モモンガがツアレに憑依する話(仮)   作:佐倉ハル

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06.森の賢王

 

 

 

あれからどれくらいの日が経っただろうか。少なくともこの村には日付が分かる物がないので、意識して数えていないと分からなくなる。

モモンはかなりこの村での生活にも慣れ、畑仕事や薬草採取や狩りなど、村の生産活動にも精力的に関わっていて、村人からもとても重宝してもらえている。

 

結局、温泉設備は村から離れた森の奥地にある少し大きめの湖畔沿いに設置することとなった。多少のモンスターはいるが、防御魔法を展開していれば襲われても特に問題にはならない。エンリとネムとは一緒に入るのがもはや日課となっており、モモンも今では慣れてしまい3人で入ることに抵抗感は無くなっていた。そのうちの何回かは夜にも入った。空には宝石を散りばめたような満天の星空、それを反射する湖の水面。あまりにも美しい光景に見とれてつい長湯をしてしまい、2人がのぼせてしまったのは良い思い出だ。

 

お風呂のある場所への移動には<転移門(ゲート)>を使用している。本当は<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>でも良いのだが、エンリは高位階に転移魔法があることをンフィーレアという薬師の少年から聞いているらしく知っていたので、第3位階までという設定である以上使うことが躊躇われた。ならば少し性質の違うこの魔法であれば大丈夫だろうと考え、そういうマジックアイテムを使っているという体で誤魔化しつつ使用することにしたのだ。

 

狩りは野伏たちの装備を付与魔法で強化する形で協力した。体裁上あまり高位階の魔法を掛ける訳には行かなかったのだが、それでも野伏たちにとっては効果は絶大だった。普段より数段動きが俊敏になり、感覚が研ぎ澄まされ、力が増した。今まで苦戦していたモンスターにもあっさりと勝利してしまい、彼らは大いに盛り上がりモモンの功績を称えた。その日のエモット家の夕食には肉料理が追加されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

モモンは本当の意味で、心から満たされていた。

 

たとえ仮初であったとしても、帰る場所があり、自分の帰りを待っていてくれる家族がいる。他愛も無い雑談をして、笑い合える友人がいる。自分を必要としてくれて、助け合える仲間たちがいる。

 

いつしかカルネ村は、モモンにとってかけがえのない存在になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての仲間たちを探したいという考えを忘れた訳では無い。今でも仲間たちと再会したいという思いは変わっていない。

 

でも彼らは既にアインズ・ウール・ゴウンから去っていて、最期は誰も残っていなかったのだ。

 

『まだここが残っていたなんて、思ってもみませんでした。』

 

あの日のヘロヘロの言葉が思い起こされる。

 

 

──────自分を見捨てて、アインズ・ウール・ゴウンを見捨てて、居なくなった人たちを、必死に探す事に何の意味があるのだろうか?

 

 

時折、そんな黒い感情が渦巻くのを感じずには居られなかった。

 

もう冒険はせずに、ここでずっと暮らすのも悪くないかもしれない。このままこの村で、ネット上の上っ面だけの付き合いなんかじゃない、新たに出来た大切な人たちと共に、死ぬまで穏やかに過ごしたい──最近のモモンはそんな事を考えるようになっていた。

アンデッドの性質を一部引き継いでいるので人間と同じように歳をとるのかは不明だが、それはまだ分からない。追々考えていけばいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモンはトブの大森林の奥地でとある魔獣に出会った。

 

 

 

 

最近はあまりできていなかった探索をしようと思い、森の奥地まで足を運んできていた。目的はもちろん、噂の森の賢王を見つけるためだ。エンリには少し心配されたが、カルネ村に来る前にも同じように森林内を彷徨っていたからと言うことで納得してもらった。

森の賢王についてはエンリを初め、村人たちからも度々話を聞いていた。皆姿は見たことがないそうだが、運良く逃げ帰った冒険者の証言から、蛇の尾と白銀の体毛を持ち、神聖な姿をしているというイメージをしているらしい。モモンはその内容から神獣である『白虎』のような姿を思い浮かべ、大いに好奇心を刺激された。

ついに我慢ができなくなってきたので、予定の空いている日を狙って捜索を決行することに決めたのだった。

 

森の賢王のテリトリーに入り、遭遇するモンスターを適当に狩りながら森の中を駆け回っていた。動き回って物音を立てていた方が気づかれやすいかと考えたためだ。いわゆる陽動作戦というやつだ。

 

 

 

 

 

