リィン・シュバルツァー、貴様にクレア姉さん(語弊)は渡さないからなぁッ!?   作:発光米

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近郊都市・トリスタ

 

 

「きっと驚くと思いますよ」

 

 

 

半分呆れ顔で、クレア姉さんは俺をトマス教官から引っぺがした。

 

体力、気力も割と消耗していたのに、クレア姉さんの顔を見ると疲れも吹っ飛んだ。常時周囲にホーリーブレス振り撒いてるんじゃないかと思うほど天使だ。

 

 

 

「いや、本当に助かったよ。女子の服とか、しかも旅装なんてわからなかったしさ」

 

「......私としては、いきなり模擬戦をふっかけたアルマくんの方が驚きだったのですが......」

 

 

 

そうそう、あのあと彼らには()()しして、「鍛錬に無理を言って混ぜてもらった」ことにした。クレア姉さんからだいぶお叱りを受けた。誠に不服である。どうして奴らが感謝されて、俺が怒られなきゃならないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______まあそんな顔もとても天使なんですがね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとプリプリとまるで頬を膨らませていた、思わず笑い声が漏れた。思いっきり頭を叩かれた。

 

 

 

 

小さいブティックの前に、数人の女子生徒がたむろしており、こちらを見つけると大きく手を振った。クレア姉さんも、小さく振り返して、俺もそれについていく。

 

人が薄い壁のようになって見えなかったのが、一気に両脇にはけた。真ん中には少女が立っている。

 

 

 

 

 

栗色の髪はきれいに二つに分けて束ねられ、黒と紫のリボンで結ばれている。

 

襟の大きいシャツにベスト、動きやすそうなあみあげショートブーツに、膝の上まであるソックス。おまけに手袋、ベレー帽ときた。

 

 

 

「......」

 

「......えっ......と。」

 

 

 

 

こうして見せられると、女の子におけるオシャレの重要度を、改めて思い知った気がする。

 

これはちゃんとおめかしさせなくちゃいけない。間違ってもシャツとズボンとかでフラフラさせたらダメだ。だって、服と髪を整えるだけでこんなに印象が変わるんだから、それならいい状態をキープしたい。野郎とは話が違うのだ。

 

 

どうやら、後ろに控える、学生のお姉さま方の顔を見るかぎり、相当満足のいくコーディネートになったらしい。それはいいが、大きい袋が2,3つ見えるのは気のせいでしょうか。いったい何ミラ使ったんですか、皆さん。

 

 

「ほーら、チビくん。なんかコメント。無いの?」

 

「え、いきなり!?」

 

 

 

手をグーにし、マイクを握るジェスチャーをで女子生徒は俺に話を振る。

 

 

 

「服買いに来たんだから想像はつくよね〜」

 

「え、えぇぇ......コメント、ねぇ......コメント......?」

 

 

ぐぬぬと頭を抱える俺に、誰かが、「素直に感じたことを言えばいいんですよ」と助言をくれた。

 

 

 

「......えーっと、さすがに暑くはないか?いくら夏も終わりかけとはいえ」

 

「シェーマに、熱源感知センサは存在しません、熱中症も心配ない、ですの」

 

 

 

おい、つくづくどうなってるんだ、このオーバーテクノロジーちゃん。いっそ石炭とかでも燃料にしてるのか?それにしても、熱さがわからないっていうのも、考えものだな。暖炉とかで暖まってて、燃えそうになっても気づかないってことか。オーケー、覚えておこう。

 

 

 

「あー、あと靴とか大丈夫か?歩きやすさとか.....あと、その髪の結い方とか、俺あんまり難しいのはできないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

「......アルマくん、その調子だと、女性に嫌われてしまいますよ?」

 

「えっ......あ。」

 

 

 

クレア姉さんが残念なものを見る目をしている。まあ、ちょっと呆れたような困り顔も、当然のように天使なんですけど。

 

というかちがう、誤解ですクレア姉さん。女の子がおしゃれしたときの服装を誉めるのは、男として当然って、父からいやというほど教え込まれてますから!ただ、皆様の散財ぶりにちょーっと、思考のネジが飛んだと言いますか!

