神様転生もどき
気がつけばそこは、見知らぬ場所だった。
「よう、目が覚めたか
俺の目の前に居たのは、フードを深く被った男だった。相手が男だと判断したのは声からで、口元しか見えないその顔はそれでも酷く整っているのだろうと想像がついた。つまりイケメンである。
「いやいや、俺は別にイケメンじゃないぜ?まあ、不細工って事もないだろうけど」
思考が読まれた?!
「まあ、それ位の事はできないと管理者ってのは務まらないからな。あ、ちなみにお前死んでるから」
突然の宣言に俺は戸惑うしかなかった。
死んでるってどういう事だ。俺は別に死ぬような理由なんて…
「車に轢かれそうになった子供を助けて自分が轢かれて死ぬって、今時オハナシでも聞かない間抜けじゃん?助けようとした相手にトラウマ作ってどうするよ」
そう言われて、俺の中にこの場所で気が付く前の記憶が蘇る。
男の言うとおり、俺は子供を助けて車に轢かれてしまったのだった。咄嗟に思わず体が動いてしまったのだが、自分でも確かに間抜けかもしれないと思う。それで死んでしまったあたりが。
「でも、俺はそういうの嫌いじゃないぜ?そういう勢いで生きてる馬鹿ってのは観察しがいがある」
観察しがい、って…
「まあ、そういう訳で。丁度いいからお前を別の世界に転生させようと思うんだが」
...What?
転生?転生ってアレか、二次創作小説とかでよくある、神様転生的なアレか?実は俺が死んだのは神様のミスだったんですー、みたいな?
「いや、俺は別に何もミスってない。つぅか、別にお前の世界の管理者ってわけでもない。寧ろお前の居た、"観測世界"には神様いねーんだよ。管理システム自体はあるんだけど、意思を持って管理してる存在はいない」
『でも、お前は俺を転生させるんだろ?』
「ああ。別に問答無用で放りこんでも良かったんだが、転生先が転生先だもんで、多少はちょっか…加護を与えておこうかと。すぐ死んじまったりしたら意味がないからな」
なんか今不吉な言葉が聞こえたような気がする。
だが、つまり、所謂転生特典って奴をくれるって事だよな?
『だったら俺、欲しい能力とかあるんだけど』
「お前の魂に負荷がかかり過ぎない程度のもんなら付けてやれるかもしれないな。何だ?」
『HUNTER×HUNTERの念能力が欲しい!』
「無理」
即答された、だと…?
「別にお前が行く世界がその世界だったら、使える素質を付ける程度ならアリだったんだが、残念ながら別の世界だからな。転生先の世界にエラーが起こらないような改造しかできねーから、基本的にそういう漫画能力引っ張ってくるのは無理だと思え」
じゃあ一体何が出来るって言うんだよ…つか、今改造って言ったか?
「ああ。俺がお前に出来るのは、そうだな…生まれる環境の乱数調整、世界に大きな影響を与えない程度のちょっとした能力の付加、後は運命係数の操作、って所かな。どれもお前の持つ資質を大きく超える事は出来ない」
…意外と出来る事がしょぼいな。神様の癖に。
「しょぼいって言うんじゃねーよ。つっても結構汎用性はあるんだぞ?生まれる環境の操作をすれば肉体的な条件はある程度選べるから資質はそれなりにどうにかできるしイケメンに生まれる環境だって選べるし」
イケメンに生まれる事ができる…?
「世界に大きな影響を与えない程度ってのはそのままの意味だが、能力の方向性自体は幾らでも選べるから、
魅了能力…?
「運命係数を弄るって事は、将来遭遇するものを選ぶって事だから、美少女と何人もお知り合いになれる運命ってのも勿論選べる」
美少女と何人もお近付きに…?!
