「あーんもう近い!アイテム拾わせて!」
「させぬわ!」
「んもう……ガツガツもいいけれど度が過ぎると嫌われちゃうわよ?」
猫の手を模した爪付きのグローブによるラッシュ。【キャットコンバット】と名付けられた虎の体術を話す余裕を持ってマグネは対応する。
手にしていた棒状の武器を奪うことは叶ったものの、武器を失って尚その実力は互角。
もう一人のマグネもまた同じ。マンダレイの速度についてくる上、こちらはヌルりと滑り込むように踏み込んでくる。
「しつこっ……!」
「ごめんなさいね?アタシ執着心強めなのよ」
二本のナイフを逆手に持ち、息をするように致命傷を狙ってくる。このまま続ければジリ貧になるのはマンダレイだろう。
膠着状態に近く、少しずつ押され始めている現状に焦りが生まれ始める。
ラグドールの安否も分からない今、二人のオカマに手間取る訳には行かないのに。それを分かっているのかオカマ達は硬い立ち回りで付け入る隙を与えない。
『ごめん!連絡が遅れた!』
「ッ!?ラグドール!無事だったの!?」
「ウッソォ!?あの人しくじったの!?」
そのとき、マンダレイと虎の耳に通信機から音声が届いた。声の主はラグドール、安否不明の大切な仲間だ。
マンダレイの返事を聞いたマグネがギョッと目を剥いて信じられないという風に声を上げる。あの人、とやらを知らないけれどラグドールが狙われていたらしいという事がわかる。
マグネに聞かれることを承知の上でマンダレイは通信を続ける。
「何があったの!?生徒達は……」
『ヤバいのがいる!間飛君が危にゃい!!』
「間飛君が……!?」
「あら、いつぞやの体育祭の子じゃないのッ!」
「しまっ──」
生徒達の中でも飛び抜けて実力の高い間飛が危ないと聞いて、思わず動揺してしまう。自分達よりもずっと強いであろう彼が?何故?
マグネはその一瞬を見逃さず、ニヤリと笑みを深めて一際強く踏み込んだ。
「さ……せないっ!!」
「ふぎゃっ!?」
「……!?君、緑谷君!」
ナイフがマンダレイに向けて振り抜かれる寸前。全身にスパークを纏った緑谷が飛び込んできた。完全に不意をついたドロップキックをモロに受け、ゴロゴロと地面を転がる。
するとどういうわけか、マグネの身体がグニャリと歪んだ。まるで水風船のように膨張し、パァン!と音を立てて破裂。そこにはマグネとは全く違う人物が転がっていた。
虎と同じくらいに高いはずの背丈は10cm程縮み、細身の長い金髪の男が姿を現した。
「あら……もう割られちゃったの?」
「ンもう!ホンっト最近の子って情熱的ね!アタシの【メイクラバー】が台無しじゃない」
「……!貴様【ジャックガム】か!」
「ご存知なのねえ……そう、アタシはジャックガム。生きにくい世の中を壊すオカマよ!」
緑谷の【フルカウル】が乗った蹴りを受けたはずなのに、バレたなら仕方ないかと自嘲しながら己の正体を明かす余裕。こちらもまたマスキュラー程でなくとも危険な存在。
ならば尚更素早い対応が必要だ。
「洸汰くん!無事です!」
「!ありがとう……!」
「それと……相澤先生からの伝言です!テレパスで伝えて!!」
『A組B組総員!戦闘を許可する!!』
生徒達の枷を解く。まずはそれからだ。
◇
『生徒の「かっちゃん」!!「かっちゃん」はなるべく戦闘を避けて!!』
『単独では動かないこと!!わかった!?「かっちゃん」!!』
「耐えなきゃ……仕事を……しなきゃあああああ」
一方、その
枝分かれしながら伸びてくる刃を凌ぎながら、二人は【テレパス】を聞いて眉をひそめた。
「不用意に突っ込むんじゃねえ。聞こえてたろ!お前、狙われてるってよ」
「あ゙あ゙!?……バカかテメェ。俺の
何を根拠に、と尋ねる前に爆豪が続ける。
現時点でヴィランから恨みを買いそう、或いは目障りだと思われそうなのは自分では無い。雄英体育祭から判断したとして、間飛や轟を含めていないのは明らかにおかしい。
ならば考えられるのはヴィラン連合……しつこく雄英を攻撃している者たちが何らかの考えがあって爆豪という人物を確保しようとしていると思われる。
つまり向こうの目的は殺害ではなく誘拐。希望的観測の可能性もあるが最も現実的に有りうる狙いはそれだ。
「それに……クッソどうでもいィんだよ!!」
近くの氷から伸びてきた刃を視線も向けずに砕く。制御された【爆破】が小さな破片を残してバラバラにしてしまう。
轟が展開している氷の壁の上を海老反りの拘束具に身を包む男が飛び出してくる。二人の敵は【ムーンフィッシュ】、脱獄中の死刑囚だ。
