リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!? 作:発光米
評価バーに色がつきました!ありがとうございます……
新章に入ったので、色々関係が動き出します。
更新頻度は、相変わらず上げられないので、気長にお待ちください……
アイス・ブレイカー
______いったいどれほど、血の滲むような時間を繰り返しただろうか。
きっとその滲んだ血で_____
いや、私のものだけではない。多くの血が流れた。流れすぎた。
もしかしたら、私が単に、流れた赤色から、目を背け続けていただけ、かもしれないけど。
今年もライノの花が、見事に色づいていた。
綺麗な花を咲かせる木下には、死体が埋まっている……という噂も、あながち間違いではなさそうだ。苦難の果て、取り残された人間の心の隙間を、そうして花は埋めてきたのだろうから。
私は一人、近郊都市トリスタの学生寮を後にした。
私物が元々少なかったのもあり、大きなトランク一つで、荷物が収まってしまった。
(……これじゃあかえって、あの子たちに心配されてしまうでしょうか……)
随分と、出発が遅れてしまった気がする。でも、久しぶりに、今日は知り合いと顔を突き合わせることになる筈だ。
______“良い加減ミハイル兄さんにも会ってあげなよ。……思ってるほど、ミハイル兄さん
手元に数通だけ取っておいてある、簡素な手紙。
一応、封筒に入れられており、その体裁を保っているが、筆記用具はペンをはじめ、鉛筆など、極めて雑多。それに、用いられている紙は、数枚のメモ紙だったり、ちょっと手触りのいい便箋だったり、はたまた、日曜学校の問題プリントの切れ端なんかも。
内容は、主に近況の報告。各地で、多少の無茶はしつつも、合間合間にある通り、「背が2リジュ伸びてた!」と微笑ましい成果をあげているらしい。
彼が、多忙の間であっても、合間を縫って、不定期に送りつけてくれたもの。同級生には、ポストに入っているのを見つかるたび、変な噂が立てられたけれど……
一番日付が新しいものは、帝国軍の印の入った、速達書簡と一緒だった。堅い形式に慣れていないのが、ありありとわかる文体に、数個の業務連絡。添えるように、「夜ご飯一緒に食べれる?」と付け足された付箋。
文面を見る限り、“彼女”は未だ見つかっていないらしい。
「______…………」
そんな声を掻き消すように、朝日と共に、帝都行きの真っ赤な列車が、1番ホームに滑り込む。
シュゥ、と蒸気を噴き出して、ドアが開いた。
「………………」
出発を告げるベルが鳴る。
1年間……長いようで短い時間だった。ようやく見慣れた、トールズの校舎を見送った。
______13:42 ギリアス・オズボーンの執務室にて……
「はぁッ!?」
重厚な空気を一変、吹き飛ばすように物音と一緒に、悲鳴が上がった。
「どういうことだ、これに関しては幾らアンタが国のトップだったとしても、異議を申し立てさせてもらうが?」
いつに無い気迫でデスクの主に詰め寄る少年……アルマ・カントゥータ。
驚きのあまり、手を机に強く打ちつけたが、生憎そこらの安物ではない。逆に彼の手がヒリヒリしている始末だ。
涙目になりそうなのを堪え、必死に睨みつける姿勢を崩さない。
「フフ……血の気が盛んなのは良いことだが、生憎これは私のオーダーではなくてね……」
子供をあしらうように、目を細めるのは、平民出身にして、宰相というポジションまで上り詰めた英傑……ギリアス・オズボーン。
デスクの両脇に、びっしり積み上げられた書類を、片付けながらだ。しかも、ノールック。それでいて、内容は把握して、差し戻すところは戻し、子供の宿題の丸付けをするように、丁寧に赤ペンを入れているのだから、これまた恐ろしい。
「いや!絶ッ対アンタの差し金だな」
アルマはゴソゴソとカバンを漁り、ようやく持ち運ぶようになったクリアファイルから、一枚の書類を取り出した。
「なんだこの【迷い猫の増加傾向と、近隣住民への被害聞き取り】……って!明らかに帝都庁住民課_____そうじゃ無かったとしても、確実に
「そうは言っても、一度受理した書類を、突き返すのは、どうなのかね?」
「…………ぐうの音も出ません……」
しかも、ご丁寧に【緊急:本日中に報告】と注釈まで書かれている。
……要は嫌がらせだ。そんなことは分かっている。こんな案件、回す気になれば数日前に連絡できたはずだ。
では、何故よりによって今日だったのか?