「別にしょぼくねーだろ?」
『しょぼくないっすね!寧ろすげーっすね!!』
「だろう。で、どういう方向性で弄りたい?お前が来世に望む事ってのは、何だ?金か?名声か?女か?」
俺は、考える。俺の望む事って、一体何だ?此処で選択を間違えなければ、俺はこれから転生する世界で望むものを手に入れる事が出来るみたいだ。だったら、じっくり考えて選ばないと…
「いや、あんま長々と悩まれると困る。こっちも別に暇人ってわけじゃないからな。あっち側のどの辺にお前を転生させるかは多少都合が利くけど、俺自身の時間は遡れないし」
俺の、望む事…
『俺は…強くなって、俺の
「ほう?それってのはつまり、運命の相手一人と結ばれる事が出来ればいい、と?」
『ああ。ハーレムとかじゃなくても、本当に好きな子と両想いになって、キスとかしてその…最終的に結婚とかしちゃって、うん、そんな感じで』
「ほうほう。…煩悩まみれかと思えば意外と純情…こういうヒュムには珍しい方だがまあ、それならあの席が丁度いいかな?」
神様は何やら独り言を言っていた。何か若干貶された様な気がする。しかし、どうやらその望みは十分叶えられるものであるようだ。
「じゃあまあ、運命係数を"運命の相手"と必ず出会って結ばれるように調整して、環境の乱数調整は…あ、どういう方向性で強く成りたい?それによって調整する」
『そりゃあ勿論、俺が前に出てどんな相手でもぶっ飛ばせるようになりたい』
「ふんふん。じゃあとりあえず、肉体強度が高めの家系で、あの世界のヒュムは特殊な力を得られる可能性があるから、それで使い勝手のいいもんが得られるように調整するか。特殊能力はいるか?あんま大したもんは付けられなさそうだが」
『だったら…』
俺は一つ、神様に"とある能力"を付けられるかどうか問いかけた。
「んー…まあ、あんまりランクの高くないもんならイケるな。じゃあまあ、そんな感じでいいか?」
『ああ』
「じゃあまあ、そんな感じでお前の転生は設定しておこう。…じゃあ最後にお前に忠告をしておこう」
忠告?
「俺が出来るのは、お前が望むものを得られる可能性を与える事までだ。お前が生まれた後の事はお前の行動次第だし、素質があっても努力しなきゃどうもならないから、結局は全部お前の努力次第って事だ」
つまり、と神様は言う。
「お前の望みが叶うかどうかはお前が決めるって事だ」
『…わかりました』
「じゃあまあ、良い転生ライフを☆って感じだな」
神様のそんなセリフと共に視界がブラックアウトしていく。
「…つうか、俺別に神様じゃねーけどな」
そんな声がかすかにした様な気がするが、それを理解する前に俺の意識は途切れた。
そんなこんなで、俺が実は転生者だった、という事に気付いた(いや、思い出した、というべきなのか?)のは俺が小学校に入って一年目の八月初めの事である。久しぶりに親子水入らずで海水浴に行って溺れて死にかけた事がきっかけだ。もっと平和的に思いだしたかった…。
神様の言った通り、俺の転生先の家は武闘家…平たく言えば、武術道場を開いている家だった。祖父が師範で、父親が師範代。門下生はそれなりにいて、俺も幼稚園の頃から門下生さんたちに混ざって指導を受けていた。俺は割と素質がある方らしい。自分ではよくわからないが。
父さんには感謝している。修行を始めたのは(その時の俺にとっては)嫌々だったが、考えとかが柔軟な内に始められて良かった。今転生する時の事を思い出した俺は強くなりたいっていうモチベーションも高いし、その為の下地が出来てるってのはありがたい。
「…そうだ、神様にもらった能力」
使えるかどうか、実の所わかっていない。仕様についての細かい説明は受けていないし、これまでに使えていた覚えがない。そもそも、対人スキルに分類される能力だから、試すのも難しいんだよな。
まあ、こればっかりは機会があったら試す、という事で保留にしておくしかないか。戦うための能力じゃないし、あったら便利、程度に思っておこう。
