リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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プロローグ

 

 

「ふぁ〜あ、一体いつまで続けりゃ良いんだか……今日までだったわ」

 

 

バキバキの背中をさすりながら、焚き火の様子を確かめる。

昨日の夕食の時に起こした火種が、未だチリチリと燃えている。組み方一つで一晩炎が保つんだから、知っておくべきは有用なライフハックだろう。

 

いくら街で宿を取るのがまずいからって、3日連続の野宿は堪える。

幸い、綺麗な水源も、食料にも困らなさそうではあるが。

 

昨日余しておいたシチューを鍋にかけ、近くの皮で水を汲む。

 

……流石にバタバタしすぎたか、起こしてしまったようだ。

 

 

 

「とっとと顔洗ってこーい」

「……うう……あと、一時間……」

 

「は や く し ろ !!!」

 

 

 

寝ぼけ眼のままテントに戻る少年を、がっちり掴んで、バケツの水を差し出す。渋々身支度を整えて、片付けを始める。顔を突き合わせて三日になるのだが、これが全く、だらしが無いのか、頼りになるのか……掴みどころのないヤツだ。

 

コトコトと、十分に火が通った音がしたので、適当なタオルを手繰り寄せ、鍋つかみにして一度火から下ろす。

残った焚き木で、軽くパンを炙り、水筒に水を詰める。

 

朝ごはんを食べながら、簡易的なミーティングを済ませる。

 

 

「……今日はいよいよ、街の中に入る……ワケなんだけど……」

「そう、貴族の街、バリアハートにね。……なに、なんか問題でもある?」

 

 

「……いや、それで、最初の目的地は?」

 

「【特になし】が目的地。観光客に扮して、ギルドと、敵対組織の潜めそうなところを割り出す……街の外に居なさそうっていうのは、散々確認したし。」

「それで、今回も手口は帝都と似たような感じだろうから______」

 

「______現地遊撃師と協力して……」

 

 

 

「______現地遊撃士に気づかれずに収集をつける。一応僕たちは敵対してるんだからね。それに、自国の尻拭いくらい、自分たちでやるべきだ」

 

「…………そう、だな。それじゃあ、一時間後に出発ってことで」

 

 

 

火をかき消し、食器を洗う。テントのペグを外し、朝露を払ってしまえば、立派なレジャー観光客だ。

武器は念入りに包装して荷物の奥底にしまい、銃器などはなるだけ分解しておく。

 

 

 

「これより、バリアハート市内にて、テロリストの索敵、及びテロ工作の妨害を開始する……初めての任務だけど、よろしくな」

 

「うん、こっちこそ。せいぜい検問から引っかからないように頑張ろう」

 

「……ああ、言われると不安になってきたんだが……」

 

 

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

4日前、帝都、駅前にて……

 

 

「アルマさん……!?よかった、目を覚まして……」

「具合は大丈夫なのか、それより、彼は……」

 

 

心配そうに自分……アルマ・カントゥータを見つめる、二人______マキアス・レーグニッツと、ミハイル・アーヴィング。二人を見つめて、アルマは安心したように笑った。

 

 

「体の傷的には、何ともないらしい。ただ念のため、文字通りこれ……ARCUSは肌身離さず持ち歩けって。具体的には、霊的リンクが外れない距離にってこと」

 

「……っ、それ、は……」

 

 

それはつまり、対症療法でしかなく、現状アルマの体に何が起こるか、全く分からないということ。自分の到着がもっと早ければ、とミハイルは奥歯を噛み締める。

 

 

「えっと……大丈夫とは言わない気がするんですが……」

 

「これで身体的な損傷があったら、どうなるかわからなかったって。よかったねぇー、ボクが()()あそこに居合わせて。」

 

無表情のまま、青い紙の少年……シアン・コバルティアは告げる。シアンはカバンから、一枚の令状を取り出す。

 

 

 

「……命令、オーダーと言った方が、聞こえはいいかな。というわけで、アルマ・カントゥータの【レーグニッツ家出向研修】は早期切り上げ。情報局からの任務に移ってもらう」

 

 

アルマはそれを、何食わぬ顔で受け取る。

了承した、という旨のサインも、既に記入されていた。

 

 

「ってわけで、しばらく連絡取れないかもしれないけど、心配しないでね。ミハイル兄さん」

「……少し待て。……正気か?私の目が悪くなければ、【テロ犯を取り締まる】……それも、2人で……」

 

