一般性癖TS転生少女、真白 光は絶望的なまでにすくわれたい   作:エテンジオール

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一般性癖TS転生少女の麗しき姉妹愛

 智洋くんのお泊まりは、帰ってきたパパ上が智洋くんをお風呂に拉致るという珍事態発生以外には問題なく終わった。……ママ様が智洋くんの顔を見れなくなったりしたから、問題は結構あったな。ちなみに智洋くんをお風呂に拉致ったパパ上に衆道の心得はない。ママ様一筋だからね。あんなに美人なお嫁さんがいたら当たり前だね。ママ様を泣かせるようなことがあれば私が去勢してやる……つまりママ様が泣くほど笑わせた智洋くんは去勢対象……?

 

 悲しい事実が判明したところで、特に気にせず私は今日もキラキラ探しだ。ネットの海でクロールして、たまにぶくぶく沈む。泳ぐの上手じゃないからね。しかたがないね。そんなことばかりしているからいつまでたっても才能探しが捗らないんだよ。突然の正論に私は泣いた。

 

 悲しくなったので、その気持ちを表現するために涙で滲む視界のまま木を削る。なんか出来上がったのでそれを出品すれば、すぐさま買取交渉が来て、値上げを打診された。相手の名前を確認すれば、いつかの私を凍結させた買い手だった。なんだお前、私のファンだったのか?

 

 ちょっと嬉しくなりながら、値上げはしません、あんまりしつこいようならブロックしますよ!と送れば、返ってきた返信はぐぬぬ……。ちょっとかわいく思えてきたな。でも値上げ交渉には応じません。守れ生産者の権利。

 

 自分の権利を守れたことに気を良くしつつ、鳴かず飛ばずな原石たちを見守る。私のお気に入りは、パトロンがいれば大成できるかもしれないような荒削りの才能。キラキラを内に秘めた彼らが、自分の魂を汚しながら吐き出す泣き言恨み言には、見るものの穢れを吸収する効果がある。活性炭みたいなものだね。やーん、光、また綺麗になっちゃうっ!

 

 叶うならば、最終的には私の手で砕きたいものだ。やっぱり人間美しいものは手の内に収めておきたいからね。他の誰かに壊されるよりも私が壊したい。みんな私の近くに住んでたりしないかな。ネゲントロピー仕事しろよ。

 

 そんなことを考えつつ、世の中の不条理を嘆いていると、コンコンと扉が叩かれる。突然開けられたりしないのは、プライバシーを尊重されている感じがしていいね。まあ、私は突然開けられて困るようなことはしないのだけれど。

 

 お客様が吸血鬼でも入れるようにどうぞと許しを出せば、扉からひょっこりかわいいお顔を覗かせたのは妹ちゃん。今日もお顔がかわいいね。つまり、私のお顔もかわいいということ。光ちゃんかわいいやったー!最高だな。ルッキズムに栄光あれ。

 

「あのね、あかり、お姉ちゃんにもらってほしいものがあるの」

 

 突然どうしたの?お姉ちゃんと遊びたくなっちゃった?と聞いてみると、おててを背中に隠しながらもじもじしていた妹ちゃんが、私にずいっと差し出したのは一枚の画用紙。ちらりと目を合わせて許可を取り、開いてみればそこには美少女の似顔絵が。

 

 ふむふむ、これはどこからどう見てもママ様か私か妹ちゃんで、そして妹ちゃんがもらってほしいなんて言ったということは、妹ちゃんなのだろう。“お姉ちゃん、あかりのことをお姉ちゃんのものにしてっ!”って求愛行動に違いない。

 

「ありがとう、灯。すっごくうれしいよ。お姉ちゃん、大切にするね」

 

 ……なんて馬鹿なことを妹ちゃんが考えるわけもなく、これに込められたのはもっと純粋な思いである。いつも優しい、大好きなお姉ちゃんのことを絵に描いたから、受け取ってほしいというピュアなものだ。全くさ、女子小学生が絵に描いた自分をプレゼントして姉に求愛なんて、そんなことするわけがないじゃないか。頭でも沸いてるんじゃないの?