夏休み後半は以前より修行が厳しかった。いや、修行が次の段階に進んだ、とか増やされた、とか言うべきかも知れない。
表の門下生には教えていないが、うちの道場では気、というものを使った武術も教えていたようなのだ。俺も、父さんに「いい顔をするようになった」とか言われてそれに加わっていいことになった。
…もっとも、まだ己の気をちゃんと感じ取れるようにもなっていないんだが。集中すると何となくわかるような、わからないような、というレベルだ。まあ気の修行は始めた所なんだからこんなものなんだろう。精神修養自体は最初からさせられてたんだけどな。
今日は転生の記憶を思い出してから初めての学校…二学期の始業式だ。
ははは、クラスメートがガキに見えるぜ…言ってて虚しいな。前世の分を足して精神年齢3X年、とか言いたいところだが、どうやらそうでもない。説明が難しいんだが、小学一年生、7歳児の俺と、前世の二十代男性の俺の両方の視点があって、時によりどっちかが優位になる感じというか。まあ基本的に俺はちょっと精神的に大人びてる7歳児、程度だと思う。
「…
「え、あ、悪い、兵藤」
「いや、いい」
兵藤は無愛想にそう返して自分の席(俺の後ろの席、窓際一番後ろである)に突っ伏した。
…そういえば、寧ろ多分コイツの方が俺より精神年齢高いよなあ。別に見下されてるとまでは思わないんだけど、同年代に見えないというか。兄弟がいるって聞くから、それでなんだろうか。俺は前世も今世も一人っ子だし。
「二学期初日から何でそんな疲れてるんだ?宿題やり忘れてて徹夜したとか?」
「やり忘れてたというか、やる暇がなかったというか…作業状態でも量があるときつかった…」
「ふーん…」
兵藤とは小学校になって初めてクラスメートになった程度の関係だが、仲は悪くない。そもそも、俺はともかく、兵藤と仲が悪い奴ってのがパッと思いつかない。基本的に人当たりがいい奴なのだ。いや、お人好しっていう方が合ってるかな?
頭の出来はそこそこで、運動神経の良さが自慢の俺とは反対に、兵藤は頭が滅茶苦茶良くて、運動神経はそれなりに鍛えてるっぽいけど俺には負ける程度、って感じだ。ぶっちゃけ、このままいくと普通に女子にモテるんだろうなー、とは思う。今?女子は同年代の男子って子供よねー、って言ってる年代だ。察しろ。
「…僕の頭に何か付いてるのか?」
顔を上げた兵藤の特徴的な紫色の瞳が俺を射抜く。俺は慌てて否定する。
「いや、別に何も付いてない。ランドセル背負ったままなのはどうかと思うけど」
「…そういえば下ろしてなかったな」
兵藤はそう言って適当に足元にランドセルを下ろしてまた机に突っ伏した。…いや、確かに今日は半日授業だろうけど、その扱いはどうかと思うぞ。
それにしても、今日は何故かやけに兵藤が気にかかる。いや、別に恋でも変でもなく。確かに兵藤は変わった奴だが、だからといって特に何という事もないと思うんだが。悪魔(この世界にはいるらしいという事を父さんが言っていた)って事もないだろうし。そりゃあ、兵藤の目の色は日本人どころか、人間にも稀な色だが。
「おはよー、イッセー君。しゅくだい写させてくれない?」
「宿題は自分でやれ」
「けちー」
鈴木さんがぷーっと頬を膨らませる。可愛い…じゃなくて、イッセー?…ひょうどう、いっせー?
「あ」
「…どうした、士方」
「あ、いや、何でもない…」
誤魔化せているかは正直わからないが誤魔化して、俺は目をそらしてそのまま自分の席に座って教室の前の方に顔を向ける。兵藤から胡乱な視線が向けられている気がするが気付かないふりだ。
何で気が付かなかったんだろう。兵藤一誠、ラノベ主人公にそんな奴がいたじゃないか。ハイスクールD×D、悪魔と天使と堕天使とドラゴンとごちゃまぜ神話の物語だ。神様が言ってたこの世界の人間が得られる可能性がある特殊な力ってのは神器の事だろう。
…いや、気付けなくてもおかしくないな。俺の背後に居る兵藤はおっぱい星人じゃないし、そもそも今は原作の…多分10年前?だし。っていうか、もしかして、兵藤も俺と同じで転生者なんじゃないか?