「しかし……弱ったな。これでは、君抜きで今夜は顔合わせをするしか……無いようだが?」
「どうせ、わかってて言ってるんだろ?はぁ……」
つまり、「とっとと終わらせたら来ても良いよん☆」ってことだ。どうせ、サシでクレア姉さんに話したいことでもあって、それまでの時間稼ぎってことだ。
「18:00には、全員が揃う予定だ。勿論、【氷の乙女】も到着する予定だ」
「だぁから、その名前で姉さんを呼ぶなって何度も……まあいい、俺がいない間にクレア姉さん変なことしたら、対物ライフルで頭ブチ抜かれても文句言うなよ!!!」
「ほう……?」
ニヤリと口角を釣り上げる姿は、まさに魔王。座っていてもわかる体格が、威圧感を倍増させている。
「対物ライフル……確か、我が国の主力戦車を貫けるだけの威力があるそうじゃないか」
「ハッ、急所以外でも重症確定だが、ウチのスナイパーはそんなヘマはしないからな。精々気をつけておくことだ」
「はは、バルフレイム宮も防弾ガラスの導入を急がなくてはな……それでは、また晩に会えるのを楽しみにしておこう」
「別にアンタに会いに来るわけじゃないんだって!!!」
ああもう、話しているとどうにも調子が狂う。タイムリミットが迫っているのもあって、勇み足で執務室を後にする。
どうも、こういう日に限って、予定が立て込んでしまうようだ。
元々あった、試作オーブメント______今度、完成版が作られるらしいので、俺のものは所謂、プロトタイプになるらしい______ソイツの、データ提供。これはきっかり14:30から、30分間。明日からは、物資の搬入に伴う警備体制の監査のため、ガリレア要塞に行くから、それ用の書類は取るだけ取って、夜目を通すとして……
ああそうだ、アイツと要塞で合流するとき、「この前の借り、クインシーのチョコで良い」って言われてたんだった……!アイツ菓子にはうるさいしなぁ、RFの方のところに行く前に、良さげなヤツを見繕うとして。で、その間にネコ調査……?
激務じゃねぇか!何してくれるんだよ!!!
しかも、死ぬ気でやれば、ギリギリできるラインを見極めているのが、死ぬほど腹が立つ。
これで、息せききって間に合ったら、「フフフ、頼りになる友を持ったようで何よりだ……」ってニヤつくんだろ!?ああ、想像しただけでも顔面を殴りたくなるんだが?
ふぅ、落ち着け。こうなってはヒゲおじの思うツボだ。
「いいぜ、……絶対、いつか口を割らせてやる……何を企んでいるかも……シェーマのことも、全部……!」
新しく構えることになった、帝都の新居に荷物を置いた私は、ドライケルス広場へ向かった。
小洒落た招待状を見せれば、衛兵は道を譲り、宮殿のメイドが、そこへ案内した。
佇まい、一つ一つの装飾や、飾られている花一つをとっても、華やか……といっても、過度に豪勢ではなく、いくつかの政治の要を担う場所として、ある種の機能美さえも感じさせられる。
赤いカーペットを通って、辿り着いたのは、バルフレイム宮の貴賓室。
それは、国賓をもてなしたり、あるいは皇帝陛下が、何者かとの会談に利用したり。ほんのごくたまに、宮殿の関係者が私用で借用を願い出るのだが。
「んで、それが今日ってわけか……つったく、贅沢なこった」
赤毛の男性……気だるげにしているが、最低限のマナーは弁えており、目の奥からも、こちらを勘繰るような素振りを見せないフランクさ。しかし、所作の一つ一つに隙はなく、軽く他人に振る話題も、学と気遣いがなければ為せないものばかり。
レクター・アランドール。そう、彼は名乗った。
奥の席に座るのは、今回のホスト、ギリアス・オズボーン。悠々とした佇まい……それでいて、底なし沼のような、安心と不安を一緒に感じさせるのは、まさにカリスマのなせる技だろう。
……かくいう私も、その沼の底の、暖かくも頑強な、沼の底の闇に、魅入られ、取り込まれてしまった一人なのだろうが。
しきりに時計を確認する姿も、頻度の割に、焦りを感じさせない。もうすぐ壁掛け時計の時刻は、18時だ。
「……時間だ。それでは、始めるとしよう」
