リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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そして再びめぐり逢う2

 

「「う゛〜〜〜〜ん…………」」

 

 

「やぁっぱあのシュミットの爺さんが言ってたみたいに、このクオーツの中身が液体、かつかなり流動性が高くて、流される動力の質によって色々内部構造が変わる〜ってのは間違いないみたいっすよねぇ……」

「ああ、間違いなく個体じゃあない、んだが、だとするとこの強度はな。押しても叩いても、割れる気配は無いしな」

「となると、なんか再現性があってもおかしくないんすけど……」

「いやぁわからん、RF……とんでもないモンを作っちまったみたいだなぁ……」

「まあ今回の“コレ”はあのメガネ会長にも想定外みたいですし?俺ってば、ま〜たなんかやっちまいました?」

 

 

 

「「あーっはっはっはっは!!!」」

 

 

 

眉間に皺を寄せ、手を叩いて大笑いしたのち、緑髪の少年と、金髪の青年はパタリと机の上に突っ伏した。

 

そこに、偶然通りかかった青髪の少女……この地を治めるアルゼイド子爵の娘であるラウラが、異様なものを見る目で、思わず立ち止まる。普通に、気が狂っているようにしか見えない。

いつも世話になっている遊撃士の“弟子”がレグラムに遊びに来るというのだ。父は急ぎの用事で不在にしてしまったとはいえ、あのトヴァルが度々目にかけている相手、というのも気になっていた。

 

……のだが。

列車から降りてくるなり、挨拶もそこそこに、さっさと遊撃士ギルドの一角を占拠し、新聞紙やら雑巾やら、ネジやらオイルやらを嬉々として広げ出した。そして、昼前に着いたというのに、現時刻20:45になってもパンの一欠片も口にしていないそうで。心配になって見にきたら、といったところだ。

 

 

 

長時間の集中がやっと切れ、撃沈した2人を横目に、もう1人の旅行客……シアンは、ラウラを憐れみの目で見ていた。机の上で突っ伏している緑髪の男と異なり、こちらは何かしらの武術を修めているような気配がする。

 

 

「ウチのはいつもこうだけどさ。ソッチもずっとこんな感じなの?大変だねぇ」

「む、トヴァル殿の事か?……いや、いつもはもっと、こう、大人しい……?と思う。久方ぶりの再会だから、無理もないのだろう」

 

 

 

そうラウラが憶測混じりで述べれば「そ、……んじゃ」とそっけない返事をして、ギルドの建物を出て行ってしまう。そのドアから開いた夜風で正気に戻ったのか、アルマとトヴァルは体を起こした。

 

 

 

「…………やめだ辞め、一旦夕飯くらい食おうぜ、かわいい可愛いお弟子くんよ」

「っスね、正直、こんなに難航するとは思わなかったです……あ゛ー、舐めてた……」

 

 

作業漬けだったから、当然といえば当然だが、2人とも疲れ切っているようだった。「簡単なものだけで良いなら」と2人に提案して、ラウラは2人に軽食を持ってくることにした。

 

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

「……!アルマ殿は軍属だったのですね……。服装から、それとなく察してはいましたが」

「そーそー。とはいえ、どっちかって言うと、キャリア的には落ちこぼれだから、あんまり気にしないでくれた方が楽だね。だって、そうでもないと遊撃士を師匠になんて、風当たりが強くって敵わねーし」

 

 

ついでに“殿”も辞めてほしいな♡と付け足したアルマは、ラウラが持ってきてくれたスープとパンを、寝ぼけ眼でかじっていた。薄味で、昼食をうっかり抜いてしまった胃に優しい。それでいて、しっかりとお腹にたまる。そして美味しい。正直、自分たちだけなら、疲れすぎて「明日の朝でいいからとりあえず仮眠!」となりかねなかったから、本当に助かった次第だ。

 

 

「どっちかっていうと、軍歴って意味ならシアンの方が上だし、強いのもアッチだよ」

「シアン、というと、あのアルマどn、……アルマさんと一緒に居た?」

「おう。……さん付けも少しこちょばいな、もういっそ年も近いんだし、呼び捨てで良いよ」

 

 

そういえば、トヴァルが苦笑しながら付け足す。

 

 

「よく言うよ、鉄血宰相直属の《鉄血の子供》にしれっと籍を置いておいて?小洒落た二つ名まで貰っておいて“落ちこぼれ”なんて言ったら、軍部から襲われても文句は言えねえだろ」

「うーるーさーいーでーすー!!!あんなクソジジイから貰った立場も権力も要らねェんですよぅ!!!クレア姉さんがあの人について行ってるから、監視してるだけであってェ!!!」

「ふむ、アルマ殿には姉君がいるのか」

 

 

しれっと“殿”呼びに戻ってしまうラウラそっちのけで、アルマはラウラの両手をがっしりと掴んだ。

 

 

「そうなんだよ!」

「あ、アルマ殿……???」

 

