モモンガがツアレに憑依する話(仮)   作:佐倉ハル

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だいたいのストーリーの流れは予め決めていますが、細かい中身に関しては思いつきで書き殴っている箇所も多々あります。

一応気をつけてはいますが、もし意図しない原作設定破壊やキャラ崩壊が起こっていたら申し訳ありません。





04.カルネ村

 

 

 

 

あれからしばらく森の中を歩いたり走ったりしながら移動を続けていると、ついに森が開けて平原へと出た。

 

 

「森はここまでか────ん?あれって……。」

 

 

彼女は周囲を見渡していると、ここからは少し距離があるが、森の境界線に隣接するように人間のものと思われる集落があるのを発見した。

 

 

「おぉ…村だ!とにかく、少し近づいて確認してみよう。」

 

 

彼女は<完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)>で姿を消し、少しづつ村へと接近する。近づくにつれて村の様子が鮮明に見えてくる。建物の外観は如何にもファンタジー世界の村!と言った感じのデザインで、大小様々な家が適度な間隔を空けて相当数建ち並んでいて、一部の家の煙突からは煙も立ち上っている。地面は完全に未舗装で、草むらと獣道だけで成り立っているようだ。その家々を取り囲むように、外側には畑が広がり、作物を育てているのが見て取れる。まさに“牧歌的”といった雰囲気がそこにはあった。

 

 

「いいなぁ、こういうの…!わくわくする。」

 

 

彼女はゲームの中でしか見た事のなかった光景が目の前に広がっていることに、気分が高揚する。目覚めた最初の街も良かったのだが、あの時は状況を理解するのに必死だったので、落ち着いて楽しむことが出来なかったのだ。村の中にはチラホラと人が歩いている様子が見て取れるので、人間の村であるのは間違いないだろう。

 

 

「……よし、決めた。記念すべきファーストコンタクトはこの村にしよう。そろそろ落ち着ける場所も欲しいしね。」

 

 

不可知化した彼女に気づいている者もおらず、ステータスを確認しても1~2レベルのほぼ戦闘能力を持たない人間しかいない。最初の街からはかなり離れた所にある村のため、“彼女”がよほど有名人でない限りは知られている事もないだろう。

 

彼女は不可知化を解除し、村の方へと歩みを進めて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「その…少しの間だけでも良いので、この村で生活をさせて頂けたらと思いまして。」

 

 

彼女はこの村の村長の家で事情を説明し、村に住まわせて欲しいと嘆願している。

 

 

 

 

 

まず初めに彼女が村に入ると、通りがかった村人からの視線を浴びた。こんなのどかな村の中に、軽装とは言えそれなりに立派な武装をした女が単身でやって来たら、注目を受けるのは当然だろう。

 

彼女は近くにいた村人に旅人であることを告げ、村長に話したいことがあると伝えると、村長の家のある場所へと案内してくれた。その際に、冒険者の方では無いのか?と聞かれたので、それは何かと聞き返すと、王都や最寄りのエ・ランテルという都市に拠点を置いている冒険者組合に加入している者たちの事で、彼女のようにそれぞれ独自の武装をしているそうだ。あまり詳しくは聞けなかったが、彼女は“冒険者”という響きに目を輝かせる。

 

 

(冒険者か…安定して生活出来る拠点が作れたら、一度エ・ランテルに行ってみるのもいいかもなぁ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内された家では村長が出迎えてくれ、その他の数名とテーブルを囲んで座る運びとなった。そこで彼女は、この村に来た経緯を嘘と真実を織り交ぜつつ説明する。

 

私には記憶がない。目が覚めたら、王都?と呼ばれる場所の地下に閉じ込められて酷い扱いを受けていた。元々使えていたのかは分からないが、とにかく魔法が使えることが分かったので、何とか脱出には成功した。だけど、その場に留まっていると自分の脱走を知った者が再び捕まえに来るかもしれない。王都を抜け出して人目を避けつつ2週間ほど彷徨っていたら、たまたまこの村へと行き着いた──といった具合だ。

 

 

「それはそれは…大変な思いをされた事でしょう。ここには偶にエ・ランテルからの冒険者や税の徴収者が来る以外には人が訪れることはまずありませんから、恐らくは大丈夫です。」

 

 

