リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!? 作:発光米
俺……アルマ・カントゥータは、非常に悩んでいた。
最近いっつもお前悩んでるなとか、自分が頭を捻ったところで、というのはとっくに理解している。
とりあえず今は、手持ち無沙汰な時間をルーレの町を回ることで消化しているが、このままだと勢い余って街道に飛び出してしまいそうだ。
RF社の社長室に、イリーナ会長をカンヅメにして、何食わぬ顔で出てきたのは良いのだ。別に、街中で捕縛される事もないだろう。こういう時に、つくづくあのヒゲオヤジの後ろ盾の大きさを痛感する。
そう、そんなことはどうでも良いのだ。
ふと、目線を上にやる。
鋼都は、いくつかのエスカレーター……動く階段や、エレベーターで繋がれた、多層構造だ。雑貨屋から見て、シアンがいるであろう大学は、一層上に位置している。
(……久々の再会なんだ。水を差すのも、悪いよな)
店を物色して、気にいるものがあれば補給して、そして大学の方角と時計をにらめっこして、また散策に戻る。この流れをもう3回は繰り返している。
「……どうしたものかな。珍しく暇だ」
思えば、生きてきた中で、手持ち無沙汰な時間なんて、あまりなかった気がする。
幼少期は、近所の連中と日曜学校ではしゃいでいた。父と母が出張で離れ、クレア姉さんに出会ってからは、そのまま彼女が生きる目標、かつ目的になった。
そんな彼女が死体に沈んでからは、やる事が山のように積み重なっていった。足元なんて見ずに、ただひたすらに、目の前の目標を達成することだけを目指した。
成り行きで軍属になってからは、列車で帝国各地を飛び回った。相次ぐ任務の片手間に、自分の目的も抱えていれば、時間なんてあってないようなものだった。
その中で、やはりとびきりに密度が高かったのは、やっぱりいつかの帝都の一週間。
相変わらず、あの日々のことはありありと思い出せる。忘れてたまるか、って感じでもあるんだが。
……まあ、有り体に言ってしまえば、燃え尽き症候群だ。
当初の旅の目的である、【ギリアスオズボーンへの牽制兼カチコミ】は、もっと長期的な目で見なくてはいけないし、途中発生した【シェーマの捜索】も、重要な背景情報こそ落ちたが、想定よりも闇が深そうだ。それこそ、《裏》に精通している協力者がいなければ、話にすらならない。
地力と、決定的なコミュニティ不足が露呈したことになる。
大まかな大勢力とは繋がっていても、細かい裏勢力との交流が必要になってくる。まあ、当然そういう人間と付き合うのなら、相応に腕が立たなくてはいけないんだけど。
「……街道……出るかぁ……」
そろそろクオーツを錬成する方の腕も磨いておかなくてはいけない。最近は対人戦ばかりで、材料のセピスも不足しがちだ。ああ、そういえばナイフのコーティングもハゲてきてたな。導力の伝導率も落ちてるだろう。ここらで純度の高いものに置き換えてもいいかもしれない。
行き先が一度決まれば、無限にする事が湧き出てくる面倒な性格に、今日ばっかりは感謝したい。
まあ、散歩程度に止める予定だし。ナイフよし、ARCUSの充電よし。
ん?あれ、なんで中央の大きいクォーツの色が……さっき見た時には、下の回路まで見えるくらい透明だったのに。
赤い、靄…………?
薄く、球体の中央に、核となるように集まっている、霧のような、何かが……これは、一体?