気になる。
気になるけど、今聞くわけにはいかないよな。間違ってたら電波扱いだし、合っててもそんな事この状況で聞くのはあんまり良くない気がする。少なくとも、クラスメートに不用意に聞かれない状況じゃないと。
「兵藤、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
授業が終わり、クラスメートが皆帰り支度をしている中で俺は兵藤に話しかけた。兵藤は片眉をひょい、と上げて聞き返す。
「…何だ?」
「えーと…ちょっと、変な事だから、あんまり他の奴に聞かれたくないんだけど」
兵藤は不審そうな顔をするが、やれやれ、と肩をすくめて立ち上がった。
「屋上にでも行くか?…あんまり時間がかかると黒姉が来るだろうし」
「黒姉?」
「今日から四年生に編入したから…」
そこまで言って、兵藤はいや、と首を振る。
「で、どうするんだ?」
「じゃあ、屋上でいいや」
俺もランドセルを背負って立ち上がった。
小学校の屋上というのは、実の所俺は前世も含めて初めて来る場所だったりする。前世の時は確か、鍵がかけられてて立ち入り禁止だったような気がする。
兵藤は屋上の中程まで行って立ち止まって振り返った。俺も一歩開けて立ち止まる。
「兵藤ってさ、転生者?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「変な事言ってるように…って、え?」
俺は思わず兵藤を凝視する。兵藤は少し呆れたような顔をして俺を見返した。
「僕が転生者だったら何か変わるのか?転生者の士方
「いや…だって、転生だぞ?前世の記憶があるんだぞ?!」
「それがどうした?僕は僕だし、君は君だろう。前世の記憶があるからどうした、ない奴よりその分ちょっと色々知ってる事が多いってだけだろう」
あんまりといえばあんまりな返答に、俺は二の句が継げなくなった。
兵藤の言っている事は、けして間違いではないんだろう。間違いではないんだろうけど、簡単に納得はできなかった。だってそれは、前世の"俺"を否定されているような気がした。
「僕の目の前にいるのは僕と同い年でクラスメートの士方歩武であって、まあどういう経緯があってかは知らないが転生した
「そんな事はない!俺の両親は父さんと母さんだ」
やや感情的になって言った俺に、兵藤は冷静に返す。
「じゃあ、何が不満なんだ。転生してその記憶がある事自体はままある事だろう」
「いや、俺は自分が転生するのは初めてだし、転生者は自分以外はお前しか知らないぞ」
そう返しながら、俺は自分の気持ちが沈んでいくのを感じていた。
そう、俺は、自分が特別なのだと思っていたのだ。転生して、その記憶があって、神様に色々条件を整えてもらった。そんな俺は特別な人間なのだと、そう思いたかったんだ。そう思っていたことに今気付いた。
「…まあ、確かに僕もこの世界に転生してから出会った転生者は君が最初だけど」
「…ってことは、兵藤は転生するのは初めてじゃないのか」
「ああ。何回転生したのかは自分でもよくわからないが、両手で数えられる程度じゃないのは確かだな」
「つまり兵藤は転生の先輩でプロなのか」
「先輩はともかく、望んでやってるわけでもない事にプロ扱いされてもな…」
兵藤はやれやれ、と肩をすくめた。
「転生なんて結局、経験値が余分にあるから取れる選択肢が増えるってだけだよ。後はフォーティーンに入るのが早くなるくらいで」
「誰が中二病だ」
いや、多分間違っていないけども。
「僕なんて万年中二病だぞ。寧ろ大抵の中二病シチュエーションは経験してるっていうか。オッドアイになった事は今の所ないけど」
「日本人の癖に紫色な時点で十分中二病だろ。つか、カラコンじゃないんだよな?」
「目に何か入れるとか、怖くてできねーよ。生まれつきだ、生まれつき。何度生まれ変わっても同じ色で、魔術とか使っても変えらんねーの」
「魔術?」
そういえばこの世界ってそういうファンタジーな要素あったな。俺も使えるもんなら使ってみたいんだが…。