アルマの手から、ひったくるように、要請書を取り、内容を焼き付けるほど反芻する。

確かに、書類としての体裁は成立している。よくある、先遣隊と違わぬ業務内容だ。

 

問題は、本人たちの安全が一切考慮されていないこと。有り体にいえば、【捨て駒】となることが、直接的ではないが、明確に書かれていること。

 

 

 

 

 

 

 

「それでも、行かなくちゃいけないんだ」

 

 

 

 

 

 

アルマはミハイルから、書類を奪い返す。

 

 

「……そうじゃないと、きっと……シェーマのいるところには、追いつけない……」

 

「……アルマさん……っ」

 

 

マキアスの目には、どうしても彼が焦っているようにしか見えなかった。無理もない。どんな経緯があったかは全く知らないが、少なくとも共に過ごした数日、マキアスはシェーマを妹のように世話を焼いたし、それもアルマは同じだろう。

 

 

「まあ、死ぬとしたらアルマだけだからね。せいぜい、女神にでも祈っておいて貰えば?」

 

飄々とした顔でシアンが吐き捨てる。ふざけてアルマも「エイドスよ……」と両手を組むが、残される方からしたら、たまったものではない。

 

 

「ま、つーわけで、東側には居ると思うってことだ。ちょっと尋ねたい人もできちゃったしな……」

 

 

思い浮かべるのは、金髪白コート、爽やかな風が似合いそうな、アーツ使いの遊撃士。今回のテロ襲撃事件、帝国ギルドに属するものなら、大抵関わってくるだろう。彼が拠点にしているらしい、レグラムにも、寄る機会はあるだろう。

 

 

「それは……いいや、これ以上は、野暮というものか……」

 

「話が早くて助かるよ、あはは、こんな調子じゃすぐミハイル兄さん、昇進して仕事漬けになりそうだな、今から弟分としちゃ、心配でならないぜ」

 

「貴様はまず、自分が生きて帰る心配をしろ!」

 

 

そういうと、ミハイルは思い切りアルマの頭に、拳骨を落とす。頭をさすり、涙目の彼を、そのまま改札の方へ押してやる。

 

 

「……未熟としか言いようのないやつだが、せいぜい頼む、コバルティア准尉」

 

「さーあ?それこそ他作戦の進行度が……それも情報局方面のを知りたいんだったら、昨晩も言ったけど、早く昇進することだね。ボクからは、それしか言えないし」

 

「……肝に銘じておこう」

 

 

駅のアナウンスが、列車の到着を告げる。短い距離とはいえ、各駅停車で、あまり本数もない。先に乗客が少ない列車に飛び込み、周辺に人がいないことを確認して、アルマは振り返る。

 

 

 

「……ミハイル兄さんっ!!!」

 

 

マキアスを連れて、駅を出ようとしていたミハイルが、足を止める。驚きつつも列車内のアルマへ体を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………クレア姉さんによろしく伝えておいて!!!」

 

「マキアスも、元気で。それじゃあ!!」

 

 

 

蒸気を吹いて扉は閉まり、汽車は動き出す。

 

あっけに取られたミハイルと、マキアスが、人の少ない駅のホームに取り残された。

 

 

 

 

(……あんなに笑顔で……こんなの、クレアに、どう伝えろって言うんだ……!それに______)

 

 

どうにも引っかかる。シアンが言うに、“情報局の”任務だそうだが。

 

勝手に情報局入りしていたことはさておき、必ず命令状の類には、命令した人と、それを受ける人が書かれているものだ。それが……

 

 

 

(……気のせい、か……)

 

 

 


 

 

 

 

 

貴族の街……又の名を、翡翠の都、バリアハート。

アルバレア公爵家が統治し、職人による繊細な工芸品や、その名の通り、貴族の住居が多く構えられている。

 

 

「シアンは、来たの、初めてだったりするのか?」

 

 

青い髪の少年は首を横に振る。昨晩、街の中の地図は頭に叩き込んでいたらしいが、それとは別に、食い入るように観光者向けの案内マップを見ている。

 

 

「そっちは?」

 

「あー、親の付き添いで一回だけ。といっても、本当に職人街の方しか知らないぞ?」

 

「知り合いとかは?」

 

「向こうが覚えているかわからないくらいだな……本当に、少し待ち時間に遊んだくらいなんだ」

 

 

