モモンガがツアレに憑依する話(仮)   作:佐倉ハル

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13.事件(前)

 

 

 

 

 

 

受付が完了してからプレートが発行されるまでは小一時間かかるということだったが、2人はそのまま室内で待機することにした。その場にいた冒険者への経緯の説明はセリーシアが行い、モモンはそれを傍らで聞くことに徹していた。その過程で、彼女は今後は名を変えて本名を名乗る事、自分が女である事、姉のツアレニーニャを漆黒の剣に加えて共に活動する事も話していた。

 

冒険者達からは「大変だったな」などの(ねぎら)いの言葉もあった一方で、「突然強くなるとか、そんな事があるのか?」と疑問に思う声も聞こえていた。肉親であるセリーシアですら直接見るまでは半信半疑だったのだから、赤の他人からすれば信用出来ないのは当然の事だろう。

 

セリーシアが「姉は第3位階魔法が使える」ということを話すとどよめきが上がり、見せて欲しいと要求する人が現れる。それに周りも同調していき、最終的にはセリーシアからも頼まれて披露する流れになってしまった。

モモンは席を立って考える。モモンが行使できる範囲でも魔法の候補は色々とあるが、室内で使えて尚且つ皆が知っているものでなければならないだろう。

鈍足(スロー)>や<加速(ヘイスト)>は効果が第三者から分かりづらいし、天使やアンデッドを呼び出す召喚系は知名度が低い気がする──という訳で、結局無難な<飛行(フライ)>を使うことにした。

 

宙に浮いて室内を漂うモモンの姿を見て、冒険者たちは目を丸くし、これは凄いと盛り上がっていた。

正直な話、何が凄いのかモモンにはサッパリ分からないというのが本心だ。 感覚的には、例えるなら「鉛筆を持って紙に“あいうえお”を書いただけで天才だと褒められる」みたいな感じ。実はバカにされてるんじゃないかと一瞬思ったりもしたのだが、冒険者の間では飛行の魔法は一部の天才しか習得できないレア魔法であり、魔法詠唱者の力量を示すある種のステータスになっている点を考慮すれば一応は頷けるだろうか。

 

他の冒険者も一部加わり、冒険者という存在がどのような事をしているのかの説明も聞かされた。

彼らは組合に届く依頼を受けて活動を行うのが主な仕事だ。低ランク帯の者はレア度の低い薬草採取や他都市へのお使いなどの簡単な依頼がメインであり、中ランク帯は街道のモンスター狩りなどが主流、高ランク帯になるとそれに加えて重要人物の護衛などの任務が増えるらしい。

モモンは冒険者の仕事内容を聞き、少しガッカリしていた。なんか思ってたのと違うなあ…というのが正直な感想だった。冒険者とは名ばかりのただの傭兵派遣組織──そういう感想を持たずにはいられなかった。

ただひとつ、最高位のアダマンタイトともなると話は別になってくるようだ。アダマンタイトは街の安全と利益にも直結する重要戦力となるため、万がイチ街が強敵からの襲撃を受けた場合などに最前線に立って戦ったり、未発見の遺跡などの危険度の高い地帯の調査を行ったりする事もあるという。

その話を聞き、消えかけていた希望の灯火が再び輝き取り戻したようだった。元々カルネ村の抑止力となるために目指そうと思っていたランクだが、さらに未知の最前線に立てるのであれば願ったり叶ったりだ。もはや目指さない選択肢は無いだろう。

そのためにも、早く実績を上げないとな──と、モモンは一人心の中で意気込んでいた。

 

 

 

 

 

その後、プレートの発行が完了し、モモンは受付嬢からそれを受け取り首に装着する。その色は『(カッパー)』であり、冒険者のランクとしては最下位に位置するものだ。銀級のチームに加入するのに銅からなのか?と疑問に思ったのだが、セリーシア曰く「冒険者のランクあくまでも個人に依存し、チーム単位で統一されている訳では無い」「チームとして実績を上げると全員が昇格になるので、必然的に同じランクで固まっているように見えるだけ」という事だった。

