リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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脱出、そして〜

 

 

 

切るより、突く。

 

 

シェーマの暴れる隙を縫うように、自分に、相方に届きそうな攻撃を妨害して、すぐ戻る。

 

 

 

「……!シェーマ、危ない!!!」

 

 

 

柱が燃え落ち、頭上に落ちてくる。

 

アーツで打ち返す?いや、間に合わない!

 

 

 

「邪魔…!」

 

 

薙ぐように腕を振り、傀儡がその軌道をなぞる。燃えた柱ごと断ち切られ、大きく破損した機体を、修復しようとし始めるが、駆動しておいたアーツで、回路をショートさせる。

 

しっかし、いくらやってもキリがないというか……

 

そもそも、俺の戦法としては、中上位アーツで仕留め損ねた敵を、ナイフを軸に凍らせるのだが、

 

 

 

 

 

STR(腕力)なさすぎて、機械人形に刃すら立たないんですけどォ!?

 

 

……これって、俺がおかしいのかなぁ……

 

 

普通に考えて、薄い金属の板ならまだしも、何をどうやったら、()()とかいう意味わからない物で、10リジュ以上の金属塊をぶった斬れるんだよ!

 

俺だけが体力を消耗する上、その数はどんどん増えていく。

 

 

 

「ジリ貧……おい、シェーマこうなったら一点突破しか……ぐぅッ!?熱、しまっ、!、完全に分断されたっ……」

 

 

もう攻撃をかわすので精一杯。

そのために必要なスペースだって、どんどん崩落で狭まってきている。

オーブメントの充電は……残り三分の一……

 

 

 

きっと、ターニングポイントは、ここだ。

 

 

「頼むから、物理だけじゃなくってアーツ防御も施された謎人形でありますように……!!!」

 

 

6ついているスロットのうち、半分を占める駆動系のクオーツを全て外し、アーツ発動の準備をする。

そのまま、全力で物陰に隠れながら、遠くへ、遠くへ、出来るだけ攻撃が当たらない範囲へ!

 

(相手はホバーしている、生半可な切り返しはこっちが体力を喰うだけだ……段差も使いながら……!)

 

小さく音が鳴り、セットしていた水アーツの駆動が完了した。

 

 

そこで、残りつけていた身体強化用のクオーツを外し、全てアーツの威力が上がるものに組み替える。

急にガクンと体が重くなるが、構わない……新しくはめたクオーツをなぞり、()()()()させる。

 

……今の付け替えで、だいぶ距離を詰められた。ここからはARCUSの戦闘補助も見込めない……

瓦礫を伝い、階段のようになったコンクリートを登って、屋根の上に登る。

 

 

手は煤だらけ、そもそもオーブメントの補助がなかったら貧弱なもやしっ子だ。肺の中が、むせ返るように熱い。火の粉が舞って、体の表面が焦げているようだ。

 

 

 

 

「ゲホっ……、ぅ、はぁッ、〜っ、ここ、なら……!!」

 

かろうじて辿り着いた、とある高いビル。マンションか……?電柱を伝い、整備用の梯子を登って、3階部まで登ってきた。

呼吸を整えつつ、駆動を待つ。

 

しかし、こうして全体を俯瞰して見れば、なんと酷い有様なのだろう。

もう周辺に住民はいない。とっくに逃げ遅れたのは、俺たちだけだ。

無人の街を、機械人形が徘徊する……炎さえなければ、今の帝都が、廃墟だと言われても、俺は信じる自信がある。

 

……それにしても、いつもより大分駆動が遅い。手数を重視した戦い方に頼りすぎたか。それとも俺の腕前不足か……進行状況を知らせるゲージは、まだ7割未満だった。

 

 

「……ッ、クソ、早くしないと、シェーマが……!」

 

 

 

 

焼け落ち、倒れていく家屋。

 

 

歯を噛み締めながら、ARCUSを握りしめる。

 

 

 

 

 

______頼む、頼むから早く……!

 

 

 

 

窓の外から歯車の音が聞こえる。

 

こちらの居場所を察知したのだろう。

 

……正直、今のバフ無しの状態で、かつアーツ無しの俺なら、串刺しにされておしまいだろう。

 

 

詠唱完了まで85%……

 

 

 

88……

 

 

90……!

