モモンガがツアレに憑依する話(仮)   作:佐倉ハル

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書いてる途中に寝落ちしてうっかり2000文字くらい消してしまうハプニングを乗り越えつつ、無事に初投稿です



14. 事件(中)

 

 

2人が霊廟の近くまで歩いてくると、集まっている彼らの様子が視認できた。

黒装束と仮面で全身を覆った複数人が、1人の人物を取り囲んでいる。

中央にいるのはパッと見たらアンデッドと見紛うような体毛のない老いた身なりの人物。豪華な赤のローブを身にまとい、手には紫色に発光するマジックアイテムらしき水晶を持っていて、それを前方に掲げて何やらブツブツと呟いている。

 

周りにいる男がモモンの方をチラチラと見ているのが窺える事から、こちらの存在には既に気づいているのだろう。だが逃げも隠れもしないという事は、余程己の力量に自信があるのか、はたまた何か対話を求めているのか。

 

能力探知(サーチ・アビリティ)>を発動し連中のレベル帯を確認する。取り巻きは雑魚同然だが、やはり真ん中の人物が抜きん出ている。コイツがリーダー格なのは間違いないだろう。──霊廟の方にも反応がある。柱の裏にでも隠れているのか姿は見えないが、このリーダー格の男と同じくらいのレベルであるからして、この世界では強者に分類される存在であることは確かだ。

 

本当なら気づかれる前に遠距離から確認しておきたい所だったが、あくまでもこれはモンスターなどのNPCとの対戦時に能力確認するために使われるような情報系魔法でしかなく、その効果範囲も狭いため仕方がない。だからこそこれは探知系魔法が使えないモモンでも使用できるという利点があるのだ。

 

 

「こんばんは。いい夜ですね」

 

 

モモンは正面から彼らに近づき、声をかける。

中心にいる男は彼女の言葉に反応し、ゆっくりと顔を上げて彼女を見据える。

 

 

「──何者だ」

 

「私達は冒険者です。実は先程街で拐われたとある少年を探していまして…名前は言わなくても分かりますよね」

 

 

男はモモンの問いには答えなかったが、僅かに身構える挙動を示したのを見逃さなかった。コイツらが誘拐の犯人である事はほぼ間違いないと見ていいだろう。

 

 

「墓地に大量にいたアンデッドは、もしかして貴方達が召喚したものですか?それとも……その拐った少年にマジックアイテムを使わせて行使しているんですか?」

 

「アレは儂らの力で行使している魔法だ。その少年だか言うのは知らんな」

 

 

男はしらを切りつつ、<不死の軍勢(アンデス・アーミー)>を自力で行使していると主張する。高位の魔法は一般的に認知度が非常に低いため誤魔化しが利きやすい。さらには強大な魔法を行使出来るというハッタリを掛けて相手を牽制するのも狙いの一つだろう。だが、生憎モモンにはその手は通用しない。

この世界では第7位階に到達している人間は存在しないという情報を以前に得ているため、ブラフである可能性が高いだろう。

男はモモンへの警戒姿勢を緩めることなく、質問を続けてくる。

 

 

「どうやってあのアンデッドの群れを突破してきた」

 

「え?こう…空を飛んで、魔法でドーンと」

 

「──ふん、答える気がないのなら別にそれで構わん。…それで、ここに来たのはおぬしたちだけか?」

 

「…ああ、はい。そうですよ」

 

 

モモンはあまりにもマヌケな質問に呆気にとられてしまう。男は周囲に視線を移しながら、他に来ているものがいないか確認するような質問をしてくる。

彼女はこれまでに行ってきたアンデッドの召喚実験で、こちらの世界では召喚主と召喚モンスターとの間にはうっすらとした精神的な繋がりがある事を確認している。自分が召喚したモンスターが何を見て、何をして、何を考えているのか、ハッキリとでは無いが何となく情報として伝わってくるのだ。

不死の軍勢(アンデス・アーミー)>では大量の低位のアンデッドを召喚するため全ての対象と情報を共有する事は出来ないが、それでもその一部とは繋がりがあり、情報を感じ取る事は出来る。