 

彼らをあまり待たせると悪いからと2人は足早に組合を出てンフィーレアの自宅へと向かおうとするが、そこで一人の小柄な老婆に呼び止められる。

彼女は「リイジー・バレアレ」と名乗り、ンフィーレアの祖母だと言う。セリーシアを見てンフィーレアと共にカルネ村に向かった者だと気づき、声を掛けてきたそうだ。2人も簡単に自己紹介を済ませる。セリーシアもモモンと同様に本名で名乗り、私達は姉妹であり姉が今日からウチのチームに加わるという旨も語っていた。

リイジーは孫であるンフィーレアを探しているようだったので、もう自宅へ戻っている旨を告げ、彼女と共に向かうこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンフィーレアやーい、ベイロンさんの2人が来たよー」

 

 

自宅に戻ると玄関の鍵が開けっ放しになっていた。リイジーが不用心だと文句を言いつつも先に入り、孫の名前を呼ぶ。2人もすぐ後に続いてモモン、セリーシアの順に玄関をくぐっていく。

自宅の中は静まり返っており、誰の返事も返って来ない。

 

 

「変だねえ…」

 

 

彼女は返事が無いことに疑問を抱きつつも、奥の扉の方へと歩いていき、手をかけようとする。

 

 

「待って!」

 

 

モモンが突如として大きめの声を出し、リイジーを制止する。彼女はビクリと驚いた様子で手を止め、反射的にモモンの方へと振り向く。モモンは更に右方向へと視線をずらして壁の方を見やったまま、腕を動かしてアイテムボックスから黒剣を抜き出した。

 

 

「な、なんだい…!」

 

「姉さん!?どうかしたの!?」

 

 

彼女が武器を取りだした事に2人は驚き、慌てた様子を見せる。

 

 

「──その扉の奥…アンデッドがいる。数は3体」

 

 

モモンは警戒した様子で、視線を逸らさずに静かにそう告げる。彼女には“不死の祝福”という常時発動型特殊技術(パッシブスキル)があり、転移後もそのまま引き継がれているために近くにいるアンデッドの存在を感知する事が出来る。

モモンの話を聞いた途端、セリーシアの様子が一変し顔から血の気が引いていく。

 

 

「え………そ、それって──そんな……」

 

 

彼女は最悪の事態を想像してしまったのか、体が僅かに震えている。胸騒ぎを覚え、冷や汗が滲んでくる。モモンも同様に嫌な予感を感じ取っている。

 

 

「まだ分からない…でも──」

 

「────っ!!」

 

 

モモンが言い終わるよりも先に、セリーシアが駆け出してモモンの横を通り過ぎ、乱暴に扉を開いて奥の部屋へと向かって行ってしまった。

 

 

「まっ────チッくそっ!」

 

 

引き止めるのは無理だと判断したモモンは、小さく舌打ちをしつつセリーシアの後を追い、奥の部屋へと駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ………あぁ…………そん、な…………」

 

 

セリーシアは部屋に入ってすぐの場所で立ち尽くしている。絶望と恐怖に染まった表情で体がガタガタと震え、足の力が抜けて今にもへたり込みそうになる。

 

モモンもすぐに追いつき、それを目にする。

目の前には彼女の予想通り、アンデッドの一種である動死体(ゾンビ)が立っていた。

だがそれは最悪の結末──彼らの変わり果てた姿だった。

ペテル、ルクルット、そしてダイン──3人共に顔から生気が抜け、白目を剥き、口の端からは泡のようなものがこぼれている。床には夥しい量の血液が広がっており、もはや彼らの体に血は残っていないだろうと思わせるほどだった。

彼らの成れ果てはギリギリと首を動かしてセリーシアの方を瞳の無い白い目で見据え、敵意を感じさせる呻き声とともに、油の切れたロボットのようにギクシャクとした動きで襲いかかり始めた。

 