そういえば、このクォーツだけ、何も説明書に書いてなかったんだよな。どうしてこのタイミングで、こんな異変が起こったんだろう。今までこの試作版を使って、一年近く経っているが、一日たりともこんな事はなかった。
まああいいや、試運転も兼ねて、何体か魔獣と接敵してみようか。
こうやって、一人でただ魔獣を倒していると、旅に出る前の日々を思い出す事がある。
あの頃は、親に見つからないように、夜こっそり抜け出して、夜が明ける前に、自分で怪我の手当もしてから帰らなくちゃいけなかったな。
それに比べて今は…………
「駆動、エアリアル」
ナイフの先端を魔獣に食い込ませて、そこにアーツのヒットポイントを調整する。瞬く間に相手の体を風の刃が切り刻み、内側から爆発した。
バラバラと散らばるセピスを、周囲の安全を確認しながら一つ一つ拾い上げる。
______随分と小慣れたものだ。
クォーツの材料を取ってくるのにも、必死だったのに、今はこうやって、夕焼けを見ながら、ちょっとした物想いに耽ることだってできる。
拾ったセピスを、丁寧に袋に詰め、魔獣の死骸は、街道から遠ざけておく。明日の朝には綺麗さっぱり七曜脈に還っているだろう。
「……うう、流石に春先とはいえ夜までは居たくないな。冷えてきた」
全体的に日差しは暖かいのだが、その太陽が落ちかけている。時折首元に吹く風も、的確に体温を奪っていく。そろそろ街に戻ろうか。
「っと、流石にナイフの血は落としてから入らないと」
主に切る目的ではなく、体表にキズを作るだけなので、一般的な刃物使いよりは汚れないのだが、魔獣の血を滴らせながらルーレの街を徘徊するわけにもいくまい。
適当なところに腰掛けて、持ってきたタオルで不恰好な刃を丁寧に磨く。加工も文字通り付け焼き刃だったので、ガタガタしている。刃先だけではなく、側面にもたまに尖ったガラス質が有るので注意だ。
……これも、今作り直せば、もう少しマシな代物になるのだろうか。思い出の品、というのは有るのだが、セピスで刀身をコーティングしているのは、あくまでアーツの伝導率を良くして、避雷針の役目をしてもらうためだ。それならば、純度の高いものに張り替えるのは当然だろうし。
「ううん、意外と……出来ることは、小目標は有るんだけど。どうにも焼け石に水だなぁ!」
ゴロンと草むらに寝転がる。沈みかけの、赤とも紫とも言えない空の色が、雲をゆるゆると風に任せて流している。
はてさて、どうしたものか。
頭は、今すぐ帰るべきだと、自分を過信せず、面倒臭がらずに、とっととなすべき事を為せと、言っているのだ。何をするにも基礎が足りないと、自分で結論づけたのなら、その基礎を地道に培っていくしかないのだろう、と。
それが、今自分の考え得る最善だというのは、とっくに、わかっているのだ。
そんなのどうでもいいから、今は、ほんの今だけは。
…………このまま、目を閉じていたい。
疲れも、やることも、宙ぶらりんなままで、顔を撫でる風に、全部任せていたい…………
「ははっ、まさか俺、こんなに感傷的なところがあったなんてな。いまセントアークに帰ったら、案外詩人にでもなるかもな…………」
なんの意味もなく、ナイフを持ったままの左手を空に掲げてみて、そのまま頭の上に、ゆっくりおろした。
お世辞にも、何度も敵と俺の血を吸ってきたナイフは、くすんでいて、とても綺麗とは言えない。日光にかざしても、キラキラと光るわけではなく、その光を受けてぼんやりと暗闇に輪郭を浮かべているだけだ。
そのまま暫く、多分3分くらいの間、俺はまどろみと憂鬱の間を、彷徨っていたような気がする。何か考えたような気もしたが、忘れたので、大した思いつきではないのだろう。
……ウダウダ物を考えていたって、俺の足りない頭なら一生結論は出ないし、陽が沈めば、魔獣に一方的に蹂躙されるのが関の山だ。
無気力ではあったが、別に自殺願望が有るわけではない。大方、久しぶりに一人になって人肌恋しくなっただけだろう。全く、みっともないというか、なんというか。
「だあっ、センチメンタルタイム終了!切り替えろ、俺!」
勢いをつけて跳ね起きる。手入れ途中のブレードを寝ぼけ眼で探し、片方を探り当てる。
「あれ、もう一つも、確かこの辺に……あった」
草むらに埋もれていたそれを、自分の手を斬らないように、慎重に手繰り寄せる。グリップ部分が見つかって、手を伸ばす。
…………冷たい。
「ひぅっ……!?」
驚くほど冷たくて、でも凍っても、濡れても、湿ってもいなくて。ツルツルした触感だった、気がする。
思わず変な声を上げてしまい、背後を咄嗟に確認したが、誰もいないのを確認して、詰めていた息を吐き出した。
「それにしても、なんだ今の……」
ナイフの柄を掴もうとした時、何かに触った。意を決して、もう一度草むらに手を突っ込む。
