リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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以下は、アルマ・カントゥータの私用な文書である。
間違っても、重要な報告書ではないため、見ちまった人は、速やかに閉じてくれ。


______


◯月◯日:ルーレへの滞在を開始。この日を“0日目”とする。

・1日目〜2日目にかけて、街道に異変。透明なクオーツ(大)の散乱、魔獣の凶暴化、ただし街までは侵入してくる様子がなかった。
推定:透明なクオーツに魔獣寄せの効果があった。そういう特殊な効能のクオーツも珍しくはない。十分にあり得るだろう。

→なぜそんなに大量に?


・n日目:アリサ・ラインフォルトの誘拐事件発生。RF内の内輪揉め……?俺のARCUSを狙っていたらしい。
協力者“シャロン”とともに奪還を計画。しかし、目的地一歩手前で『銀色の影』に刺突を受け、戦闘不能に。

『銀色の影』→俺のことを知っていた……?シェーマの使っていた人形と酷似。シャロンとは「久しぶり」?




以下、シャロン・クルーガーから提供された情報。
会長にも内密で接触してきたため、信憑性は高いだろう。


・『銀色の影』は、俺の抹殺が目的だったようだ

・俺の心臓を刺し貫いた後、すぐさま行方をくらました
→目的はアリサやオーブメントではなく、俺。

・直後、俺とアリサの間に“何か”が発生
・何か“光”のようなものが発生し、それが収まった後には、俺の傷が綺麗さっぱりだった
↑マジでシャロンさんも困惑してた。おそらくRF側も想定していなかったのだろう









鋼の心、霞んだ硝子ED

 

 

 

「……………ぁ、……れ…………」

 

 

バタバタと忙しなく動く物音に、パチリと意識を覚醒させる。

 

 

 

(……俺って死にかけたんじゃ無かったっけ)

 

 

 

 

脈……異常なし。体温……おそらく正常。呼吸も問題ない。極め付けに、ぽっかり空いたであろう体の穴も、しっかりふさがっている。それどころか、傷一つない。飛び起きてベッドから外を見れば、日はもうとっくに沈んでいて、ルーレ市の町あかりが夜空をてらしていた。

 

 

「一体、何が、どうなって……………」

 

 

身の回りを確認する。枕元の棚にARCUSと自分の上着がしまってあり、そのほかの装備品も軽く手入れされてしまわれていた。簡素なベッドに、時間が無かったのか乱雑に数人分の装備がまとめられている。

 

 

「……ここは……TMPの駐屯所か……これは、いったい誰が……?」

 

 

ひとまず身支度を整えようと、上着に腕を通す。これも、血のシミは綺麗に抜かれていて、裂けたところは丁寧に修繕されている。

 

……けど、確実に、胸と脇腹。“何か”に貫かれたような痕跡は、よくみると残っていた。

 

一緒にしまってあるナイフを、布のホルダーから取り出す。以前から綺麗と言えるような状態ではなかったが、ボロボロになっていたセピスのコーティングは、亀裂が入ったことにより完全に剥がれ落ちていた。ある意味、父親からもらった当時の、本来の姿を取り戻したそれは、なんだか寂しく見えた。

 

極め付けは、左手用の物。おそらく、あの銀色のバケモノからの攻撃を受けた時に砕けてしまったのだろう。刃の先端は欠け、ナイフに亀裂が走っていた。

 

 

 

「夢……じゃあなかったんだよな」

 

 

悲惨な装備の状態から、あの出来事が事実であったことを認めざるを得ない。

ならば、どうして今俺は、生きているんだ……?死を直観するレベルだったから、後遺症の一つや二つあるだろうと思っていたのに…………

 

わからないことだらけだが、ひとまず動くしか無い。時計を見れば、もう夜の9時を回っていた。普通にお腹も減ってくる頃だ。情報収集がてら、何か胃に優しいものを摂取しておきたい気分だ。ARCUSと武装、それにまとめられていた貴重品を持って、俺はTMPの療養室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「……………というのが、“昨日までの”俺の見解です。けど……」

 

「今朝になって状況が一変。つまり、貴方の仮説はハズレ、ということね」

 

 

 

翌日、俺はRF社の社長室を訪れていた。脇には、あの瀟洒なメイドのシャロンさんも一緒だ。

 

テーブルを挟んで相対する。その真ん中には、()()()()()()()マスタークオーツが転がっていた。

 

 

変色に気が付いたのは、まさに昨日、TMPの病室を出てすぐのことだった。真紅に染まっていた大きなクオーツが、AECUSの中央でこうこうと輝いていたのだ。

 