 

「セリーシア!!伏せろ!!」

 

 

モモンは大声で叫び、剣を振りかぶる。セリーシアは恐怖で硬直していたが、彼女の声で我に返ったのか「ひっ」という小さな悲鳴とともに反射的に縮こまるように頭を下げる。

モモンは剣を振り抜き、前に迫っていたペテルとルクルットだった者の首を切り飛ばす。そのまま飛び上がるように前に出て、切り返しでダインだった者の首も同様に跳ね飛ばした。

3人の首がどしゃりと血の溜まった床に落ち、体もまた崩れ落ちるように倒れ込んだ。

 

 

「──もう、いないな」

 

 

モモンはアンデッド反応が全て消えたことを確認し、剣を収納する。3人の動死体はもう動いていないことから、無力化できたことを確認する。

 

 

「ペテル──ルクルット──ダイン──」

 

 

彼らの名前をつぶやく小さな声が聞こえる。モモンがセリーシアの方を見ると、彼女は四つん這いのままゆっくりと死体の方へと近づいている。

 

彼女は血に塗れたペテルの頭部に触れ、顔を自身の方へと向ける。生前の時の凛々しい表情はどこにも無く、白目を剥いたおぞましい形相のまま硬直している。

 

 

「嘘…だよね…こんなの、嘘…だよね…………?」

 

 

セリーシアの目から涙が溢れ、床へとこぼれ落ちて染みを作っていく。声には涙が混ざり、震えている。

 

 

「うわぁぁ……あああああああ………!」

 

 

一気に表情が崩れ、彼女は堰を切ったように泣き叫び始める。自身が血にまみれるのもお構い無しに、

変わり果てた仲間の頭部に縋り付いて。

薄暗い室内は、地獄絵図と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひいっ!ゾ、動死体(ゾンビ)!」

 

 

騒ぎを聞いて飛び込んできたリイジーは、その惨状を見て絶句する。

 

 

「もう倒しましたので、襲ってはきません。安心してください」

 

 

リイジー動死体に恐怖しつつも視線を下ろして足元の様子を伺う。セリーシアが死体に縋り付いたままの姿で、声にならない泣き声を上げ続けている。

 

 

「その動死体は……お主らの仲間じゃったのか……?」

 

「私はまだチームに入ったばかりなので面識は深くありませんが……彼女にとっては…時には寝食を共にし、命を預け合った大切な仲間だったと思います。」

 

 

モモンはセリーシアの方を見ながら寂しそうな顔をして言う。

 

 

「まっ、孫は──ンフィーレアはどこに!?」

 

 

リイジーは我に返ったようにモモンに緊迫した様子で問いかける。ンフィーレアはここには居ない事を告げると、彼女は彼の名前を叫びながら部屋を飛び出して行った。

 

モモンは3人の死因を調べるため、それぞれ死体を動かして傷の確認を行う。凝固した血液が付着していて分かりづらかったが、結果ペテルとルクルットは首に一つ、ダインは額に一つ、全てが致命傷になるほどに深い傷が残されている事が分かった。

 

 

「突き刺されたような痕跡………刺突武器か」

 

 

彼らは銀級冒険者だ。冒険者のランクの中では弱い方だとはいえ、それでも無力な一般人に比べれば遥かに強い存在のはずだ。他に抵抗した痕跡もない様子から、犯人は彼らの攻撃をものともせずに…もしくは気づかれることなく一撃で、人間の弱点を的確に刺して殺したという事になる。かなりの手練と見るべきだろう。

 

さらに気づいたのは、彼らが付けていたはずの冒険者プレートが全て無くなっていたという点だ。もし犯人が持ち去っていたとするならば、それを元にして場所を特定する探知系の魔法を行使できれば話は早い。──だが、その手段を用いることは出来なかった。