思ったより大きめの……球体。ツルツルしていると思った表面には、有る一面に刻印が刻まれている。何かの紋様だろうか。
薄ピンク色の水晶のようなものに、黄色の刻印。それが意味するものは、全くもって俺にはわからないのだが……
「もしかして、これ、クオーツか?」
普通の物よりは二回りほど大きいけど。ARCUSを開け、中央にはまっている、透明なものと比べる。思った通り、色と、謎の刻印以外の特徴は合致している。手持ちのルーペで見れば、うっすらと内部構造も確認でき、アーツが使えることがわかった。
それにしてもおかしい。
従来型に、このような大きな結晶回路は用いない。魔獣が吐き出した事例も、今の所確認されていない。RFが、俺以外にテスターを雇っていたとして、その研究対象が、こんなに無造作に転がっているだろうか。
草むらに入れたままの手を、そのままガサガサと動かしてみる。カツン、と爪がガラス質に当たる音がした。
カツン、こつん。
カタリ、かつ、かつ。
物音が、連鎖的に反応していく。
「______ッ、!」
薄気味悪い。なんだか、嫌な予感がした。
迷いと恐怖を振り切るように、乱雑にナイフで邪魔な長い草を刈り取る。すると、予想通りではあったが、瞬く間に無数の水晶玉が姿を現した。どれも、みな一律に同じ色、同じ形をしている。
「……“何か”あるのは、間違いなさそう、だな……」
次に感じ取ったのは、背筋に冷や汗をかくような、明確で純粋な殺意。持っていたナイフを構えると同時に、草むらから数頭の魔獣が飛び出してきた。
「……アルマ、遅いな」
確か、用事が終わったらもう一度大学に顔を出すって言ってたのに。空いた時間でじいじの部屋を片付けられるのは良いんだけど。
陽が沈んでから、もう2回は時計の長針が360度回った。もしかしたら、RFでの案件が長引いているのかもしれないけれど。
「手が止まっているぞ、あの小僧がそんなに心配か?」
「そんなわけないでしょ、爺やが一番わかってると思ってたんだけど。というか、自分で散らかしたんだから、自分で片付けてちょうだいよ!」
はあ、天下のシュミット博士と言われたところで、ダメ人間なのは変わらない。掃除は好きだが片付けは嫌い、と言ったらいいのかも。洗濯はするけど、絶対に畳まないし、掃除機はかかるけど掃除道具は部屋のどこかに積んであるだけ。
「それにしても、心配っすねー、最近この街も物騒じゃないですかー」
積み上げた本を書架に直しながら、手伝ってくれる大学生の人たちがつぶやく。
「なんだっけ、誘拐?子供がターゲットなら、ない話じゃないと思うけど。あの子、何歳なんだっけ?」
誰にもともなく、学生が宙に言葉を放り投げる。まだ会って1日も経っていない彼らが、アルマのことを知っているわけがない。その問いには、必然的に自分が答えることになる。
「16。…………って聞いた。誕生日が来てたらわからない」
「別れたのが昼過ぎってことを考えると、ま、まさか、ね……」
話を適当に切り上げるために、学生はそう言って見せたが、それがボクには一番気に食わなかった。
……アルマ本人の、中途半端な強さは、ボクが一番わかってる。
並の一般人を軽く捻ることができて、武の達人には歯が立たない。あくまで、自ら進んで武を極めていない相手なんて、目じゃないはずだ。
例えば、チンピラ、実践慣れしていない軍属、それから、銃火器を扱う裏の人間。コイツらは、一つ二つかすり傷を作る程度で、ピンピンして帰ってくる。
理由は単純、アルマの方が知識が有るからだ。
それでいて、下手な道場のちびっ子にボロ負けしたりする。特に、体術を会得している相手……要は、まっすぐな手段にとことん弱いのだ。
そんな彼が一番苦手とするのは……対魔獣。彼らの1番の強みは、数。そして、突き詰めたスピードと殺傷能力だ。
まさか、街道には出ていないと思うんだけど。
そうは考えても、現に彼はここに戻ってきていないのだ。待つべき猶予はもう終わっている。ならば、行動に移すのが筋だ。
「……やっぱり、ボク一回RFの人に聞いてくるよ。流石に8時を回る頃にはビルも閉まるでしょ。そうだよね?」
「好きにするがいい。……それと、下手に騒がれても構わん。持っていけ」
ポンと、まるで幼子に菓子でも渡すように投げられたのは、最近仕入れたサイレンサー付きの拳銃。アルマと一緒だと、安全な場所から狙撃できる機会の方が少ないし、最近の懐刀だったんだけど。
量産製特有の細かい摩擦が気になるところを、ボク好みのパーツに変えてある。照準機に至っては丸ごと総とっかえ。それでも銃身のバランスが崩れないんだから、流石の爺やとしか言えない。
……うん?待って、これ、セーフティかかってなくない?というか、ボク爺やにこの銃渡したっけ?
