リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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緋い帝都

 

 

「まーきーあーすー!!!昼飯できたぞー!!!」

 

 

一階からアルマが叫ぶ。声が引くほど大きいので、この密集した住宅街では迷惑極まりないが、昼間なので出掛けている人も多い。幸い苦情も入りそうにはなかった。

 

反応が返ってこないから、部屋を直接訪ねようとしたが、扉の前にはシェーマが陣取っていた。

 

 

「おべんきょう中、でしたの」

 

「あー、悪いことしたかな......」

 

 

すると、くるりとノブがまわって、足音が中から向かってきた。

 

 

 

「今終わったところだよ、大丈夫だ」

 

 

 

部屋の明かりを消して、マキアスが部屋から出てくる。よほど熱中していたのか、小指のあたりがまっくろだ。

 

その手でシェーマの頭を撫でれば、少し不服そうな顔をしたが、別に抵抗もしなかった。

 

 

 

「まずは手を洗って、かな。ほら、シェーマも」

 

「導力機器は使えないですの」

 

「面倒だからって言い訳しないの。水なら出してあげるから」

 

 

 

苦笑しながら洗面所に連行されるシェーマを見て、マキアスは考え込む。

 

 

 

(一体、彼らは何者なんだ......?)

 

 

 

そう聞けば、おそらく本人たちは「ただのお手伝いさんさ」と答えるだろう。そして、そこに嘘偽りがないのも確かだ。

 

自分の父からもそこに、「父の仕事の上司のような人が紹介してくれた」としか、補足がない。

 

 

マキアスは、中途半端に聡明だった。

 

 

子供特有の鋭いカンや、日曜学校に通っている同級生の、数段上をいく知識。政界で奔走する父に憧れ、多少は新聞で得られる以上の情報だって知っている。

 

しかし、アルマたちの裏______鉄血の子供という顔までは見通せない。パーツがあまりにも欠けすぎている。

 

だからと言って、彼らの懐まで踏み込める無鉄砲さは、あいにく持ち合わせていなかった。

 

 

 

「洗面所あいたぞー、早くしないとベーコン全部もらうからなー」

 

「!?ちょ......っ、すぐいく!!」

 

 

石鹸と一緒に、考えていた不安を洗い流し、ばたばたとリビングへ向かう。マキアスは、頭のなかで思考の優先度を「少し気になる」から「今はどうでもいい」に引き下げた。玉ねぎの香りにつられて、数分後には忘れてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いただきまーす」」」

 

 

 

食卓を囲み、フォークでパスタを巻き取る。今日のランチメニューは、賞味期限がギリギリのミルクを使ったカルボナーラだ。

 

 

 

「そういや、マキアスは進学するんだっけか」

 

「ああ、トールズが第一志望かな。受かるかわからないけど」

 

「ふーん、トールズねぇ……?」

 

 

 

一瞬で場の空気が凍る。少し蒸し暑い夏の怠さも吹っ飛び、マキアスは思わずフォークを取り落としかけた。

アルマは笑顔を崩さず、そのまま腕を組んでいる。

 

一切誰もパスタを口に運ばないまま、十数秒経った。

 

 

 

「……落ち着けですの。クレア姉さんは、留年してなければ、もう卒業ですの」

 

「シェーマ、何を言ってるんだ」

 

 

 

 

 

「クレア姉さんが留年なんかするわけないだろ?」

 

 

 

逆ギレである。

 

 

 

「え、えっと???」

 

 

いきなり雰囲気が変わったアルマにたじろぐマキアス。今までの彼は、どちらかといえば「やかましい」ベクトルだったが……

 

 

 

「いいか、マキアス」

 

「は、はいっ……?」

 

 

敬語を抜くのにも慣れてきた頃合いなのに、思わず背筋が伸びる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジでクレア姉さん狙った瞬間寝首掻きに行くからな」

 

 

 

 

 

「は、はぃっ......!」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「え?俺の得物?」

 

