リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!? 作:発光米
前回のあらすじ
硝子の父「宮廷剣術教えてやるから街道を歩けるようになったら旅に出てええで」
硝子くん「フレイムタン、フレイムタン、エアリアル!!!」
硝子の母「お母さん認めませんからね!!!」
硝子くん「よろしい、ならば戦争......アッ(人の視線に気づく)スミマセンデシタ......」
謎のショタ「剣がふれないんですか!?僕にまかせてください!」
硝子くん「え、ちょ、待っ......」
「せいっ!」
「重ッ_______」
ガン、ガキン、と木刀がぶつかる音が響く。数日滞在して、もう聞き馴染みのあるその音は、心なしかいつもより大きく聞こえた。発生源を探ってみれば、町の端にあるヴァンダール流の道場、そのなかではなく、外からだということがすぐにわかった。
一人は格好を見る限り、門弟のようだ。大きな練習用の剣を軽々と振り回している。
対して防戦に徹するのは、深い緑色の髪の少年。こちらは得物のながさに翻弄され、攻撃を受け流すだけで精一杯といった様子だ。
「おらおら、守りは上手いみたいだが、このままだと埒が空かないぞ!」
「ふっざけるな、こっちはこれで手一杯なんだよッ」
「だったらこれは______どうだ!」
下から上に切り上げる動き。手から力が抜けたのか、少年は模擬剣を取り落とす。そのまま体勢を崩して尻餅をつき、上から剣をつきつけられるのがみえた。勝負あり、といったところか......
頃合いを見て宿酒場の人からの"依頼"にとりかかろうと、盗み聞きもそこそこにして、角を曲がる。想像通りというか、息をきらして大の字に横たわる少年の姿があった。
「おー、ずいぶん派手にやってたみたいじゃねぇか」
「ぁ......っ、遊撃士の......すみません。遅くなっちゃいまして」
もうとっぷりと日が沈んでいる。日没ごろに食事を出すと言われたのに、姿が見えなかった宿酒場の方が心配していたのだ。街道方面まで出ていたらお説教ものだったが、道場の面々と戯れているのは少し予想外だった。てっきりその辺の技師にでも押し掛けて工房の一角を占領するくらいはしていそうだったが......
「様子を見るに、肝心の"用事"は済んでないみたいだがな。まあ、一応夜も空いてるらしいし夕飯を食った後からでも遅くねぇだろう」
「はは、一旦帰らなきゃですね。なんだかお腹もすいてきちゃいました。あ、これ模擬剣ありがとうございました」
「こちらこそ。勘違いから始まっちゃいましたけど......」
「俺の方こそ色々勉強になりました。のでチャラってことで」
空色の髪の少年に支えられながら立ち上がる。疲労の色こそ見えてはいるものの、宿酒場を出る頃よりずいぶんマシな顔をしていた。
剣を先ほどまで打ち合っていた門弟に返し、その辺にとり落としていた小さなナイフ______おそらく彼の武装だろう______をホルダーに入れてナップザックにしまう。果物ナイフくらいの小さなものだが、刃が少しだけ青に色づいていた。七曜石かなにかでコーティングしてあるのか.......?
「......ん?その、"勘違い"っていうのは......?」
ふと気になったことを口にすれば、門弟はギクリと動きを止める。固まって動かない門弟の代わりに、青い髪のちびっこが話しだす。
「さいしょは、いっしょにすぶりを......していただけだったんですけど......」
「俺の太刀筋が壊滅的すぎて、剣の重さに振り回されちゃって、で______」
「......お恥ずかしながら、あまりの音の大きさに、表でなにか起きたのかと勘違いしてしまって。トホホ......」
聞けば、最初に切りかかってきたのは門弟だったそうだが、模擬剣と真剣の区別がつかなかった緑髪の坊っちゃんがナイフを反射で投げちまったらしい......子どものケンカはどう発展するかわからねぇな.......
「______つまり、非はこちらにあると」
「いや、別に俺が木刀にナイフを投げちまったのが元はといえば______ん?」
凛とした、麗しい声。自然な流れで登場しすぎて、他の面々は気づいていなかったようだが、一度俺の横を通りすぎ、道場に買い物の荷物を置いてからもう一度出てきたようだ。気配がまるでなかった......こっちのちびっこと似たような髪の色だけど______
「母さん、いつのまに......」
ちびっ子がつぶやいた。
思わず緑髪の坊っちゃんと視線が会う。
「「母さんッ!!?」」
ほぼ同時に二度見して叫んだ。いや、姉か従姉妹か、その辺だと思っていたんだが......若、すぎないか......?