針が真上を指した。きっかり、招待の時間通り。
「あ、あの……閣下、席はまだ一人分空いているようですが」
「そうだぜ、コイツにも、確かに“俺を含めて三人”って書いてあるしな」
懐から取り出したのは、薄茶色の封筒。幾つか、帝国のものでない消印がついている。リベールのものだ。
……なるほど、それでは彼が、リベールの留学生という……
「遅刻を繰り返す子に、灸を据えてやるのもまた、親の役目ではないかね?【氷の乙女】」
「へえ、アイス、メイデン……俺なんか【かかし男】だぜ、もうちょっと、洒落たのを考え直したいものなんだが」
「い、いえ、その、どうにも乙女というのは……むず痒いのですが。私のことはクレアで良いので……!」
それにしても、この会食もどきは、いつまで続くのだろうか。まだ始まって1分も経っていないのに、胃の奥が締め付けられるようだ。
できれば夜がふける前に、アルマくんに都合が合わなかったことを謝らなくては。情報局に入ってから、彼も忙しくしているそうだし、せっかく予定を合わせてくれたのに……
でも、事前に伝えることは叶わない。
私は、あの日、親族を自分の手で処刑台に送った時から、政府の狗になることなど、とうに覚悟していた。
宰相直属の、【鉄血の子供】……立場の特異性、それに、私自身の業の深さを考えれば、ここまで彼によくしてもらえる道理は無いのに……
やがて、料理が運ばれてくる。軽いサラダにパン、ビーフシチューとソテー。
お腹はそれなりに空いている筈なのに、箸は進まない。
一番下手にある席……椅子はあるのに、ぽっかりとそこだけ空いてしまった空間から、目が離せない。
(……未練なんて……今更……それにきっと、私は彼を
ナイフとフォークを手に取る。
緊張で口の中が酸っぱい、
食器同士がカチリと当たる。
表情に出すな。
取り繕わなくては。
未熟な自分を、生半可な私を、隠し通さなくては。
あくまでこれから私は、鉄の如く、血も涙もない汚れた業務を執行するだけの、ただの一士官。
将であるために駒でなくてはならなく、氷にように冷たく、凍える冬のように断固とした決断をなさねばならないのだ。
「…………ふむ…………」
ふと、オズボーン閣下が食器を置いた。
どうしよう、何か無作法でもあっただろうか。
自分が惹かれたはずの、何かを見通す目の焦点が、どこに向かっているのかが、気になって仕方がない。不安だらけの自分を見透かされてしまいそうで。
「へえ、なァるほど。」
いや、違う。向かいの赤毛の男性は、何かに気づいているようだ。面白そうに、シチューの中から肉をとりだし、口に含んでいた。
となると、彼らが気にしているのは私ではなく……?なら、一体……
「______…、………!!!」
遠くから聞こえる、誰かが、話している……?
バタタッと、足音が聞こえたと思えば、客間のドアは開け放たれていた。
「____________な、っ……」
夕日の逆光で、顔は見えない。
細い体躯の人影が、そこに立っていた。
「……!あー、なぁんだ。焦った」
男……いや、背丈的に、まだ私より年下だろう。膝に手をついて、一つ呼吸を整える。軽く浅葱色のグローブを直して、つかつかと私の後ろを通り過ぎた。後ろで一本に結った髪が、ぴょこぴょこと跳ねながら、目的の人物のところまで、足を運んだ。
「流石にそこまで、性悪じゃ無いみたいで、安心したよ」
デスクに手をつき、そのまま数枚の書類を取り出した。
「それにしても、野良猫の分布と帝都の潜伏ゾーンを関連づけるなんて……お陰で向こうの小隊とカチあう羽目になった……」
「ああ、こっちが上から報告書……」
「空き家とはいえ勝手に入ったから始末書。」
「んで、捕縛はムリだったから、引き継ぎ。後はどうにかしてくれ……あーもう、づがれだ……」
そのままカーペットにしゃがみ込む。よほど走ってきたのか、喉がガラガラみたいだ。
よく見れば、靴などの汚れは軽く落とされているが、羽織に、何かに裂かれたような跡が、くっきり残っている。ほつれないよう、補修はしっかりされているらしいが。