 

「そうなんだ。いい加減何か僕も決めておかなくちゃと思って……旅をしているっていうなら、何かやってるんじゃ無いかと思ってたんだ」

 

 

有無を言わさぬ沈黙を打破するため、マキアスが切り出したのは武器の話題だった。

トールズにいる“クレア姉さん”の何が彼をそうさせるかわからない以上、不用意には近づきたく無い。

 

 

 

「あー、俺は……一応コイツってことになるかな」

 

「ナイフ?」

 

 

 

布のケースに包んである対の短剣。装飾などもなく、言ってしまえば不恰好なそれを、マキアスはまじまじと眺めた。やはり、目につくのは、明らかに後付けで加工が施された七曜石のコーティング。

 

つうっと刃をなぞっても、普通の包丁よりも切れる気配がない。

 

 

 

「あえて切れなくしている……?それにしては……」

 

「うん。完全にガバですね。俺の技術力不足ですねありがとうございますもうショタに傷口を抉られるのは懲りごりなんです……」

 

「???」

 

 

 

机に突っ伏しながら、アルマは腰からARCUSを取り出した。

 

 

 

「戦術オーブメント。俺の副武装……一応テスターってことになってるから、あんまり言いふらさないでくれよ?」

 

「それは、もちろん……というか、アーツも使えるんだな!」

 

 

 

顔を輝かせるマキアス。対して、あまりアルマは嬉しそうではなかった。

 

 

 

「別に、遊撃士でも軍属でも無いから、足止めができればいいんだよ。士官学院にいくなら、そうはいかないだろうけど……」

 

「……そういう考え方も……それなら……アルマさん、午後って何も予定なかったよな」

 

「んー?確か、特には……」

 

 

 

食器をノロノロとシンクに運びながら、マキアスの方へ振り返る。

 

 

 

「それじゃあ、ちょっと買い物に付き合ってもらえないか?といっても、ウィンドウショッピングだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「「すっげぇ……」」

 

 

 

一通りの家事を終えた俺たちは大通りに出てきた。武器工房で、マキアスの武装にあたりをつけるためだ。

 

まあ、途中で地元のヤンキー(某パティリーの姉御)に絡まれなんかもしたが……知り合いっぽかったし、大丈夫だろう。

 

 

そんなこんなでやってきた俺たちは、ショーケースにへばりついてるわけだ。

 

いやだって、カッコいいじゃん……?俺は剣は使えないけど、導力銃のランプが光っているだけでもカッコいい。

 

 

 

「いいか、シェーマ。コイツがロマンってやつだ」

 

「ろまん......理解できないジャンル、ですの......」

 

 

そっぽ を むかれた。

 

EPがポムちゃん並みにゴッソリ持って行かれた気がする。

 

 

 

「うーん、シェーマちゃんには早かったかもしれない......」

 

「ああ、こればっかりは男にしかわからない領域だ......」

 

 

まあ、ロマンがどーたら言ったところでさ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕力(STR)無さすぎて反動で肩持っていかれますが???

 

 

 

 

はぁー、一回猟銃持たせてもらったけど、肩脱臼したからな???命中率以前の問題なのどうにかしようぜ、アルマ・カントゥータ......

 

 

現実的な話をすると、実弾を打ち出すものより、導力銃の方が反動はいくらか抑えられる。その分連射することが前提になるんだが______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも手首がひん曲がるんですけどねぇ!?!?

 

 

 

 

 

 

 

「マジで世の中のガンマンの皆様、普通に拳で殴った方が強いんじゃねーの......?」

 

 

とりあえず、ボヤきながらもARCUSのメンテナンスは終わった。正規品になったら、もう少し整備の頻度を減らしてくれると助かる......

