リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!? 作:発光米
エマは、悩んでいた。
自身の一世一代の決心を、身勝手な姉によって完全にふいにされたからだ。
(ああもう、あんな意味深な去り方したから、頑張って巡回魔女になる決意だってしたのにぃ……!!!)
半分ムキになり、急いで食事を終えたエマは、自室に引き篭もる。
本来、身内に対してはハッキリものを言うタチのエマだが、自分自身についての決断は、割と周りに任せることが多かった。
その身内同然の姉が、忽然と姿を消した。
それだけならともかく、怪しげな秘密結社の幹部をやっているなんて……!
多少の無茶を言い、もう数月先になれば、外の世界での生活基盤を整え始める手筈だった。
もともと勤勉だった彼女は、より一層勉学に励み、その使命を全うせんと、身を守る術も学んだ。
(だと言うのに、いきなり男の人と、他の眷属の女の子を連れてきて、いきなり倒れて…………!!!)
一体どういう関係を築いているのだろう、我が姉は。
どっちも「拾ったようなものよ、カワイイでしょ〜」なんて言ってたけど、……いや、なんだか可愛らしいところがあるのは否定しないけど。
地精の女の子のことは聞いた。問題は、もう片方だ。
まさか恋び______
「…………ふー、いけないわ。こう言う時こそ、まずは落ち着いて、状況を整理して……」
紙を広げ、ペンを取る。
……地精。私たち、焔の眷属の対となる存在であり、大地の至宝ロストゼウムの管轄者。その少女を、姉が連れてきた意味……
きっと今は、長きにわたる膠着が______
「おい、妹ちゃんッ、邪魔するぜ!!!」
バンっと言う音と共に、鍵までかけたはずの自室の扉が開かれる。
ドタバタと乱入してきた客人……姉が連れてきた男性、クロウ・アームブラスト。
その脇には、もう一人の客人、地精の少女であるシェーマ・オライオンが抱えられている。
「おじゃまします、ですの」
舌足らずな発音で事後報告されても。
……何故だろう、いま無性に物に当たりたい衝動が抑えられない。
なるだけそっと、物に当たらないように、立ち上がった。
「とりあえず、ノックくらいしてくれませんか、アームブラストさん?」
「……ハイ…………」
ー ー ー ー ー ー
「……つまり、姉さんとの間に何もやましいことは……」
「ああ、無い。というか、恋愛感情どころか友情も怪しいくらいのビジネスライクってやつさ。本当につれないヤツだよ」
やれやれ、とため息を吐くクロウさん。どこか掴みどころのないと思っていた姉は、他所に行ってもそんな感じだという。
互いの目的のために協力しあっている……結局、その“目的”というのははぐらかされてしまったが。
「……わたし、は……その、まだ会って一週間なので、なんとも言えない……ですの……」
「ええと……確か、その。シェーマちゃんも、姉さんに、拾われ……た?んですか?」
「本人曰く、ホゴらしいですの」
「いーや、あれは完全に獲物っていうか、研究材料を見つけた目だったぜ。」
漏れ出た笑みが治ったのを見計らって、次はシェーマちゃんが口を開く。
彼女は、地精に所属する……というより、地精が作ったホムンクルスのような物だと聞いたのだけれど。
「……私の目的、は……別に、隠し立てすることはない、けど……」
「?あの、無理に言わなくても大丈夫なんですよ、シェーマちゃん」
「……いえ、その。…………」
「………………」
黙ってしまったシェーマを見て、クロウさんは考え込む。しばらくして、答えが出たのか、思わず天を仰いで硬直した。
「……はぁ、そういうことかよ。うっわ、最悪じゃねぇか」
「ええと、一人で納得されても困るのですが……」
困惑する私に、クロウさんはメモを見せた。一見支離滅裂で、何が書いてあるか分からないそれの下に、解読後の文章が記されている。
「……まあ、このくらいなら、計画に掠りこそすれど、まだセーフの範疇だろうしな。それに、姉気分が倒れた原因が分からないっていうのも、納得いかねぇだろ?」
食い入るように、二人で何度も分の内容を反芻する。
酷く単純な、ほんの2行、100文字にも満たないそれが、なかなか頭の中に入っていかない。
「………、……ッ、」