モモンは探知魔法を行使できる職業を修めておらず、それゆえに手持ちの探知系魔法が込められた巻物(スクロール)すらも使うことが出来ない。この世界に来てから新たに修めた職業も戦士、修行僧、踊子(ダンサー)といった物理攻撃に特化したものばかりであり、野伏系は結局取れずじまいだったのだ。

 

 

「ンフィーレアがどこにもおらん!」

 

 

モモンが今後打つ手を思案していると、リイジーがバタバタと部屋に戻ってくる。アンデッド反応が3体だけだった事からンフィーレアは動死体化させられずに殺されているかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

 

「家にいないのであれば…彼は誘拐──犯人に連れ去られた可能性がありますね」

 

「なんじゃと…」

 

 

死体の状態を見るに、確実に一撃で仕留められている。犯人はこういった犯罪行為に慣れている人物である可能性がある。と先程得た情報を付け加える。

 

ここでふと、外が少し騒がしくなっている事に気づく。急いで外に出てみると、家の前の通りを何人かの人が慌ただしく駆けており、近くには銅のプレートを下げた冒険者と思しき男性が声を張り上げて移動する人を誘導しているようだった。

 

 

「あの…何かあったんでしょうか?」

 

「あ、銅の冒険者の人?今墓地の方でアンデッドが大量発生してるみたいでさ、街の方にも溢れてきそうってんで大騒ぎになってんだよ!」

 

「アンデッドですか………」

 

「ああ、アンタも手が空いてるなら街の人を避難させるのを手伝ってくれ!」

 

 

漆黒の剣の3人も殺された際に、おそらく生物の死体をアンデッドへと変える効果を持つ<不死者創造(クリエイト・アンデッド)>と思しき魔法を掛けられていた。犯人、もしくはその仲間に死霊系魔法を行使する人物がいる可能性が高いと見ていいだろう。モモンにはこの一件が無関係なものだとは思えなかった。

 

 

「その墓地と言うのはどの方向にあるんですか?」

 

「え?あっちだけど………」

 

 

男は少し訝しげな反応をしつつも、指を差して墓地のある方向を示す。

 

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「えっ!?お、おい…まさか行ったりしねえよな?止めとけって、危ねえぞ!?」

 

 

モモンは軽く会釈をしつつお礼を言い、引き止めようとしている男を尻目に踵を返して小走りで家へと戻る。

 

 

「リイジーさん、私に依頼をして貰えませんか?」

 

「依頼じゃと?」

 

 

モモンは戻るや否や、リイジーにそう提案する。先程男から聞いた内容を伝え、墓地へと向かう事を告げた。アンデッドの発生が3人を動死体化させた張本人によるものであると仮定すれば、ンフィーレアもそこにいる可能性がある、と。

 

ンフィーレアが墓地にいると考えた理由はもう一つある。モモンはこの現象の正体に心当たりがあったのだ。

 

不死の軍勢(アンデス・アーミー)

 

第7位階に位置する低位のアンデッドを大量に召喚する魔法。彼女自身もユグドラシル時代に死霊系ビルドを極める過程で習得している。

3人を動死体化させる魔法を行使する術者の存在──マジックアイテムを制限なしに使用出来るチート級のタレントを持つンフィーレアの誘拐──そして、<不死の軍勢>によると思しきアンデッドの大量発生──

全てが繋がっているように思えてならない。

 

敵の力量や思惑はまだ掴みきれていないが、死体を隠すわけでもなくこの部屋に堂々と置き去りにしているあたり、見つかる事を問題視していない程に余裕がある事は容易に想像がつく。

だがンフィーレアを拐っている様子からして、第7位階魔法を行使できるほどの存在では無く、彼の力を利用して行使している…といった所だろうか。

 

この世界にはまだ未知の要素が多いゆえに情報が足りない状態で踏み込めば寝首をかかれる可能性もあるが……行ってみる価値はあるだろう。

 

 

「この誘拐事件はまさに冒険者に依頼すべき案件です。私が必ずンフィーレアさんを連れ帰る事を約束します」

 

「ぬう………じゃが、お主では…」

 

 

