感想欄で時々スピナーの存在について触れられる方がいらっしゃいました。そういえば明記した覚えもなかった、ということでこの場で断言させていただきます。
【悲報】本作スピナーは不在
不在というかステインにあてられなかったのでヴィランにならなかっただけですが、ひとまずヴィランとして伊口秀一が出てくることは無いと思っていてください。
それでは本編どうぞ。
「よう……久しぶりだな」
「……ああ、何日ぶりだろうな」
仮面の男の個性から開放された俺の目の前にいたのは死柄木弔……あの日の弱々しい背中を見送った男だった。
何の拘束も無ければ妨害もない。逃げようと思えばいつでも逃げられるのだが、俺の選択はあの日から変わらない。コイツからは目を逸らしてはならない気がする。
死柄木の周りには当然、合宿を襲撃した連中が揃い踏みでこちらを警戒している。火傷の男と仮面野郎は手を翳して睨みつけ、オカマ二人は少し離れた位置から舐めるように俺を観察している。
「なあ、やっぱり拘束した方がいいって!自由にさせてやろうぜ!?コイツ滅茶苦茶強いじゃん!?こんな雑魚俺でも勝てるぜ!」
「おい何かバグってる奴いるぞ」
「……そいつはそれがニュートラルなんだよ。スルーしてくれ」
んで全身タイツのバグってる男。自分の発言を秒で反対しながら話してやがる。えっ、これニュートラル?マジで?
観察はさておき、コイツらは最初爆豪を狙っていたというのは俺も知っている。爆豪の何を目的としていたのかまでは知らねえが、あの場で爆豪じゃなくて俺でもいいやとなるナニカとは。
いつでも逃げられるから、という手札がある今のうちに少しでも情報が欲しい。最初からそうだがヴィラン連合の目指す終着点がわからなさ過ぎる。
「……今のお前に人質以上の意味は無いよ。先生もそれなりにボコボコにされて休養中なんだ」
「先生……アイツか?」
「そうだ。だから先生が顔を出せる様になるまで……まあ、ゆっくりしていけ」
……いいだろう。だったらそれまでお前らからも何かしらの情報を得られるようにするだけだ。
「──で、俺もぶっ飛ばされてな?お互いストックは残り一個って場面で、ソイツ何したと思う?」
「ま、まさか……!」
「画面に現れる特殊ウインドウ……ノータイムで決定されたカーソル!答えは勿論──……!」
『メガ○テ』←*1
「ラストストック生存時間一秒!!決まり手、自爆!!」*2
「だははは!!それよくやるわ!!オジサンもやってる奴見たことある!!」*3
「ぶはっ!!マジで馬鹿じゃんソイツ!?いいや!天才さ!」*4
「……何でアイツ仲良くなってんだ?」
「そういう奴なんだ」
なんということでしょう。つい先日に命をも狙ってきたヴィランと馬鹿笑いをしながら会話に興じるのは雄英高校一年生間飛移。ヴィランもまた腹を抱えてゲラゲラと大笑い。状況分かってます?
テーブルで談笑する彼らを呆れながら不思議そうに見つめる荼毘も、死柄木の返事がふんわりとした根拠の無いものだったので考えることをやめてしまいました。ツッコミを諦めないでくれ。
何なら黒霧ですら「そういう人柄なんでしょうね」*5と思考を放棄する始末。どうやらこの空間にまともなツッコミ役はいないらしい。哀れ荼毘。
こうなったきっかけはマグネと死柄木の二人にある。
誘拐犯のアジトに居場所なんぞないだろうと(何故か)マグネと死柄木が気を遣っていると、死柄木と間飛がショッピングモールの時のように軽い調子で会話をしていた。
会話の内容は確かゲームに関するもので、ふと口に出されたのが有名な格ゲーのタイトルだった。
『っぱザ○ギよ。掴んだ時の高火力は病みつきになるわ』
『アレはいいな。体力ゲージゴッソリ持って行けると気持ちよくなる』
『……ねえ、それってス○ファイ?』
『ああ』
『私もやってたことあるのよ。その時は……ケ○を使ってたわね』
『ケ○……スマ○ラ……コンボ……うっ頭が』
『おいしっかりしろ。あくまでもストフ○イだ』
二人の会話ならともかく、三人の話し声ともなれば狭いバーの中ではそれなりに響くもので。何か騒がしいなと顔を出しては会話に混ざる者が増えて行った結果……。
「私この子嫌い!!」*6
「やっぱカ○ヤの即死コンボダメだよなこれ」*7
「まずマグ姐に謝りましょう?」*8
(あのキャラってあそこから即死まで持って行けるのか……)*9
「……荼毘も混ざって来たらよろしいのでは」*10
「は?別にうるせえから見てただけだし」*11
……夏休みの小学生の集まりかな?