村長は彼女の要望を快諾してくれた。村には若い人手が少ないので、住んでくれるならとても助かると言う事らしい。彼女は最大の関門を無事通過し、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「…ところで、魔法が使えるということなのですが、どの程度まで使えるのでしょうか。」

 

「えっと──────だ、第3位階…です。攻撃魔法、防御魔法、補助魔法…まんべんなく。あと、剣も少し振れます。」

 

 

何となく想定はしていたが、答えをちゃんと用意しきれていなかった問いが来てしまった。彼女は目いっぱい溜めてから辛うじて返答する。これまでのモンスターとの戦闘を経て、少なくとも森の中には高位階魔法を使うような強者が一人もいなかった。というか、高位階どころか第4位階の低位階魔法すら使えるものがいなかったレベルだ。人間の実力がどの程度なのかはまだ分からないが、モンスターと同程度だとすると、下手に第10位階使えます!なんて言ったら大問題になる事請け合いだ。下手したら信じて貰えず、妄言を垂れる変な奴として追い出されてしまうかもしれない。それだけは避けたかった彼女は、<飛行(フライ)>が使えないと不便になりそうなので、ギリギリの妥協点として第3位階までにする事にしたのだ。

 

 

「おぉ…私は魔法の事は良く知らないのですが、貴女が実力のある方だと言うのは分かりました。村には狩りを担当している野伏(レンジャー)が何人かは居るのですが、貴女に手伝っていただけるならとても助かります。」

 

 

現に彼女の回答を聞いて、村長含む村人は驚きの表情を浮かべている。何とか許容範囲内だったらしい。危なかった…と彼女は内心冷や汗を流す。彼女としてはとてつもなく下方修正した情報だったのだが、それでも彼らにとってはすごい事だったようだ。やはり基本は森のモンスターと同程度と見るべきか。

 

 

「あ、あと…生活魔法?も、少し使えます。例えば…<水創造(クリエイト・ウォーター)>とか。水を作れる魔法です。ここに来るまでの間も、<清潔(クリーン)>の魔法なんかを使って体の汚れを防いでいたり…。」

 

 

これら生活魔法はこちらに来てからワールドアイテムで習得したこの世界特有の魔法だ。前者の<水創造(クリエイト・ウォーター)>は発動すると一定時間、水を生み出し続けることが出来る。術者の能力によって効果に変化が出るのかは実験していないので分からないが、生活する上でならこういった魔法は便利に使えるだろう。

 

 

「それは有り難い!貴女がいてくだされば、村人たちの生活も格段に楽になるでしょう。どうか今後とも、よろしくお願いします。」

 

「い、いえそんな!こちらこそ…!」

 

 

生活魔法が使えるという点は受けが良かったようで、村人たちも嬉々とした反応を見せる。村長が深々と頭を下げたので、彼女も慌てて同じように真似をする。

 

 

「では最後に…貴女は記憶をなくしていて名前が分からない、との事なのですが、では何とお呼びすれば良いのでしょうか?」

 

「そうですね…ではここは仮に…モモン・アインズ…親しみを込めてモモンとお呼びください。」

 

 

『モモン』は村長にそう告げる。モモンガとアインズ・ウール・ゴウンの一部を繋ぎ合わせただけの実に安直なネーミングだが、アインズ・ウール・ゴウンを知る者に存在を暗に伝えつつ、かつ実際の名前っぽい組み合わせで考えると、これが1番妥当という判断となった。基本的にはモモンを名乗るつもりであり、苗字にあたる場所にあるアインズはあくまでも便宜上のものだ。

何か由来があるのかと聞かれたので、自分の記憶に何故か存在していたアインズ・ウール・ゴウンという国のナザリックという都市のトップであるモモンガという人物──の単語から一部を抜き取ったと、絶妙に真実に近い内容を話した。この国を知っているかと尋ねても否定的な反応だったので、残念ながらここではその辺の情報は望み薄だろう。

 

ともあれ、ようやく住む場所を見つけることが出来た。まだこれからどうなるかは分からないが、まずは村の人たちと交流し、生活基盤を確立させる所から始めよう。いい加減、一人ぼっちの生活も辛くなってきていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交渉が終わる頃には夕方になっていた。肝心のモモンがどこに暮らすことになるのかという件だが、村長の勧めでエモット家に居候する形でお世話になることとなった。歳の近い女の子とその妹がおり、良い話し相手になるだろうとの配慮だった。最悪、簡易的なログハウスを産み出せるマジックアイテムを使用しようかとも思っていたのだが、お披露目はしなくても済みそうで安心した。