 

 

 

「さっき、インストールした"オトメゴコロ"によれば、出会い頭の、あの発言は好ましくない、ですの」

 

 

「い、いやいや悪かったって。ちゃんと似合ってるしかわいいからさ」

 

 

 

言い訳をする暇すら与えてくれなかった......

 

というか、乙女心ってインストールできるものなの?......いや、もはや今更か。女の子っぽい感性を身に付けてもらえるのは、普通に喜ばしいし。うん。

 

 

 

「ふふっ、替えやパジャマも用意してありますから」

 

「......って、クレア姉さんそれ、もう会計終わっちゃってるヤツだよね!?お金______」

 

「気にしないでください。私としても久しぶり楽しかったですから」

 

「いや、一応経_______手当てみたいなの出されてるんデスケド......」

 

 

 

あっっぶねぇ、危うくヒゲおじからの経費って口走りそうになった......クレア姉さんは勘が鋭いからな。さすがにまだ、鉄血の子供入りしたってバレたくない。

 

 

 

「それじゃあ、とっておいてください。冬にコートを買ったりするのに、なにかといるでしょう?」

 

「そういうことなら......」

 

 

 

無言の圧を感じながら、袋を受け取った。

 

こういうときにゴネると、こちらが納得するまで理屈を並べてくるのだ。ミハイル兄さんと違って、こわくはないのだけど、申し訳なさが勝ってくるから素直に引くことにする。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

たたん、たたん。

 

時刻はきっと八時過ぎ。七時後半の列車に飛び乗り、あと少しで帝都ヘイムダル。

 

 

 

......結局、メガネ教官に、その場にいた生徒の人共々、夕飯奢ってもらっちゃったな。シェーマがそのままご飯をたべても、問題ないっていうのはビックリしたけど。

 

運良くその場は「好き嫌いがないこと」に驚いたことにされたが、本人の言葉をそのまま信じるならば、体内でそのまま欠片も残さず分解しているそう。ああもう、はいはい、オーバーテクノロジーちゃん。一回製造元にご挨拶、もとい見学に行ってみたいものだ。

 

 

 

その本人、シェーマは、俺の横で、足を列車の揺れに合わせて、ぶらぶらと流していた。こうしてみれば、今隠してある首の傷以外、普通の幼児なんだけどな......

 

 

 

今日は宿屋にお世話になって、明日から、本格的に活動することになる。誠に不本意だが、明日からの下宿先は、既にヒゲおじが手配してしまったらしい。なんでも、"就職先"の初仕事に関係があるらしいが。そこで10日くらい居座った後の拠点は、自由に決めて良いとのこと。

 

 

 

どうせなら、帝都の近く。んでもって、東側がいい。ハイアームズ候、ひいては俺の両親が、手を出しずらいところ。となると、ケルディックあたりか......?

 

便利な都会っていったら、帝都以外だとルーレかな?ラインフォルトのお膝元だし。まあ、戦術オーブメントのテスターもやってるわけだし、行く機会はあるか。

 

別に都会じゃないけど、レグラムもいいかも......ローエングリン城と、湖はちょっと見てみたい。あー、でも住むんじゃなくて、どっちかっていうと、旅行とかがいいな......

 

 

 

 

 

 

「......」

 

「......」

 

 

 

窓からはもう、暗い空に街灯が浮かんでいる。

 

 

気まずさを紛らわせるための考え事も尽きてしまって、なんとなく横を見ては、目線を戻してを繰り返した。

 

 

 

シェーマは......わからない。

 

俺と同じように、ぼんやり手すりに捕まり、外を眺めていた。

 

こちらから話しかければ、応えてくれる。さっきだって、場に合わせた応対は、自発的にしてくれたと思う。

 

 

 

 

______それじゃあ、今の空白の時間は、彼女は、なにを思っているのだろうか。

 

疲れてしまったのか。まだ警戒しているかもしれない。いや、俺では考えもつかない、全くの虚無か?