どこから持ってきたのか黒霧が某ゲーム会社の有名ハードと、某愉快なパーティーゲーム()をAFOとの連絡用モニターに接続。人数分のコントローラーを用意してモニターの中で大乱闘が始まった。それでいいのか黒霧。
画面の向こうで何故か連絡が途絶えたAFOが首を傾げてるだろうが。やめて差し上げろ。
もうこの現場を見られたらヴィラン連合のスパイ扱いされるんじゃなかろうかという空気の中、間飛はふととある疑問を口にした。
「俺何でここにいるんだっけ?」*12
「俺たちが誘拐してきたからだけど?」*13
「そういやそうだった」*14
最早コイツ最初から仲間にいたんじゃないだろうか。そのレベルでヴィラン連合とすっかり仲良くなってしまっている。
それでも少しテンションが落ち着いた時にはシリアス(笑)な空気が戻ってくる。決して手遅れなどと言ってはいけない。
モニターから流れてくる音ゲーをBGMにしながら、椅子に腰掛けた間飛と死柄木が向かい合う。まずゲーム一回止めろトゥワイス。
「……爆豪を攫うように指示したのは俺じゃない、俺の先生だ」
「Mr.は俺でもいいやって言ってたが……何で俺を連れてきた?」
「ボスの先生とやらは爆豪勝己を連れてこいって言ってたけど、ボスはアンタを連れてこいって言ってたんだ。爆豪がダメなら、って感じだよ」
コンプレスがあの場で爆豪を放棄して間飛を攫ったのは、死柄木とAFOで狙いが違っていた為にどちらか一つでもいいだろうという判断を下したのだ。
実際のところは死柄木は爆豪なんぞどうでもよくて、コンプレスが間飛を回収してきたと知った時は少し喜んでいたくらいだ。
では何故死柄木が間飛を狙わせたのかと言うと。
「その前に……お前ら、コレは先生には漏らすなよ」
「……?お宅の先生なのにか?」
「ああ……俺の今の目的はアイツを終わらせる事だからな」
スポンサーでもあるはずのAFOの失脚。死柄木弔はそう言った。
間飛の言葉によってAFOに疑問を持ったあの日から、死柄木は自分なりにAFOの手がどこまで伸びているのかを探ることから始めた。
驚いた事に調べれば調べる程先生の手は広く伸びており、政治家の中にすら手駒がいると知った時はますます疑問が深まった。
何故、先生は俺を選んだ……?
オールマイトという不倶戴天の敵さえいなければ、この極東の島国一つ支配するくらい訳ないレベル。その中で何の変哲もない子供一人をわざわざ自分の後継者として育て上げる理由とは何だ?