 

エモット家に案内されて、夫妻との挨拶を行った。生活魔法が使える人が来てくれるなんてとても有り難い、ウチのエンリとネムとも是非仲良くしてあげて欲しいと快く歓迎して貰え、モモンは一安心する。そしてその後、2人の姉妹との対面を果たした。モモンは姉妹の自室に案内され、出された木製の椅子に腰掛ける。椅子の天板には厚めのクッションが敷かれているなど配慮されている。2人は自分たちが使っているベッドを椅子替わりにして座っている。

 

家の中では流石にマナー的に良くないかと思い、装備を消して、代わりに上半身が白のシャツ、下半身が青のロングスカートのシンプルな西洋風の服装へ変更している。ロングスカートにした理由は、せっかく女になったのだから試しに着てみたかったという極めて安直な好奇心によるものだった。だが実際に着てみると、外気が下から入り込んで足が想像以上に冷えたり、バサバサとはためく布が鬱陶しかったりで既に少し後悔している。ちなみに軽い戦闘でも使えるよう一応色々と付与魔法を施してあるので、例えば仮にジャンプしてもまくれ上がったりはしないという、どこかのバードマンが中指を立ててきそうな使用者に優しい親切設計である。

 

 

「は、初めまして!エンリと言います。よ、よろしくお願いします。」

 

 

目の前で緊張した面持ちで挨拶をしているのが、この家の長女であるエンリ・エモット。この村の雰囲気に合った素朴なデザインの服装をしており、栗色の髪を三つ編みにしている。癖のある前髪が特徴的な少女だ。年齢は16歳らしい。モモンの外見年齢が20歳前後なので、歳が近いという村長の見立ても間違いでは無い。

 

 

「それと、こちらは妹のネムです。」

 

「初めまして!モモンお姉ちゃん!よろしくね!」

 

「よろしくお願いします。エンリさん、ネムさん。」

 

 

エンリは目線で隣に座るネムをチラリと見やりつつ紹介した。ネムはエンリの妹でこの家の次女。年齢は10歳で、エンリとは少し歳が離れている。短めの茶髪を下の方で左右ひとつずつ結んでいる。年齢的にも外見的にもまだまだ幼さが強く残っているが、人見知りをしない天真爛漫な性格で、初対面のモモンに対しても仲の良い友人のような話ぶりだ。モモンは「お姉ちゃん」と呼ばれたことに内心ドギマギしつつも、営業マン時代に培われた完璧な笑顔でそれに応える。

 

 

「村長さんからある程度は話は聞いています。…その、記憶を無くしている、という事も。」

 

「はい。自分の名前も思い出せなくて…仮の名前でしか名乗れなくて、ごめんなさい。」

 

「そ、そんな!謝ることじゃないですよ!辛いのはモモンさんの方でしょうし…。」

 

「あとそれと、よろしければ…日常生活とか、常識的な知識とか、その辺も今後色々教えてもらえれば、と…。」

 

「え?もしかしてモモンさんって、どこか遠い国の出身だったり……?」

 

「あ、いえ!その…本当に、それくらいに全く記憶が残っていないんです。覚えているのは自分が使える魔法くらいで…。」

 

 

モモンが記憶喪失という設定を取り入れた理由の一つとしては、さり気なくこの世界の基礎的な生活の知識を聞き出すためと言うのがある。モモンは異世界から転移してきたため、この世界において自分の持つ常識が通用しない可能性がある。だけど体はこの辺りに住んでいる現地の人間だ。そんな状態で常識的な事も知らないとなれば、世間知らずだと“彼女”自体の印象が悪くなってしまいかねない。そういった影響も踏まえて、記憶喪失設定が最善だと考えたのだ。

 

 

「それなら、私が色々教えてあげる!たとえばねー、ご飯食べた後の食器の洗い方とか!」

 

「もう…ネム、それは自分でちゃんとやってから言うセリフだよ?」

 

「えー!やってるもーん!」

 

 

始めは少ししんみりとした雰囲気だったが、ネムが会話に入ってきてからは和気藹々とした雑談がメインとなっていった。そこからは、雑談の合間合間に2人がこの村に関することもいくつか話してくれた。

 

 

──

 