ターゲットとの出会いは、行動を開始してから数時間後に訪れた。

森を走るのにも飽きてきて、今日は一旦引き上げようか…などと考え始めていた頃──それは突如としてやって来た。

 

遠くから森の中を、大型の生物が走ってくる音が高速で近づいてきた。刹那──森の木々の隙間から、何かがモモンに向かって勢いよく、伸びるように迫ってくる。

モモンはその何かを最小限の動きでいなし、引っ込む前に装備していた短剣で素早く切りつける。様子見で軽く切っただけではあったが、固い金属同士がぶつかったような硬質な音が響き、剣が弾かれたのが分かった。

 

 

「細長い何か…尻尾?それにしては妙に硬いし、20mはありそうだったけど…。」

 

 

モモンは先ほど切りつけた自分の剣を見る。さっきので刀身が少し欠けてしまったようだ。最低品質の素材で作られたナマクラでしかないが、他の雑魚モンスターは難なく切ることが出来ていた。それだけに、そこらのモンスターよりは遥かに強敵の気配がするのは確かだ。

 

 

『ほう。(それがし)の初撃を(かわ)し、攻撃まで仕掛けるとは流石でござるな。こんな相手は初めてかもしれぬ…。』

 

(………某?ござる?)

 

 

森の中に先程攻撃を仕掛けてきたと思われる者の声が響く。妙な言い回しに疑問符を浮かべながらも、モモンは声の主との対話を試みる。

 

 

「もしかして、あなたが森の賢王?」

 

『某は名は持たぬが、人間からはそうとも呼ばれているでござるな。』

 

 

ビンゴだ。ついにターゲットが現れたようだ。モモンの胸が高鳴り、抑えきれなくなった笑みが零れる。

 

 

『さて、某の縄張りを荒らす侵入者殿。今ここで逃げ帰るのであれば、先の見事な回避に免じてこれ以上の追撃はしないでおくが…どうするでござるか?』

 

「愚問だね。それよりも、姿を見せないのは自分の姿に自信が無いから?それとも、恥ずかしがり屋さんかな?」

 

『…言うではござらんか。では某の偉容に瞠目し、畏怖するがよい!』

 

 

先の攻撃が飛んできた木々の奥から茂みを踏み分ける音が聞こえ、巨大なシルエットが浮かび上がる。そしてモモンの前に、その姿を現した────────

 

 

 

────デカいジャンガリアンハムスターが。

 

 

 

「…………………。」

 

 

モモンは目を見開き、硬直する。もしかしたら口も半開きになっていたかもしれない。もちろんその感情の出処は、ある意味では驚愕しているが恐怖などでは決してない。

 

“呆れ” “失望”だ。

 

 

「ふふふ…その表情から、驚愕と恐れが伝わってくるでござるよ。」

 

 

目の前のハムスターが何やら見当違いのことを言っている。その後でこのハムスターに自分の知る種族名を伝えてみると、「某の種族を知っているでござるか!?子孫を残さねばならぬゆえ、同種のオスがいる場所を知っていたら教えて欲しいでござる!」と懇願された。いや知らんが。そしてコイツがメスだという死ぬほどどうでもいい情報も副次的に得てしまった。昔の話だし、サイズも全然違うと伝えたらガッカリしていた。

 

 

(“蛇の尾”…“白銀の体毛”…いや、さ?合ってる、情報は合ってるんだけどさ…?なんて言うかこう…もっと言い方があっただろ…。)

 

 

情報をくれたエンリ、そして村の人たちには感謝している。そのおかげで、今こうして森の賢王に会うことが出来ているのだから。だが現実とはかくも残酷なものなのだろう。期待に胸を膨らませ、どんな神獣が飛び出してくるのかと思いきや、蓋を開けてみればただデカいだけの愛玩動物。

確かにモンスターの中ではとても知性がある。以前に出会ったウォートロールよりも遥かに賢く、人間とも違和感なく会話出来ている。だけど…あまりにも誇大広告が過ぎるやしませんかね。

君、写真と違くない?かなり昔に元の世界のネットでそんなミームが流行っていたらしい事を思い出した。期待していた分、突き落とされた失望はより大きなものになってしまった。

 

 

「…ではお喋りはこのくらいにして、そろそろ命の奪い合いを始めるとするでござる!初撃を躱した時の身のこなしからして、かなりの腕の戦士と見た…相手に不足は無いでござるよ!」

 

 