 

まあ、銃っていうのは、さっき言った通り半分以上がロマンでできてるからな。こうしてみてるだけでも楽しいってもんだ。もう剣のコーナーには、少なくとも一年は近寄ってやらねぇ。.......両親の顔がチラつくしなぁ。

 

 

 

「マキアスは〜?なんか気になるのとかあった?そういえば、士官学院に入る時の武装選択に来たんだっけ」

 

「......いや、一口に銃と言っても、色々あるんだなと思って。剣の長さによって色々変わるように、いや......カスタムっていう面では銃のほうが凄まじいのかもな」

 

 

 

マキアスが見ているコーナーには、拳銃用のグリップがずらり。基本はゴム製なんだが、手に合わせた太さや、銃の反動に合わせて付け替えるんだとか。隣には銃弾のサンプルが。こっちは......うん、もう訳がわからん。ざっと数百種あると見ていいんじゃないかな。いくら帝都で品揃えがいいからって、ここまで多いとな......

 

 

 

「銃にすること自体はもう決まりなのか?」

 

「ああ、父さんと一緒にクレー射撃をやった事があって、その繋がりでね。とは言っても、銃の種類も、数え切れないくらいあるみたいだし」

 

「ま、くる途中にあった赤毛ちゃんもいってたけど、後衛が似合いそうだもんなぁ......."貴様の行動パターンは全て把握済みだッ!!!"......とか言ってそうだし」

 

「どういうイメージだ......まあ、でも一度やってみたくはあるかもしれないな」

 

「おっ、いいな!参謀マキアス!.......っクク、やばい、ぜんぶセリフがミハイル兄さんのボイスで再生される......!」

 

 

 

そう、マキアスとガラスケースにへばりついたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______店では静かにしろ、他の客の迷惑だ」

 

 

 

 

脳天に、鈍い痛みが走った。

 

 

「いっっっっっっっっ!?!?!?」

 

 

 

思わず頭を抱えて、床に転げ回りそうになるのを堪えた。

 

涙目で靴の音を辿る______いやまて、やけに尾を引くこのゲンコツ......どこかで......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なああああっ!?ミハイル兄さん!?!?ナンデ!?!?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「______なるほど、トールズというとクレアの.......」

 

「そうそう。結構エンジョイしてたっぽいよ。虫は祓ってきたし」

 

「......深くは聞かないことにしよう」

 

「ほんと、"クレア"って何者なんだろうなぁ.......」

 

 

.......ひとまず、ミハイル兄さんに事情を説明した。そっちも、銃のメンテナンスで、TMPのお昼休憩に立ち寄ったらしい。

 

そっかー、でもじゃあ、

 

 

 

 

 

 

 

なんで俺、二回もゲンコツ落とされたんですか???

 

 

 

「......ええい、そんな目で見るな!こちらが悪いことをした気分になってくるだろう!」

 

「事実殴った方が悪いんだろ!か~な~り~痛かったぞ!?」

 

「開き直るんじゃない!大体、なんでセントアークにいたはずの......」

 

 

 

ミハイル兄さんが「大体~」というと、99.9%話が長くなる。この話題はできれば避けたいところ......

 

 

 

「あ、都合が悪くなったから話そらしたよミハイル兄さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________なあ、マキアス!話逸れたよな!!!」

 

「え。」

 

 

 

というわけで、イケニエになってくれよ、苦労人ポジくん!!!

 

 

 

「い......いや、僕に話をふらないでくださいよ!!!」

 

「貴様、一般人を巻き込むなと何度言えば」

 

「一般人じゃありません~友人かつ依頼人の家族ですぅ~」

 

 

 

だんだんミハイル兄さんの「カッコイイ常識人」のフリが剥がれてきた。今にも、ぐぬぬって声が聞こえてきそうだ。ここからが面白いところではあるんだけど。

 

 

 

「......まあ、この辺にしておこう、ミハイル兄さん」

 

「......ああ。そうだな」

 

 

 

マキアスの手を引いて、そそくさと武器屋を後にする。

 

 

ばたん。

 

扉を閉めると、なにも言わない俺たちにマキアスが問いかける。

 

 

 

「なんというか、やけにあっさり終わりましたね?」

 