マップを手帳に写し終わったシアンは、それをしまい、手を引いて歩き出す。

 

 

「まあ、大人の人が覚えていてくれると良いんだけど。足がかりっていう面でさ。あー、でも、職人街かー……」

 

 

シアンは早足になる。一度横に並んでから、手を振り解いた。憂鬱というか、面倒くさそうな顔をする理由を探せば、一つだけ心当たりが思い浮かんだ。

 

 

「そういや、あったな。遊撃士協会。こんな、いかにも召使がなんでもやってくれそうな街に必要なのかって思うんだが……」

 

「それこそ、平民が理不尽をふっかけられた時の助っ人じゃないか。いかにも、正義の味方がやりそうじゃない?」

 

「だからどうしてお前はそんなに、遊撃士への当たりが強いんだよ……」

 

 

石畳の道を、支える籠手の紋章は横目に通り過ぎる。

 

それにしても、小さい頃はかけっこや草花遊びに高じて気が付かなかったが、セントアークとは別の意味で、貴族の街、という感じだ。

 

セントアークは管轄しているハイアームズ閣下の性格が反映されているように、平民と貴族の、棲み分けこそ形式的にされてはいるが、本質は【芸術の都】だ。美しさ、或いは素晴らしさの前では、全てが等しく、また、各々の個性……色も、【貴】ぶべきである。すくなくとも、俺は、親父やハイアームズ侯からそう教わってきた。観光客や、軍の反感、各種犯罪の予防で棲み分けが為されていると言えるだろう。

 

対してバリアハートは、【貴族の】街。装飾品工業、仕立て、飲食店や街並みに至るまで、貴族の生活、嗜好のために存在している。また、生半可な物を差し出すわけにはいかず、それによるプライドが、バリアハートという街自体を、貴族御用達……高級ブランドとして格付けている。

 

 

「あ、待ってくれ、ちょっと工房に寄りたいんだが……あ、あそこだな」

 

「へえ、何するの?」

 

「バリアハートの七曜石は、どれも品がいいからな。加工した破片辺りでも良いから、少し実験したいことがあって。」

 

「それなら宿に荷物置いてからで良い?流石にこれは目立つ」

 

 

そう言って、少年は背の荷物を指す。

分解こそしてあるが、何か棒がリュックから飛び出ている。カバーで隠してはいるが、率直に怪しい。

 

 

「ところでそれ、すごく大きいが、どういう物なんだ?導力銃……だったよな」

 

「あー……うん。簡単にいうと、アハツェンをブチ抜けるライフル。______やべ、口滑らした」

 

 

うっかり、資料で見た某主力戦車の名前を口にしてしまった。つい最近、軍人入りしたアルマにとっては、あまり聞き覚えがないが、正直開発中であり、軍事機密中の、トップシークレットだ。シアンがそれを知ったのも某博士の気まぐれ……。漏れたことが知れれば、自分の首が……そうでなくとも、明日の食い扶持が怪しいことはわかっていた。

 

 

「アハツェン?」

 

「……まあ、デカい分強い銃って事。で、宿ってどっちだっけ」

 

「ああ、コッチだが……それよりアハツェンってなんだ?」

 

「だめだめ、そんなこと言ったら、ボクがアハツェンに吹き飛ばされちゃう」

 

「ずいぶんすごい人なんだな?そのアハツェンって人。」

 

 

アハツェン、とアルマの口から名前が出るたび、シアンとしては一時間ずつ寿命が削れる心地だ。強引に口を塞ぎ、宿酒場のドアを開けて、そこにアルマを蹴り入れた。

 

 

「……もうそういうことで良いから、その名前を呼ばないで……はい、早く宿に入る!!!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ゴツゴツした岩肌。標高も高く、薄寒い獣道で、少年は、ひたすらに剣を振っていた。

 

 

「……せいッ……やぁっ……!」

 

 

一度剣……東洋の得物である、【太刀】を鞘にしまい、枯れ木に向かって技を放つ。

 

 

 

 

「……弐の型……【疾風】……っ、」

 

 

「あっ!?」

 

 

 

一段、二段と斬撃が走ったが、悪すぎる足場にバランスを崩し、減速。そのまま尻餅をつくように、型を途中で乱した。

 

 

 

(風のように、瞬く間に斬撃を走らせる……突風のように突くのではなく、柔風のようにすり抜ける……また、できなかった……)

 

 

「……はは、老師の言うことは、難しいな……」

 