モモンはここに来るまでに召喚されたアンデッドのかなりの数に接近し、潰してきている。いくら一部だけとは言えど、こちらが何人いてどのような方法でここまで来たかなど筒抜けになっていなければおかしいのだ。

それなのに、この男は何も知らない様子だ。

つまり、魔法を行使しているのはコイツではなく別の人物──拐ったンフィーレアを利用して、何らかのマジックアイテムを用いて行使しているという何よりの証拠なのだ。

自分が行使しているなどと嘘をつくくらいなら、そのあたりもしっかりと整合性を取っておいて欲しかったものだが……まあどうでもいいか。

 

 

「そっちこそ、仲間を隠してないで表に出したらどうですか?刺突武器を持った奴がいるでしょう?伏せておくつもりか…それとも、怖くて出て来れないんですか?」

 

 

モモンは視線をスライドさせて奥の霊廟──太い柱の一点をじっと見つめながら相手を挑発するような言動を取る。

 

 

「へえ、あの死体を調べたんだ。やるねー」

 

 

彼女が見つめていたまさにその先から、女の声が響く。女は柱の裏から表に姿を現し、柱に背中を預けてもたれ掛かる。余裕に満ちているような不敵な笑みを浮かべており、横目でこちらを見ている。

 

 

「おぬし…隠れていろと言ったはずだ」

 

「いやーバレバレみたいだしさ。私がここに隠れてるのをどうやって知ったのかは知らないけど、しっかし……ぷぷっ、魔法詠唱者(マジックキャスター)って!どんな屈強な戦士が出てくるのかと思ったら、雑魚じゃん」

 

 

女はモモン達の姿をじろじろと観察しつつ嘲笑的な態度を取っている。先程の男の発言と同様に自分を強く見せるための言動である可能性もあるが、もし本心から嘲笑っているのだとしたらこの女にモモンの魔力隠蔽を看破する能力は無いらしい。観察眼はあのゴブリン以下と言うことか。

 

 

「ねえ、君たちの名前教えてよ。あ、私はクレマンティーヌ。んでそっちはカジッちゃん。よろしくねー」

 

「カジット・バダンテールだ。その呼び方はやめろ……チッ、名乗るつもりはなかったが、仕方あるまい」

 

「私はツアレニーニャ。彼女はセリーシア。姉妹なんですよ」

 

「ぷぷっ、姉妹って。仲良く冒険者ごっこでもしに来たの?しかもよく見たら(カッパー)(シルバー)って。ランクも雑魚だしさ」

 

「拐われた少年を助けに来たんですよ。ついでにあなた達も倒そうかと」

 

「ハッ、無理だって。どうやってここまで来たのかは知んないけどさ、アレを突破して来れるくらいだから確かにこの辺では優秀なのかも知れないよー?きっと周りからチヤホヤされて調子に乗って強気に乗り込んで来ちゃったんだろうね、うんうん。でもさあ──それじゃ私には勝てないから」

 

 

クレマンティーヌは勢いよくマントを広げる。露出の多い軽装備ではあるが、目を見張るのはそこに大量に付けられた冒険者プレート。銅からオリハルコンまで、様々な色のプレートがビッシリと鱗のように取り付けられ、チャラチャラと音を立てている。

セリーシアが息を飲む。

 

 

「私にとっては冒険者なんて相手になんないんだよ。たかが銅と銀の魔法詠唱者なんて尚更ね」

 

「へえ、狩猟記念品(ハンティングトロフィー)ですか──見たところアダマンタイトが無いようですけど?あなたはそれ以下って事ですか?」

 

「は?いーやいや、アレはそもそも人数が少ないし。それに、同格の奴もいるし流石にねー。まあでも、私とマトモに戦えるのなんてせいぜい蒼の薔薇と朱の雫に1人ずつ…後はガゼフ・ストロノーフとブレイン・アングラウスくらいだよ」

 

「なるほど……それはそれは、いい事を聞きました。なら、慈悲深い私からハンデをプレゼントしてあげましょう」

 

「──あ?」

 

 

今までの嘲笑的な笑みが薄れ、明らかに不快感を示す表情へと変化する。

 

 

