夜遅くに新幹線を利用し横浜市は神野区。時間帯の特色か酩酊した大人や少々ガラの悪そうな者が多い繁華街を歩く。
「オッラァ!!コッラァ!!」
「違ぇもっとアゴをクイクイやんだよ」
「……特殊な求愛行動でもしてんのか」
「変装するのはいいが……【創造】で創ればタダだったんじゃねえか?」
「そそソレはルール違反ですわ!?」
「パイオツカイデーチャンネーイルヨー!!」
「お前ら離れて歩け」
驚安の殿堂ドンキ・オオテで購入した服装に着替えての変装……までは良かった。全員のコーディネートが完成した時、心操と爆豪は頭を抱えていた。違うそうじゃないだろ。
ヴィランに顔を知られている、わかる。子供が夜の繁華街にいると目立つ、わかる。だからといってチンピラ&キャバ嬢&ホストになる必要はないだろいい加減にしろ。地味目のオーバーサイズなパーカーで真面目に隠密しようとした自分達がバカみたいじゃないか。
ツッコミ要素の渋滞に死んだ顔の心操はバカ真面目に付き合い、爆豪は早々と彼らに見切りをつけた。賢い。
「……!おい、お前ら」
「?どうした?ばくご……う……」
「あれって……!?」
街頭の巨大モニターに映し出されたのは雄英高校の謝罪会見の一部。A組B組の担任二人に根津校長の三人がスーツに身を固め、頭を下げた後に話し始める映像。
「……先を、急ごう」
「ああ」
思うところはある。分かりやすく悪者扱いされている雄英高校にも、何も考えずに同調する人々にも。
それでも今の自分達が優先すべき事はコレじゃない。視聴を切り上げて逃げるようにその場から去った。
繁華街から少し路地裏に入り、工場や倉庫の多い場所に出た。人通りも少なければ街灯も僅かな静けさを過ぎる。会話がなければ足音が最も喧しくなる夜道の果てに、発信機の示す場所へと辿り着いた。
電気も点いておらず人のいる気配もない。廃倉庫を装って市民の暮らしの中に潜んでいたらしい。
「多くはねえが人通りもある……」*1
「目立つ動きは出来ませんわね……どうするおつもりですか?」*2
「……もしここにいるってんなら、既にアイツの探知範囲に入ってるはずだ。出てこねえのが妨害されてんのかそもそもワープ出来ねえのか、だ」*3
「とりあえず裏手に回ってみよう。僕達が持ってる情報はココしかないんだ」*4
チラホラと歩行者のいるこの場で探るような真似は出来ない。人目を避けるためにも狭い塀と塀の間に入っていく。
購入したばかりの衣服が汚れ傷つく事も厭わず、道とも言えない道を進む。間飛の救出に必要な事はまず安全の確認。中にヴィランでもいようものならその時点で自分達に出来ることはなく、それを確かめる為にも人目があってはろくなことが出来ない。
すると途中で緑谷が窓の存在に気づいた。窓ガラスは無く、代わりに鉄格子だけで守られた四角い穴からであれば中の様子が窺えるのではないか。
そう思った彼らはそこから覗こうと身体を塀の上に乗り出す。何故かお高い暗視鏡を持ってきた切島と冷静に判断できそうな心操*5が中を覗き……。
「───ッッッ!!?」
「……?おい、どうした。何が見えた?」
「これ……見て、みろ」
既のところで悲鳴を堪えた切島から暗視鏡を受け取った心操が、言われた通りの場所を覗き込む。
視線の先にあったのは幾つものパイプが繋がれた水槽らしきもの。しかし問題はその中身。人間の脳と思われるグロテスクな部位と人型のシルエットが微かに見えている。これは恐らく───
「脳無……って奴か?」
「脳無……!?」
何故そんなものが……と疑問に思った瞬間、強烈な衝撃が彼らを見舞った。
◇
気の抜けた声と共にドアがノックされた。はて、ピザ?と思案するよりも早く──横の壁が力任せにぶち破られた。同時にピザも吹き飛んだ。え?マジで頼んでたの?疑問に思ってたのって『さっき来たよな?』とかそういう方向なの?
「ちょっ……何よコレ!?」
「ちっ……!黒霧!!ゲートを──」
「先制必縛!!」
ウルシ鎖牢!!