リイジーはモモンが首から下げているプレートに目をやりつつ、答えを渋っている。モモンは登録したてであるが故に今はまだ最下位ランクの銅だ。セリーシアは銀のプレートを下げているが、仲間を殺されてしまった事からして敵は確実にそれ以上の強さという事になる。とても戦力として信用には足りえないと判断されるのも当然だろう。

 

 

「私は銅なのはまだ登録したばかりだからです。この通り──私は第3位階魔法が使えます」

 

「な、なんと──」

 

 

モモンは<飛行>の魔法を行使して実演をしながら説明する。狭い部屋の中で低空飛行をするモモンの姿を見て、リイジーは目を見開く。彼女自身も第3位階魔法の使い手であり魔法にはそれなりに精通しているため、<飛行>が優秀な魔法詠唱者の証であることも、ただ使えるだけでなく狭い空間でぶつからずに飛行するにはかなりの技術が必要になることも理解している。

 

 

「依頼という体裁上、無料には出来ませんが…報酬は必要最小限でも構いません。不安であれば別で同じ依頼を出して頂いても構いません。今すぐにお見せできるのはこれくらいですが…私には彼を助け出せるだけの実力があります。どうでしょう…私に賭けてみませんか?」

 

 

モモンは床へと降り立ち、リイジーの目を真剣な表情でジッと見つめる。

 

 

「──わかった。お主を信じて雇おうとも。孫を…ンフィーレアを救ってくれ…!」

 

「承りました。必ず──お孫さんと共に戻ってきます」

 

「ね、姉さん…!」

 

 

モモンが墓地へと向かうために部屋を出ようとした矢先、セリーシアに声をかけられる。

振り返ると、彼女は立ち上がり、モモンの方をジッと見据えている。顔は悲しげで目が少し充血しているが、既に涙は流れていなかった。

 

 

「私も連れて行って欲しい…!」

 

「──もう大丈夫なの?」

 

「うん、とは言いきれないけど…そこに皆を殺した犯人が居るかも知れないんだよね?だから…私も一緒に行く」

 

 

セリーシアは話しながら少し下を向き、次に顔を上げた時は──何か覚悟が決まったような、真剣な表情へと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ…数が多すぎる!このままじゃ街に溢れるぞ!」

 

墓地の門周辺では二階建ての建物ほどもある高い塀を乗り越えて溢れ出てきたスケルトンが衛兵や招集命令を受けて駆けつけた冒険者たちに襲いかかっており、彼らはそれに応戦し食い止めているような有様だった。アンデッドの大群は大半がスケルトンで構成されているようだが、それ自体は非常に弱い個体のため冒険者に比べると力の乏しい衛兵でもタイマンであれば十分に対処出来る。だが今回はその数が尋常ではないため数の暴力に押し切られてしまい、衛兵では手に負えなかったのだ。緊急で駆けつけた冒険者たちも流石の数の多さに少し気圧されている様子ではあるものの、現状は善戦していて街の方への流出はギリギリ食い止められているという状況だ。

 

モモンとセリーシアの2人が現場に到着すると、近くにいた一人の冒険者が彼女たちの存在に気づき、視線を向けてくる。

 

 

「ん?応援か……って(シルバー)と…チッ(カッパー)の2人だけかよ」

 

 

男はモモンのプレートの色を見てあからさまに不機嫌そうに舌打ちをする。顔つきも強面であり、第一印象から非常に感じの悪い男だ。

首から下げているプレートが緑っぽい色をしているところから、ミスリル級冒険者だろう。男は口を開いている間も片手間に迫り来るスケルトンを弾いていたことからも、少なくとも衛兵より強い事は見て取れる。

 

 

「ここは弱い奴の来る所じゃねえ。死にたくなけりゃさっさと街に戻って避難民の誘導でもしてろや」

 

 