「あなたの相手はセリーシアにやってもらいます」

 

 

モモンはセリーシアの肩に手を置きつつ、クレマンティーヌへと宣言する。

 

 

「はあ…?魔法詠唱者ごときが私に勝てるわけないじゃん。スっと行ってドスッ!これで終わりだよ。いつもね」

 

 

クレマンティーヌは不快感を覆い隠すように笑みを浮かべつつ、スティレットを持って突き刺す身振りをする。

 

 

「セリーシアは確かに私よりは弱いです。だけど、あなた程度よりは十分強いですよ」

 

「てめぇ……今までどんだけぬるま湯で育ってきたのか知らねえが……いいよ、その安い挑発に乗ってあげる」

 

 

半笑いの顔のまま堂々とそう言い切るモモンに不快感を抑えきれず、再び表情が歪む。

霊廟の階段を下り、男たちから離れていくように歩きながらセリーシアの方を振り向く。

 

 

「私たちは向こうでやろうよ。思いっきり遊んだ後にぶっ殺してあげるからさ」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

セリーシアは頭の後ろに腕を組んで悠々と前を歩くクレマンティーヌをじっと睨みつけている。

 

姉の言うことが正しければ、この女と先の男の2人が今回の事件の犯人……つまり、漆黒の剣の3人を殺した張本人という事になる。湧き上がってくる怒りを堪え、なるべく冷静さを保ちつつ思案する。相手の力量はまだ分からないが、3人が成す術もなく殺されてしまった可能性が高い事、そして軽装鎧に貼り付けた大量の冒険者プレート(ハンティングトロフィー)の数や種類から、確実にセリーシアより格上であることは間違いない。姉から貰った防御のマジックアイテムのおかげでここまでは無事に来られたが、この女の攻撃も同様に防げるかは分からない。姉の言葉は信用しているが、やはり不安は拭いきれないというのも正直なところだ。

 

クレマンティーヌは振り向いて横目で彼女を見たかと思うと、何かに気づいたように嘲笑的な笑みを浮かべる。

 

 

「そういえばあんた、もしかしてあの店にいた3人のお仲間?…あ!もしかして仲間殺されて怒っちゃった~?」

 

 

彼女の嘲笑うような物言いに、セリーシアは心臓が跳ね、頭がカッと一瞬にして熱くなる感覚に見舞われる。彼女はセリーシアの方を振り向き、口に手を添えて面白いおもちゃを見つけた子供のように楽しそうにパタパタと体を動かしている。

 

 

「うぷぷぷ、滑稽だったよあのバカ3人組!2人が戻ってくるまで耐えるんだーって意気込んで私の前に立ち塞がったのにっくくく…ドスッ!チーンだもん。ごっめんね~秒で殺しちゃって!」

 

 

クレマンティーヌは笑いを堪えきれないようで、笑い声を漏らしクルクルと声を震わせながら心底楽しそうに3人を殺した事を話す。

この女が犯人であることは確定だ。自分が彼らを殺した事をなんの悪びれもなく…むしろ愉快そうにセリーシアに話してくる。殺人に対する罪悪感なんてこれっぽっちも感じていない。冒険者がモンスターを狩る時ですら生活のためだったりと生きるために仕方なくやっている場合が多いというのに、コイツはただ己の快楽のためだけに殺人を行っている。

狂っているとしか言いようが無かった。

セリーシアは彼女の挑発的な言動に顔をゆがませ、歯を食いしばる。手に力がこもり、全身が怒りに震えるようだ。

 

 

「私の大切な仲間を、よくも…!」

 

「うっそ!?あっはははははは!!ホンットーに傑作なんだけど!!ンよくも仲間を~!って、絵に書いたようなテンプレートで…あははははは!!」

 

 

クレマンティーヌはセリーシアの言葉がツボに入ったのか、歩くことも忘れて立ち止まり腹を抱えて爆笑する。

ひとしきり笑った後、セリーシアの方に振り返り、スティレットを抜き出して弄びながら口の端を吊り上げる。

 

 

