稲妻の如く亀裂が迸る。
血も涙も吹き出して、言語化できない激痛が襲う。だが、背後には洸汰がいる。ならば諦めるなんて選択肢はどこにも無い。
「ンのガキが……最っ高じゃねえか!!!」
「ゔゔっる、せえええ゙え゙え゙!!!!」
拮抗が崩れる。マスキュラーの悪意が緑谷の決意を押し退け、緑谷の背を地面へと押し付けた。勢いのままに大量の筋繊維が少年を挽肉へと変えようとして───
SPLASH!!
「あ!?水!?」
「や……やめろオォォ!!!」
また誰かが殺される。また誰かを失う事への恐怖が洸汰を突き動かした。必死の思いで放たれた水にマスキュラーは思わずそちらに目をやる。
「後でな!な!?後で殺してやっから待っ───!!?」
気を取られた一瞬。押し付けていたはずの筋繊維からブチブチと嫌な音が聞こえる。幾層にも重ねられていた鎧であり矛だったものが、剥がされていく。
「や、らせるか、よおおおおおっ!!!」
「マ……ジかっ!?
パワーに抗っていた右腕、そして添えられていただけだった左腕が筋繊維を引きちぎる。両腕に込められた100%の【ワン・フォー・オール】が天秤を揺らす。
マスキュラーに傾いていたパワーバランスが急速に覆されていく。とうとう緑谷の左手がマスキュラーの鎧を完全にちぎり取った。
「デラウェアァァッ!!」
無防備となった腹部に向けての指による衝撃波。たった一本の指から放たれた一撃でマスキュラーの動きを阻害する。
「み、どりやあああああッ!!」
「デトロイトォ……!!スマアアアアアッシュ!!!」
血に狂った悪意が、名も無き決意に穿たれた。
鎧も矛をも砕かれ、二発の100%の前にマスキュラーは倒れた。
「はぁ……はぁ……ッ!何も、知らない癖に……!」
「……うん、僕は何も知らない。君の悲しみにこれっぽっちも関わっちゃいない」
「なんで……なんでそこまで……!?」
「僕は、ヒーローになりたいから……ッ、皆を救けるヒーローに、なりたいんだ」
満身創痍。血を流して傷を作って、骨が折れて涙が零れても。誰かを助けたいという思いは変わらない。偽善と罵られようが無意味だと嘲笑う者がいようが、憧れてしまったのだから。
そして今、憧れもまた受け継がれる。
いつの日かマンダレイが言っていた。パパもママも自分を遺して逝ってしまった。どうして、何故が頭を埋め尽くす洸汰を励まそうと。
いつ現れるのかも分からない自分にとってのヒーロー……そんなものが何になるのかと。
魅せられた。どうしようもなくカッコよくて、優しくて……救われた。
(僕の──……僕の、ヒーロー……!!)
認めたくない、受け入れたくない。
ああなりたい。そう、思ってしまった。
「あ゙り゙がどゔ……ッ!!」
「わ、わあ!?泣かないで!ええっと……まだやらなきゃ行けないことが……!」
この日、緑谷は“誰かのヒーロー”になった。
〜舞台裏〜
マスキュラー「これ(義眼)高いんだぜ?」
緑谷「……そうなの?」
マスキュラー「もう一種の趣味だな。ちなみこれは……くらいか?」
緑谷「高っっっか!?」
洸汰「そんなものをボロボロ落としてたのか」
マスキュラー「まあ、使うの俺だし」