空気が変わった。トヴァルは、それを見てまた苦笑する。電話越しには度々耳にしていたが、生で見るのは久しぶりだな、と。むしろ、昔より拗らせているんじゃないかとまで思う。大体合ってる。

 

 

「クレア姉さんは俺と血こそ繋がってないんだけど、そんな俺にも親身になってくれてな!ああ、あの頃のクソガキみたいな情緒の俺たちを、文句の一つも言わずに日曜学校で優しく面倒を見てくれて……!」

 

「アルマ殿???」

 

「はぁっ……あのたおやかで柔らかい空色の髪色、花びらの色をそのまま写しとったような可憐な瞳……!この世に美しい女性は数多く居るが、それでも尚ッこの空の女神すら脅かしかねないほどの魅力を持つ存在は_______」

 

 

「と、トヴァル殿、これは、」

「っはは、やっぱお前さんといえば“コレ”だよなぁ」

 

 

困惑するラウラを、さらりと見捨てながら、トヴァルはパンを一切れ齧る。

 

 

 

「あえてッ、あえて多くは語るまいッ……!だが、確実に貧相な俺の語彙で言えることがあるとするならッ……!!!

 

クレア姉さんは天使である!!!証明終了!!!」

 

 

 

後にラウラはこう語った。

「変質者のようで本気で斬ろうか迷った」と。

 

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

 

ふぅ……久しぶりに知り合いと会えて興奮しちゃったからか、いつもより遅くまで起きちまった。もうすぐ日付が変わっちゃう。

 

どうも、クレア姉さんの魅力を久しぶりに叫べて満足したアルマ・カントゥータだ。あーーーもう最近鬼畜メガネなり、妙ちくりんな体質のガキンチョなりを相手にしてたから、ちょける暇が無かったんだよ!!!やっとスッとした……

 

それにしても、押しかけた上に夕食まで作ってもらって。ラウラ嬢には悪いことを……いや、この場合はありがとう、かな。良いお嫁さんになれそう。アルゼイド子爵のお眼鏡にかなう婿が居る前提にはなるけど。

 

ここまで遅くなるとは思ってなかったけど、それなりに時間がかかるとは予想していたから、トヴァルさんと作業する前に、シアンに荷物をぶん投げておいて、宿屋へは予約を済ませておいてある。鍵もついでに受け取ったから、部屋を間違える心配はない。

 

 

「……そろそろ部屋に帰らなきゃ、なんだけど……」

 

 

それにしても、頭が冴えすぎている。確実に脳のエネルギーは切れているのに、ふわふわと浮ついた高揚だけが胸を満たしている。興奮状態から、一気に血糖値が上がって、変なふうに頭のスイッチが切れたのか。今のままベッドに入っても、寝れそうにない。

 

 

「……少し歩くか」

 

 

もしかしたら、フラフラ流れで街道まで出るかもしれない。そっと、別の客が泊まっているらしい扉の前を、ご迷惑にならないように、そっと足音を消して通り過ぎる。ルーレの一戦で、もう刀身がボロボロになってしまったナイフと、一応元通りに組み直したARCUSを引っ掴んで、夜のレグラムに足を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

ー ー ー ー

 

 

 

少ない街灯に照らされた、聖女リアンヌの像。

そこに、さあさあとそよぐ風に揺らされた水面が音を立てる。

 

 

……静かな街だ。人気はもう深夜なのですっかりないが、それでもどこか、暖かさと郷愁すら感じさせる。

 

 

そこに、自分の腰のホルダーの中にある武装だけが、カシャ、カシャ、と足を進める度に、物騒なノイズを奏でるのだ。

騎士である家系を裏切ってまで選んだ、護身用の短剣は、あの銀色の傀儡に滅多刺しにされて、もはやマトモに剣の様相を成していない。もう一つの武装も、近い将来“型落ち”になるのが確定している。

 

 

(今日は、……新月か)

 

 

やけに臆病風に吹かれてセンチメンタルになっているのも、このせいかもしれない。もう既に、綺麗に塞がったはずの胸の穴が、ずきりと疼いたような気がする。

 

自分の体を、異物が貫く瞬間______いまでも克明に、覚えている。体の中を、ドクドクと血が駆け巡っているはずなのに、段々と体温は失われていくからヤケに思考はクリアで。ドーパミンが脳裏で弾けるような感覚、と言えば良いのか。これが戦闘狂の感覚か、と。……到底理解したくはなかったな。

 

 

そして、それと同時に、底が知れないほど恐ろしくもあった。

 

初めて、“死”という概念が、直接自分の首を取りに来た。

人形兵器に詰められたことも、社会的に死にそうになったことも、自分には敵いっこない武の達人を相手にしたことも。焔の海の中を行った事だってある。それでも、明確に自分を始末しようとしに来た相手は、初めてだ。

 

そして自分は、おそらくあっけなく死ぬ。

いくら戦術オーブメントで身体強化が為されていたとしても、現に“奇跡”が起きていなければ、俺は心臓を貫かれたっきり、一切動かなくなっていただろう。事実、居合わせたシャロンさんによると、本当に絶命していたように見えた、との事だったし。