わかるのは、表現と、姉の文体から、記されている内容が限りなく【最悪】に近いということ。
ふと横を見れば、里に来てピクリとも表情を動かさなかった少女が、真っ青な顔をしている。
「……ええと、これは、一体どういう……シェーマちゃん……?」
なんだか自分だけ置いてけぼりを食らっている気分になり、もう一度メモに目線を戻した。
______『最良にして、唯一の手段は忘れること。しかしそれが為される時、形代は永遠の“物”となる』……?
つまりこれは、シェーマちゃんに宛てた物。
だから、忘れるのはシェーマちゃん自身。
シェーマちゃんが何かを達成するためには、何かを忘れなくてはならなくて、でも、文脈から取ればそれは悪いこと……
「……大方、なんか探し物でもあるんだろ?で、その反応を見る限り、もうすでにお前は既に数回【忘れた】……
きっと、今までも何かを【忘れる】ごとに、対価として、その目的への手がかりを得てきた。そういうシステムなんだろう」
忌々しげに、クロウさんは目を伏せた。
「つまり、ここでいう最良って……」
「…………わたしの、もくてき、は……っ…………______
そん、な…………
う……………そ、
うそだ、
ウソだウソだうそだ嘘だあり得ないそんなことそれ?じゃあ今までやってきたこと全部無駄だったって?いうことなの苦しい悔しい悲しい!!!怖い不安です怖いですちゃんとやりますでき?ますからどうかどうかわたしだけでお願いしますもう悪いことなんてしませんから逃げませんちゃんとやりますわかってる大丈夫やればいいんだろ!?煩いうるさいウルサイだまれ!ああごめんなさい赦してくださいもうこんな愚かなことはしませんからおねえちゃ___ちがいます!あんな奴らなんかより070番代以降の生産を停止しないでくださいなんでもやりますちゃんと魔獣だってブッコロせますちがうそんなこと望んでないやだやだやだいやだこんな命なんて欲しくなかった助けてよはい。赦しなんて必要ないですしボクに必要なのは愛と無邪気さと冷静さと涙とありとあらゆる感情だけですサンプルのデータです搾取などご自由にどうぞやめてやめてヤメロよもう私から何もとらないで一回じゃ満足できないんでしょあはは気づくわけがないよね今度はまともな人に拾って欲しいな明日も眠らなきゃ久しぶりの世界は眩しいですの目が焼かれるみたい痛い怖い気持ち悪い怖い怖い怖い!居た堪れない……?むず痒い……?辛い辛い辛い!私はここにいちゃいけないんだ!」
急遽予定が決まったことで、急いで大してない荷物を作らなくてはならなくなった。
夕食を終えた俺は、貸されているそこそこ広い部屋のカーペットに寝そべり、両手足を投げ出す。
「ふぅ……勝手に男の部屋にいるのも、どうかと思うんだが」
「あら、バレちゃった?」
ふわりと空気が動けば、虚空から現われたのは、先ほどまで昏睡していたヴィータ・クロチルダ、その人。
つったく、油断もスキもねぇ……
「よくいうぜ、ワザとわかるようにしてたクセに」
「でも、正直もう一つの暗号の読み方に気づくとは思ってなかったわ」
「俺が気づかなかったら、自分であのガキンチョを問い詰めるつもりだったんだろ。まあ……咄嗟に自分の妹の記憶を吹っ飛ばしたのは、強引だがナイスだと思ったわ。……正直、俺も結構クる物があったし……」
「ええ……人と同じように、急所への攻撃が有効だったのが幸いしたわね……」
曖昧に笑って誤魔化す。
どうやら、あの“異様”にダメージを負っているのはお互い様らしい。
これがまた、そんなに歳がいってない幼女だっていうのがまたタチが悪い。
「______そういえば、まだ詳しく俺も聞いてなかったが、結局《地精》ってどんな連中なんだ?今わかってる情報だと、人体実験まがいのことをやってる、ヤベー奴って印象しかないんだが」
「正確にはあの子は人間じゃないけど、そうね……」
「地精……大地の眷属。
私たち魔女が連なる、焔の眷属とついになる存在って所までは話したわね?」
「ああ、アンタらのご先祖さまが、お互いに管理する《至宝》を使って、私利私欲に走ってドンパチした結果、アイツをはじめとする《七の機神》が生まれた。そこまでは聞いてるぜ」
「うーん、それに関しては弁明できないけど、地精にも昔は理性的な人がいた、らしいのよね。婆様からの又聞きだけど」
