リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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鋼の心、霞んだ硝子3

 

 

「え、ええと、なんだかすみません。いきなり押しかけちゃった上に、夕食まで。」

 

 

ルーレ工科大学の裏手、居住スペースのシンクで、スポンジと洗剤でケチャップの汚れを落としながら、アルマは呟く。隣でその皿を拭きながら微笑んでいるのは、昼間大学のロビーにいた受付嬢だ。

 

 

「いいんですよ。それに、私たちとしても、シアンくんにお友達が出来るのは嬉しいですし」

 

「は、はは。そうなんですか……」

 

 

内心冷や汗をかきながら、手先口先を滑らせないように注意する。

 

さて、彼の話題。どこまで突っ込んで聞いて良いものか……と。正直、疑問点なんて山ほどある。

 

 

 

何故自分より幼いのに、軍に属することになったのか。シュミット博士……というより、ルーレ工科大学に身を寄せるきっかけになったのは何故か。何時からか。彼の扱う巨大すぎるライフル銃は何か。どうやらパートナー兼ポイントマンが何度も変わっているらしいが、その理由は…………。

 

 

 

「ふぁあぁ……眠……ぅ。あれ、アルマまだ寝てなかったんだー」

 

 

後ろから心底気怠げ、というか、落胆したような声がぬけてきた。ロビーの椅子に腰掛け、そのままだらりと腕を垂らす。びっくりして、声が上擦らないように、首だけ後ろに向けてみる。

 

 

「ああ。そっちの方はどうだった……って、おい。寝るならもう少しマシなところでだな……」

 

 

羽織ったままのコートをクシャクシャにしながら作業していたであろうシアン。グッタリとして、小さなデスクに突っ伏して動かない様子を見てか、アルマはいまいちいつものように、強気に出ることができなかった。

記憶が正しければ、夜ご飯も食べずに、研究室に篭りっきりだったはずだ。取っておいた夕食を温め直す。

 

 

「アルマぁ……ダメだ、あれ」

「ああ、やっぱり……確かに魔獣寄せの効能を断つために、かなり木っ端微塵にしたし」

 

 

オムライスの匂いを嗅ぎつけ、のそのそと顔だけアルマの方へ向ける。ようやくゴムでできたグローブを脱ぎながら、キッチンに備えられている引き出しを開ける。プラスチックのカラトリーを取り出し、そのビニールの包装を破って捨て、アルマの手にあるオムライスの皿を奪い取った。

 

 

「違う、そうじゃ無いの」

「それって、どういう……」

 

「爺やは、興味の無いことには全く手を出さない。例のカケラも、袋の中身すら見ようとしなかったよ。仕方ないから、ボクが適当に器具を使わせてもらったけど、あまり慣れてないし……一般のクオーツと大して成分が変わらないってことしか、わからなかったよ」

「そう……か、ありがとう。お疲れ様」

 

 

不貞腐れてスプーンを口に運ぶシアン。疲れた頭に、軽い舌触りの卵と程よい酸味のケチャップが沁みる。大学の学生に脈々と受け継がれている、比較的安価な材料と最低限の時間で作れる、彼にとっては食べ慣れたレシピだ。

 

 

「それにしてもおかしいんだよね」

「何が?」

「だって、本当に興味がなかったら、いくらボクでも、部屋にすらあげないはずなんだよ」

「そんなに難儀な人なのか……?」

 

 

困惑するアルマに、隣で何かしら作業をしている受付嬢が補足する。カップを二つ持ち、アルマとシアンにそれを手渡した。甘すぎない香りと、ミルクの柔らかい蒸気。寝る前のリラックスには打ってつけだろう。シアンの近くの適当な椅子に腰掛けて、受け取ったホットミルクを啜りながら受付嬢の話に耳を傾けた。

 

 

「ええ、本当に興味の無いものに対しては、全く無反応なんですよ」

「それこそ、よくRFとかから持ちかけられた資金提供とか、定期的に突っぱねて、他の教授の頭を痛ませてるんだよ」

「お、おう……」

 

 

とめどなく溢れてくる、シュミット博士に対する愚痴。それに苦笑しつつ、アルマの頭の片隅には何かが燻り続けていた。

 

 

(……あれ、だとすると……?)