 

日を見れば、大分熱中していたようだ。もう落ちかけている西の空を見て、改めて納刀する。このまま下山する気にもなれず、硬い山道に寝そべった。周辺の魔獣は追い払ってあるし、襲撃の心配はなさそうだ。

 

 

(将来の進路……良い加減、みんなにも話すべきだろうな……わがままを言っているのは承知、だが……)

 

 

 

運動で火照った体、それに心地よい疲労感。

 

平時には上着が必要な涼しさが、優しく鍛錬後の少年を労るようで……

 

 

 

(いずれ、向き合わなくては……おれの、この、……ちから、とも……)

 

 

そっと瞼が、それでいて固く閉じられたことを確認して、少女は物陰から顔を出す。

 

 

「……理解不能、ですの」

 

 

 

こんな場所で眠るのも。家があるなら、帰って寝れば良い。

 

なぜ思い詰めたように剣を振るのかも。自衛のために十分な力はあるのに。

 

里で疎まれている様子はないのに、人目を、人を避けるように、この厳しい環境に身を投げるのも。

 

 

 

「______あなたは、いるべき場所があるのに……わたしは、わたしは……」

 

 

 

思い浮かぶのは、何も無い虚無。確かに覚えているのに、過程を再現するために、幾度となくリセットされた自分の記録。

 

今の状態の方が、自分に満ちているものが、例えマイナスだったとしても、いくらかマシだ。

 

やるべきことはわかっている。

 

 

 

 

ー ー ー ー ー ー 

 

 

 

“記憶と感情というものは、濃く、密接に絡み合っている”

 

“そして、人は、失ったものほど濃く記憶に残るものだ。絶対値が高いほど、一度吸った甘い蜜に、幾度となく手を伸ばそうとするそうだ…………”

 

 

“______良いデータを、期待しているぞ?”

 

 

ー ー ー ー ー ー 

 

 

 

フラッシュバックするのは、緑色の髪の少年。

 

自分を、目覚めさせた人は数え切れないくらいいるだろう。

 

それでも、自分のために怒り、服を与え、頭を悩ませたのは、彼だけだった。

 

私の、手を引いてくれたのは。

 

そう、彼だけ。

 

 

 

彼以上に大事なものなんて、出来たことがない。

 

その褒賞に、望むものは、とっくに手に入ったじゃないか。

 

 

 

目の前で寝そべる、黒髪の少年。

 

大切なものと、何一つ似たところがないのに、彼の面影を想起してしまう。似ているのは、せいぜい紫色の瞳だけだというのに。その瞳だって、太刀使いの彼の方が、ずっと澄んでいる。どこかギラギラしている“彼”とは似つかないだろう。だから、だから______

 

 

 

「違う、違うちがうちがう!!!……そんなのじゃ、……大事なんかじゃない……、わたしの、大切なんかじゃ……!!!」

 

「そう、だから始末する必要なんてない、そっと、元あった場所に戻してあげれば良いだけ……」

 

 

 

パチリと指を弾き、彼女の半身を出現させる。

 

そのまま、自分と少年を乗せて、麓まで山道を滑空する。

 

 

落ちないように、軽く腕を添えるだけでも、いやでも少年の寝息が聞こえてくる。

 

それと一緒に、確かに彼を生かしている、脈の流れも。

 

 

 

(……心臓……うごいてる……私とは、違う……)

 

 

後ろに倒れてしまいそうな、ぽっかりと穴が空いた気持ちで、戦術殻を走らせる。支える体は、まだ仄かに熱を持っていて……。

 

…………雨に打たれた人間が、あれほど冷たくなれるなんて、知らなかった。弱った体は、目も開かない、攻撃に抵抗もしない、口も開かない……

 

どうしようもなく、恐ろしかった。

 

数時間まで前まで、在ったものが、虚空に消えてしまいそうで。

 

 

 

整備された道に入れば、魔物を索敵する必要もなくなり、それほど時間もかからず、麓にたどり着いた。

 

眠ったままの少年を、魔物が寄り付かず、かつ、自分が里から見つからない位置にそっと下ろす。

 

 

 

 

「…………」

 

 

そのまま、戦術殻に反転の指示を出す。

 

何も、起きてほしくなかった。

 

自分も、食こそ必要はないが、夜を明かす準備は必要だ。適当な場所を探さなくては。

 