「私はね、そうやって怒り狂って向かってくる奴をねじ伏せるのがだーい好きなの。拷問して苦しめて苦しめて、顔を恐怖と絶望に歪ませて必死に命乞いをしている姿を見るのが堪らなく好きなの。だからさ──アンタも同じようにしてあげる」

 

 

クレマンティーヌはスティレットの先端をセリーシアに向けて構えを取る。その顔からは笑みが消え、獲物を狙うハンターのものへと変わっていた。

 

 

「アンタを殺したら次はあの青いクソ女の番。──泣いて謝ったって許さねえぞ」

 

 

セリーシアも腰に差していた杖を手に取り、戦闘態勢を取る。──コイツは間違いなく強い。ラフなようでいて全く隙を感じさせない相手の構えからもそれを感じさせる。

己の実力が、姉から託されたマジックアイテムがどこまで相手に通用するのかは分からない。でも…それでも、絶対に弱気になってはいけない。必ず勝たなければならないんだ。

セリーシアは震える足に鞭を打ち、相手を強く睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足音と金属が立てる音が遠のいていき、再び墓地に静寂が訪れる。モモンは2人が歩いていくのを見届けると、カジットへと向き直る。

 

 

「──愚かな選択をしたものだ。クレマンティーヌは敏捷性と一撃必殺に特化した戦士…機動力の乏しい魔法詠唱者では分が悪いだろうよ。相手が儂であったとしても結果は同じだがな」

 

「あの子でも十分勝てると思いますよ。そして私もね」

 

「減らず口を…まあ良い。おぬしとて魔法詠唱者である以上、この儂に勝ち目など無いのだからな」

 

「そんな事……やってみないと分かりません!」

 

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)電撃球(エレクトロスフィア)

 

 

モモンが魔法を発動すると、開いた手のひらに眩い輝きを放つ光球が出現する。カジットは驚いたのか「何…!?」という呟きと共に少し後ずさりするが、モモンは構うこと無く光球を彼らに向けて投げつける。

着弾すると、光球はバチバチという放電音を立てながら拡大し彼らを包み込む。消えた後に立っていたのは──たった一人。カジットの周りを囲んでいた者達は皆地面へと倒れ伏しており、電撃の影響で一部に痙攣が残っているが、その全員が既に息絶えていた。

カジットは頬に僅かな火傷の痕を残しつつもほぼ無傷であり、余裕の笑みを浮かべている。何らかの防御魔法を事前に掛けていたのだろうが、第3位階魔法を防ぎ切るだけの実力があるのは間違いないようだ。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「────なっ!?うそ……なんで……」

 

「単なるバカではなく、第3位階まで使いこなすバカか……ここまで魔法で突破してきたというのはハッタリでは無かったという事か」

 

 

モモンは少し間を置いて、驚愕のリアクションを取っている。この女は今まではこれで難なく勝てて来たのだろう。アレを早く取り戻すために、初手から高位階魔法を叩き込んで一気に決着を付けるつもりだった。だが、カジットはこの程度の魔法は対策済みなのだ。

彼女は目の前の光景が信じられず、一瞬呆けてしまったのだろう。先程までの威勢の良さはどこへやら、己の魔法が効かなかったことに驚き焦りを浮かべる彼女の様子を見て、カジットはニヤリとその皺だらけの顔を歪ませている。

 

 

「儂も平時であればおぬしと実力は大差なかっただろう。だがしかし…今の儂にはこの秘宝──死の宝珠があるのだ!」

 

 

カジットは宝珠──無骨な原石のような玉を高らかに掲げる。宝珠は彼による長年に渡る魔力の蓄積により鈍い紫色の光を放ち、光が心臓のように脈打っている。

少し予定が早まってしまったが、この程度であれば想定の範囲内だ。計画を実行するのに必要なエネルギーは十分に溜まっている。今こそこの宝珠の力を解き放ち、自らの力を過信し愚かにも死地に飛び込んできた目の前のバカな女に死という名の灸を据えてやる。

そしてエ・ランテルを死の街へと変え、民を殺し尽くして発生する膨大な負のエネルギーをもって──己が野望を達成するための更なる一歩を踏み出すのだ。

 

 

「死の宝珠の至高なる力を見るが良い!」

 

