リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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雪降る春の麓町3

 

長い間、眠っていたような気がした…………というのは、あまりに変哲のない表現かもしれないけれど。

 

目覚めてすぐに、また「夢であれ」と願ったことは、そうそうない。

 

 

「…………すぅ………すぅ、むにゃ……クレア姉さん…………ぇへ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝の上で知らない男が寝ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膝の上で 知 ら な い 男 (重要)が寝ている。

 

 

妹が良かったなんて、高望みは言えないけれど、寝起きに会うのであれば、せめて知り合いの誰かにしてくれ。

 

寝起きから無駄に精神的に疲れた少年……リィンは、起こした上体を、もう一度寝慣れたベッドへ倒した。見える天井も、いつも通りである。

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

 

「あー、いや、なんか、やったんですよ、やったけど、プシューって、そいつの中に戻って行っちゃって。え?…………俺の実力不足?それ、……は………ぐうの音もでないデス……………」

 

「うわ、あー…………いや、あー、亡霊と呪いは地味に違うんですね、混同してました。でもなぁ……何というか、憑いてるってよりかは“備わってる”……?処置中も、霊的存在ってよりかは生身の人間の体いじってるみたいでしたね、妙なグロさが伴うていうか…………あ、俺?大丈夫ですよ、多分。……………はい、いや、多分は多分ですって。わからないものは、わからないですし」

 

「まあ、とりあえず出来ることはやっときます、あとは、シュバルツァーの坊ちゃんがどれだけメンタルを保てるか、なんだが……………あー、件の主役が起きてきたんで。はい、また空いたら顔出しますねー……………え“っ……はっ?トヴァルさん!?ねぇ、冗談ですよね、トヴァルさんッ!?」

 

「……………切れてる……………人生終わった……じゃなくて。」

 

 

 

ブンブンと頭を振って、男の人がこちらを振り向いた。俺のことには、通信の途中から気がついていたらしい。よく見れば、俺が起きた時、膝の上で寝ていた人だ。目の下には消えきっていないクマが見える。

 

 

「え、ええと…………その、貴方は?」

 

「リィンくん、であってるよな?」

 

 

頷けば、不器用に男性は笑って見せた。緑色の髪に、紫色の瞳。シャツの上にラフに上着を羽織り、申し訳程度に胸ポケットから覗く勲章から、軍属であることが伺えた。

 

 

「…………あっ!別に取って食おうとか、考えてないからな!?」

 

 

それをわざわざ言われると、余計不安になるのだが。というか、俺はそもそもそんなこと、頭の片隅にもなかったわけで。

 

一人であたふためいた後、何故か勝手に納得して、満足したような顔で、俺から目を逸らした。

 

 

「お前に意識があったかは、わからなかったけど。…………いや、そんなの関係ないか」

 

「俺は、アイゼンガルド連邦の最奥で、衰弱したお前を見つけたんだ。正直、応急処置の一環としても、すぐにでも、治癒のアーツをかけてやるべきだったんだ」

 

「…………ということは……」

 

 

そのあとも、彼は言葉を続けた。

その多くは、いかに俺が危険な状態にあったか、ということだった。ずっと後ろを向いていて、表情はわからなかったけれど、嘘はついてなさそうだ……多分。

 

 

「貴方のことは、顔までは覚えていません。本当に、朧げに、ですが」

 

「そうか…………なんにせよ、結果的にお前は助かった。対処が遅れたために、一週間も眠り続けることで、な」

 

「い、一週間!?それって、俺が山に入って、から……?」

 

 

 

「俺が、お前をここに運んでから、だ」

 

 

男の人は、適当なところに置いてあったカップを煽る。換気のために開けてある窓から、ひんやりした空気と、茶葉の香りが漂ってきた。

 

 

 

「…………ところで、リィンくん」

 

「リィンでいいですよ、それより、貴方は…………」

 

「俺?…………ああ、すっかり名乗り損ねていた形になるのか」

 

 

男の人は、アルマと名乗った。長話になりそうなのを察知して、アルマさんは俺に腰掛けるよう促した。…………といっても、ココ、俺の家なんだけど。

 

少し席を外したかと思えば、お盆に小さな椀と水、お菓子を乗せて戻ってくる。食べたかったら食べろ、とだけ添えて。器に入っていたのは、薄味の薬膳粥だった。

 

一息ついて、アルマさんは話を切り出した。

 

 