しかし、少年を起こさないように、ゆっくり立ち去ろうとしたのが、仇となる。

 

 

「……あ、れ……おれ、は……貴女、は……?」

 

「……!サリドマイド、出発して。」

 

 

黒髪の青年が、寝ぼけ眼で辺りを見渡す。曲がりくねった山道の奥に、少女の足が消えていくのを確認すると、一気に意識は覚醒した。

 

 

「もうそろそろ日が落ちる……迷い込んだのかな……追いかけようか?」

 

 

山に入る準備は整っている。少し寝たおかげで、体力もばっちり回復した。

その答えは「Yes」以外、存在しない。

 

 

「魔獣も徘徊してくるころだろう……一人だと、危ないよな」

 

 

太刀を抜き、急いで山道を駆け上がっていった。

 

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

そんな参道での追いかけっこを、見つめる影。

 

青い扇を片手に、その様子を伺っていた。

 

 

 

「っ……はぁ、はぁッ、良い加減話を聞いてくれ!夜の山は危ないんだぞ!?」

 

「話を聞かないのは、そちらの方……ッ!」

 

 

 

黒と緑の傀儡を操る少女は、単純な速さ比べだと部がないと分かったのか、徐々に浮上しだす。

 

しかし、地の利を存分に活かし、少年も食らいつく。

 

 

 

(確か彼は……いえ、そっちよりも、地精の手先を捉える方が先……かしら)

 

 

浮遊し、数々の物理現象を無視するソレの存在は、自分の故郷から盗まれた技術が、密接に関わっている。

長年姿を表さなかった、彼らの一族が、まさに出てきたというなら、またとない好機。

 

 

 

 

「……ふぅ、ここまでだな。流石にここから先は文字通り崖だから、勘弁して、村まで降りてきて欲しいんだが……」

 

「……ッ、それは……」

 

 

警戒する様子の少女に、刺激しないように、優しく語りかける。

 

 

「別に何か悪いことをしようってわけじゃないんだ。でも俺も、流石にエリゼくらいの歳の子が、山をうろついてるのは、心配ってだけで」

 

「それなら、不要な心配ですの。」

 

「いや、そうじゃなくてな……」

 

 

 

 

サッと扇を振り、ポイントを指定する。

 

目論見通り、少女の真横に転移陣が出現した。

 

 

「あら、こんな所にいたのね?」

 

 

驚いた二つの顔が、顔に飛び込んでくる。

 

 

「な、な……えっ!?!?」

 

「ふふ、良いリアクションね。これなら、次の公演も上手くいきそうじゃない?」

 

「こ、公演!?いやでも、今、何もないところから……!」

 

 

あたふためく少年と、少女の間に入るように立つ。

少女の方は、まだ状況が理解できず、口を閉ざしたままだ。

 

 

「うふふ、実は私達、姉妹で手品をしながら帝国を旅しているの。今は修行の一環でね、山籠りって知ってるかしら?」

 

「手品で、山籠り……???」

 

「これでもかなり体力が必要なのよ?なのにこの子ったら、筋トレが嫌だからって逃げ出すし……ともかく、連れてきてくれてありがとうね、僕。」

 

「は、はあ……」

 

 

黒髪の少年は、どうにか丸めこめた。あとは、本題だが……このまま連れていって仕舞えば、どうとでもなるだろう。

 

あとは、少年が立ち去れば……

 

 

 

 

「______……俺の名前は、リィン……リィン・シュバルツァーだ。今日は、追いかけ回してごめんな?それと、俺を麓まで連れていってくれたのは、君だろう?」

 

 

少年……リィンは、膝をついて、目線を少女に合わせた。少女は、こくんと、首を縦に振る。

 

 

「その、わたし……は……」

 

「あはは、実は、途中ぐらいから、夢現ではあったが、意識はあったんだ。まるで鳥みたいに街道を通り抜けていっただろ?まるで絵本で見た魔法みたいだな、って思ってたくらいだけど、手品だったんだな……正直、とても驚いたよ」

 

「……ぁ……」

 

 

何度も山を往復させられ、挙げ句の果て、勘違いだと告げられたとしても。リィンの目は、真っ直ぐに少女を捉えて、微笑んでいた。

 

 

 

「……それじゃあ、元気で。ぜひ今度はユミル……下の里にも。興行、俺も応援してますね」

 

「ええ、ありがとう。君も、帰りは気をつけてね。さ、帰りましょ」

 