 

カジットの手に持つ原石から放たれる光が強まり、魔法が発動する。

やがて光が弱まる。一見何も起こっていないように見えたが…モモンは頭上に気配を感じ、素早くその場から飛び退く。

刹那──モモンのいた場所に巨大な物が落ちてくる。ズンと音を立てて着地したそれは、骨だけで構成されたドラゴンだった。よく見ると実際のドラゴンの骨という訳ではなく、人骨が集まって出来た擬似的なモンスターであることが分かる。

 

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)!?これが、私が勝てない理由って事……?」

 

「正解だ。骨の竜は魔法に対する絶対耐性を持つ。魔法詠唱者にとっては手も足も出ない強敵だろうよ!」

 

 

モモンは冷や汗でも流れてくるのではないかという程に顔を強ばらせ、姿勢を低くして身構えている。もはや丁寧な口調すらも忘れてしまっているあたり、相当に焦燥しきっているに違いない。カジットは奇襲を避けられた事に内心舌打ちをしつつも、まあこれくらいは想定の範囲内だとほくそ笑む。どのみち相手が絶対絶命の窮地に立たされていることに変わりはない。この程度で己の勝利が揺らぐことは決して無いのだから。

勝利する事が決まっている戦いほど楽なものは無い。本当であれば愚かにも計画の邪魔をしてきたバカは徹底的に苦しませて嬲り殺すべきなのだろう。だがカジットは別にあの酔狂な女のような趣味は持ち合わせていない。ここは魔力の無駄遣いを避けるためにも、さっさと殺してしまうのが吉だ。

 

 

「ゆけ、骨の竜!あの女を殺せ!」

 

 

カジットの命令に反応し、骨の竜が咆哮をあげてモモンに突進する。「──っ!」モモンは骨の竜と接触する寸前で横に飛び出して転がり、間一髪で躱す。彼女が頭を上げて骨の竜の方を見ようとした時──

 

 

「っああぁっ!」

 

 

モモンの目の前に白い壁が迫り、衝撃とともに後方に弾き飛ばされる。骨の竜が突進後にすぐ体勢を切り替え、避けた所を目掛けて尻尾で薙ぎ払ったのだ。彼女は悲鳴のような声を上げながら地面を転がり、倒れ伏した。

カジットが「おお!」という歓声を漏らしている。

長年の努力の末に召喚に成功したドラゴンの強さを目の当たりにし、歓喜に打ち震えているのだ。

 

モモンは呻きつつもゆっくりと立ち上がり、痛みに耐えているような表情で骨の竜を睨みつける。

身体は砂埃に塗れ、長い金の髪は乱れ、腕や頭部の露出部にはいくつもの擦り傷が付いている。骨の竜は生身のドラゴンとは異なり、骨であるがゆえに表面は硬く凹凸も激しい。普通の人間であればマトモに攻撃を受ければ致命傷は避けられないだろう。腐っても第3位階を使う魔法詠唱者なだけあって、多少は頑丈なようだ。

 

 

衝撃波(ショック・ウェーブ)

酸の矢(アシッド・アロー)

炎弾(ファイヤーバレット)

氷球(アイスボール)

 

 

モモンは骨の竜に向けて立て続けに魔法をぶつけるも、その尽くが無慈悲にも消滅していく。モンスターに効かないなら術者を狙えばいいと小賢しくカジットを<雷撃(ライトニング)>で狙ってきた時もあったが、それも骨の竜が盾になることにより全て阻まれてしまった。

確かにこの魔法詠唱者は優秀なのだろう。単なる第3位階のみならず、様々な属性の魔法を行使出来るほどの才能とそれに見合った実力があるのだから。

だが悲しいかな、世の中は上には上がいるというものだ。彼女は今日、その事実を己の命と引き換えに知る事になるのだろう。

 

 

「くそ……っ!」

 

「何度やっても同じ事だ。バカの一つ覚えのように魔法を撃ち続けた所で、骨の竜の絶対耐性を突破する事など不可能だからな」

 

「チッ…こうなれば……」

 

 