「君、魔力とかなさそうだから悪魔にでもならなきゃ使えるようにはならないと思うけど」
「ですよねー」
そんな気はしていた。もっとも、使えたとしてもそっちはそっちで修行しなきゃ使い物にならないだろうから、今やってる武術とどっちも中途半端になってしまう可能性の方が高いんだろうが。
「で、結局君は一体何の話がしたかったんだ?」
「え、いや…何か主人公が転生者ってどうなるか気になるし…」
「主人公?」
兵藤の表情が僅かに凍る。
「ハイスクールD×Dって知らないか?」
「…知らない」
兵藤はそう言って、解説しようとした俺を手振りで遮った。明らかに顔色が悪い。
「マジかよ…また観測世界から見た二次元かよ…しかも主人公とか…ないわー、マジないわー」
目を泳がせながらぶつぶつ言っている兵藤ははっきり言って不気味だったが、放置していては話が進まないので、それには触れずに話を続ける事にする。
が、俺が何か言う前に、何処からともなく知らない男の声がした。
『俺は相棒が主人公というのは極自然な流れだと思うが』
「相手がお前の存在を知ってる可能性が高いからって話に入ってくるんじゃない」
兵藤の左手に赤い籠手が出現していた。間違いなく、
「えっと、
『ああ。赤龍帝のドライグだ』
「…具体的には言わなくていいが、そのハイスクールなんとか、ってのは高校生になってからの話、なんだよな。ジャンルは何なんだ?」
「ハイスクールD×Dだってば。まあ、それで合ってるけど…ジャンルは……おっぱいラノベ或いはおっぱいアニメ?」
兵藤とドライグが二人揃って絶句する。
いや、俺も説明として不適当だとは思うけど、なんというか、そういう印象が強い。主人公がおっぱいドラゴンだし。おっぱいでパワーアップするし。ヒロインのおっぱいが大きいし。
「いや、何か主人公のあだ名がおっぱいドラゴンだったから…」
「僕はおっぱい派じゃなくて腰派だ!」
『落ち着け相棒!』
錯乱気味に返した兵藤にドライグが呼びかけるが、おっぱいドラゴンの呼称はドライグの方にも使われていたと言うべきだろうか。…まあ、この世界の兵藤がおっぱいドラゴンになることはこの様子じゃなさそうだけど。
っていうか、腰派って。
「…一応、バトルものの範疇ではあったぞ?真面目に」
「まあ日常系ラブコメとかではないとは思ってたよ。この世界結構物騒だからな」
「そういう要素もなくはなかったけど」
俺がそう言うと、兵藤は嫌そうな顔をした。予想外の反応だ。…というか、普通はラブコメの主人公ってそんな嫌とは思わないんじゃないか?男として。俺だったら普通にテンション上がるんだが。
「ラブコメ時空とか胃が痛くなるんだよ。君が代わりにやってくれ」
「無茶言うなよ…まあ、そりゃあ、男としてハーレム的なものに憧れがないではないが、俺は一応自分のヒロインと出会って結ばれる予定なんだからその子に勘違いされたら困る」
「ヒロインって?」
「運命の相手だよ」
それが誰なのかは知らないんだが。
でも、運命の相手なんだからきっと出会ったらそうだとわかるだろう。
「士方って意外とロマンチストなんだな」
「恋人いない歴=年齢で記録更新中だけどな…」
前世含めて、の話である。
「まあ、いいんじゃない?ロマンチスト。不誠実に接するよりはずっといいと思う」
「イッセー、遅かったわね。待ちくたびれちゃったわよ」
「あはは…ごめん、黒姉」
「…えーと、兵藤のお姉ちゃん?」
何か原作的にはいちゃいけない人がいる気がする。
「ん、ああ。黒姉、こいつ僕の友人の士方歩武」
「私は兵藤黒歌。よろしくね」
「よろしく、お願いします…」
にっこり、と笑みを浮かべた黒髪の美少女に俺はそう返す事しかできなかった。
その名前からして、転生悪魔で猫魈のあの人だとは思うんだけど、その人が何故兵藤を名乗っているのかがさっぱりわからない。まさか妹まで兵藤を名乗ってたりしないよな。…ありえないとは言えない気がする。
でも、何となく人間ではないかな、って気はするけど、禍々しいって感じはない。…いや、俺悪魔に実際に会った事ないから、悪魔から禍々しい感じがするかどうか知らないんだけど。