「どうした、ボケっとしているなら______」
「なっ、なんでもない!行ってきます!!」
ー ー ー ー ー
やっぱり、というか案の定。
RF社のビルは完全に施錠されている。扉の前の守衛さんに聞いても、アルマはまだ日があるうちに帰ったそうだ。街の中をザッと探しても、それらしい影は見えない。
というか、よくこの街を知っているからこそ、ドツボにハマっているような気もしてきた。アルマは未成年なんだから、バーなんて入るわけないんだし、初めから除外したほうが良かった。
となると、街道か……どこか別の街に向かうなら、流石に連絡があってもいいだろう。
「あーあ、こんなことならもう少し火薬持ってくるんだった」
街から出て見渡してもわからないほど、何をしに奥に行ったのさ……もしくは鉄鉱山方面に行ったって事になるけど、そっちまで洗い出す余裕はないかな。鉱山なら、最悪深夜にも人がいるし。
夜になって、少し活発になった魔物を、相手の攻撃圏内に入る前に撃ち落とす。街道に沿って設置された導力灯に沿って、道を見失わないように進む。
アーツを主体としたアルマだからこそ、この闇夜にはオーブメントを動かす時の明かりが目印になる。
……筈なんだけど。
明かりどころか、物音ひとつ聞こえない。街から離れるにつれて、魔獣も増えてきてるっていうのに。まさか、本気で鉱山方面に行ったとか……?
「どうしよう、本格的に囲まれる前に引いた方が良いかも」
消音器を付けたとはいえ、そう立て続けに何発も射撃してたら、人より感覚の鋭い魔獣は気づいてしまう。そうなれば、単発式の拳銃じゃ厳しいものがある。
お世辞にもフィジカルが強いとは言えないから、一度退路を塞がれればおしまい。それで無くても、攻撃を一度でも受ければ動けなくなる自信がある。
「そうだな、流石に俺も物資が尽きてきた」
「うんうん、撤退______って……」
カンッとナイフで敵の攻撃を迎え撃ち、強引にその辺の岩場に攻撃を逸らす。飛びかかってきた魔獣は頭を打ったらしく、そのまま気絶してしまった。
「ん?……あれ、どうしてシアンが街の外に……?」
しれっと何食わぬ顔で、横に合流している影。暗がりだが、いつも通り適度にボロボロになって枯れた声のトーンは変わらないらしい。
「……一回殴っても良いよね、これ」
「なんでだよ!」
残り少ない弾薬を相手の頭に撃ち込みながら、あえて聞こえるようにぼやく。申し訳なさそうに、前に出てヘイトを取りながら、アルマは聞き返す。
「あー、もしかして俺を探しに?」
「自惚れないでよ、ばーか!!報連相くらいちゃんとしろ!」
「ハイハイ。それはともかく、だ。」
目の前の一体をナイフで切り捨てた後、アルマは急にくるりと方向転換する。
「このままじゃ埒が開かない、今日は街まで引くぞ」
「え」
ぐっと腕を引っ張って、そのまま来た道を引き返す。
「ちょ、ちょっと待とう!?まだ魔獣いたよね?追ってきちゃうよ!」
「仮説が正しければ街までは来ない!」
もつれて変になった足取りが戻る頃、ようやくルーレの街が見える。門の守衛に、大層不思議なものを見る目をされながら、二人はスライディングせんばかりの勢いで、街へと滑り込んだのだ。
お互いに、守りを捨てて逃げに徹するなんてことはそうそう無い。久しぶりの全力疾走に、息が弾んでいた。
「っ、はぁ、はぁ……ッ、わ、ホントだ、街までは追いかけてきてない……でも、なんで……?」
勢いで門を潜って、訳もわからないまま、脳に酸素が行き渡るよう、ベンチに座り込んだ。アルマは、何か考え事をしているのか、ブツブツ唱えながら、同じところを物理的にグルグル回っている。
「RF……は無理だな、ううん……」
「アルマ、なんか悩み事?」