 

 

 

 

ー ー ー ー 

 

 

 

「さて、今日の行動方針なんだが」

 

 

ルーレ工科大学の仮眠スペースにて、一晩厄介になることになったアルマとシアン。本来なら、鉄道憲兵隊の詰所にお世話になるところだったが、そのまま流れで朝食までいただいてしまった二人は、そのまま大学のロビーで今後の予定を立てていた。

シアンは不服そうな顔で切り出す。寝不足も相まって、過去に見たことのない形相をしていた。けれど、怒鳴り出す気力もないのだろう。重い瞼を上げ、尋ねる。

 

 

「ええと、ボクたち一応、鉄血宰相の命令で、学生の研修の候補地を探してるんだよね?」

 

「ああ。エレボニア帝国の工業を一手に担う、大きな工業都市だからな。むしろ候補に入らない方がおかしいくらいだ。だけど……」

 

「その有数の工業メーカーのトップから目をつけられた上、謎の魔獣を寄せ付ける物質の大量発生。おまけに、なんか街も治安が悪くなってるらしいし、正直今の街の状態は、【正常】とは言えないよね」

 

「ユミルの時と同じ……か。明確な期限は決められていないとはいえ、あまり悠長にもしていられない。それに、俺としてもRFにマークされっぱなしは、少し辛いものがある」

 

「確か、情報漏洩……企業スパイを疑われてるんだっけ?それこそアルマ、もとい帝国政府にほとんど利益なんて無いようなものだけど」

 

 

RF社は、帝国軍にテスターを融通することで、大量の試験データを調達できる。帝国軍は、最新装備を部分的にだが採用できる……というのが、本来のRF社と帝国政府の関係だ。

 

しかし、ARCUSに限って言えば、何かと開発が難航しているのか、未だ大量生産して軍に先行投資する段階にまで漕ぎ着けていないらしい。その証拠に、アルマのARCUSも、アップデートのたびに外部メモリや拡張パーツを取り付ける、簡易的な措置に留めており、量産の目処は立っていなさそうだ。

 

その上で、いくらエレボニア帝国が軍事国家だからと言って、将来的に自分のものになる技術を、あえてRF社から盗み出す理由はないのだ。

 

 

その点を指摘され、アルマは昨日のことを思い出す。

 

確か、初めに違和感を感じたのはARCUSのデータを輸送する時。確か、備え付けの情報端子の形が合わなかったんだったか。

 

 

「どんな形だったか覚えてる?」

「ええと、どんなって……あまり詳しいところまではわからない。せいぜい、ARCUSの端子_______コイツより、少し小さかったか?ああ、そういえばケーブルの色も違ったな。いつもは黒い配線に、水色が混じっていたと思う」

 

 

アルマは、カバンを漁って手持ちのケーブルをみせる。これ自体は、最初に彼がARCUSを受け取った時からある付属品だ。データの送受信が双方から可能なので、今回のように、戦術オーブメントから別の機器へデータを送ったり、逆に新しいデータをアップデートすることも出来る。

 

但しそれは、あくまでどちらかの端末から指示があってからなので、アルマの知らないところで勝手に会社のデータを吸い取ってる……なんて事にはならない。

 

それを見たシアンは、胸ポケットから、小さなガジェットを取り出す。手のひらに簡単に隠せるサイズで、直方体の側面には、何かが刺さ理想な穴が空いていた。

 

 

「あくまで可能性だけど、そのくらいの端子で疑われるなら、帝国軍内規格のメモリースティックかな。これはRFで生産してない情報局お手製の物だし、何より大量のデータを保存するために、外付けの珍しいケーブルを使うんだ」