「白音ちゃんが待ちくたびれてたら可哀想だから、私たちもさっさと帰りましょう?別に用事はないんだし」
「うん。じゃあ、また明日な、士方」
「お、おう。またな、兵藤」
兵藤と黒歌さんは並んで帰っていった。
…いるっぽいな、妹。一体どういう経緯で兵藤家の一員になったのか、気になるけど、聞いたら教えてくれるだろうか。もし、聞けそうな機会があったら聞いてみようかな…。
それから、なんだかんだで高校二年生、駒王学園の生徒として通っている現在に至るまで、俺と兵藤一家は割と交流のある友人という関係である。
兵藤とは何度も同じクラスになったし、妹の白音ちゃんはうちの道場(表側だが)の門下生になっている。他の人たちとも、顔を合わせれば話をする程度には仲は良好だ。
原作知識に関しては既に殆どうろ覚え状態になっている。もっとも、覚えていたとしても役に立たないという事はわかりきっているが。何しろ、兵藤は自覚のない原作ブレイカーだ。それが悪いと言うつもりはないんだが(俺が知っている限り、当事者にとって悪い結果に至ったケースは僅かだ)原作から何が起こるか想定することはできなくなっている。
今俺が何でそんな事を考えているのかというと、
「うちと付き合ってくれないっすか?」
生まれて初めて、女の子に、しかも美少女(重要)に、交際を申し込まれたからである。ちょっと吊目気味の青い瞳で、癖の強い金髪をピッグテールにした多分外国人の美少女である。隣町の高校の制服を着ているが、留学生なんだろうか。
そこまで考えたところでちょっと嫌な予感がした。
未だに発現はしていないのだが、俺は神様にいい感じの神器を得られるという運命を与えられている。つまり、俺は一応神器持ちなはずである。
原作で主人公は神器持ちである事で堕天使に命を狙われ…というか、殺された。
俺もそうなんじゃね?この美少女、堕天使なんじゃね?俺命狙われてるんじゃね?
「もしかして、ダメっすか?」
「だ、ダメって事は、ないけど…」
彼女が俺のヒロインって可能性だって、あるかもしれない。少なくとも、彼女はレイナーレじゃない(確か、レイナーレは黒髪だったし)し、本当に俺のことを好きになってくれた子って可能性だってなくはないはずだ。
俺は、どうすればいいんだ…。
「だったら、一回デートしてみてほしいっす!うちの魅力で惚れさせてみせるっす!」
そして俺は、彼女の上目遣いに白旗を上げたのだった。
「今日はとっても楽しかったっす!」
「俺も、楽しかったよ」
「だけど」
彼女の背に黒い羽が広がる。つまり、やっぱり彼女は
「うちも仕事なんっすよ。ごめんね、アユム君」
光の槍が俺の胸を正確に貫く。
俺は何処かで選択を間違えたんだろうか?
こんなところで俺は死んでしまうんだろうか。まだ、ちゃんと俺の運命の相手に出会えていないのに?誰かを好きになって、告白したり恋人になったり手を繋いだりキスしたり、そんな事が全然出来ていないのに?
こんなところで?
「…こんな、とこで、しねない…!」
こんなところで、死にたくない!
「――私を呼んだのは…あなた、かしら?」
誰かの声が、聞こえた気がした。
補足
・この世界のリアスのポーンの一人の転生前~原作開始位の話
・比較的大賢者からの心証は良かったりする
・無暗にハーレム狙いというわけでもなかったのが良かったらしい
・神器持ちだが神滅具ではないため4つ消費で済んでいる
・相手キャラは塔城ちゃんか、ルフェイあたりだろうか…
・実家は裏側を知ってる人もいる表側の家、ぐらいの立ち位置
・念能力はないが、気の扱いは実家でやってたので修得している
・武士道を歩む、で士堂歩武にしようかと思ったけど、士堂が紫藤と被るのでやめた
・原作を積極的に変えようという気持ちを持つ前に原作がアレしてるのに気付いた勢。まあ俺って脇キャラだよなあ、位のスタンス
・大賢者の心読んでる系のアレは対象が魂だけの状態だったのと、その空間に施した魔術を使ったハッタリである