モモンはおもむろに、どこからか1本の棒状の武器を取り出してくる。棒の先端に棘の生えた丸い鉄球が付いている、チェーンでは無いタイプのモーニングスターだ。

 

 

「殴り殺す…っ!!」

 

 

モモンはモーニングスターを構えて骨の竜に駆け寄り、飛びかかる。そして、その骨の横顔を渾身の力を込めたように殴りつけた。

固いものが激しくぶつかる音が響き、骨の竜の殴られた部分が大きく損壊する。モモンは着地して速やかに距離をとる。

 

 

「なっ──ミスリル、いや…オリハルコン級か!?」

 

 

カジットは驚愕し、目を見開く。単なる魔法詠唱者だと看做してタカをくくっていたが、それは大きな誤算だった。彼女はまだ手札を隠し持っていたのだ。

魔法詠唱者でありながら打撃武器を使い、しかもそれは骨の竜にダメージを与えられるほどに能力が高かったのだ。不味い──焦りで冷静な思考が失われそうになる。身に付けているプレートが銅だからと油断するつもりは無かった。そもそも第3位階が使える時点で銅止まりなんて事は有り得ないのだから。まだ昇格していないだけの新人だと見るべきだろう。だが、それでもまだ見通しが甘かったというのか──

 

 

「させん…させんぞ!!」

 

 

カジットは態勢を建て直すべく、慌てて宝珠を掲げて<負の光線(レイ・オブ・ネガティブエナジー)>を発動する。骨の竜が淡い光に包まれ、砕けた骨が時間を巻き戻すように再生していく。

モモンがせっかくダメージを与えたのに回復させられた事に不快そうな顔で舌打ちするのを見て、少し焦りが和らぎ余裕が生まれる。

だがこのままでは競り負けてしまう可能性がある事に変わりはない。勿体ないが、ここで倒されてしまうよりは遥かにマシだ。やむを得ないだろう。

宝珠を掲げたまま、再び魔法を発動する。

 

ズン────骨の竜の隣に、もう一体の同じ竜が出現して着地し、咆哮を上げる。

 

 

「に、2体目……!?」

 

「ふん…もはやエネルギーは空になってしまったが、おぬしともう一人を殺した後に都市に死を振りまけば多少は元が取れるだろうよ!」

 

 

形勢逆転したかと思いきや、新たなる敵の出現。モモンの表情が再び険しくなったように見える。いくら武器を扱える魔法詠唱者と言えど、2体の竜を同時に相手にするのは難しいだろう。

やはり己の勝利に揺らぎは無いのだ。カジットは余裕を取り戻し、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両者の戦闘は拮抗状態にあった。

 

開始直後、まずは足を突いて行動不能にしてやろうとクレマンティーヌは俊敏な動きで間合いを詰め、相手の太腿を狙ってスティレットを突き立てた。

だが、彼女の攻撃は通らなかった。相手の身体は何か薄い不可視の膜が張っているように固く、スティレットの刀身が全くと言っていいほど刺さらなかったのだ。

しかし全くのノーダメージという訳では無い。相手は「うぐっ」という呻きを上げて後ろにヨタヨタと下がりつつ、顔を顰めて痛みに耐えているようだった。

 

 

「は?かった……軽く突いただけとはいえ、刺さらないなんておかしくない?何?防御魔法?」

 

「さあ…何だろうね。敵に手の内を明かすつもりは無いよ」

 

 

相手は余裕のある態度を取りつつも、流石にこのままでは不味いと思ったのか、<鎧強化(リーン・フォースアーマー)>を発動し、さらに防御を固める。

 

クレマンティーヌは一つ舌打ちをし、さらに攻撃に出る。今度は体重と速度を乗せ、渾身の一撃を撃ち込む。通常であれば並の装備など簡単に貫通出来るほどの破壊力を持つ攻撃だが、これを持ってしても相手の身体には届かない。

何度繰り返しても状況は変わらず、少し痛がる素振りを見せる程度だ。

 

しかも彼女はクレマンティーヌの攻撃が通じないのをいい事に、必中である<魔法の矢(マジック・アロー)>で彼女をチクチクと攻撃してくる。

だが、あまりにも隙だらけで発動も遅い。

最初は違う魔法も行使してきたのだが、クレマンティーヌが簡単に回避してしまうためか、徐々にこの魔法しか使ってこなくなった。

 