それまで、俺はこのマスタークオーツに対して、“使用者によって色と特性が変わる”という仮説を立てていた。それならば、以前シュミット博士に渡した時は青色に変色したというのにも説明がつく。

 

ちゃぶ台を返されて、振り出しに戻ったのは良いが、ますます謎が増えてしまった。本当に、どういうシロモノなんだ、マスタークオーツっていうのは……

 

 

 

 

「それはともかく、貴重な意見を聞かせてもらったわ。今後の開発に活かせるかどうかは、別としてだけれど」

 

「これだけで良いんですか?自分で言うのもなんですが、シャロンさんをお借りした時の条件としては少し不相応ですし、結局犯人も取り逃がしましたし……」

 

 

すると、イリーナ会長はため息をついて言った。

 

 

「そもそも。前提として、あの全部をクリアしてもらえるとは、ハナから思っていなかったわ。そう言う提案をした時点で、貴方はすでに“候補”から外れた…………プロジェクトリーダーと、社外テスターとしての関係を復旧させるには、十分だったけれど」

 

「…………そーですか。なら、引き続きよろしくお願いしますよ。製品版ができても買うつもりは無いですけど」

 

「あら残念。型落ち品を好き好んで使う人間もいるのね」

 

「悪かったですね、旧世代の人間で!」

 

「次のデータも、良いものを期待させてちょうだい。アルマ・カントゥータ少尉」

 

 

 

なんだかムカついたので、返事をしないでそのまま出る。全く、イヤミと毒舌しか出てこないのか、あの社長は……!でも、当分会うことはないだろう。次のデータ回収は、少し長めに期間を取って3ヶ月後だ。それまで、特別な用がない限りあの会長と顔を合わせる必要はない。どうやら、ARCUSに組み込む“別機能”の方も、試験的に運用を開始するらしく、そちらの処理が忙しくなるから、とのことだ。

 

怒りを発散させるように、やや早足でRFのビルを後にする。エスカレーターを下って、次に向かうのは、TMPの駐屯地だ。

 

 

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

 

 

 

忙しなくみんなが動く中、お目当ての背格好を見つけて、人をかき分けて、そこへ向かう。……我ながら、この程度で機嫌が治ってしまうのはチョロいとしか言いようがないのだけれど。

 

 

 

「_____ミハイル兄さん!」

 

 

金髪に、軍指定の制服をキッチリ着込んでいる、血縁では無いけれど兄同然の人。書類片手に額にシワを作っていたのが、俺を見て露骨に驚いていたのがわかる。呆けた顔を久しぶりに見られて大満足な俺は、そのまま歩み寄って、その頬をつねってみせる。

 

 

「なあ、俺また背が3リジュ伸びたんだ!いい加減ミハイル兄さんの身長も……って、兄さんも伸びてるから、結局差は縮まってないかぁ。それもそうだけど、聞いて欲しいんだ、最近になってようやく俺の目標も情報が落ち始めて_____い“だっ……!?!?

 

 

頭に鈍い痛みを感じて、いまだに身長差が10リジュ以上あるミハイル兄さんの顔を見上げる。小さい時から寸分変わらない、「私は今怒っているぞ」という表情だ。けれど、他の人たちの目もある分、その凶悪な表情は一瞬で引っ込み、面白みのない無表情に逆戻りだ。

 

 

 

「ちょっと、舌噛むだろ、ゲンコツするなら事前に…………」

 

「アルマ・カントゥータ少尉。公私を混同するのは貴様の悪い癖だ」

 

「あーもう、久しぶりの再会だって言うのに、つれないじゃないですか」

 

「そちらがその気なら、私にだって手立てがあるぞ」

 

「へーえ?まさかこんな事で謹慎命令下すほど心の器が小さかったっけ?」

 

 

 

コホン、と一呼吸置いてから、ミハイル兄さんは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーヴェルト中尉へ、貴様の数々の失態を暴露する報告書を上げさせる用意はできているぞ?」

 

「マジでイキってすみませんでしたァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「……うん、肝が冷えたとかいう次元じゃなかったよな〜、あれは!」

「はぁ、……笑い事にならんぞ」

 

 

そう言って、駐屯地の中の休憩所で、二人分の紅茶を注いでくれるミハイル兄さん。本当に、軍はコーヒー党が多い。紅茶だって、1カップ分だけ入れるのは面倒だから、こうして一緒に飲める人がいないと、最近はとんと飲む機会が無くなってしまった。

 