既に戦意を喪失しているモモンとは裏腹に、このハムスターはまだ戦う気でいるらしい。しかもモモンの事を戦士と見ており、本業が魔法詠唱者だとは見抜けていない。森の賢王なんて御大層な名前が付いているんだから、魔力隠蔽と探知阻害の指輪を付けていても少しくらいは片鱗を感じ取って欲しかった。

 

 

────ハズレだ。完全にハズレだ。

 

 

「…どうぞ。先に攻撃してきていいよ。」

 

「某に先手を譲るとは、余裕でござるな。では遠慮なく行かせてもらうとするでござる!」

 

 

 

 

 

ウォートロールの時と似たような流れで先手を譲る。森の賢王が勢いよくモモンに体当たりを仕掛けてくる。森の賢王は体高が3mはあろうかと言う巨体だ。重量だって数百kgはあるだろう。そんな巨体に突っ込まれれば普通の人間であれば一溜りもなく、良くて致命傷、悪くて即死だろう。

 

 

────だが、効かなかった。

 

 

全身の体重を乗せ突進したにも関わらず、モモンはゲームの固定オブジェクトよろしく微動だにしなかった。むしろ動かないことで突進の衝撃が跳ね返り、逆に森の賢王側にダメージが入る。

 

 

「──!?」

 

 

森の賢王は想定外の展開に状況が理解できず困惑したが、すぐに気を取り直して体勢を立て直し、モモン目掛けて前足の鋭い鉤爪を振り下ろす。この爪は下手な金属よりも高い硬度を持ち、普通の冒険者の持つ剣程度であれば容易に破壊できるほどだ。当然皮膚の柔らかい人間がこの爪による攻撃を直に受ければ一溜りもなく、良くて致命傷、悪ければ即死だ。

 

 

────だが、効かなかった。

 

 

森の賢王の振り下ろした爪は、モモンの兜すら付けていない生身の頭部に直撃した。だが、金属音のような音と共に弾かれてしまったのだ。それは何度やっても同じ事で、せいぜい彼女の長髪や服の布が風圧で靡く程度で、彼女自身は表情一つ変えず、その場から微動だにしていない。

 

 

「な、ならば…!!」

 

 

森の賢王は素早く飛び上がってモモンから距離を取ると、長い蛇の尾をムチのようにしならせ、モモンに向かって超高速で射出した。この尻尾は森の賢王の体の部位でも最硬度を誇り、爪や牙では破壊できない素材の武器ですら破壊することも可能になる。さらには速度と体重を乗せることも出来るため、その威力は凄まじいものになる。まさに森の賢王にとっての最強技なのだ。加減無しで放った攻撃が直撃すれば、並の人間など原型すら残らないだろう。

 

 

────だが、効かなかった。

 

 

森の賢王が全力を持って叩きつけた尻尾による攻撃を持ってしても、呆気なく弾かれてしまった。またもや金属音が響き、両者がぶつかった衝撃派で周囲の草木がざわめいただけだった。

 

 

「こ、これならばどうでござるかぁぁぁ!!」

 

 

森の賢王の焦ったような動きとともに、腹部に描かれている紋様の1つが輝きを放つ。

 

 

全種族魅了(チャーム・スピーシーズ)>!!!

 

 

紋様がさらに輝きを増し、魅了魔法がモモンに向かって発動する。森の賢王は魔法詠唱者としての職業は修めていないものの、腹部の紋様が魔法陣となっていて、いくつか魔法を行使する事が出来る。そのうち今回使った全種族魅了は第4位階魔法で、相手を精神支配する事が出来る。人間の間では第3位階魔法が常人の到達できる最高位の魔法とされており、第4位階クラスを抵抗(レジスト)できる者は少ない。それはこの辺りのモンスターにとっても同じ事で、森の賢王はこの魔法を合わせ技で行使することで例え強いモンスター相手であっても幾度となく勝利を収めてきたのだ。

 

 

────だが、効かなかった。

 

森の賢王が最後の切り札として放った全種族魅了の魔法は、モモンの目前で儚く消え去ってしまった。モモンは100レベル+‪α‬のステータスを持っているが故に、当然状態異常を与える魔法に対する抵抗力も強い。精神支配への耐性が完全ではなくなっているものの、魔法詠唱者ですらない低レベルモンスターの放つ“たかが第4位階魔法”など、児戯に等しいものなのだ。なんなら上位魔法無効化のスキルすら必要ないだろう。

森の賢王は立て続けに使える魔法を全て放っていったが、結局その全てがモモンに届くことは無かった。

 

しばしの静寂が流れる。

 

 

「……な、なんで、攻撃も魔法も効かないでござるか……?」

 

 