「ああ、普通ならこの手の話はRFに持ち込めば良いんだが、どうやら俺RF内で企業スパイ扱いになってるらしくって。自前で調べるにしても、骨が折れるなーって」
何をしでかしてるんだ、コイツは。
それでも、公にしてRFが追ってこないってことは、相当機密レベルの高い案件なのだろう。それこそ、自社内でも知っている存在が限られている、戦術兵器とか。
その点に当てはまると、アルマの持つ戦術オーブメント……ARCUSはそこまでの物ではないはずだ。テスターをこうやって野に解き放って自由にさせている以上、この手の界隈ならばもう、周知の事実だろう。
アルマは頭をかきながら、カバンから袋を取り出す。その中には、何やらキラキラとした破片のようなものが入っていた。
「これ、セピス?」
街灯の光を反射するそれを、手にとってみる。相当細かく砕いたのか、底の方には砂のようになってたまっている。
「ああ、尖ってるかもしれないから気をつけろよ」
手で掬ってみる。
見たところ、白色ではあるが、セピス塊よりも純度は高そうだ。触るたびに、細かくなってしまったそれが、街灯の光に反射して、キラキラと光る。
「推定だけど、クオーツかな。さっきの魔獣が地味に寄ってきたのも、これの影響らしい。砕けばどうにかなったけど、完全体のままだったら、きっと無限に寄ってきた」
「よく切り抜けたね……」
聞けば、魔獣が寄りつきやすいクォーツというものも、珍しいけれど存在するらしい。
しかし、それらのクオーツは魔獣の好む物質を気発させて、花が虫を誘き寄せるように魔獣を寄せる。しかも、媒介のとなるオーブメントが存在しないと、唯の石ころになる。
それに対して、今回のクオーツは、一帯の魔獣を凶暴化させていたらしい。原理はわからないけれど、一定のテリトリー内に敵対反応が入ると、問答無用で襲いかかってくる、という。
「まあ、このクオーツの粉末についてはわかったよ。連絡も無しに街道に出た理由も、まあべつに、そこまで怒ってないし。で、これもまた首を突っ込むの?」
そう言えば、露骨に目を逸らす。
「あー、今回でいえば、RFに相談できないのも俺の落ち度だし。そうだな、今回は俺だけで______」
「アテはあるの?自前で調べられないからRFを頼ろうとしてたんじゃないの?」
「一応、帝都まで行けば、なんとか……?」
寒い顔をしながら、列車の時刻表をめくるアルマの額にデコピンした。
基本的にアルマは、自分の防衛にコネを後ろ盾にすることはあっても、攻勢に出る時にそれを使おうとしない節がある。あまり本人から話は聞けていないが、大方今のアルマの“直属の上司”とやらに、負い目か何かでもあるのだろう。だから、その“上司”の力を自分のものとして振るうことを良しとしない。
「バーカ。今日は夜ウチで食べるのでいいでしょ?」
「痛ったいなあ。ウチって……あれ、シアンの実家って?」
目を瞬かせるバカを置いて、エスカレーターを駆け上る。その時に、ちょっと例のクォーツが入った袋も拝借する。
「実家っていうか、義父ともども居候ってかんじなんだけど。基本的に生活スペースがあるから、大学で全部完結しちゃってたんだよね」
「つまり、今回は里帰りだったのか。どうりて……」
「ま、言う必要も無かったしね。今回に関しては、すこーし文句言いたいことがあって、帰ってきただけなんだけど」
そのまま、強引にキャンパスの扉を開けて、教授室の扉を叩く。
椅子から人が立ち上がった音を聞いて、ボクは内心ガッツポーズをしていた。爺やの「興味」に対する嗅覚は本物だ。学生の研究でも、気に入らなさそうなものは、論文を書いた学生を見るまでもなく、部屋の前で門前払いだ。
「爺や、ボクだけど」
気だるげなこえで、要件を言え、と返ってくる。
「______少し、見てもらいたいものがあるんだ」