コーヒーの豆を燻した奥深い香りの良さも、最近になってわかるようになってきた(ミルクと砂糖なしで飲めるとは言っていない)けど、やっぱり俺は、フルーツの香りとか、全体的に柔らかい味がする紅茶派だな、やっぱり。今日の茶葉は、ティーバックのものだけど、それにしては味が良い。心なしか、眉間に寄っていた兄さんの深めのシワも薄くなっている気がした。

 

 

「全く。昇進したなら、自分の起こした事件の後始末くらい、自分でしろ。今の所、全てのツケは私の方に回ってきているぞ」

 

「あ、やっぱり……?」

 

 

街で見かけて、咄嗟に声をかけたけど、よくよく考えたら、どうして兄さんがこんなところにいるのか、って話になる。おそらく、暫定で指揮を取っていた俺が倒れたから、事後処理の統率を取れる人がいなくなって……それでも、事件自体は既に収束しているから、ってことで、本当に()()()()の身分であるミハイル兄さんが遣わされたんだろう。あーあ、かわいそうに(すっとぼけ)。

 

 

「うーん……ひとまず、RF社には速攻で顔出さなきゃ、って思って、とりあえず報告だけ行っては来たんだけど……まだ俺も、あんまり状況が分かってないんだよね。だって、なんか、変なやつに刺されたし」

 

「変なやつ、……ああ。あのメイドも、似たようなことを言っていたな……」

 

「あ、ああ……」

 

 

 

うわ、シャロンさん。そりゃあねーですぜ。完全に、アリサ嬢奪還を俺に全部なすりつけてるな。大方、軍の人間にも「救出後の世話役としてついて行った」「記憶が混濁してショックでよく覚えていない」とでもはぐらかしたんだろう。事実、RFから出向してもらった名目も、火力支援ではなく世話役としてだったので、完全にぐうの音も出ない誤魔化し方をされたわけだ。

 

 

「ま、ひとまず、アリサ嬢が無事で何より!結果的に俺も元気でモーマンタイ!!!ってヤツ?」

 

「どこまでも楽天的だな……そのうち、いつか本当にうっかり命を落としかねないぞ」

 

「ミハイル兄さんと違って、日々の行いが良いからかな?」

 

「あんな大怪我をしておいてよく言う……こちらがどれだけ心配したか_______」

 

 

 

あえて兄さんは、その先を咳払いでかき消した。

なんだ、兄さんも、カタブツみたいな顔して、案外可愛いところはそのまま残ってるじゃあないか。

 

 

「ともかく、元気があるなら、貴様にも働いてもらうぞ、アルマ・カントゥータ少尉」

「え」

「まずは手始めに当時の状況を……」

 

前言撤回。

やっぱり全然可愛くない……!!!

 

 

 

 

 

 


 

 

 

……その日の夜更け。

湖畔の街、レグラムにて。

 

 

 

 

『だーぁかぁーらぁ、俺にもサッパリなんですよ!だから、トヴァルさんを頼りたい、って話なんですってば!』

 

「おうおう、そんなに耳元で騒ぐなって……」

 

 

 

もはや日常茶飯事となってしまった、とある少年からの通信越しの相談事に、遊撃士トヴァルは耳を痛めていた。

 

 

突如として変色したクォーツ。

RF製の新型オーブメント。

______そして、瞬く間に再生してみせた、瀕死の重体()()()少年。

 

 

聞けば、心臓を何か、金属のホーンのようなもので一回、確かに刺し貫かれたそうだ。

こうしてピンピン喋っていること自体がおかしい。

 

 

 

(……どーにも、きなくさい匂いがするんだよなぁ、その、“新型”……)

 

 

 

彼の旅立ちを見届けた身としては、そのオーブメントが、少年をどうにもとんでもない領域に連れ去ってしまいそうで、不安なのだ。良い意味でも、悪い意味でも。

 

 

 

「なあ、おまえさん……これから先、長めの用事とか、ってのはあるか?」

 

「え、……いや、長期の任務ならない、けど……というか、基本的に、任務とか俺には降りてこないし……」

 

「なら決まりだな」

 

 

 

……トヴァルは、一息ついて、腹を括った。

 

 

 

 

「アルマ。レグラムに来ないか?」

 

 

 

 

 

 





エンディングです。
ひとまずルーレ編はこちらでおしまいとなります。

また、大変遅いご報告になりましたが、こちらの作品、ありがたいことにたくさんの方に見ていただけたみたいで、評価に色がつきました……!
これからも、リィクレのフラグを全力でへし折るべく精進するアルマ・カントゥータを生暖かい目で見守っていただけますと幸いです。
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