「……その、ええと……」
軽く食卓を見回し、ポットとグラスが一つ、置いてあるのが見えた。中はただの水のようだが、走った後なら、かえっていいだろう。
「ああ、いいよ。そのくらい自分でやるし。遅れて……は無いけど、手間取ったのは俺なんだし」
手袋を取って、私の手の一歩先を、彼はするりと取った。絆創膏がいくつか貼られ、真新しい傷もある。
慣れた手つきで水を汲み、軽く飲み干した。
袖で口を拭う。
「ぷはぁっ……んで、俺の分の椅子まで律儀に用意してくれたのは、素直に嬉しいけど……一応、これも“宿題”なんだろ?」
怪訝そうに睨みつける目に、閣下は静かな拍手で応えた。
「……その様子だと、答えには無事、辿り着いたようだな?」
「ええ、オカゲサマで。仮にも国賓を招く部屋なんですから、帝国標準時にくらい合わせとけってカンジですけど」
椅子……と、いうことは……
「おーおー、抜け駆けか?」
「まさか。……ええと、貴方とは初対面ですよね。レクター・アランドールさん」
崩していた態度を直し、しゃんとして、背筋を正す。
帝国貴族式の礼法。どちらかといえば、古い騎士のお辞儀だが、小洒落た政治家のそれよりは、雰囲気に合っているように感じた。
空いたままの戸……その更に外、大聖堂の鐘の音が、遠く聞こえる。夜6時を知らせる、帝都の住民には聞き慣れた時報だ。
「【硝子の仮面】、アルマ・カントゥータ。ここに。」
気だるげに伏せられていた瞳が、意思を持って開かれる。
緊張、疲労、安堵、そして……喜び。
くるりと、私の方へ振り返る。
「えーっと、その、なんていうかな。手紙は送ってたけど、こうやって会うのは……半年ぶり、かな?……ええと……______」
「______ぁ、……」
暗い紫色の瞳が、気まずげにこちらを見つめている。先ほどのぶっきらぼうな物言いとは、打って変わって、柔らかな雰囲気が、沈みかけの赤い日に、溶けてしまいそうで。
手持ち無沙汰に、緑色の髪を弄り、目線を彷徨わせる。
「______久しぶり、クレア姉さん。お、ぼえてる……?俺のこと。」
〜file:001…【硝子の仮面】〜
脅威度: D- →__________
本名:アルマ・カントゥータ。
宰相、ギリアス・オズボーンの直下組織である【鉄血の子供たち】のメンバーの一人。
セントアークの下級貴族の出身。
幼少期に実家を出奔し、帝国軍情報局入り。以後、現地班として活動を続けている。
主な活躍は、帝国ギルド支部爆破事件における現地調査と、遊撃士協会との合同で行われた捕縛作戦。
導力魔法の扱いにも長けており、RF社への技術提供を行っている。前述の作戦の縁もあって、その道のプロフェッショナルである【零駆動】を師に持つ。
しかし、彼本人の戦闘力は、ほぼ脅威にならない。むしろ注意するべきは彼の人脈であり、帝国軍に籍を置きつつ、帝国随一の名門トールズ、また本来敵対する立場である遊撃士ギルドとも、個人的な協力関係にある。貴族派、平民派共に顔が効き、情報戦においては、同子供たちの中では、根回し、長期的な策略を得意とする【かかし男】に対し、即席のチームアップにおける対応力、サポートに徹する傾向がある。
なお、直属の上司にあたる、宰相閣下とは、折り合いが悪いようだが、原因、行動原理など、一切不明。
随時調査が必要である。
余談だが、【鉄血の子供】には、それぞれ二つ名が与えられる。自ら名乗るもの、活躍に即したものが定着したものなど、各々様々な方法で名付けられたが、彼の二つ名の読み方は“フラジール”……「壊れやすい」の意である。
この二つ名がつけられた意図は、当の本人も測りかねているそうだが、当局としては、
「作戦の裏にある、細かな人の心情を読み取る洞察力」もしくは、「相対したものを完膚なきまでに叩きのめそうとする残忍さ」を表しているのでは無いかと推測される。
なお、彼に貸与した_____の行方は、こちら______、かねている。此____、__査が必______
(なにやら、炎で焼かれたような跡に蝕まれて、よく読めない)