男は不機嫌そうな顔のままモモンを睨みつつ、吐き捨てるように言う。手で追い払うような仕草も添えて。今回の召集でも、実際に前線に立って敵の相手をするのは最低でも(アイアン)以上の冒険者の仕事であり、最下級の銅は組合が危険と判断したために、主に街で人々を適切に避難させるための誘導員としての役割を与えられているらしい。

 

 

「こんな所で手をこまねいているくせに、随分と偉そうですね。ミスリルって案外大したことないんですか?」

 

「あぁ?んだとテメェ!?」

 

 

男はモモンの挑発に乗せられて激昂し彼女に掴みかかろうとするものの、近くにいた同じランクの仲間と思しき人物に止められている。

セリーシアが少し怯えている様子を見せていたので、モモンが男との延長線上に入る位置に誘導して男から隠す。

「銅の分際で──」等と仲間に羽交い締めにされながらも罵ってくる男を尻目に、モモンは門に向かって歩みを進める。

 

アンデッドは時折モモンの方にも向かってくるが、彼女の防御を突破することは出来ず、見えない壁に阻まれ弾かれる。

セリーシアにもアンデッドの魔の手が伸びるが、防御強化の魔法が込められた指輪型のマジックアイテムを事前に渡して装備させているため、その攻撃が届く事は無い。

見た目は非常に地味で、ユグドラシル時代では装備制限の兼ね合いで特に出番はなかった残念な代物だが、こちらの世界ではセリーシアを守るために大いに活躍してくれる事だろう。

彼女はアンデッドの存在に恐怖し、敵の攻撃に反射的に怯んだりしつつもダメージは全く受けていない。

流石にモモンがスキルとして修得している上位物理無効化のような強力な効果を持つマジックアイテムでは無いため、威力の高い攻撃を完全に無効化する事は出来ないが、それでも雑魚のスケルトン程度であればそれくらいは容易い。

 

門扉は主に鋼鉄で出来ており、上部はシーフガードの構造になっていて乗り越えて移動できないようになっている。厚みもそれなりにあるようで、かなり頑丈な作りだ。左右の門扉同士は同じく鋼鉄製の(かんぬき)で固く閉じられ、閂自体にも鍵が取り付けられている。向こう側からは門扉を激しく叩く音や、呻き声を上げながらガリガリと表面を掻きむしる音がそこかしこから聞こえてくる。

左右の塀を見れば、次々と乗り越えて降りてくるアンデッド。まだまだその勢いは衰える事を知らず、このまま行けば確実に街へと溢れてしまうだろう事は想像にかたくない。

モモンは近くにいる衛兵に話しかける。

 

 

「アンデッドは普段こんなに発生したりはしないのですか?」

 

「あ、ああ!いつもは日に数体出てくる程度だから俺たちでも問題なかったんだが……こんなに出るなんて経験したことないし、話を聞いたことすらもない!」

 

 

衛兵は迫り来るアンデッドに防戦一方になりながら、苦し紛れに答えている。モモンの方を見ている余裕は無いようで、敵の方を見据えている。

衛兵の言うことが事実であれば、やはりこれは自然現象ではなく人為的な魔法──<不死の軍勢>によるものである可能性が高いだろう。

 

 

「私は登録したばかりではありますが、冒険者です。この先に行きたいのですが、門を開けて貰えますか?」

 

「な…そんなの無理に決まっているだろう!そんな事をしたら街にアンデッドが流れ込んじまう!」

 

「どの道このままではいつかはそうなります。原因を断たなければ意味がありません」

 

「出来るならそうしてるさ!ていうか銅のアンタに何が出来るってんだ!バカな事を言ってないでさっさと持ち場に戻れ!」

 

「そうですか…まぁ、開けたくないのであれば仕方ありませんね。セリーシア、私の傍に」

 

「──え?あ、うんっ」

 

 

モモンに誘導され、セリーシアは彼女にピッタリと寄り添うように接する。彼女はそれを確認し、静かに魔法を発動させる。

 

 

全体飛行(マス・フライ)

 

 