「いやいやいやマキアスくん!店主の、顔!見てなかった?」

 

 

 

アレは完全に獲物を見つけた魔獣の顔をしていたね、あぶないあぶない。

顔が地元の薬屋のおっちゃんなら、あと一歩遅かったら首根っこつかんで、店先に吊るされるところだった。

 

 

「完全にマークしたぞという顔だったな......次から入りづらくなってしまったぞ」

 

 

 

頭を抱えるミハイル兄さん。

しょうがないよ。自分でいい加減整備しろってことさ。

 

 

 

「にしても、本来の目的は果たせなかったなぁ。どうする、アイスでも食べに行こうか?」

 

「それなら、お詫びとして私が奢ろう。ドライケルス広場の店で良いか?」

 

 

 

するとマキアスは顔を輝かせる。やっぱり夏のアイスはみんな好きだよね!

 

 

 

「よっしゃ、んじゃあ俺ツインで、味は______」

 

「貴様は自腹だ」

 

「え!?あ、そうだ、シェーマは......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、え......?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______いやな、よかんがする。

 

 

 

 

「どうした、いきなり黙って。往来で立ち止まったら迷惑だぞ」

 

 

 

「......ちょっと......探してくる。すぐ戻るから!」

 

「えっ、ちょっと、アルマさんっ!?」

 

 

 

Uターンし、人混みを掻き分ける。取り合えず、来た道を戻って......

 

 

ごったがえす人に押され、思うように進めない。クソ、どこではぐれた?

 

大通りに入る道とはいえ、こんな_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ、どうして、今日、こんなに人が騒がしいんだ?

 

音......?

 

なにかが弾けたような......花火、にしては......

 

 

 

 

 

 

 

「______いま、何かクレア姉さんが選んだカチューシャが横切った気がする」

 

 

不意にそんな気がして、辺りを見渡せば、栗色の髪が、ひとの隙間から見える。

 

 

 

「シェーマッ!!!」

 

 

 

すぐ見失ってしまいそうだ。にしても、満員のトラムでもここまでじゃないと思うんだけど......

 

 

 

 

 

 

「......っは、見つけた!シェーマ、こっちだ!」

 

 

一際低い背に、剥がれかかって垂れている包帯を目印に、手を伸ばす。

 

 

「ある......ま......?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掴んだ。

 

確かに、そう思った次の瞬間には、景色が横向きになっていた。

 

 

 

肩に痛みが走り、一気に空気が肺から押し出される。

 

 

 

「ゲホッ、がっ......はぁっ、はぁ......!」

 

 

 

体と地面が接しているところから、チクチクとなにかが刺さっている。小石だ。

 

周りの空気がゆらゆらして見える。頭を打ったのか?

 

 

 

 

 

______いや、ちがう。

 

 

 

 

 

「火元から離れろ!」

 

 

「なにがあったの!?」

 

 

「通してくれ!」

 

 

ようやく耳が、通行人の声を拾うようになった。現場から逃げ惑う人、現場に向かう人、双方が足止めしあっている。

 

 

 

「......どう、なってるんだ?」

 

 

 

丁度衝撃の中心から、数メートル離れた辺りに、人だかりが輪のようになっている。

 

 

「逃げて」

「助けてくれ!」

「熱いよぉ、怖いよぉ......!」

 

 

パニックで、みんな、どんどん思考が短絡的になっていく。

 

騒動で人がはけて、取り残されるように、シェーマはそこにいた。

 

スカートが煤で汚れ、包帯が取れかかっていた。

 

 

ただ、ぼうっと、火の粉を散らす建物を見つめている。

 

絵か何かのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______その日、帝都遊撃士ギルドは燃えた。

 

 

キリキリとうごめく歯車の音が、今でも、いつまでも、脳裏にこびりついている。

 

 

 

 

 







ふざけたりない気持ちと、せっかく事件を起こしたならシリアスにしたい気持ち......

自分が二人いる......
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