 

 

「______ときに、リィン。“紅い霧”に心当たりは無いか?」

 

「紅い、霧……?」

 

 

適応が早いなぁ、なんて物思いに耽りたいのは山々だけど、まずは話題を先に進めなくではいけない。うっすら塩味がつけられたお粥を口に含みながら、首を横に振る。

 

アルマさんは、俺が知らないのをなんとなく予感していたらしいが、反応を見て頭を抱えた。

 

「そうだよな。自覚がないだろうから、面倒なことになってるんだし。霊体ってわかるか?かくいう俺も、数分前までは、結構曖昧に認識してたけど」

 

 

曰く、対象は様々だが、死者生者問わず、強い思念が媒介を経て俺たちのいる世界に姿を現す。

 

それが霊体……らしい。

 

要は、恨みとか、後悔とか、執着とかが目に見える、という認識でいいだろうか。一般には上位属性が働く、特別な場所に住む魔物を指すらしいけれど。

 

 

「重ねて治癒対処が遅れた言い訳みたいになるんだが、数ヶ月前に、その霊体がバカ騒ぎを起こしたことがあって、ソイツに遭遇した時と、状況が似てたんだ。

 

体が勝手に操られたり、リミッターをこえて動き回ったり、とかだな。」

 

「この場合、元の体の持ち主……リィンのメンタルが疲弊していると、導力魔法だ体力を回復しても、また勝手に動き回られる。だから、先にお前の意識が回復するように、細工をした…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はずだったんだけどなあ……………」

 

「え」

 

 

このまま続くと思った解説は、パッタリと途切れた。自分でも気が付かないほど聞き入っていたのか、器から掬って持ち上げたままのスプーンを、そのまま口に運んだ。

 

アルマさんは、ガッカリと机に突っ伏して、恨み言のように呟く。

 

 

「いや、本当に俺もわかんないんだよ」

 

「霊体なら本来は魔獣だろ?だから、お前さんが寝てる間に切り離して討伐しちゃおうと思ったワケ。でもさ、いざリィンの体から引き摺り出したかと思えば、霊体は実体化しないし、なんだかリィンに悪影響与えてるのか、一瞬で冷や汗ビッチョリになるし、流石にヤバいなと思って挙げ句の果て一回殴ってみれば霧散してお前の体の中に潜っちゃうし、その一件があった後、明らかにお前の怪我の治癒力上がってるし……

 

 

もう訳わかんないぃいいいいい……………」

 

 

(いや、訳わかんないのはアルマさんの方では……?今の所名前しかわからない不審者なんですが?)

 

 

 

数秒死んだように項垂れていだが、ガバッと顔だけこちらに向ける。

それにあっけに取られるのも数秒の間。まるでさっきのグデグデさが嘘のように、キリッとした顔で俺に一枚の紙を差し出してきた。変人なのか?もしかして。さっきから、やることなす事、どうにもしまらない。

 

 

「というわけで」

 

「どういうわけで……?」

 

 

差し出されたのは、あえて砕いた言葉で書かれたであろう、レポートのようなもの。全部で10枚あったが、最後の一枚は白紙だった。一番上の見出しには、「経過、観察報告 その一」と書かれている。

 

 

穴を開けて麻紐でくくったそれを、一枚めくる。

 

おおむね、俺を見つけてから、俺が目覚める前日までのことが書かれていた。眠っていた間に俺にしたことを、事細かに記録してる。

 

 

……って、【髪の毛を抜いてみた。暴れた。悪いことをしたなと思った】なんだこれ!?何してるんだ!?

 

そんな視線に気づいたのか、苦笑いするアルマさん。

 

 

「いや〜ぁ、本当に悪いって」

 

「誰だって髪を抜いたら暴れますって」

 

「ああ、書き方が悪かったな。いやあ、珍しいと思ってさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______髪の色が変わる人間なんて」

 

 

その言葉にハッとして、ページを捲る。白紙と思われた最終ページに、何か透明なテープのようなもので貼り付けてあった。

 

 

「な、これ、は…………」

 

 

ちょうど、毛先と根元とで、黒白半分にわかられた、糸状のなにか。白髪や、動物の毛というよりも、明らかに一つの確信めいた答えが、自分の中に落ち着いた。「やっぱり」と。けれど、頭は別の方向にリソースを裂かれている。

 

押し黙った俺を見て、やっぱりアルマさんは無理やり口角を上げて笑っていた。

 