「ぇ……でも……」

 

 

ここまで愚直に信じているのか、はたまた、わかっていて、話を合わせているのか、少年は身を引き、踵を返す。

少しの罪悪感もないかといえば、嘘になる。

しかし、目的は手に入った。

 

それならあとは、この子を連れて帰るだけ。例の候補の選定に、すること自体は山積みだ。早く済ませないと……

 

 

 

 

「……ぃん、……わた、し……は……」

 

 

少女が、少年の背に、手を伸ばす。

 

そのか細い声を聞き取ったのか、少年は、後ろを振り返る。

 

 

 

 

 

「リィン、わたし、の、なまえは……」

 

「……シェーマ、シェーマ・オライオン……!」

 

 

駆け寄って、彼の袖を引き、耳打ちする。

 

 

「ねえ、リィン、わたし、ホンモノの魔法使い、知ってる」

 

「______ぇ、」

 

 

目を見開くリィンに、シェーマは、小さな声で囁く。困惑しているが、それを解きほぐす時間なんて無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______いつか、わたしのことを、さがしにきてほしい、ですの」

 

 

 

 

「……!それって、どういう……」

 

「そうしたら……会わせてあげなくもない、ですの」

 

「その、本物の、魔法使い、に?」

 

 

肯定。頷き、続ける。耳打ちはもうやめていた。

 

 

「雨を降らせて、風をあやつって、街を救った、ですの」

 

 

声こそ小さいが、自慢するように話すシェーマ。リィンも、真剣に耳を傾けていた。

 

 

「それは……すごいな、今すぐにでも会ってみたいくらいだ」

 

「すごい、ですの。でも、今はダメ。……それじゃ、ですの」

 

「はは、そっか……。それじゃあ、また、どこかで。」

 

 

 

今度こそ、別れ、リィンは家路を辿る。

 

 

「私がいうのもなんだけど、良かったの?それこそ駆け落ちくらいしちゃえば良いのに」

 

「駆け……?私を、回収したくない、ですの?」

 

「……まあ、その辺も含めてじっくり話を聞かせてもらいたいわね」

 

 

再び扇を取り出して、術を放つ。

 

遥か高くの山頂は、しんと冷えたまま、誰もいなくなった。

 

 

 

 

 







〜おまけ:魔女と魔法使い〜


内戦中……とある休憩時間……


リィン「______ってことがあったんだよな。でもまさか、本当に魔法使いが存在するって聞いた時は、驚いたよ」

マキアス「へえ、そんなことが……でもまあ、実際僕たちの目の前に……いるんだもんな……」

エマ「あはは……シェーマという方の知り合いは、巡回魔女だったのかもしれませんね、里から出ている魔女も、私のように何人か居ますので」

リィン「うーん、でも、エマはどちらかというと焔を操るってイメージだし……水と風を操る魔女……か……」

エマ「そもそも、私たちは焔の至宝の眷属ですから……よほど珍しいのではないでしょうか……少なくとも、私の知り合いにはいないかと。姉さんは……微妙に当てはまらないですし」



リィン「せめて名前がわかればなぁ……少なくとも、4年より前の出来事のはずなんだけど」

マキアス「4年前……?リィン、その女の子、フルネームはなんというんだ?」

リィン「え?えーと、シェーマ・オライオン、だったっけ……」



マキアス「…………え”」(パクパク)



リィン「それにしても、街一つを救った魔女っていうんだから、すごいよな」

エマ「ええ、私もぜひ一度お会いしてみたいです……今は皆さんの力に頼り切な新米ですけど、いつかその方のように……わたしも……!」


マキアス(シェーマちゃんの言う魔法使いって……まさか……)


リィン「はは、それなら尚更、早く内戦に区切りをつけて、その人とシェーマを探しに行きたいな」

エマ「ふふ……はいっ!もしかしたら、今もその方は動いているかもしれませんしね!」



マキアス(魔“女”ですらないんだが_______!?)






ー ー ー ー


こんにちは、作者です。今回で、全体の中で序章となる、一区切りのところまで来ました。

とりあえずここからはⅦ組発足までの時系列を書いていくことになります。

あいも変わらずミハイル兄さんの胃は死にますし、タイトルコールはまだ全然遠いのですが、飽きない限り細々とやっていこうと思うので、気が向いたら感想などいただけると励みになります。

帝国の攻略王の出番は(しばらく)ないです。

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