リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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雪降る春の麓町ED

 

突如として、ユミルに現れた不思議な旅人。

 

俺が目覚めた後は、ほんの1日だけ滞在して、次の日、朝一番のロープウェイで、村から去っていった。

 

 

その間は、釣りをしたり、雪が溶けた畑を起こすのを手伝ってもらったり。本当は、もう少しユミルらしい、雪を使った何かの方が良いかな、とも思ったのだけど。

 

……まあ、本人たちが大満足そうだったので、万事オーケーということで。

 

 

俺の部屋には、アルマさんが置いていった、紙束10枚と、小さな青色のビー玉が転がっている。おもむろにその紙束の表紙をめくり、ベッドに倒れ込みながら目を動かす。

 

 

「……そういう体質、か。」

 

 

脳裏を駆け巡るのは、真っ白な雪によく映る血の色。そして、ふと振り向いた時の、妹の怯える目。それを追いかけて、いくつも別の情報が、俺の感覚をタイムスリップさせるのだ。

 

 

「ほんとうに、治るのかな」

 

 

彼は言った。

 

 

最早切っても切れないなら、糧とするしかない。

 

新しい病に対する薬が見つかるのに、途方もない何月がかかるように、長い時間をかけて向き合うしかないのだ、と。

 

 

不治の病だって有る。無責任に、手放しに応援することなんてできないけど、と添えていた。

 

自分にはまだする事があるし、言ってしまえば、結局は旅先で偶然出会った、ただの他人なのだと。

 

 

「……俺が、諦めたら終わりなんだ」

 

 

己の病……紅い霧、もとい、彼流に言えば、【もう一人の俺】。

 

自分に起こる、不可解な現象と向き合う……つまりは、自分自身と向き合うということ。

 

他の誰かのためじゃなく、自分のために、頑張らなくてはいけない。

 

 

 

……頑張る理由を、誰かに委ねられない。

 

 

 

母の愛を返すためなら、村を駆け回るのだって楽しかった。

 

父の期待に応えるためなら、狩猟に朝から付き合うのだって、眠気を我慢できた。体を動かし出せば、そんなの関係なくなる。

 

妹の身を思えば、たとえ血がつながっていなくとも、命さえ差し出せた。こんな俺を、兄と慕ってくれる、気のいい妹に比べれば、どうということはなかった。

 

 

「……はは、できるかな……俺に……」

 

 

 

逃避するように、意識は幼少期から昨日へとシフトする。

 

 

 

レポートを、丁寧に折りたたんで棚の奥にしまっておく。万が一家族に見られては、余計な心配をかけてしまうだろう。

 

 

今度は、一緒に旅人たちからもらったビー玉を手に取る。「飴玉じゃないからな」と、念押しされたそれは、陽の光に照らせば、内部構造がキラキラ輝いて見えた。結晶回路……クオーツというらしい。

 

 

 

 

「言っておくが、みる分には綺麗だけど、結晶回路としては、とんでもない欠陥品だからな?」

 

そう言って、探し物の情報提供のお礼として渡されたものだ。

 

曰く、上級魔法がセットされているため、回復力は折り紙つきだが、内部に大きな亀裂が入っているため、一度使ったら、負荷によって壊れてしまうらしい。

 

そのヒビに光が反射して、観賞用としては綺麗だし、トンカチで叩くくらいじゃ割れない程度の耐久は有るらしい。

 

日の出前の、弱い東日にかざして、その青を楽しんだら、それをそっと紙箱に入れておく。

 

 

「アルマさんの探し物……見つかるといいな……」

 

 

時計をみると、もうすぐ両親が起きてくるであろう時間だ。窓を開け、しんと張り詰めた空気を吸い込んだ。

 

まだまだユミルの朝は冷え込む。

 

暖炉の火を起こしておこうと、リィンは暗い足元を慎重に下がりながら、妹を目覚めさせないよう、そっと一階へ降りていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

『フフ、ユミルでの生活は、実りのあるものになったようだな、《硝子の仮面》よ』

 

『……おや、電波が悪いのだろうか?』

 

「バッチリ聞こえてるんだよニヤニヤヒゲジジイ!!」

 

 

 

ロープウェイのゴンドラの中で大声を出したので、至近距離にいたシアンが、思わず耳を塞ぐ。

 

 

「……繋がっちまった……遂に……あぁ……」

 

 

そう、この度帝国が誇るラインフォルト社の敏腕社長サマによって、宰相室の回線がアップデートされまして。

 

 

あのヒゲおじが俺のARCUSに直で電話できるようになりました。

 

 

ク ソ が。(絶望)

 

 

朝っぱらからこんな事にならなければ、せっかくゴンドラから綺麗な日の出を見ながら「ユミル良いところだったなー」って思い出にヒタレタノニッ!!!