同級生達と比べても地形と個性の使い方に優れた狂人。森の中という【爆破】も炎も封じられているとはいえ、その二人に対して優位を保ち続けているというだけで実力が窺える。
(しかし……向こうのガス溜りはなんだったんだ?いつの間にか消えてやがる)
分からない事が多いこの状況。やる事も謎も多すぎる。
「……紅白野郎、足場寄越せ」
「……何をするつもりだ」
「良いから寄越せ。柱みてえなモンを大量にな」
現状を打破するには足踏みしている暇は無い。爆豪は静かに怒りを溜め込んだまま轟に氷の足場を要求する。
恐らくは森に引火するのを避けるために空中戦を行うつもりなのだろうが、相手が格上かつ危険なヴィランであることに変わりは無い。爆豪一人に向かわせるには危険すぎる。
しかし何か考えがあるのか、爆豪はいやに静かなまま月を背にする死刑囚を睨んでいる。飛来する変則的な刃に対しても同様で、片手間にバキバキと砕いている。
「……信じるからな」
これ以上の議論は不要だろうと、轟が氷結を発動。突如広がる冷気と建造された氷の柱にムーンフィッシュが反応する。
轟達に向けて刃を向けようとした瞬間、自分と同じ高さまで飛び上がってきた存在に気づいた。
「にににに肉ゥ……!」
「喧しいわ!」
脊髄反射なのか爆豪を見るやいなや口の中から刃を伸ばし、爆豪へと殺到させる。
しかし、轟が想像しているよりもずっと少ない数だ。
「テメェの身体支えるだけで散々口から出してるもんなァ!?後がつかえちまうだろ!!」
「っそうか……!アイツの刃が口から出てるなら、ほぼ口が塞がってる今なら!」
「……!!」
ムーンフィッシュが高度を取った理由。口から刃を出す【歯刃】という個性の性質上、上顎か下顎から出すことになる為上下への攻撃力が高い。正面への攻撃が不可能という訳では無いけれど、既に上顎から多数の刃を展開している今の彼は口をほぼ塞がれてしまっている。
何とか隙間から伸ばした複数の刃も個性限界からか弱々しく速度が半端なもの。爆豪の予想通り叩くなら今というわけだ。
両手の【爆破】を、氷結の柱を使って空を駆ける爆豪が徐々に距離を食いつぶしていく。拘束具の下でムーンフィッシュが静かに焦りながらも何とか刃を伸ばしては砕かれる。
「爆豪!轟!どちらか光を頼む!!!」
「死に晒──……!?」
「あ……?」
決着がつくかと思われた所に、障子の懸命な声が響く。何事かとムーンフィッシュも爆豪も目を向けようとして──……
『オオオオオオッ!!!』
「あ゙っ!?」
漆黒のモンスターの暴力が死刑囚の刃諸共ムーンフィッシュを踏み潰した。
遡ること数分前。
マンダレイへの伝達を済ませた緑谷は爆豪達を探しに森の中へと踏み入っていた。反動の傷跡が消えない身体に鞭打って駆ける彼を止めたのは真っ黒な爪。
「これは……!?」
「緑谷……その怪我でまだ動くとは。友を助けたい一心か?呆れた男だ……」
間一髪で明らかにヤバい一撃を避けた先にいたのは障子。複製された腕の先から血を流す彼の姿にギョッとさせられる。
聞けばヴィランの一人から攻撃を受けてしまい、それを見た常闇の個性である【
逃げようと思えば逃げられたはずの障子がここに留まっていた理由。それこそがこの暴走した【黒影】だ。
ここで爆豪を助けたい緑谷と常闇を助けたい障子が協力し、暴走する【黒影】を引き付けながら爆豪達の元へ向かっていた。
その結果───……。
『強請ルナ、三下ァァァッ!!!』
爆豪と轟を苦戦させていたムーンフィッシュを一撃。ただの腕の一振りで木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばした。
「っ……スゲェ……!」
『アアアア!!暴レ足リン──』
「そこまでだ」
『ヒャンッ!?』
感嘆を漏らす程のパワー。しかしこれ以上の暴走は危ないと判断し、爆豪と轟の手によってあっさり鎮圧。情けない悲鳴をあげて常闇の元へと戻った。
「テメェと俺の相性差が残念だぜ……」
「……?すまない、助かった……」
死ぬ物狂いでやっと得た一時的な平穏。緑谷達はホッと息を零した。
まさかの二人目のオリキャラはヴィラン側に。
ヴィランネーム:ジャックガム
個性:【メイクラバー】
風船ガムのような膜を使って他人に化ける事が出来る。自分より大きい者に変装は出来ても小さい者には変装出来ない。
ダメージを受け過ぎると膜に限界が訪れて破裂する。斬撃を受けると容易く破裂してしまうが、打撃には強い耐性を持つ。緑谷のフルカウルドロップキックを受けても気絶しないくらいには減衰してくれる。