 

「やっぱ、心当たりは有るんだな?」

 

「…………っ。その、俺______」

 

「待て待て、結論を急ぐなガキンチョ。今回の件は、シュバルツァーの人間と、ユミルの人たちには口外してないっての。それに、俺は別にそういうつもりじゃ……」

 

 

 

 

 

「……ああもう!いいから本題に入るぞ!紅い霧の話がまだだろ!」

 

「へ……っ?」

 

 

今の流れでそのまま進めるのか?え、というかシュバルツァー家の人間に言ってないって、どういう……

 

 

「まどろっこしいから、結論だけ言うぞ。二度は言わないから、よく聞くんだな」

 

「ま、まって、ください……その、何が、なんだか______」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リィン」

 

 

 

冷たい声に、背骨に悪寒を感じた。体が本能で理解する、とはこういうことなんだなと思った。

 

 

 

「これから、お前、“コレ”をどうにかしない限り、一生苦しみ続けるハメになるぞ」

 

 

とん、と心臓の辺りを指で押される。力自体は、弱いはずなのに、そこには重く、何かがのしかかっていた。

 

 

「間違いなく、今も十分苦しいだろうよ。意識がないながらも、リィン・シュバルツァーは、自分を責めることを辞めていなかった。」

 

「過去に何があったか……踏み込む権利は、俺にはないけど。あの【紅い霧】は、お前自身から発生していた。ネガティブな方の自分とか、そういう小説にありがちな単純なものじゃなくて。

 

もはや【もう一人のリィン・シュバルツァー】と言ってもいいかもしれないな」

 

 

「もう、一人の……俺……?」

 

 

アルマさんは、無言で頷き、外に目をやった。もう直ぐユミルも雪解けを迎える頃だろう。「その上で、の話だが」と念押しして、話は続いていく。

 

 

「ユミルにいるのは……シュバルツァー家にいるのは、辛いか?」

 

「え……?」

 

「この一週間。正確に言えば、白髪の方のお前が、そういう行動を取っていた。何かから逃げるように、山道へ入り込もうとしてたんだぞ?」

 

「そんな……でも、俺は、そんな事、一つも思ってないのに……」

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。ならそれでいいんだ。」

 

 

 

 

すると、ほんの少しだけ驚いたような顔をされた。その後、満足げに茶菓子をつまみながら、ドライに言い捨てる。

 

「家族仲がいいことほど、幸せなものはないしな」

 

 

 

 

「…………え、それだけ?」

 

「ああ、てっきり反抗期特有の“家族ウザイ現象”を引きずってるのかと思ってたんだが。まあ、ルシア夫人も子育て上手そうだし、そこまででもないか!」

 

 

ニコニコしながら、「やっぱカフェインは紅茶由来がしっくりくる」とか、「このクッキー美味しいな、作り方聞いてこよっと」とか、呑気にリストアップしている。

 

正直、今自分がどんな顔をしているかわからない。

 

 

「え、ええと、アルマさんのご家族とかは……?」

 

「あー、家出してきたから、今はわからない。今だに俺は“家族ウザい現象”の真っ只中だしな」

 

「家出っ!?というか何ですか、そのヘンテコな現象」

 

 

パッと見る感じ、俺より2.3歳上ってだけなのに、何かあったのだろうか……

 

 

「あ、すみません。俺が踏み込んでいい問題じゃ、無いですもんね……」

 

「いやいや、別に家族関係なしに、旅に出ることは俺の中で確定してたし。出発の時に揉めただけだし。何より…………」

 

 

 

 

「旅に出た理由なんて、【突然知らないおじさんに近所の姉ちゃんを盗られた気がしてジェラジェラして】だし……」

 

 

「え、何て???」

 

 

「いや、【突然知らないおじさんに近所の姉ちゃんを盗られた気がしてジェラジェラして】

 

それ以上でも、それ以下でもないぞ。」

 

 

ドヤ顔で言うことじゃないと思うんです、アルマさん。

 

……やっぱり、この人変人だ。エリゼには近寄らせないようにしておこう。

 

 





実は、密かにこのシリーズでの目標が有るのですが、

クレア姉さん狂人が出る章では、大天使クレア姉さんの話題を挙げないのは、無作法だと思ったんです。

というわけで、ユミル編でのノ ル マ 達 成でございます。

だからどうしたって話ですね、おわれ♡
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