 

「なるほど、大体の導力器は、本体から導線が伸びてるからな。だとしたら、俺以外の誰かが、そいつを使って……?」

 

「だから、可能性だって言ってる。それに、現時点ではわからないね。……今は後回しにした方が良さそう。これに関しては、後でツテを当たろう?」

 

「となると、次に考えるとしたら、糸口はは謎のクオーツか……?うーん、偶に魔獣の体内でクオーツが出来るっていうのは聞いたことがあるんだけど。イマイチ決め手に欠けるな。それこそ、例の大きいクオーツは、いっぱいありすぎて全部破壊できなかったから、街から遠ざけておいただけだし……丸々一個、なんとか持って帰ってこようか?」

 

 

その無神経極まりない一言が、早朝特有の低血圧、寝不足もあり、シアンの地雷を踏み抜いた。

 

 

「魔獣寄せの効果があるんでしょ、街に魔獣が入ってきたら洒落にならないでしょ!」

 

 

かくいうアルマの方も、深夜にも関わらず情報局に連絡を入れたり、独自にRFの内情を精査していたため、大した休養は取れていない。シアンの論が真っ当なのはわかっていながら、それを抑え切れるだけの理性は、持ち合わせていなかった。

 

 

「じゃあどうしろって言うんだよ、このまま引き上げろって言うのかよ!?」

 

 

いつもならば、アルマが譲るか、シアンが折れるか。

その余裕が双方無い今、子供の喧嘩というものは、第三者の介入がなければ拗れ、長引くものだが_________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______フン、朝から騒がしいわ」

 

 

止めに来た人が悪かった。ハラハラしながら二人を見ていた大学関係者は頭を抱え、アルマとシアンは思考と体が同時に停止した。

 

 

 

「「………え“っ……」」

 

 

 

呆けて我に帰り、お互いの顔を見合わせる。次の瞬間、二人の頭には鈍い痛みが走っていた。ゴツ、と岩を砕くような音が続けて三回。

 

 

「〜〜っ〜〜!!!痛ッたい!グーで殴ること無いでしょ、爺や!」

 

 

後頭部をさすりながら、シュミット博士の白衣に、今にも掴みかかりそうなシアン。あっという間に口を聞けるようになった彼に対し、アルマはようやく意識を現世に連れ帰ってきた。

 

 

(……星が見えた気がするんだが……)

 

 

辛うじてこぶのできていない頭を労わりつつ、何とか顔を上げる。しかし、その痛みが段々、拳で打たれた物にしては、不自然である事に気がついていく。母に何度か受けたそれとは、違う何かを。

 

アルマは辺りを見渡す。

朧げだが、音は3回なった筈だ。

一度は自分、二度目はシアンに向けた攻撃。では、三回目は?

 

その瞬間、アルマの中でパーツが音を立てて完成に近づいていく。昨日の晩から感じていた違和感。段々と、疑惑が確信へ変わるにつれ、全身からサッと血の気が引いていく。

 

 

「それは貴様が見せるべきものを間違えたからだ。あんな物、誰が調べたところで、精々少し純度の高い七曜石だ」

「じゃあ、一体何を______あ、アルマ?どうしたのさ、そんな青ざめて」

 

 

 

「…………な、無い……」

 

 

 

 

 

アルマは慌てて、戦術オーブメントのカバーを開ける。その中央に鎮座していたはずの、一際大きなクォーツ。透明なそれの中に、紅い煙が充満していたそれが、忽然と消えている。頭に血が上っていたシアンも、あまりの動揺っぷりに、その火が鎮火した。

 

 

「戦闘中に落とした?いや、昨日寝る時にはあった筈だ……じゃあ、いつ……?」

 

「バカモン、“有る”わ。貴様らの目は節穴か?」

 

 