持てる手段を全て出し尽くした森の賢王はすっかり威勢を失い、弱々しくモモンに問いかける。

 

 

「…なんでって?簡単なことだよ。」

 

 

今までずっと無表情で立ち尽くしていたモモンが、森の賢王を見て口角を上げ、微笑んだ。

 

 

「どんな魔法による攻撃だろうが物理攻撃だろうが、アナタ程度の雑魚(・・)では私には傷一つ付けることは出来ないの。」

 

 

森の賢王は今までに感じたことの無い、初めての感覚に襲われた。

────この人間に歯向かうのは危険だ。

それは、本当の意味での“恐怖”。全身が総毛立ち、心が粟立(あわだ)つ。野生としての勘が、本能が、警告を全力で鳴らしている。

数百年の時を生きてきたが、こんな人間に遭遇したことは未だかつてなかった。この森では最強クラスであり、時折迷い込んでくる冒険者ですら容易に屠れるほどの力を持つ森の賢王。それを“雑魚”だと一蹴し歯牙にもかけず、それに見合った実力も持っている圧倒的強者。そんな者が今、目の前にいるのだ。

 

 

「じゃあ、今度はこっちの番だね。アナタを倒せばまたレベルアップ出来そうだし。死体はアンデッドの作成実験にでも──────」

 

「まっ、待つでござる!!降伏!降伏するでござるよおぉ!」

 

 

戦闘態勢に入ろうとしたモモンを見て、森の賢王が大慌で仰向けに寝転がり、手足を曲げた姿勢で降伏を宣言する。

モモンは一瞬「何してんのコイツ…?」と呆けた表情で固まったが、「そういえば、犬なんかが服従の証としてこんな姿勢を取るって聞いた事あったなぁ…」と思い出し、理解した。

 

 

「だから…殺さないで欲しいでござる…。」

 

 

森の賢王が泣きそうな表情────ハムスターの表情などモモンには分からないが────でモモンに弱々しく訴えかける。

 

 

「分かった分かった。冗談だよ。元より、アナタに死なれると私が困っちゃうからね。」

 

 

モモンは戦闘態勢を解きつつ告げる。これは事実だ。森の賢王は先のウォートロールと同じく30レベル程度ある。倒せば確実にレベルアップ出来るから本音としては倒したかったのだが、森の賢王がモンスターを狩ってくれている事でカルネ村の安全が守られているのもまた事実なのだ。モモンが後先を考えず私利私欲で行動した結果、大切な村に危害が及ぶような事があっては目も当てられない。

 

 

「ほ、本当でござるか!?ならば某は姫に絶対の忠誠を誓うでござるよ!何なりと命令して欲しいでござる!」

 

「ひ、姫…忠誠…。」

 

 

森の賢王は体を起こして元の体勢に戻す。まさかの姫呼びにモモンは急速に背中が痒くなる感覚を覚える。そして忠誠を誓うという事は、モモンの支配下に加わるという事なのだろうか。彼女は元の世界では営業職の一般会社員男性で特に出世もしていなかったため、後輩はいたが部下などは持ったことがなかった。急に忠誠と言われても困ってしまう。

 

 

「う、うぅん………特に今は思いつかないかな………。とりあえずは今まで通り過ごしててよ。そうすれば間接的にカルネ村を守ることにも繋がるし。」

 

「カルネ村?あぁ、森の近くにある人間の集落のことでござるな。」

 

「知ってるの?」

 

「もちろんでござる!某は長い間この森で暮らしているゆえに。縄張りの外の事はよく知らないでござるが、そのくらいであれば知っているでござるよ。」

 

「それなら話が早いね。私は今、その村に住んでるの。何か頼みたい時はこの<警笛(ホイッスル)>の魔法で呼ぶから。」

 

 

そう言いながら、モモンは防音魔法を張ってから魔法の実演をする。甲高い笛の音が響き渡る。

 

 

「覚えたでござる!この音が聞こえたら、すぐに馳せ参じるでござるよ!……というか、姫は魔法が使えるのでござるか!?」

 

「え?うん、だって魔法詠唱者(マジック・キャスター)だし。」

 

「………。」

 

 