「ふふ、クルトたちが随分お世話になったみたいで。相応にお詫びをしなければ、ヴァンダールの名が廃るというものですね」
「え、母さん......空髪ショタのお母様???母君?????え......???????」
未だに坊っちゃんは混乱から抜け出せていないようだ。その隙に、ナップザックからスルリと取り出したナイフを坊っちゃんに握らせていた。一体この美人さんはいつから見ていたんだ......
「利き手は右ですね?このかたちなら、そうですね______」
そのまま手を上から覆い、握り方から強制していく。
「逆手で軽く持ってください。力は要らないので、物に当たった瞬間手首を固定し、体の捻りで斜めに切り裂くイメージです。
自分を切らないように、左から......こう、袈裟切りに似たかんじですね」
「え、っとぉ......?」
「防御するときもこのまま腕を同じ軌道で戻すだけで大丈夫です。同じくらい左手でもナイフが扱えるようになれば双剣に持ち変えても良いかもしれませんね。あとは______」
「ちょ、ちょっと待ってください!その......」
気まずそうに坊っちゃんはこちらに目線をやる。悪いが、助け船は出せそうにないぞ?首をふればショックを受けたようにあわあわと動揺する。
「明日には発つそうですので、今日の内に色々お話ししておきたくて。私としても良い旅路を送ってほしいですし......素敵なブローチのお礼だと思ってくださいな」
「だから、本当にどこから見てたんですか......?」
「ふふ、どこからでしょう?そうそう、カスタムは______」
「~っ、せめてお願いですからメモをとらせてくださいッ!!!」
「おーい、大丈夫かー?」
「......ムリっぽいッス。腕が上がらねぇ......」
気合いであの後夕食を掻きこみ、青髪ショタの母さん______オリエさんからのアドバイスをかきとめて、ベッドへダイブ。したは良いんだが、マジでピクリとも腕が動かない。後でレキュリアでもかけておくか......?いや、オーブメントまでたどり着く前に力尽きるのがオチだな。
......ラインフォルト社製の戦術新型オーブメント。幾つかの機能を削ぎ落としたテスター版らしいが。あのヒゲ宰相にお礼を言うのは癪だけど、本当にこれがなかったら危うかった。その上で、いい加減嫌でも自覚したことがある。
本格的に、物理方面______主に長物は絶望的だそうだ。
オリエさんにも忠告をいただいたが、要約すれば「身の丈に合わない武器・戦術は身を滅ぼし、いずれガタが来る」とのこと。護身用にナイフ術を覚えるのは良いが、それすらあまり多用して欲しくなさそうな言いぶりだった。
なんか、「このままちゃんと矯正しなかったら、手首までもってかれてた」なんて言われたときには首の後ろがスッと冷えた心地だった。
自分でも感づいてはいたが、ナイフ系まで攻撃手段として使えないのは痛すぎる。でも、剣術道場のマッマが言うなら確かなんだろうな......
......将来ムキムキになれば、可能性はゼロではない、とのことだったが。
「いや、ないな。マッチョだけは絶対ない」
「......?意味はわからんが、今日は早めに寝るんだぞ、明日は始発で出発だからなー」
「......へ」
首だけを動かして横を見るれば、目の前に一枚の紙が。几帳面な父の字で、なにやらつらつらと書かれていたが、どうやら依頼書のようだった。名目は帝都までの道案内......請負人は______
「トヴァル・ランドナー......」
何度か頭のなかでその文字を反芻する。
「えっ、《零駆動》ッ!!?」
明朝、朝日が昇る前......