アルマは、視線をARCUSの中央から、博士に移す。その手には、確かにアルマのARCUSにはまっていた、“真紅の”大型クオーツがあった。

シュミット博士の手から、半ば奪うような手つきでそれを手元へ持っていき、まじまじと眺める。

 

 

「俺、の……?でも、昨日まで、まだ配線も見えるくらい透明で______!」

「……成程、爺やの興味センサーはこっちだったんだね」

 

 

咳払いをして、シュミット博士は続ける。

 

 

 

 

「ソレ自体は、最近開発が進んでいるらしい【マスタークオーツ】という代物だ。ただし、それはマスタークオーツであって、マスタークオーツでない。それだけの話だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええと、ゼムリアの言葉で話してる、のか?」

 

「ああ、そういう事かあ。文章が決定的に破綻してるって、爺や」

 

「……通訳、頼めるか?」

 

 

困惑するアルマに対して、シアンは半分両者に呆れながら、噛み砕いて話す。

 

 

「アルマの持つクオーツは、確かに【マスタークオーツ】として、設計された。本来予測していた物と異なっていたとしても、現状それ以外のマスタークオーツは存在し得ない。故に、アルマの持っているそれは、【マスタークオーツである】。

しかし、その名の通り、分類としてクオーツに位置しているにもかかわらず、決定的にクオーツの枠を外れる要素がある……よって、それはクオーツとは言えない。ということは、【マスタークオーツでない】……ってところ?」

 

「なるほど、わからないが。その枠を外れた要素って?」

 

 

哲学的な思想は、アルマの苦手分野だ。おそらく序盤3秒ほどで、文章の内容が飲み込めず、右から左へと文は素通りしていっただろう。

 

 

「……阿呆か?」

「うーん、重症だね」

 

その一言に、シュミット博士とシアンは頭を抱えた。しかし、日曜学校でも中の下にいたアルマに、大学教授と、年は若いものの、普段からその手の会話を聞いていたシアンの話についていけ、という方が酷である。

 

 

 

「まあいい。問題は、コイツの中身が、液体。もっと言えば流動性を持つ可変な構造をしているというところだ」

「それって、クオーツの、結晶回路の構造が変わりうるってこと、ですか!?」

 

 

自分の専門分野に入り驚きが二転三転した結果、一周回ってシュミット博士に敬語を使う余裕が戻ってきたアルマ。他国で流通しているものはともかく、ARCUSは、結晶回路ごとに発動できるアーツが決まっており、少しでも内部の結晶に乱れが生じると、うまくアーツが発動できない、ただの身体強化機になってしまう。

 

 

「それも、本来の【成長する】という方向ではなく、【再結晶する】といった方向だ。……なんだ、貴様。まさか知らなかったのか」

 

「……えっ、あ、はい…………???」

 

 

 

アルマの頭は、今真っ白だ。自分の所持する装備の現状さえ知らず、その上、そんなARCUSの根幹に関わるような【クォーツの成長】という要素まで、RF側から伏せられていたなんて。

 

鬼畜メガネの会長に問いただせば「バイアスを排除するためよ」とか言うのが目に見えるが、それはそれとて、沸々とアルマの中には怒りが込み上げてくる。

 

 

 

(絶対いつか、あのメガネと薄ら笑いを叩き割ってやるからな……)

 

 

 

改めて、まじまじとシュミット博士から奪い取ったクオーツを観察する。紅く、少し大きい以外の特徴とすれば、色の不均一さと紋章があるだろう。

 

本来、七曜石で作られたクオーツは、純度が高く、色が均一であるものほど良質だとされる。しかし、中身が博士の言うとおり液体ならば、濃い部分と薄い部分があり、それが緩やかに流動しているのも納得だ。しかも、いつまで経っても完全に混ざり切る気配がない。

 