突入と同時に放たれた木の枝。シンリンカムイの手から伸びたそれらは一瞬でヴィラン連合全員を捕縛してしまう。おい黒霧ゲーム機を目で追うな。まだ無事だから。
しかし所詮は木。ならば荼毘の炎がどうとでも出来る……と、身体から熱を立ち昇らせたところへグラントリノが飛び込む。
「逸んなよ」
「ぐっ……!?」
「大人しくしとけや」
時間にして数秒。ヴィラン連合の全員が木の枝に巻かれ、対抗可能な荼毘が無力化された。ついでにモニターは壊れたし、コーラ瓶が落ちた。トゥワイスは泣いた。
「もう逃げられんぞヴィラン連合……!!」
「何故って!?我々が来た!!!」
突入してきたのは三人。若手の実力派シンリンカムイに大ベテランのグラントリノ、そして世界に誇るNo.1ヒーローオールマイト。
周辺を固めているのはNo.2エンデヴァーを初めとし、エッジショットにミルコと無数の機動隊。完全にこの場でケリをつけるための磐石な布陣だ。
忌々しげにオールマイトを睨む彼らを複雑な目で見ながら、間飛は悩んでいた。
──俺はどうするべきだ?
ずっとヒーローとヴィランのままでいられたなら、こんな悩みなど抱えることも無かったのだが。極僅かな間であっても彼らと話し、その願いを知ってしまった今。無知蒙昧に彼らを糾弾することも出来ない。
「……間飛」
「!!」
「
「───……ッ」
答えを出したのは、死柄木弔。友人を労るような目で彼は間飛と目を合わせ、たった一言許した。
それにまだ、終わっていない。諦めるつもりは毛頭ない。
「黒霧!脳無を──」
「……すいません、死柄木弔。やられました」
「何……?」
「脳無が……所定の位置にあるハズの脳無が、無い……!!」
◇
再び緑谷達にカメラを戻そう。
突然の揺れと衝撃に体勢を崩し、すわヴィランかと思ったのも束の間。その正体は巨大化したMt.レディによる力強い一踏みによるものだった。
膨大なサイズによる一撃は廃倉庫の天井と壁を容易く砕き、黒霧の【ワープゲート】よりも早く脳無を回収する一助となった。
「脳無格納庫……制圧完了」
「うえっ……キモーイ……」
ギャングオルカ、ベストジーニストに虎とトップクラスのプロが総出での対応。ピクリとも動くことの無い脳無達を一方的に蹂躙した。
「うええ……これ本当に生きてんのぉ……?こんな楽な仕事でいんですかねジーニストさん」
「難易度と重要性は切り離して考えろ新人」
片手で複数の脳無を制圧しながらジーニストが機動隊に指示を出す。目に見える範囲にいた脳無達は全て確保したものの、見えない場所にまだ存在する可能性を考慮して
質も数も揃えたメンバー。こうなれば自分達に役目はないだろうと安堵の息を吐いた。
「ヒーローは俺達などよりもずっと早く動いていたんだ……!」
「間飛はこっちじゃ無かったか……まあ、オールマイトがいるらしいし、大丈夫だろう」
「……ちっ、無駄足じゃねえかクソが」
自分達の心配など杞憂でしかなく、大人の手は想像よりもずっと早く強く回されていた。安心した緑谷達は廃倉庫を後に───……。
「随分と手が早いんだね……もうここに辿り着くなんて……」
後、に……。
「止まれ!動くな!!」
「連合の者か」
「こちらもそれ相応の痛手を受けているというのに、休む間もなく二回戦か……」
ザリ、と一歩踏み出した何者かの服の繊維をジーニストが操作。【ファイバーマスター】を手早く判断して発動し拘束を試み──
「弔とも連絡が途絶えて心配なのに無神経だね」*6
「邪魔するのはよしてもらいたい」*7
足が竦む。突然の轟音の後には不気味な声だけが聞こえてくるばかりで、ヒーロー達の声など少しも届かなくなった。
一瞬の出来事。刹那と言い表すしかない極短い時間で、緑谷達に死のイメージを思い起こさせる強烈なドス黒い気配。
脳裏を過ぎるのはいつかオールマイトにも話された言葉。
──君はいつか奴と……巨悪と戦う日が来る。
それを緑谷はずっと死柄木弔の事だと思っていた。でも、違った。アレと比べてしまえば死柄木弔ですら小悪党にしかなり得ない。
あれが……オール・フォー・ワン……!!?
「痛つつ……彼のダメージがこんなに尾を引くとは思わなかったよ。まあ……やるか」
オールマイト(……ピザ?)
シンリンカムイ(……ピザ、だよな?)
グラントリノ(やべえピザひっくり返しちまった……)
トゥワイス「俺の……コーラが……」←しょんぼり
荼毘「食いもん粗末にするなよヒーロー」←おこ
死柄木「まだ俺食ってねえのに……」←しょぼん
黒霧「ああ……床が……机が……!!」←そこ?
オカマーズ((あれまだ食べられるかしら……?))←やめい
間飛(セーフ!)←一切れ確保すな