悲劇とは他人と比較できるものでは無いと思っているけれど、超常黎明期の真っ只中ではありふれた存在と言わざるを得ないのが死柄木弔だ。AFOが目をかけるにはそれなりの理由というものがあるはずだ。
「……昔一度だけ見たおばあちゃんの写真。そこに写ってた人物をガムシャラに探したよ」
「おばあちゃん……それが先生がお前に目をつけた理由だった、と」
「先生の、アイツの狙いはオールマイト……或いはオールマイトが持つナニカだ」
ようやく辿り着いたあまりにか細いアリアドネ。祖母の名前は志村菜奈。グラントリノと呼ばれるヒーローと共に写された写真が数枚だけネットの広大な海から発見できた。
そこまで分かってからは早かった。グラントリノと祖母の活躍していた時期はAFOが暴れていた時期と一致し、祖母が死亡したと思われた数年後にオールマイトが名を挙げていた。こうも時系列が一致しては笑うしかない
AFOは常にオールマイトへの呪詛を吐いていた。あの時の彼は、この時の奴は……一通り捲し立てた後は決まって『それもこれもこんな社会を作ったオールマイトが悪い』で締めくくる。
無条件に信頼していた今までならともかく、疑問を抱き始めてからはAFOの歪な理論に賛同することは出来ない。たった一人で社会全ての善と悪を引き受けるような奴がどこにいるのか。
ここまで露骨にされては義務教育の危うい死柄木でも分かる。おそらく自分はオールマイトへの復讐の駒にされていると。
「お前らには悪いが、俺が今掲げてる目標は俺の人生をぶっ壊したアイツを終わらせる事だ」
「……」
「生きにくい社会をぶっ壊す前に、まず人様の人生を弄ぶクソ野郎を殺す……手伝ってくれるか?」
いつの間にかトゥワイスはコントローラーを置いて真剣な顔でこちらを見ていて、マグネもジャックガムも深刻な顔をしていた。
荼毘は薄く目を細めて何も言わず、黒霧はいつも通り死柄木の意志を尊重するだけ。コンプレスは仮面で顔を隠している。
シン……と静まり返った室内で、トゥワイスが声を上げた。
「おう!勿論だぜ!やなこった!」
「……いいのか?」
「俺が仲間になったのは先生じゃなくて死柄木……アンタだぜ?俺は先生につくぜ!」
「そうねえ……私、支配者になりたいわけじゃないものね」
「上から目線が不快だったのよねあの人。仲間っていうなら対等に見て欲しかったわ」
反対する者はいなかった。当たり前のようにトゥワイスは死柄木について、二人のオカマは悩む素振りを見せながらもAFOを拒絶した。
呆然とする死柄木にコンプレスがニヤニヤしながら肩に手を置く。
「死柄木ィ……お前そういう事はもっと早く言えよ!魔王退治なんざこれ以上なく
「義賊?お前ヴィランだろ」
「若い子は知らねえだろうが『張間歐児』って聞いた事ねえか?俺の先祖は盗賊王の……義賊の血筋なんだよ」
自分に出来るのは抑圧された社会に革命を起こす事ぐらいか、とヴィラン連合に参加していたのに。ここに来て御先祖が言っていた『正義の血』とやらが輝くべき大仕事を提示された。ここで燃えないほど腐ってはいない。
「……俺は、どうでもいい」
「荼毘」
「いや、どっちでもいい……と言っておく」
一方荼毘は決めあぐねていた。
彼の目的はとあるヒーローへの復讐。社会が崩壊したタイミングで致命的な不祥事を公開し、ヒーローへの信頼とともにその人物を地獄への道連れにするつもりでいた。
しかしヴィラン連合がこうなったのであれば話が変わってくる。このままではまず社会の崩壊すら期待できそうにない。
ならばいっそ、オールマイトすら仕留めきれなかった魔王をこの手で仕留めて、自分に酷い扱いをした⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の節穴っぷりを晒す事でも復讐になりうるだろうか。
「……今は、味方でいてやる」
サブプラン程度に確保していてもいいだろう。荼毘はそう判断するとAFOへの反旗を翻す事にした。
今この時より、ヴィラン連合はAFOの打倒を目的とする集団へと変化した。手ずから集めた悪意の牙が、選りにもよって己に向けられているなどとは微塵も思っていないだろう。
「俺がお前を連れてこさせたのは、少しでも戦力が欲しかったからだ」
「……あくまでも俺はヒーロー志望だ」
「終わった後は……俺を好きにすりゃいいさ」
終わりをも覚悟した死柄木の頼みに、間飛はすぐには答えを出せない。どこまで行っても自分はヒーロー志望で、目の前のコイツらはヴィランなのだから。
「俺、は……」
「こんちわーピ○ーラ神野支店です」
悩む時間はそう長く残されていない。
間飛「黒霧がァッ!!捕まえてェ!!黒霧がァ!!画面端ィ!!回避を読んで……まだ入るゥ!黒霧がァ……つっ、近づいてェ!!黒霧がァ決めたあ゙あ゙あ゙!!」
荼毘「うるっせえ!!」
マグネ「黒霧強くない……?」
黒霧「テ○ーは100%超えてからが本番なのです……」