 

 

 

 

 

 

 

 

95……

 

 

 

 

96…………

 

 

97…………

 

98…………

 

 

99…………

 

 

 

 

「100っ……いける……!!」

 

 

構える。

 

 

高位アーツの威力に必要なものは、、詠唱する魔法の階級、本人の適性、技量、

 

 

 

そして……集中力。

 

 

 

 

息を吸う。

 

各種パーツ、問題なし……目標点は、俺を中心に、戦域全体……!

 

 

 

オーブメントを発動させようとした。その時。

 

 

 

 

きゅる、きゅるきゅると、後ろから音が迫ってきたと思えば、がしゃん、と大きな音がして、鉄製の扉が破られる。

 

 

_____建物の中から……!?ホバーの高さが足りないからって、ドアをぶち抜くなんて!!

 

いや、そこは大した問題じゃない、むしろメインは……

 

 

 

 

(的が……ズレる……っ!?)

 

 

 

ここまで時間をかけたのだ。同じくらいの猶予を、もう一度作り出せる気はしない。

 

しかし、発動する前に術者が殺されてしまえば______

 

 

(どうしようどうしようどうしよう……!?でも、やらなきゃ、シェーマが……!)

 

 

(いやだ、まだ、死にたくない……)

 

 

(せっかく、ここまで来られたのに、ようやく、ここから始まるのに……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらなきゃ、やるしかないんだ……」

 

 

 

頬をつねり、両手で叩く。

 

涙で視界がぼやける。

 

いい、泣いたって良い。いま格好をつける相手なんて、どこにもいないんだ。

 

 

 

「二人死ぬくらいなら、まだ、俺一人の方がマシに決まってる、それに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______一度クレア姉さんに、“面倒見る”って啖呵切ったんだ!ここで保身に走って引けるかってんだ!!!

 

 

 

「はぁああああっッ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【グランシュトローム】ッ………!」

 

 

 

 

アーツの駆動完了を知らせる、青白い光。

 

遠い場所に座標を指定したため、射出する勢いで仰向けにぶっ飛んだ。

 

 

「ガッ……っ……ぁ………っ!フーッ……っ、」

 

 

 

床に強く胸を打ったらしい。

 

 

 

 

 

 

…………呼吸がうまくできない。

 

 

 

 

 

視界が、ぼやけて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぐるまの、おと……、が……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー ー ー ー ー

 

 

 

その日、トールズ士官学院中を、帝国を揺るがす、大きな事件が起きた。

 

 

新聞の夕刊、大見出しは【帝都ギルド支部、大爆発!?】。

 

すぐ隣の街で、それもエレボニア帝国の中枢である都市で、大規模なテロ事件が起こっていたのだ。

 

 

あるものは怯え、悲しみ、ある者は身内を案じ。またあるものは、大きな事件に不謹慎にも心を躍らせている。

 

 

 

クレア・リーヴェルトは、急ぎ帝都行きの列車に飛び乗っていた。半ば担任に叩きつけるように提出した、外出延長願い。本来当日での受理は認められないが、粋な計らいに、今回は存分に甘えさせてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

各種トラムなどの交通網は麻痺しており、徒歩での移動を強いられる。どうしても早足になり、息も弾む。

そうして見つけた情報をもとに、欲しいものへの道筋を確かめていく……

 

 

 

 

 

そうして、“目的”にたどり着く頃、嫌な予感は確信に変わっていた。

 

震える声で、受付嬢に尋ねれば、あっさりと案内してもらえた。中にはもう、すでに誰かいた。

 

 

 

「______遅かったね、【氷の】お姉さん」

 

 

深い青の髪の少年が、ライフルを抱えて、“彼”の枕元に立っていた。

 

 

「ざっくり、金髪の憲兵さんから話は聞いてる。確か、コイツの姉……だっけ?」

「……っ、血のつながりは、ありません……それより、貴方は……?」

 