宿酒場を出たトヴァルさんと俺は、パルムから出る始発のサザーラント本線で出立することになった。
「一晩の間でしたが、めちゃくちゃご迷惑をおかけしました......」
「ふふ、こういう時は"ありがとう"というものですよ」
「......ありがとう、ゴザイマシタ......?」
改めてお礼を言うのはなんだか照れ臭くて、どもってしまう。そんな俺をみてオリエさんはまた優しく笑った。
まだ4時前だというのに、水色の髪のショタも一緒にお見送りに来てくれたようだ。まだ寝ぼけているのか、目を擦り、あくびを噛み殺している。その手には昨日渡したブローチが握られていて、妙にうれしくなった。数日経てば飽き来てしまうかもしれないけれど。
......わざわざ眠気を抑えて始発にしたのは、母の目から逃れるためだ。トヴァルさんの提案だが、パルムから列車はそう多く本数が出ていないので、始発に気づかれず乗って仕舞えば、相当距離を離せる。出立して、帝都にでも紛れて仕舞えばこっちのものだ。一応父からの依頼書があるので、拉致扱いにはならず、表立って捜索をどこかの機関に依頼することもできないだろう。
父は、そのことを朝伝えても何も言わなかった。朝4時前の酒場のロビーに父が降りていた時は、腰を抜かしそうになったが。母はまだ寝ていたそうだ。
一言だけ、「面倒な母親に伝えておくことはあるか」と、聞かれた。寡黙な父だったが、最近は剣術を教えてもらうときにしか声を聞いていなかった気がする。まともな会話と言えるものをしたのは、かなり久しぶりに感じられた。
「ちょっと家出します、と。それだけで十分です」
すると父は目を伏せて黙りこくってしまったのだ。次の言葉を待つべきか、戸惑う俺の手をトヴァルさんがツンツン、とつつく。
「見逃してやるから早く行け、ってことだろうよ。ははっ良い親父さんじゃないか」
小声で囁かれた。思わず目頭が熱くなってくる。こんなところで泣いてたら、どうするんだろう、俺。ここ二日で涙腺がきっとユルユルになってしまったんだろう。
「父さん......っ、いってきます。それじゃあ、またどっかで」
「遊撃士殿、迷惑をかける」
「お任せあれ、ってな。それじゃあ行くとするか」
「どうか、きをつけてください......!」
こんなことが今朝あったっていうのに、クルトの言葉で、容赦なく涙は溢れそうになる。鼻の奥がつんとして、目の前がぼやけるのを、気合いだけでこらえた。
「また迷ったらいつでも道場の門を叩いてください。ヴァンダールはどなたをも歓迎しますよ。そうですね......次会う時はきっと帝都でしょうか」
「オリエさんがいうとまた当たりそうなのが不思議ですね......ま、次会うときにはクルトも、もうちょっと大きくなってるだろうな。せいぜい追い越されても食い下がれるように頑張るさ」
わしゃわしゃと頭を撫でた。うわっ、キューティクルすごい。めっちゃ髪ツヤツヤだしほっぺぷにぷにだし永遠に触ってたい......まあ成長期を過ぎたら出来なくなる楽しみだし、存分に味わっておこう。クッソ、将来モテ男になってキャーキャー言われる未来が見えるぞ。
「おーい、水を刺す様で悪いがそろそろだ!」
先に切符を買ってくれていたトヴァルさんが駅の方で手を振っている。名残惜しいが、このぷにぷにほっぺが、ミハイル兄さんみたいにガチガチになる前に、また触りにこよう。
「それじゃあ、もう行かなきゃだ。元気でな」
「はい!」
程なくして駅に停まっていた列車も汽笛を鳴らした。がらがらのシートに腰掛け、やがて外の景色も動き出す。
(さよなら、父さん、母さん、パルムの街と____________サザーラント。)
ぐんぐん速度を上げ、セントアークへ列車は向かう。昨日半日かけて歩き切った道が、たった30分で過ぎていった。
『次の停車駅は、セントアーク、セントアーク、お乗り換えの方は____________』
車掌のしゃがれた声が到着を知らせる。急行列車に乗っているので、ここから帝都までは一本道だ。
「良かったのか?地元の面々に挨拶しに行かなくて」
テーブルに部品を広げる俺に、トヴァルさんは問いかける。結局パルムのオーブメント工房に顔を出せなかったので、自前のミニドライバーを使ってメンテナンスをする。どうしても頻繁にクオーツを取り替えるので、接触不良でバグりやすいのだ。
「決心が、鈍ってしまいそうで。ここでセントアークに留まれば、出立をあと伸ばしにしますし、何よりあのヒステリックの権化に追いつかれたら、たまりませんから」
「......そうか。ところで、帝都に行った後はどうするとか、行動方針なんかは決めてあるのか?」
「クレア姉さ......知り合いを訪ねに行きたいんですが、先に済ませなくちゃいけない用事があるので。ま、その用が済むまでは宿に泊まりながらバイトですかね。できればどっかの技師にでも住み込みで弟子入りできれば良いんですけど」
「おーい、早々に浮気とは感心しないぞー?師匠泣いちゃうぞー?」
「まさか。そもそも、受け入れてもらえるとは思っていませんし。アテはあるのでご安心を」
ヒゲおじ.......鉄血宰相からもらった封筒を見せる。トヴァルさんは少し迷った様だが、既に開封されているのを確認して、中身を見た。