「近くの森で採れるエンカイシっていう薬草がこの村の特産品で、それをすり潰した物が薬の材料になるんです。」

 

「私もすり潰すの手伝うの!手がす~っごく臭くなるんだよ!」

 

「エ・ランテルの方に売りに行くこともあるんですけど、時々そっちにいる薬師の男の子が買い付けに来てくれたりもするんですよ。」

 

「その男の子…という事は、歳は近いんですか?」

 

「はい。直接聞いたことは無いんですけど…たぶん同じくらいだったかと思います。」

 

「ンフィー君はね、お姉ちゃんの事が好きなんだよー!」

 

「こら、からかわないの!そんなわけないでしょ?」

 

「えー?絶対好きだと思うんだけどなぁ。」

 

 

──

 

 

「そういえば、この村には柵も無くて戦闘員も少ないけど、モンスターに襲われたりしたらどうしてるの?」

 

「実はこの付近の森は、少し奥に入ると『森の賢王』って呼ばれてる魔獣のテリトリーになっていて、その魔獣がモンスターを全て狩ってくれているのでこの村が襲われることはまず無いんですよ。」

 

「え、そうなんだ。森の賢王…エンリとネムは見たことがあるの?」

 

「私はないよ!」

 

「私も…というより、森の賢王のテリトリーに入ってしまうと問答無用で襲われてしまうらしくて、危険なのでとても…。見た事のある人の証言だと、すごく精強な外見をしていて、かつ強大な力を感じる目をしているとか。実際冒険者でも太刀打ち出来ないくらいには強いみたいです。」

 

「へぇ…。(森の賢王、か…今度探しに行ってみようかな)」

 

 

──

 

 

モモンは初めこそ敬語を使っていたが、エンリからの申し出もあり、後半の方には相手の呼び方も含めて口調を崩して話すようになっていた。話に夢中になっていると、夫妻が夕食の時間を告げにやってきた。どうやら結構な時間が経っていたらしい。2人はすぐに返事をして、会話を切り上げて立ち上がる。

 

 

「モモンさん、行きましょう!」

 

「う、うんっ。」

 

 

モモンも促されるままに、2人の後をついて行く。この村では貧しいながらも細々と自給自足の生活を続けていると聞いていたので、食事までお世話になるのは少し気が引ける思いもあった。だが、長い間放浪生活を続けていたのに何も食べなくても平気!なんて言えば絶対に変に思われる。周りに合わせた生活をするべきだろう。飲食不要の指輪を付けてはいるが、食べなくても平気なだけで食べる事自体は普通に出来る。まぁ一番の理由としては、元の世界でもこちらに来てからもマトモな食事をしたことが無かったので、食べてみたいという気持ちが強かったからなのだが。

 

リビングのテーブルに全員が着席する。夕食の内容は、少量の野菜と芋のようなものを合わせて煮込んだスープだった。

 

 

「村では手に入る食料が少ないもので…大したものも出せないでごめんなさいね。」

 

「いっいえ!頂けるだけでも有り難いですから!本当に!」

 

 

モモンはバツが悪そうに謝罪するエンリの母に慌てて手を振り応える。これは間違いなく本心だ。聞くところによると、村では狩りが出来る者が少ないために、肉なんかは滅多に食卓に上ることがないそうだ。モモンはその話を受けて、こんな事ならアイツを持ってくれば良かったかなぁと一瞬考えたが、いややっぱ汚いからダメだわと一蹴する。

 

少し言葉を交わした後、皆が食べ始めた頃合を見計らってモモンもスプーンで食材を掬う。匂いはしない。そのまま口へと運んだ。

 

 

「……………美味しい。」

 

 

思わずそんな言葉が零れる。これもまた本心だ。確かに香辛料などは一切使われておらず、素材そのものとも言える素朴な味わいだ。まだ行ったことは無いが、決して街で食べられる料理とタメを張れるような代物では無いだろう。

 

だが、モモンにとっては違った。かつていた世界、鈴木悟だった頃は、肉や野菜などの普通の食材は庶民にはとても手が出せないほどの高級品で、彼にとって食事は味のようなものがする栄養剤を流し込むだけの儀式でしか無かった。母親が生きていた頃は彼の誕生日に本当に、本当に無理をしてケーキを買ってきてくれていたりもしたが、亡くなってからの20年近くはそれすらも無くなっていた。

 

 

「そう?口に合ったのなら、良かったわ。」

 