 

すると、驚いたような顔をして自分を見る。そして、つま先から頭までゆっくりと眺め、やけに納得した表情で言った。

 

 

「そっか。おねーさん、まだ正式に加入してないんだもんね。それなら無理ないや」

 

 

「彼、街全部をアーツで消火したんだって。しかも、両方……」

 

「空恐ろしいよね。こんなの、ただアーツの適性があっただけじゃ済まされないよ」

 

 

 

世の中には、人、魔獣の数だけ戦場があり、それぞれ暗黙の了解である“戦域”が定義されている。それは、連携のとりやすさだったり、あるいはその一線を用いて交戦、または敗走の基準をわかりやすくするためだ。

 

そして、今回アルマ・カントゥータが発動したアーツは、戦域全体を指定した。

 

威力で言えば、たったポツポツとした雨垂れ程度だろう。威力で言えば、帝国全土を探さずとも、上がごまんといる。

 

問題はその範囲と、継続時間。

 

 

 

(……既存のものでは、ここまで大規模な魔法を発生させる装置はついていないはず……彼独自のカスタマイズ?いや、最新型……エニグマでも、範囲、ましてや継続時間なんて操作できない……そう、アーツは一発逆転の手段、継続性は重視されない……それでは………。………まさか______ッ!?)

 

 

クレアの思考の答えは、アルマの右手にあった。ガッチリと握り込まれていたが、指の間から無骨なネジや、鈍色のカバーが覗いている。

 

加えて、彼の所持していたポシェットから、無造作に取り出されている、色とりどりの宝玉。どれも診察に用いられたであろうそれは、クレアの既知とは大きく外れていた。

 

 

「新……型……?」

 

 

ライフルを携えた少年は、無表情のままうなづく。クレアが触ろうとしたオーブメント……試作のARCUS。それを、少年は遮った。

 

 

「な、なんで、アルマくんが。こんなもの……プロトタイプ……帝国で作られた……ラインフォルト社?安全装置は……!?」

 

「オーブメントは、使用者と機械を霊的にリンクさせる……いまは、過度に繋がりが強くなっているって、お医者サマが。」

 

 

つまりそれは、無理に彼からオーブメントを引き剥がせないことになる。その証拠に、指を引っ張ろうとすれば、アルマの手に力は入っていないのに、機械が霜焼けになったように離れない。

 

 

 

「……もしかしなくとも、原因は大規模アーツの行使でしょう。考えるに、結晶回路で規定されていた規模、持続時間を無理やり伸ばし、オーブメントの導力が切れ______」

 

「うん。きっと、このオーブメントが、精神力、体力、気力……その類を補填として根こそぎ持っていった。不自然なほど強固な霊的リンクの強まりは、異物を無理やりやり取りするため……概ね、考えは一致したかな?氷のお姉さん」

 

「……ぅ、ぁあ……なんて、こと……どうして……」

 

 

 

クレアは項垂れる。数日前には、自身にあんなに嬉しそうに話しかけていたのに。まるでお兄ちゃんになったみたいだと、そう笑っていたのに。

 

それならば無理を言って、しばらくトールズの寮にでも泊めて仕舞えばよかった。いや、そうでなくとも、もっと自分が気にかけてあげるべきだったのに。まだ日曜学校の中等部に通っている年齢で、帝都の火と、なぜ、なぜこの子が引き換えにならなければいけないのだ……!

 

 

悲しみと怒り、それ以上に無力感が、クレアの全身を支配する。

そんな彼女の耳に、かたりと、戸の動く音が聞こえる。

 

急いで顔を取り繕った。

少年は、そんな取り繕う前の顔を見て、心の中でニヤリと笑う。

 

 

「……どなたでしょうか、空いてますよ?」

 

 

戸の向こうの影は、躊躇ったように立ち止まり、その後、何処かに駆けていくおとが聞こえる。

 

 

「えっ……?え、えっと……」

 

 

ひとしきり思案した後、まだ小さく、パタパタと響く足音を、クレアも追いかける。

 

 

 

 

 

 