「その婆様っていうのも結構トンデモだな」
「そのトンデモな婆様の手を借りられないほど、今回の事態は深刻なのよ。まさかあんな洗脳紛いの実験機を……いや、実験機だからこそ、といったところかしら」
ヴィータは、腕を組み直してベッドに腰掛けた。
手に握る扇子は、軋んで今にもポッキリ折れてしまうんじゃないかっていうくらい。
「……さ、準備が終わってるなら、とっとと行きましょう」
さっきの様子とは打って変わって、いつもの麗しの深淵サマに戻る。パチリと扇子を閉じてスタスタ部屋を出て行こうとするんだから、たまったもんじゃない。慌ててカバンと武装を引っ掴んで、なるべく静かに後を追う。
転移を使えば良いものの、なぜかこういう時だけ殊勝に徒歩で行くんだから、賢いんだかバカ真面目なんだかわからないんだな、これが。
「オイオイ、自分で催眠かけた妹に別れの言葉くらいかけてやれよ」
「大丈夫だわ、目だってそのうち覚めるし、これから不本意だけど、定期的にこの里を中継しなくちゃいけなくなったわ。何せ、地精に位置が割れてないんだから」
「なるほど、故郷をジャミングに使うとは、お前らしいというか……というか、わかってるんなら、最初から言えよ、ヴィータ」
「言ったらどうにか逃げようとするでしょう?それに、いざとなったら当てにはしてるのよ、《蒼色の騎士》様?」
「良いようにこき使いやがってぇ……っ」
この家には、外に出るには二つ通路がある。俺達がいたのは2階で、階段を降りる音を警戒するなら、そのまま二階の勝手口から出れば良い話だ。にもかかわらず、一階に降りて居間を通るルートをとった。
……まあ、十中八九そうだろうが。
「行くんじゃな、ヴィータ?」
赤い魔法陣と同時に、小柄な少女が現れた。
こう見えても魔女を束ねる一族の長。のんびり「転移しますよー」と知らせる陣を残さない手際からも、それがうかがえた。
「ええ、まだ何一つ終わっていないもの」
「念の為聞くが、妾にその計画とやら、それに……あのシェーマという子のことを任せるつもりも……」
「無いわね。」
被せるようにヴィータは答える。ダメで元々だったのか、あっさりと少女は引き下がった。「とっとと行け」、と促され、「失礼したわね」と去る。元々、こんな関係だったのだろうか。酷くあっさりして、殺伐としたやり取りだった。
「……クロウ・アームブラスト」
「おっと、俺から言うことは何も無いんだが……」
と言うか、アンタから呼び止められる心当たりはない。
先に玄関を出て行ったヴィータを横目に、振り返る。紅い、大きな杖を構えていた。
集中するように閉じた目が見開かれる。
猫……いや、龍って言った方が正しいかもしれない。
まだ、日が暮れたばかりの薄い夜とカンテラの明かりから浮くように、瞳が光っている。
「……っ、おい、何にもないっていうなら______」
「……だがこれも定めであろう……じゃが、気休めにすぎんか…………そうだな……」
「______まだ若き鋼の練度を見誤り、幻の焔とならぬよう……精々用心することだ」
〜オマケ:婆様ってすげー!〜
クロウ:「どういうことだよ、“幻の焔”って完全に例の計画に付合するじゃねぇか……」
クロチルダ:「ええ、私も婆様に全く話していない……しかも、計画の概要なら知っていてもおかしくないけど、名前までなんて……」
クロウ:「ところで、あの目がピカーって光るアレ、お前も出来たりするのか?」
クロチルダ:「バカ言わないでちょうだい、魔法陣のアレと、婆様の瞳のアレは本質が違うのよ」
クロチルダ「魔法陣は光るように最初から決められてるんだけど、婆様のアレは余剰エネルギーが漏れ出てるの!
魔力って、見えなくて扱いづらいから“魔力”って呼んでるの。そんなものを漏れ出る程度の感覚で、発光する濃度まで凝縮する……ハッキリ言って化け物級だわ。だって、本来目を使う術じゃないもの」
クロウ「……へぇ、お前もいつか出来るようになるのか?」
クロチルダ「それだけ魔力が有り余る暇な状況になったら、考えておくわ……」
〜数年後〜
エマ「私の目を見てください(催眠術)」オメメピカー
クロウ「…………」ジトー……
クロチルダ「私ももうそのくらい出来るわよ!ああもう、そんな目で見ないでよね……」