 

 

 

......考えるのは、苦手だ。代わりにずっと、試行錯誤、総当たりしてきた。

 

それなのに、いまは考えを止めれば眠気が、行動を起こせば疲労が襲ってくる。

 

 

 

早く、早く帝都についてくれ。初日から寝過ごしたら洒落にならない。

 

 

 

「......」

 

 

 

小さい手で、目をこする少女。瞬きひとつしなかった目蓋が、だんだん重く、下がっていく。

 

 

 

「眠いよな。あとちょっとだぞ」

 

 

宿までは、少し帝都駅からトラムを乗り継ぐ必要がある。ようやく列車には降車を促すアナウンスが入ったところだ。

 

 

 

「当機にはメンテナンス用のスリープモードが搭載されています。現在初期設定起動から8時間が経過したため_______」

 

「いや、別に今さら機械ぶらなくても良いからな?帝都に戻るのも、あのおじさんに会いに行くからじゃないからさ」

 

 

「......」

 

 

 

シェーマは、下を向いて黙ってしまった。

 

 

 

「まあ、言ってもすぐには信じられないか。とりあえず、あと5分くらいは起きられるか?トラムにのったら寝て良いから」

 

「......はい」

 

 

 

ぷしゅう、と音をたてて、電車は夜の帝都に到着する。

 

星は、ずいぶん小さく、少なくなっていた。

 

何も言葉を発さず、駅を出る。トラムは待つ時間もなく、目的地域のものが、すぐに停留所にいる。整理券をとり、シェーマはそれに倣う。行きにも乗ったので、もう慣れたのだろう。

 

 

 

「次は______、お降りになる方は、______」

 

 

 

車掌の放送に合わせて、なんとなく席を立つ。手すりに捕まって、運賃をシェーマの分も用意する。

 

 

 

「......」

 

「......えっと、今日はこっちだから」

 

 

 

とりあえず降りてすぐ立ち止まるのは邪魔になる。少し手を引いて、停留所からそれる。

 

さて、どうしたものか。固まったまま、全く動かない。これで、戸惑うそぶりでもあったらやりやすいんだけど......

 

感情......というか、考えはあるのか?もしかしたら、話しかけた時だけ動くようになってるとか、事前に指示をしたら、その時は動くとか?

 

 

 

 

 

 

 

「......これは、その......」

 

 

 

ようやくシェーマは言葉を発するようになった。表情は、下を向いてしまったので、わからなくなった。

 

 

すると、顔を上げる。

 

 

 

......何かを決めたような目。ぎゅっと俺の手を握りしめると、路地の方に引っ張っていく。

 

 

 

「ちょっ!?.......ッ、シェーマ、こっち宿と逆!こっちじゃな______」

 

 

 

流石に住宅街の真ん中。しかももう夜も更けてきている。大声を出すことは憚られた。どうにか叫ぶのを堪えて、顔面から転ぶのだけを精一杯堪える。

尻餅をつき、自分よりだいぶ背の低いシェーマに、見下ろされる形になる。メインストリートから外れても、晴れが続いていたので、服が汚れるのは避けられた。

 

 

 

 

赤い目が、じっとこちらを見つめている。

 

 

......あまりに強い視線に、どきりと心臓が跳ねた。

 

 

 

 

 

「これは、私の義務です。チュートリアルの一環です。だから、返品するなら......今のうちですから」

 

 

「......シェーマ......?一体、何を______」

 

 

 

少女は右手をあげ、静かな宙に呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サリドマイド」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間の暗いところをくり抜くように、"ナニカ"が出現する。緑色のラインが走り、赤色のコアが、黒いボディにはめられている。

 

 

彼、彼女......そもそも、生きているのだろうか。呟いたのだ。うめき声かもしれない。

 

高い声で、何かを発している。

 

 

滑らかなカーブを描いて、帝都の月に照らされた腕は、薄く光っていた。

 

 

 

 

 

 

 







Ozちゃん、もといシェーマの戦術殻は、閃Ⅳの教官奪還編で工房の本拠地で戦える、量産型をイメージしていただけると......

見た目もボロく、動きも鈍くて制御は効きませんが、殺傷能力だけはクソ程高いです。


ついでにシェーマの見た目ですが、こちらも工房で戦えるOzミラージュの、顔があって髪が長いバージョンだと思ってください。




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