 

「……よかった。お姉ちゃん灯よりずっと絵が上手だから、ちゃんとよろこんでくれるか心配だったの。いつもありがとう、お姉ちゃん、大好きだよ」

 

 安心したように、ふにゃっと表情を柔らかくする妹ちゃん。私の妹かわいい。確かに、私が描こうと思えばすぐにもっと上手な絵が描けるけれども、私の妹かわいい。こういうのは、画力的な上手い下手よりも、そこに込められた気持ちが大切なのだ。私の妹かわいい。

 

「あのね、灯。お姉ちゃんは灯の絵が上手だからうれしいんじゃないの。灯が、お姉ちゃんのことを思って、一生懸命書いてくれたことが伝わる絵だから、とってもうれしいんだよ」

 

 宝物を扱うように、受け取った絵を机の上に置く。そして妹ちゃんの方に向き直り、その小さい体を抱きしめる。愛情はこうするのが一番よく伝わると、ママ様に教えてもらったのだ。

 

 小さくて、柔らかい体。温かくて少女の香りがふわりと香る。シャンプーの香り、お揃いだね。とくんとくんと脈打つ命に、染み込ませるようにありがとうを言う。小さな手が私の背中に回り、安心しきった気持ちが伝わってくる。

 

 本当に、うれしかったのだ。私自身もびっくりするくらいに。子供にしては上手なだけの、ただの似顔絵が。芸術品としては欠片ほどの価値もつかないような画用紙が、本当にうれしかったのだ。

 

 子供に貰ったお礼の手紙を、大切にしまい込んでいる親の気持ちがわかった。下手くそな字で書かれたあいがとうの文字で泣く親の気持ちがわかった。子供の入学式で、卒業式で泣く親の気持ちが、初めて理解できた。

 

 これまで注いできた愛情に、愛情が返ってきたことがたまらなくうれしいのだ。無私の愛が報われたことが、たまらなくうれしいのだ。そして何より、あれほどまでに小さくて、なにも出来なかったこの子が、いつの間にかこんなに成長していたことが、とても嬉しいのだ。

 

「お姉ちゃん、泣いてるの?」

 

 あかりがぎゅってしたのそんなに苦しかった?と、先程までとは種類の違う心配を宿した声が、胸元から聞こえる。どうやら私は無意識の内に、感激で涙をこぼしてしまっていたらしい。演技でも、自分の情緒が不安定になったわけでもなく泣いたのは、心の底から泣いてしまったのは、こうして生まれ変わってから初めてのことかもしれない。

 

「……苦しかったんじゃないよ。ただ、とってもうれしかったの。あかりが大きくなってくれたことが、こんなに優しい子に育ってくれたことが」

 

 しみじみと、噛み締めるように言ったら、灯ちゃんはお姉ちゃんがお母さんみたいなこと言ってる……と少しおかしそうに笑った。ママ様なら、私と違って灯のことを産んだのだから、成長してくれた喜びも一入だろう。今の私には、その気持ちが簡単に想像できる。

 

 くすくすと笑う灯に少し気恥ずかしくなって、こちょこちょとくすぐる。この行動は照れ隠しだ。演技でもなんでもない、純粋な照れ隠し。そんな子供みたいなことをしてしまっている自分が恥ずかしくて、泣き顔を見られないように灯をにゃあにゃあ言わせる。

 

 いくら照れ隠しとはいえ、灯が嫌がるのはダメだから、ちょうどよくこちらを見れないくらいくすぐったくて、でも暴れて逃げるほどじゃないくすぐりをする。その間に涙を拭いて、最後に顎の下をこしょこしょしながらゴロゴロにゃあとしてやれば、もうこの子の前にいるのはいつもの私だ。お姉ちゃんとして、妹の前ではいつでも自慢出来る姿でありたいからね。妹をペット扱いするのは自慢出来る姉の姿なのだろうか?

 

 少し自分のあり方に疑問を持ったりしたが、私のあり方なんてそれほど大切なものでもないので考えないようにする。そんなことよりも、今優先するべきことはこの素敵な絵をどうするかだ。こんなにいいものを貰ったのだから、どうせなら飾りたい。でも、飾るために画鋲を使うのも、テープでつけるのも嫌だ。だからといって大切にしまい込むのも、やっぱり勿体ない。

 

「お姉ちゃん?いきなりどうしたの?」

 

 むむむと少し悩んで、ピカりといいアイデアが降ってくる。ただ保管するのも、余計なものを着けて飾るのも嫌だ。それならどうすればいいかなんて、簡単な事だったのだ。飾るために相応しいものを用意してやればいい。そして私には、それができるだけの能力がある。

 

 つまり、額縁を作る。灯ちゃんが贈ってくれたこの絵に相応しいだけの額縁を用意する。世間的には絵よりも額縁の方が価値があるとされるだろうが、世間の評価(そんなもの)はどうでもいい。

 

「まって!額縁作るってなに!?お母さんよりも大袈裟に喜ぶのやめてっ!?」

 

 そんなに大層なものじゃないから!と私を止めようとする灯ちゃん。かわいいね。でもお姉ちゃんにとっては、大袈裟でもなんでもないのだ。だって、こんなにいいものをもらったのだから。こんなに、()()のあるものをもらったのだから。それにふさわしい扱いをするのが、礼儀というものだろう。

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