相手の魔法詠唱者の動きはのろく、魔法の威力も弱い。正体不明の防御魔法と思しきものに守られている点を除けば、相手の使える魔法はせいぜい第2位階が限度。魔法でここまで突破して来たと奴の姉は言っていたが、実際はブラフで威力の高い高位階の魔法は使えず、アンデッドの群れもこの謎の防御で強引に突破してきただけの可能性も考えられる。

 

それにしたって…相手は戦士はおろか本業の魔法詠唱者としても未熟な三流レベルの弱者だ。そんな雑魚風情がちょっと強力な防御を展開しているからと言って、それを笠に着て安全圏から石を投げつけて来るような真似をしてこちらを嘲ってくる。

ムカつくにも程があるだろう。完全に戦いを舐めているし、こちらをバカにしている。彼女は沸々と込み上げてくる苛立ちを抑えきれず、声に漏らす。

 

 

「ロクな魔法も使えない雑魚の癖にぃぃ……舐めやがってクソがああ!!」

 

「そう思うなら早く私を刺してみなよ。その武器はオモチャなの?」

 

 

相手は絶対に攻撃を受けない自信があるのか、半笑いでクレマンティーヌを挑発する言動を繰り返す。

怒りが頂点に達し、あらゆる罵詈雑言が口から出そうになるがグッと堪え、呼吸を整えて頭を冷やす。

挑発に乗り続けてしまえば、相手の思う壷だ。

 

──刺突耐性?単純な防御魔法?それとも、刺突ダメージを何か別のものに変換している?やはり、何らかのマジックアイテムによるものと考えるのが正解か──

クレマンティーヌは立ち回りつつも思考を巡らせる。

 

現状を打破する突破口を見つけ出さなくては、このままではジリ貧だ。一つ一つのダメージは大したこと無いが、向こうは必ず攻撃を命中させてくる。確実にダメージが蓄積し、いずれ競り負けてしまう可能性が高い。

その前に相手の魔力が尽きる可能性も考えられるが、得体の知れない魔法を使ってきている事から、それに期待するのは些か危険だ。これ以上後手に回る選択肢を取るのは避けるべきだろう。

 

本来であれば、クレマンティーヌはこんな奴らを相手にしているほど暇では無い。さっさと振り切って地下へと逃げ込み息を潜めておくのが最良なのだ。

だが、忌々しい魔法詠唱者ごときに散々煽られ馬鹿にされたまま背を見せて逃げられるほど落ちぶれてはいない。彼女の中にある戦士としてのプライドが、それを許してはくれなかった。

 

相手の仕草、装備。何か…何か答えがあるはずだ。

観察を続け──彼女はひとつの可能性に辿り着いた。

 

 

<疾風走破>

<能力向上>

<能力超向上>

 

 

クレマンティーヌは相手に向けてクラウチングスタートのような構えを取り、複数の武技を解放する。そして、大地を土がまくれ上がる勢いで蹴り上げ──消える。

 

正確には消えたのでは無い。あまりの速さに並の人間の動体視力では視認することが出来ず、消えたように見えているだけだ。

 

一瞬で間合いを詰める。相手はまだ何も反応できていない。そのままの勢いを保ったまま相手の杖を持つ手を狙って全力の一撃を叩き込む。

武器は相変わらず刺さらないが、武技の合わせ技と彼女が持つ身体能力で産み出される究極の速度と体重を乗せたことにより強烈なノックバックが発生し、相手の手が杖から離れて大きく投げ出される。

そのままスティレットの刃先の軌道を変え──

 

相手が身に付けていた『指輪』を弾き飛ばした。

 

 

「し、しまっ──!!」

 

 

相手は驚愕と焦りの反応を見せる。

クレマンティーヌはそれを見て確信し、口角を吊り上げる。

 

もう遅い。

 

そのまま流れるような動作でスティレットを逆手持ちに切り替え、彼女の肩目掛けて刃先を突き立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回投稿は明日20時予定です


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