ある点で、足音がやむ。曲がり角に、小さな茶髪の女の子が、うずくまっていた。数日前、彼が連れてきた、「迷子」だそうだ。

一緒にいたであろうシェーマが無事だったことは、少なくとも、クレアが落ち着きを取り戻すくらいには、喜ばしいことだった。

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は、あるま、の、お姉さん?」

 

「……一応、姉ではないのですけれど……」

 

「それなら、これを、あるまに、渡しておいてほしい、ですの。……かえる、ですの」

 

 

 

少女はクレアに、何か紙を押し付ける。それは、病院で配布しているメモ帳に、何か、ボールペンで書いてあった。

 

あいにく彼はまだ起きていない。内容くらいは確認しても構わないだろうか……?

 

 

 

 

 

『あるま へ わたし は いなくなりたいです 。 ひとりでも できるです。 あるま よわすぎる だめ。 おくすりのんで ねてね あるま わるくない ですの』

 

 

 

酷く、嫌な予感がする。

受付に聞き込み、真っ直ぐに入口へと走る。

 

 

 

 

 

 

……すでに、外の広間では騒ぎが起きかけていた。

 

 

「な、なんだ!?あの黒と緑の……!?」

「知るか、逃げろ逃げろ!」

 

「……シェーマちゃんっ!?な、何を……」

 

 

クレアが目にしたのは、黒い傀儡に寄りかかる少女。

 

流動的なフォルムに、所々、ネオンのように光る、緑色のライン。仕切りになにか、理解できない言葉を話し、腕とよべるか怪しい、左右対称のユニットは、薄く光る刃を携えている。

 

 

 

 

「サリドマイド、離陸準備を……」

 

 

 

ヒョイ、とそれにのったシェーマは、無機質な声で指示をする。辺りを見渡し、離れていこうとしないクレアを見て、上昇を止めさせる。

 

 

 

「シェーマ、ちゃん……?それは、いえ、危ないです、降りてきてください!」

 

「……シェーマは、悪い子ですの。……聞く道理なんて、無い」

 

 

 

そういえば、あっという間にシェーマを乗せて、傀儡は上昇していく。

 

やがて、肉眼では見えないほど空へ舞い……そして、消えた。

 

 

 

「そ、……そんな、あんな……ッ……」

 

 

 

 

絶望に打ちひしがれるクレア。

 

______なぜあんな小さな子供が、悲壮な覚悟を決め、孤独に生きることを選ばなくてはいけないの?

 

______なぜ、なんで罪のない人の日常ばかり奪われなくてはいけないの?

 

 

 

 

 

 

 

そんな様子を、少年は窓から眺めていた。

二階にいるからこそ、クレアより長い時間シェーマを捉えることができた少年は、コンパスで方角を確認する。

 

 

 

「大丈夫なの?」

 

 

少年は尋ねる。

 

 

過度に消費したバイタルは、補填できているのか。

姉と慕う人を、見守るということを、諦めるのか。

 

 

どちらにしたって、後悔はつきまとうだろう。

 

その覚悟は、できているのか?

 

 

 

 

「……クレア姉さんは、強いから。それに、学校にも頼りになりそうな人が、沢山いるみたいだ」

 

「______強く、なりたい。クレア姉さんを、心配させないくらいに、シェーマの手を握って、置いていかれないくらいには」

 

 

 

はぁ、とため息をついて、向き直る。

 

 

 

「いいよ、付き合ってあげる。10分後に出発するから準備して。退院手続きはしておくから」

 

「ああ、よろしくな。……あー、えーっと?」

 

 

 

アルマは、体の調子を確かめながら、尋ねる。

数秒のラグを挟んで、ようやく意図を理解したみたいだ。

 

「ああ、名前……不便だしね。素性がわからないと不安か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝国TMP所属、シアン・コバルティア准尉。一応、狙撃手をやってる」

 

「……あ、その関係で、最初に情報局に寄りたいかも……あ、べつに、行きたいところがあったら、後で迎えにいくから。怪我人なんでしょ?」

 

 

 

そう言って少年……シアンは病室から出ていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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