「これ、は......」
少し目を見開きつつも、先を読み進めている。タイミングは迷ったが、一番下まで読み終えた頃を見計らい、口を開く。
電車はゆっくり動き出す。少しパルムから乗客も増えたみたいだ。
帝都ヘイムダル。"緋"の渾名がつくくらい、レンガで整えられた街並みに、幾つもの列車が滑り込む。
「それじゃ、俺はこっちですので。いろいろありがとうございました」
「おう、なんかあったら、遠慮せずに連絡しろよ?」
「心強いです。でも、これからは一応対立する立場ですし......」
帝国は最近遊撃士協会に対する圧力を強めつつある。その実質トップとも言える宰相の、直属部隊《鉄血の子供》。それこそ面と向かって話すことになるのは、最後になるかもしれない。下手したら次は、戦いあわなくちゃいけないかもしれない。
「それでも、だ」
「え......」
わしゃっと頭を撫でられる。ちょうど昼頃の高い太陽が、トヴァルさんの背に隠れて、光が遮られていた。
「どんな立場にいたとしても、子どもが時勢なんて読んで遠慮することはないし、何より、一番弟子を放っておくほど、薄情者にもなりたくないしな!」
「......っ、」
「おいおい、門出ってのは笑って祝うもんだぜ。用事ってのを全部すましたら、レグラムにでも顔を出してくれれば良いからさ」
「......!」
それから、白いコートを翻してトラムに乗って行ってしまった。俺はしばらく、その線路の跡をぼーっと眺めてしまっていた。
「はは、どうしよう......みんなちょっと、陰キャには眩しすぎたな」
急速に、心臓のあたりが冷えていくのを感じる。こんなに街は賑やかなのに、ひとりぼっちな気分だ。
______そう、これから俺は、アルマ・カントゥータではなく、政府のイヌの《硝子の仮面》になる。
はあ、いくらクレア姉さんに寄せたコードネームがいいっていっても、男相手にそのあだ名はまずいんじゃあなかろうか、ヒゲおじ。
まあ1分でその名前を捻り出したセンスはすごいと思うけど、俺自身もどこが“硝子”で、なんで“仮面”かは聞かされてないんだよな……何も意味がないとは、思えないんだけど。
……よし、昼ごはんは宿酒場の人から貰ったサンドウィッチ食べたし、そろそろ向かうか。手紙にあった指定場所は、確かドライケルス広場だったはずだ。
~おまけ:鉄路のカーネリア~
トヴァル「______っと、扱いが特殊なクオーツに関してはこんなかんじだ」
硝子くん「へえ、鈴系は未だに合成方が確立されてないんですね。交換屋に結構並んでいるので、安いとまではいかなくても、手が出せないほどではなさそうでしたし」
トヴァル「ま、スロットの関係で大体一属性にアーツが偏っちまうんだが、耐性の関係で欲を言えば、上位三属性を含めて、三属性分は扱えるようになっておきたいな。ソロで、物理方面に頼れないってなら尚更だ」
硝子くん「うーん、自分でいくつか作れれば良いんですけど。まあ、帝都に行けば物もそこそこ集まりそうだし、一属性分くらい探せないかなあ......主力のエアリアル強化に風?いや、爆速ティアラのために水か、それともメルティライズと火力増強に火......アダマスシールドやクレセントミラーも捨てがたいしフォルトゥナとクロノバーストというロマンは捨てたくない......ぐぬぬ.....」
トヴァル「はは、悩め悩め。アーツに慣れた頃には、野生からのドロップで一個は持っていることが多いしな。持っておいて損はない。もっとも、さらに上位の物は危険な魔獣に挑むか、相応の技師にそれなりのモンを持ち込む必要があるけどな......ところでだが」
硝子くん「はい?」
トヴァル「どうやら俺のことを知っていたらしいが......」
硝子くん「ああ、セントアークの工房の、チェンバーさんからです。ついでに"カーネリアさん"についてもお聞きしてますよ!」
トヴァル「へ......?」
硝子くん「いやあ、あの人、変な話ばっかりなんですけど、珍しく現実味のある話だったので。《零駆動》関係のことも、少々」
トヴァル「い、いやいやちょっと待て!なんで______」
硝子くん「その筋では結構有名な話らしいですよ?」
トヴァル「どの筋だよっ!?」
硝子くん「ま、まあその、勝手に人の過去を詮索しちゃったのは、悪いなとは思ったんですけど......でも、おかげで俺は、ここまで来れたので」
硝子くん「あのタイミングで、トヴァルさんの話を聞いていなかったら、きっと心が折れてたと思います。だから今、すごく嬉しいっていうか......これでも憧れの人と対面してるので、結構緊張してるんですよ?」
トヴァル「......なんだか腑に落ちないが、あんな黒歴史でよければ、いくらでもってかんじだな。さ、帝都に着く前に昼飯くっちまおうぜ」
硝子くん「わぁ、おいしそ......いただきま~す!あ、そういえば俺からも質問があったんですけど」
トヴァル「なんだ?」
硝子くん「俺、最後まで読めてないんですけど、結局"カーネリアさん"とはどうなったんですか?」
トヴァル「......あー、急にお腹空いてきたなー、弟子の分のサンドウィッチ全部食べちゃうかもなー」
硝子くん「んな横暴な!?ちょ、待って俺まだ一個しか食べてない!!!」