2人は不可視の魔力の膜に包まれ、体がフワリと浮かび上がる。衛兵は突然浮かび上がった2人に驚き、思わずアンデッドから目を離してしまい攻撃されそうになっている。

セリーシアも驚いているようで、反射的にモモンにしがみつくような仕草を見せる。

そのまま一気に上昇し、高い塀を越えて大量のアンデッドが待ち構える墓地の中へと進んでいった。

 

そして──轟音。少しの間を置いて激しい音が響き、塀の向こうから光が漏れてきて十数秒の後に消える。

冒険者と衛兵は一瞬呆気にとられたが、処理しきれていないスケルトンが襲いかかってくるため確認している余裕は無い。

 

戦闘は数分ののち、すぐに終了した。あの光が見えてから、あれほど流れ出て来ていたスケルトンの流出がパッタリと止まり、既に出てきている分だけを倒せば良くなったためだ。

 

 

「──なあ、聞こえるか?」

 

 

衛兵は近くにいた他の衛兵に問う。いや、聞こえない。衛兵は口々にそう呟く。そう──何も聞こえないのだ。あれほどまでにアンデットが大量発生し、ひしめき合い、おぞましい声を上げ続けていたのにも関わらず……今はシンと静まり返り、普段の静寂さを取り戻している。

衛兵たちは恐る恐る階段を登り、塀の上に立って墓地の内部を覗き込んだ。

 

 

「う、嘘だろ……?」

 

 

彼らは呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。

そこに広がっていたのは、夥しい程の骨の山だった。

墓地の様相は様変わりしていた。大地が抉れ、墓石が吹き飛ばされて散乱し、まるでここで大きな戦争があったかのようだった。そして、その上から地面を埋め尽くすほどの骨、骨、骨──

大量発生していたスケルトンの大群は、一体残らず砕かれた本来の屍の姿へと戻っていたのだった。

 

 

「短時間でアンデッドの群れを全滅させるなんて芸当………(カッパー)に出来ると思うか…?」

 

「いや…絶対に無理だ。あれこそ噂に聞く、アダマンタイトプレートの持ち主なんじゃないのか…?」

 

 

魔法の知識に乏しい彼らでも理解出来る。

魔法詠唱者の中でも一部の天才しか使えないとされる飛行魔法を行使し、アンデッドの群れを一瞬で討滅出来るほどの実力者。

彼らの脳裏には、噂に聞く強者の存在が思い浮かぶ。

王都にいるアダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇に所属する仮面の魔法詠唱者──そして、帝国にいるとされる人類最強と名高い魔法詠唱者の老人。

 

 

「あの子は冒険者に登録したばかりだと言っていた……俺たちは、伝説の始まりを目にしたのかも知れないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモンたちは墓地の上空十数メートルほどを<全体飛行>でゆっくりと進んでいた。足元にはスケルトンを主体にした複数種類のアンデッドが跳梁跋扈しており、モモンはそれらを<火球(ファイヤーボール)>などで空中から一方的に潰し、適当に間引きながら敵の探索を行う。

最初に塀を乗り越えた後は、溜まりに溜まってひしめき合っていたアンデッドを第9位階の範囲殲滅魔法である<流星雨(メテオ・スコール)>を<魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)>の併用で発動し、空中から一気に殲滅した。地形破壊やフレンドリーファイアのリスクが高いためカルネ村では使えなかったが、ここでは惜しみなく叩き込める。これでしばらくは塀を乗り越える奴らも居なくなるだろう。

セリーシアは初めて見たモモンの強力な魔法に釘付けになり、「すごい…こんな魔法、見たことないよ…。」と感嘆の声を上げていた。

 

空中からの一方的な殺戮は卑怯とも言える戦法ではあるが、卑怯というのは一騎打ちなどの人間同士の形式に則った戦いの場でそういう事を行った場合にのみ機能する概念だ。知性が皆無なアンデッドとの生死を掛けた戦いの場に卑怯も何もない。この方が圧倒的に効率が良い、それだけの話なのだ。