 

 

どうして!

 

ピンポイントで!!

 

 

俺の嫌がることをするかなあこのオジサン!

 

 

 

 

『政治も軍も、相手の嫌がることをし続けるのが鉄則だろう?』

 

「あー、どうりで……そういえば鉄血宰相って軍上がりだったよね、アルマ。帝国時報で見ても、めっちゃマッチョだったし」

 

「え、そうなのか?……そういえば腕相撲で指一本で捻られたこともあったか……」

 

 

 

そう、あれはまだ俺が情報局で研修期の間……

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

 

 

同期の間で「アルマ・カントゥータの腕力弱すぎ問題」の話題になっていた時。流れでちょっとした腕相撲大会に発展したことがあった。

勿論俺は惨敗。一人だけ「何秒耐えられるか」という別ルールに変更されていた。非常に屈辱である。

 

そんな中、執務の息抜きにと混ざってきたのが、鉄血宰相ことギリアス・オズボーン。

 

 

いい年した国のトップがさぁ……

 

 

「ワタシもい〜れ〜て〜♡(低音ボイス)」

 

 

みたいなノリで来られても困るんだよ!

 

 

 

クレア姉さんがやるならカメラで撮るが?

 

 

せめてミハイル兄さんか、アランドールさんであれよ!!!

 

当然、みんな国のトップに腕相撲なんて恐れをなして、やりたくないわけで。俺がやることになるじゃん?

 

 

「ふむ……ハンデは必要かね?小指一本でも構わんが」

「舐められるのも当然ですけど、執務に支障出ても知りませんよ?」

 

 

 

と啖呵を切ったは良いものの。

 

1秒も耐えられなかったんですよ。文字通りの秒殺だったのです……

 

 

ー ー ー ー 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……アンタに秒殺されてから、同期の中で【アルマ・カントゥータは女である】説とか流されて、大変だったんですからな!?」

 

 

ちなみに俺をからかった同期も全員秒殺である。……だから、断じて俺がひ弱なんじゃない。

 

 

『それは失礼……ところで、ユミルの地はどうだったのかね』

 

 

 

「あー、研修地候補としてですか?」

 

「うーん、比較対象がないのでなんとも言えないです、評価ランクBで!」

 

「それじゃあ用件済んだんで、もう切りますね!」

 

 

ブチっと音を立てて、通信が完全に切れる。

ふぅ、とため息を着く頃には、太陽が地平線から出切っていた。

 

 

 

 

「……にしても、“お嬢”関連の情報が落っこちるなんて。しかも、こんな辺境で、かなり昔のものだったよね?」

 

 

シアンはパラパラとメモ帳をめくる。おぼつかない手つきで、目を細めて文字を読み取っていた。

 

 

「一気にきな臭くなってきたな……オーバルアーツをシェーマが見慣れてないなら、俺を【魔法使い】って言うなら、まだ納得だけど。【魔女】っていうと、絵本とかには出てくるけど」

 

「それこそ、まさかでしょ?そういうグループ名の犯罪組織と見るのが妥当かも。で、宰相がその【魔女】って組織と裏で繋がっていて、“お嬢”はそこから脅迫を受けていた……とか?」

 

「うう……何せ、半年以上前だし、足取りを追うには少し弱いか……」

 

「あっのさぁ……不満げな顔してるけど、ロープウェイに乗る直前まで“お嬢”の情報収集忘れてたの、何処の誰だと思ってるの?」

 

 

ぐうの音も出ません。

 

俺が言葉に詰まったのを見て、シアンは何かを思いついたのか、ニヤニヤしながらカバンから地図を取り出す。

 

 

「ねぇ、まだ次の行き先って、決まってなかったりする?」

 

「え。ああ、ラグラムかバリアハートあたりにしようかなぁ、虎思ってたんだが」

 

 

「次の目的地……もとい【Ⅶ組研修地探し】の候補地……ルーレにしない?」

 

 

 

 

 

「ちょーっと、やりたい事できちゃったんだ♡」

 

 

 

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