そんな、水に絵の具を混ぜたような不均一な色合いで、唯一くっきりと浮かび上がっているのが、黄色の刻印だ。昨日魔獣を寄せる原因となった物と形は違うようだが……

 

 

「ええと、博士。確認ですけど、本来は“こう”ではないと?」

 

「何度も回路に導力を通し、それによって少しずつ内部の回路を伸ばしていくと言えば良いだろう。それに対し、此奴は、一瞬にして構造を無かったことにし、再構築した。何なら、昨晩の時点では青色をしていたのだが。しかし現状、その現象起点である核が観測されていない状況だ」

 

「核ってヤツが、有るだろうと推測される……というか、無いと成り立たないんですね」

 

 

シュミット博士は頷く。

 

 

「観測できない極小単位のものか、物質的に観察できないものか、外部的要因か。どちらにせよ、本来ならば、マスタークオーツの成長は、半年から1年でピークを迎える。その点で言えば、貴様が昨日木っ端微塵にしたものの方が、本来の設計思想に近いと言えるだろうな。ここまで何の変化もなかったというならば_______」

 

「初めて受け取った時には核が無かった。それが、この一年、もしくは近日。生成されたか外部から取り込んだ、か」

 

「加えて、その核を起点に結晶回路を構築するエネルギーも必要となる。内部からエネルギーを生産していないとなれば______」

 

「……詳しく調べる余地はある。それなら……」

 

 

 

アルマはその手に握った大きなクオーツを、そのままARCUSに戻した。心なしか、色が無い時よりも、機体とアルマ自身が同調している……そんな気がしていた。その感覚的な変化を、おそらく理論で理解しているであろうシュミット博士は、ほんの少しだけ、目を細めた。

 

 

「ほう……?」

「少し、心当たりが。何かわかったら報告します」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「……ふう、こんな所かな」

「ボク、アルマの平気で嘘をつける所、本気で尊敬するよ」

 

 

顔色ひとつ変えないアルマの手には、青黒いケーブルが握られていた。昨日、社長室にて、違和感を覚えたきっかけそのものである。そんな2人の隣には、金髪の少女が、オドオドしながらシアンの袖にしがみついている。RF本社からある程度離れ、落ち着ける場所まで誘導して、その少女はようやく口を開く。

 

 

「ね、ねえ……本当にこんな事して大丈夫______じゃなくてっ!!!」

 

「え、えーと……別にボク、何かしでかしたわけでも……」

 

「フンっ、貴方の口から言い訳なんて、聞きたくなかったわ」

 

 

キリッと結ばれた赤目に睨まれ、シアンはこれ以上口をきかなかった。

 

 

「大学の人に聞いても、みんな知らないって言うし、あのシュミット博士にすら知らせずに居なくなる……その挙句、何度か帰ってきても、絶対に私のところには顔を出さなかったみたいね?」

 

「うぐぐ、その点に関してはボクが悪かったって!ゴメン、この通り!」

 

 

 

 

 

「……ええと、君がシアンのいう“アテ”であってるのか……?」

 

 

困惑して、話題に置いて行かれたアルマが、話の流れを断ち切る。少女は、不服そうに目線をシアンから外した。肩ほどまである髪を弄りながら、腕を組む。

 

 

「アリサよ。アリサ、ラインフォルト。名前でわかると思うけど、あの人の娘に当たるわ」

 

 

言われてみれば、あの会長と、腕を組む仕草や、苛立った時の言い回しが、似ているかもしれない。

 

 

「都合のいいように使われている、といった感じは拭えないんだけど。一応は、協力者……そうなるのかしら?状況は一通り把握しているつもりよ。母さんと街の様子が、ここ数日落ち着いていない原因に関しても、ね」

 

「やっぱり、誘拐事件が絡んでそうっていうのは、間違いないんだ?」

 

「ええ。といっても、大人の中ではそう話題になっていないけど」

 

 

 

嘆かわしい、というように少女______アリサは話し始めた。

 

 