森の賢王は驚愕するしか無かった。人間の事はよく知らないが、今まで出会ってきた者達は全て剣か魔法かのどちらかしか使えなかったからだ。モモンはあの一瞬だけではあったが、凄腕の戦士に匹敵する身のこなしを見せていた。つまりモモンは、それほどの剣技を持ちつつ、森の賢王の攻撃を一切受け付けない圧倒的な防御力を持ちつつ、かつ魔法まで使える存在だと言う事なのだ。森の賢王でもそれがどれほど凄まじい事なのかは理解出来る。何と冗談じみた存在なのだろうか。つくづく敵に回さなくて良かったと身震いする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモンは森の賢王に『ハムスケ』という名前をつける事にした。森の賢王だと呼びづらいし、何より誇大広告すぎてモモン自身が呼ぶのに抵抗を覚えるからだ。また関わる機会も出来るかもしれないのだから、見た目に即した名前をつけておいた方が良いだろう。かつての仲間からはネーミングセンスが無さすぎると批判を受けたこともあったので、もしかしたら他の人が見たらダサい名前なのかもしれないが………まぁ可愛いからいいじゃないか。ハムスケ自身もとても喜んでいたし、本人が良ければ何も問題は無いだろう。

 

 

 

 

モモンはハムスケと別れてカルネ村へと帰路を急ぐ。

 

少し遅くなってしまった。もうすぐ日も傾いて来てしまう。

 

見物に来ただけのつもりが結果的に森の賢王を手懐ける事になってしまったが、それもまた良い土産話になるだろう。

 

エンリに話したら驚くかな?ネムはどんな反応をするだろう。

 

そういえば、叶うなら森の賢王の姿を一度見てみたいと言っていた人もいた。今度村の人たちにお披露目するのも悪くないかもしれない。

 

…いや、並の冒険者なら瞬殺されるレベルだと言われてる存在をねじ伏せたなんて知られたら騒ぎになってしまうかもしれない。カルネ村の人たちとは上手くやっていきたいから、このことを話すのはまだ控えようか?

 

まぁそれも後で考えればいいだろう。

 

今後の事をアレコレ考えながら、モモンは頬を綻ばせる。

 

この森を抜けたらカルネ村へ戻って。もう夕方近いから2人と一緒にいつも通りお風呂に入りに行って。エンリのお母さんが作ってくれたご飯をテーブルを囲んでみんなで食べて。3人で川の字になって眠って。

 

そんな日常に戻るのだ。

 

モモンは何の疑いもなく、そう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

────目の前の光景を目にするまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────え?」

 

 

 

 

 

 

 

モモンは何が起こっているのか、すぐに理解できなかった。

 

 

森の入口付近に、4人の人影が見える。そのうち2人は良く見慣れた友人、エンリとネムだ。何故かエンリはネムに覆いかぶさる格好で蹲っている。もう2人は────見たことがない。

鉄製と思しき灰色の全身鎧(フルプレート)に身を包み、剣を手に持ち武装をしている。そして──その剣士が持っている剣からは、赤い液体が滴っていた。

 

よく見ると、蹲っているエンリの背中の服は大きく裂け、赤黒く変色している。

 

エンリはぐったりとしていて動かない。ネムがエンリの下で、必死に姉を呼んでいるのがモモンの耳にも聞こえてくる。

 

 

 

──────なんだよ、これ。

 

 

 

────あの鎧の奴に斬られたのか?

────エンリが?

────なんで?

 

 

 

「…へへっ。よく見るとコイツ、いい身体してんじゃねぇか。俺ちょっと楽しんで行くわ。」

 

 

2人の全身鎧のうち、1人がエンリの腕を掴んで体を持ち上げる。声の高さからして鎧の中身は男性で間違いないだろう。彼女は出血のせいか、顔は白く表情も虚ろであり、男に乱暴に引き上げられても抵抗する様子も見られない。

 

 

男は剣を地面に刺し、空いた手で何の躊躇いもなく彼女の胸に手をやり、感触を楽しんでいる。エンリは自分がされている事は理解しているようで、虚ろな表情を僅かに歪ませながら「や、やめ………て…やめ…………」と、掠れた小声で必死に抵抗している。

 

 

────やめろ。

 

 

兜により男の表情は見えないが、声のトーンとセリフと行動から気持ち悪い下心が覗いている。ネムが弄ばれている姉を引き戻そうとしているようだが、剣士に斬られるのを恐れてか怯えた表情で上手く行動を起こせないでいる。

 

 

「おい…任務中だぞ。」

 

「良いじゃねぇか。どうせ村人なんて簡単に殺せるんだし。ちょっとくらいご褒美が無きゃやってらんねぇってもんよ。じゃ、さっさとコイツの服を────」

 

 

男はヘラヘラと笑いながら、地面に刺していた剣を手に取り、エンリの胸の辺りの服の隙間に剣先を差し込み服を破ろうと────────

 

 

男の記憶は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

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