 

大きなリターンを求めれば、その分リスクも増える。当然の理だ。現に、自分の求めていたものに、かなり有用な情報が落ちたのだから。なるほど、シェーマが自らを“兵器”と呼ぶのも、わかるような。

 

 

 

だが、いつまでもこんな事をしていては、命がいくらあっても足りない。

生きて明日を迎えるには、何かを諦めるか、俺自身がどうにか前に進まなくちゃいけない。いくら貴重なアイテムを手に入れたって、ちゃんとその先のセーブポイントまで辿り着かなければ。

 

 

 

(……………だめだよな、このままじゃ)

 

 

なんの気は無しに、フラフラと桟橋にたどり着く。軽くそこに腰を下ろして、そっと風に目を閉じた。

凪いだ湖面とは裏腹に、俺の心はささくれだったまま_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ところでなんだが。

そもそも俺って一回貫かれた心臓って、再生したんだよね、それだったらこの心臓って、俺が生まれ持ったものとは別物ってこと……?それとも、時間を巻き戻すみたいな感覚なのか……?

ぐぬ、まずい、気になる。すごく気になる。

良い感じに頭がぼんやりしてきたっていうのに!あああこれだから技術者のサガってやつは!!!

 

「物質を補填したのか?……その場合、どこから、って話になるし。それとも、エネルギーを過剰に与えて再生能力を極端に強化した?んー、結局俺自身が見てなかったからなんとも______」

 

 

 

 

 

 

かたん。

桟橋の木板を、なにか、軽い音が揺らす。

 

 

「_______あ」

 

「ん……?」

 

 

その物音の主人は、こちらに気がついて、すぐさま足を止めた。かぼそい、少女の声だった。

 

声だけだ。知らぬ間に、霧が立ち込めていたのか、人影があることしか分からない。背丈は、低い。ほんの10歳かそこらか、といったくらい。こんな時間に誰だろう。さっき会った、アルゼイドのお嬢様にしては高くて小さい声だった。

 

続いて、遠くから軽そうな男の声と、ふわりとした女の声が続く。

 

 

 

「おいおい、どーしたんだ、幽霊でも出たような顔しやがって」

「もう、いくら人目がないからって……」

 

 

瞬間、少女の影は、踵を返して女性に飛びついた。

 

 

「ヴィータっ!かえる、ですの、今すぐにッ……!」

「蛙だぁ……?」

「ちがう!くろーは、一回だまって、!とにかく、はやく……!!!」

 

 

 

少女の影が、霧の向こうで、錯乱しながら何かを訴えるのを、俺はぼんやりと聞いていた。

 

……“ですの”。

カタコトな口調。

低めの背格好。

 

 

 

レグラムの霧が見せる、都合のいい幻覚かもしれない。もしくは、久々に昼を抜いてまで作業し通しだったから、変な夢を見ていたのかも。

 

 

 

「なん、……」

 

 

困惑の言葉すら、きちんと喉を通って出てこない。深い霧の隙間から見えた、薄い栗毛と、3人の陰。

 

幻覚だろうか。……きっと、幻だ。

それでも良いから、縋ってみたかった。

 

あのクソみたいなおっさんから、突然譲り受けて。クレア姉さんと一緒に、服選びながら、人並みの将来を祈って。マキアスと一緒にコーヒーしばいては、2人で大人しく砂糖を入れて、……そして火に包まれた帝都の炎と一緒に消えた。

ずっと、ずっと探していた______

 

 

 

 

 

 

 

 

「……シェーマ?」

 

 

「「「…………!!!」」」

 

 

空気がわずかに張り詰めた。気配察知能力なんかは、いくら修羅場を潜っても身に付かなかったけれど、このくらいなら、なんとかわかるようになった。

目の前が靄に包まれて真っ白だ。探るように、おずおずと、震えた声で言う。

 

 

 

「居る、のか……?その声、…………」

 

 

 

桟橋から立ち上がると、ぎぃ、と木が軋む音がする。また数段、警戒が引き上がる。……今はこれ以上は近づけない。そっと耳を凝らす。小さな声で、3人組が相談している声がした。こういう時だけ、一応貴族家に生まれて良かったと思う。砲撃音を間近で聴きすぎて、もう狂ってしまったかと思った耳は、案外正確にその会話内容を俺に届けてくれた。

 

 

「それじゃあ、彼が……」

「はい。間違いない、ですの」

「んじゃあなんだ、アイツも地精の手先だってのかよ」

 

 

地精……?これまた訳のわからないワードが。少なくとも、ここは聴きに徹した方が有用な情報が落ちそうだ。

女性が、男の言を遮る。

 

「それは違、……うとも言い切れないのが辛いところね。少なくとも、本当なら、地精はともかく、あの鉄血の手先ということには_______」

 

 

 

「ああ゛!?誰があのクソッタレの手先だって!?」

 

「「「…………」」」

 

 

場に完全な沈黙が訪れる。

……完全にやっちまった。

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