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

 

 

事の発端は、二週間ほど前だという。

 

とある少年が、遊んでいる最中に行方不明になった事がきっかけだ。一緒に遊んでいた子供達は不審に思い、すぐに辺りを捜索したが、全く手掛かりがない。大人にも呼びかけ、日が暮れるまで街の中や街道まで探したが、痕跡どころか気配すらない。

 

どうしたものかと頭を悩ませていた午後八時ごろ。なんの変哲もない、街の中で、行方知らずだった少年が見つかった。大人たちも不審に思ったが、本人に大事がなかったため、特に問題にもならず、その場はお開きとなったらしい。

 

 

「……でも、問題はここからだったの」

 

 

一度、息をついてアリサは続ける。

 

 

「同じような事が、それから立て続けに起きるようになったのよ。それも、毎日……」

 

 

憂鬱そうな顔をするアリサに呼応し、シアンの顔も青ざめる。友人や知り合いが次々にいなくなる……そんな奇妙な現象の中にいる彼女の気持ちを察すると、アルマの内心も穏やかではなかった。

 

 

「そ、それって……明らかに、“何か目的があります”って言っているようなものじゃん!」

 

「そこまで連続するんだったら、町の管轄者……ラインフォルトに領邦軍、それに正規軍も黙っていなさそうだが、実際はそうでは無い、と?」

 

「ええ、あまりにも薄すぎる被害、そして最終的には誘拐された全員が確実に帰ってきている……大人たちはどうやら、私たちが集まって大人をからかっているなんて思っているらしいわね……」

 

 

シアンは思わず絶句する。彼が日中聞いた話は、せいぜい風の噂か都市伝説くらいの深刻度だった。「そう言えば、こんなこともあったっけ」というくらいの、酒の肴になれば儲け物、といった具合だ。しかし、アリサの挙げる名前には、ポツポツとだが、自分も見知ったものがあった。

 

部外者であるため、メンタルダメージも軽微で済んでいるアルマが、追加でアリサに尋ねる。

 

 

「その、誘拐じゃなくて、別の線はないのか?例えば、アリサ嬢が知らないだけで、本当に何か企んでるとか……」

 

 

しかしアリサはそれを、キッパリと否定する。

 

 

「あり得ないわね。拉致された子達はみんな、詳しくは話したがらないけど、それからずっと怯えきってるのよ。中には見つかった直後くらいから全く口もきけなくなった子もいるわ。精々親たちは……大人に叱られたのがこたえて、しょぼくれてるだけだと思ってるでしょうけど」

 

「……そうか、事情はだいたい分かった。ありがとう、アリサ嬢」

 

「別に、お礼を言われる筋合いはないわ。私としても、どうにかしないといけないと思っていたし」

 

 

フワリと金色の髪を靡かせ、照れ隠しにアルマから目線を外し、もう一人に移す。

 

 

「まあ、数年前にフラッと消えた貴方から、こんな話が飛び込んでくるとは思わなかったけど……なかなか気の合う人を見つけたみたいじゃない?」

 

「気の合うって……それじゃあボクが人を選ぶ性格みたいに聞こえるじゃないか」

 

「あら?事実じゃない。だって、ルーレにいた頃なんて毎日のように______……」

 

「ストップ!この話題やめよう!?そうだ、今後の方針、結局どうするのさ!」

 

「ふふふっ、都合が悪くなると話をはぐらかすクセも、昔のままみたいね?」

 

「だあああっ、やっぱりお前のそういうところキライ!ドS!暴露魔!メカオタク!!!」

 

 

 

 

 

(……アリサ嬢……まだそんなに年端も行かないのに、母君の面影を感じちゃうなぁ……)

 

 

いつもシアンのマイペースに困らされているアルマだったが、猫の手をひねるように調子を崩してみせたアリサに、畏怖の念を覚えずにはいられないアルマだった。

 

 

 

 

 

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