「はい…。長い間液体しか口にして無かったから、こんなにちゃんとした食事をするなんて本当に久しぶりで…それがすごく、嬉しくて…。」

 

「ふふーん、お母さんの料理は世界一美味しいんだよ!」

 

「まぁ、ネムったら。」

 

 

モモンは目頭が熱くなり、記憶喪失という設定も忘れて自身の過去を話してしまう。だけど、皆はそこに触れたりすることはなく、涙を浮かべながら幸せそうに食事を続ける彼女を、ただ優しく微笑みながら見守ってくれていた。

 

 

 

 

 

食事が済んだあとは、少しの間談笑をしていた。親子同士の他愛も無い会話。そこにモモンも度々話を振られて加わり、5人で会話を楽しんでいた。

 

(…良いな、こういうの。本当に、すごく心地良い。)

 

 

思わず笑みが零れる。モモンはとても満たされていた。こんなに心が温まる感覚は久しぶりだった。鈴木悟には友人も、家族もいなかった。父は幼い頃に、母も多忙を極めて家にはほとんどおらず、彼が小学校を卒業する前には居なくなってしまった。アインズ・ウール・ゴウンの全盛期こそ大勢の仲間たちと言葉を交わし、充実した毎日を送っていた。だが、結局はそれもネットを介した薄い繋がりでしかなく、1人、また1人と居なくなり、最後には自分1人だけになってしまった。

 

だけど、今目の前にある光景は違う。彼が人生において1度も経験したことが無かった、強い絆で結ばれ、ひとつ屋根の下に暮らしている、本物の“家族”の姿がそこにはあったのだ。

 

 

「…みなさん。改めて、よろしくお願いします。」

 

 

モモンは深々と頭を下げる。急な行動に皆は一瞬戸惑ったが、すぐに笑顔で言葉を返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう外も暗くなってきていたので、そのまま就寝する事になった。所々にある松明の明かり以外には光源がなく、家の中ももう暗い。日没とともに眠り、日の出と共に起きる…とても原始的な生活だ。モモンは睡眠無効の指輪を外しておく。飲食不要の指輪とは違い、こちらは本当に眠れなくなってしまうからだ。もう野宿する必要が無い以上はちゃんと生活スタイルも合わせる必要があるだろう。

 

それぞれ寝巻きへと着替えを済ませる。両親から予備の寝具を借り受けた際、エンリの部屋で一緒に寝るよう提案された時は流石に戸惑い、遠慮しようとした。だけど余っている部屋もないし、これからは一緒に過ごす事になるのだからと押し切られてしまった。じんわりと溢れ出る罪悪感を「今の私は女…今の私は女…歳の近い女同士だから普通の事…これは犯罪じゃない…」と2人に聞こえない程度の声量で念仏を唱えるように呟くことで押し殺しつつ、来た時にも訪れた姉妹の部屋へと入っていく。

 

薄暗い部屋の中は他の部屋と同じように質素なものとなっており、装飾の類は全くと言って良いほどに無い。真ん中に大きなダブルベッドが置かれている以外は目立った家具も無く、部屋の主の姿を見なければ、ここが女性の部屋だとはとても思えないだろう。

 

 

「暗くなったら眠るって随分と早いと思うんだけど、この部屋には明かりとかは無いの?」

 

「街に行けばマジックアイテムの明かりが売ってるんだけど、高価だから貧乏な私たちにはなかなか買えなくて…ウチにはリビングに一つだけあるけど、持ってない家もけっこうありますよ。」

 

「そうなんだ…。」

 

「モモンお姉ちゃん、明かりをつけられる魔法って使えるの!?」

 

「明かり?<永続光(コンティニュアル・ライト)>なら使えるけど…。」

 

「ほんと!?見たーい!」

 

「ちょっと、ネム…ごめんなさい、妹がワガママ言っちゃって。」

 

「ふふ、大丈夫だよ。どのみち暗いと布団敷きづらいし、明かりがあった方がいいからね。」

 

 

モモンは部屋の天井の中央辺りに向けて手をかざし、<永続光(コンティニュアル・ライト)>を唱える。すると、現れた小さな光の玉が一気に数十cmほどに大きくなり、部屋の中を昼間のように明るく照らし出した。この魔法はある程度光量も操作できるのだが、その明るさの最大値は術者の魔力量の影響を大きく受ける。100+αレベルのモモンクラスであればこれくらいの明るさの光源を作るなど造作もない事だ。