 

それに空中を移動するのはメリットも大きい。アンデッドは生体反応を機敏に感知して襲いかかってくる性質がある。ユグドラシル時代のオーバーロードのままであったなら問題はなかっただろうが、今のモモンは人間だ。オマケにセリーシアもいる。地面を歩けば確実に奴らに取り囲まれ、進行を妨害されるのは目に見えている。いくら敵の攻撃が効かないとは言え、物理的に邪魔されるのでは思うように先に進めなくなってしまうだろう。

 

もう一つは、探索効率の向上だ。残念なことに探知魔法を行使出来るものがいなかった故に、敵の潜伏地までは特定出来ていない。地面からでは地形、植物、そしてアンデッド──様々な障害物が視界を阻んでくる。もし彼らが地下に潜ってしまっていたら厄介だが、少なくとも視界を遮るものがない上空から探索する方がより見つけやすくする事が出来るのだ。

 

 

 

 

 

「──何かある」

 

 

モモンは少し離れた場所に一つの建物を発見する。墓地の最奥付近にある広い空間にポツンと建てられた白い建造物。ナザリックの地表入口の霊廟のデザインにも少し似ているだろうか。

気になるのはその建物の前に、何人かの魔法詠唱者と思しき服装をした人物が見える事だ。この姿になって視力が大幅に向上したとはいえ流石にハッキリと確認することは出来ないが──行ってみて確認するべきだろう。

 

 

「セリーシア、一旦下に降りるよ」

 

 

この辺りまで来ると地面を彷徨いているアンデットもほぼ居なくなっており、静かな墓地の風景が広がっている。モモンはセリーシアに声を掛け、彼女が了承したのを確認してからゆっくりと下降して地面へと降り立った。

ここから霊廟までは地面を歩いて移動する。空中を移動していると敵に居場所を捕捉されやすい上に、この世界では第3位階魔法を行使する者はそれなりに強者であると認識されている。推測される敵の力量からすればそれを理由に逃げられる可能性は低いだろうが、リスクを減らすためにもなるべく地面を歩いた方が良いだろう。

完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)>を使うのも手だが…奇襲をかけたい訳では無いので、そこまではしなくても良いか。

 

 

「セリーシア、これを持っておいて」

 

 

モモンはセリーシアに一つ、指輪型のマジックアイテムを渡す。色は銀系であり先程彼女に渡した防御強化のものと同色だが、こちらはより煌びやかな装飾が施されており、見るからに高価そうな形状をしている。

 

 

「姉さん、これは…?」

 

「これから戦闘になるかもしれないから、強くなれるお守り。最初に渡した防御強化のやつだけでも十分だとは思うけど…念の為、ね。負荷がかなりキツいからオススメはできないけど、いざと言う時は使って」

 

 

戦闘。モモンの口から出た単語を聞き、セリーシアは身体に力が入る。彼女の仲間である3人を殺し、ンフィーレアを拐い、そしてこのような大きな事件を起こすような相手。一筋縄では行かない可能性が高いだろう。

 

 

「大丈夫。セリーシアなら絶対に勝てるよ」

 

 

モモンはセリーシアを安心させるように、優しく笑顔で語り掛ける。不安そうにしているのを察したのだろう。

セリーシアの内に燃えている感情は本物だ。大切な仲間を殺されたことへの怒り──復讐してやりたいと願う気持ちに変わりはない。だが現場の惨状を見て、恐怖で足がすくんでいたのもまた事実だった。

姉を守れる存在になると誓ったのに、逆に守られてばかりなのは歯がゆい思いではあるのだが………まだ力が足りないのは事実だ。受け入れるべきだろう。それよりも、今は目的を果たすことが優先だ。

 

 

「──うん、頑張るよ。姉さん」

 

 

不安、もどかしさ──複雑な心境を振り払う。

彼女は姉の言葉を信じ、強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





キリのいい所まで書き溜めてたので少し間隔が空きました

次回投稿は明日の20時予定

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