 

 

「あははは!すごーい!明るーい!」

 

 

ネムは部屋の明るさに興奮し、楽しそうに光源の方に手を伸ばしてはしゃいでいる。

 

 

「ありがとうございます。本当に明るい…外が夜だとは思えないくらい。」

 

「喜んでもらえてなにより。じゃあ、布団敷かせてもらうね。」

 

 

モモンはそう言いながら、ベッド脇の隙間に布団を敷こうとする。

 

 

「モモンお姉ちゃん、そんな所で寝たら冷えちゃう…そうだ!3人で一緒に寝ようよ!」

 

「──へ?」

 

 

モモンはネムの突然の提案に一瞬理解が追いつかず、上ずった素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

 

「ネム!?まぁ確かに、朝は床も冷えるけど…。」

 

「でしょ!絶対その方が良いよ!」

 

「えぇ!?で、でも狭いし…!」

 

 

ネムが手で布団をポンと叩いてモモンに自分の右側に来るように促す。エンリが左側にいるので、ネムを挟んで両側に2人が並ぶ構図だ。まさに“川の字”である。ベッドは大きいため少し余裕はあるが、それでも3人並ぶとなると、それなりに手狭になる。なかなかに接近する必要があるだろう。10代の女の子とベッドで密着して寝るなどあまりにも犯罪的すぎる。罪悪感が噴き出して断りたい気持ちで一杯になるが、ネムのこちらを気遣った配慮を無下にする事も出来ない。モモンは諦めてネムの横へと行き、おそるおそる布団に入る。

 

 

「えへへー。モモンお姉ちゃん、あったかーい。」

 

 

モモンが布団に入るや否や、ネムがモモンに密着してくる。

 

 

「ちょっ…ネ、ネム…。」

 

 

反射的に引き離そうとするも、思い直す。そうだ──今の自分はもう、30代会社員男性の鈴木悟じゃないんだよな。

『女同士は距離感が近いって聞くけど、本当なんだなぁー』とか適当な事を考えながら本能的に湧き上がってくる罪悪感を振り払い、くっ付いているネムの方を向いて肩の辺りに手を添える。

 

 

「──本当。あったかいね。」

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

 

 

 

あれから少しの時間が流れる。天井の永続光は既に消してあり、部屋は真っ暗になっている。

ネムは先程の状態のまま眠ってしまったようで、モモンに包まれながらスヤスヤと寝息を立てている。

 

 

「ネム、すっかりモモンさんの事が気に入っちゃったみたいですね。」

 

 

ネムを挟んだ対岸にいるエンリと向き合い、寝転んだまま小声で話をする。ネムは頭の位置が少し下にあるため、お互いの顔はちゃんと見えている。

 

 

「そうみたい。私、今日来たばっかりの初対面なのに。」

 

「たくさんお話しましたからね。上手くは言えないんですけど…きっと、時間は関係ないんだと思います。」

 

「確かに………そうかもしれない。」

 

 

モモンは眠っているネムの髪を静かに撫でながら微笑む。

 

 

「明日は村の人たちに挨拶しに行きましょう。きっと、もう話は伝わっていると思います。」

 

「うん。早くみんなに受け入れてもらえるように、頑張らなくちゃね。」

 

 

そこから二言三言会話を交わした後、2人は就寝の挨拶をして、部屋が静寂に包まれた。

 

モモンは今日の出来事を振り返る。たまたま巡り会った村で、突然の申し出にも関わらず快く受け入れてくれた村人たち。そしてこのエモット家で、モモンは今まで経験したことのなかった家族の温かさを知った。

自分がまだこの村に馴染めるかどうかは分からない。本当は情報収集と拠点確保のために一時的に身を寄せるだけのつもりだったのだが、今日一日で心が揺らいでしまった。本当の意味でエモット家の、この村の一員になりたいと、そう思ったのだ。

 

もちろんアインズ・ウール・ゴウンの事も諦めてはいない。だけどそれは”急いては事を仕損じる”とも言うように、急いだ所でどうにかなる物でもない。ここで信頼関係を構築しておくことで結果的に情報が得られるのであれば、結果オーライなのだから。

 

明日からは、きっと充実した毎日になるだろう。

モモンは今後の期待に胸を膨らませながら、久方ぶりの眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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