一般性癖TS転生少女、真白 光は絶望的なまでにすくわれたい   作:エテンジオール

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ハッピーバースデーとぅーみー。ついでに第一犠牲者。

 生まれ落ちた瞬間、私は“やらかした!”と叫んだ。何をやらかしたのかは記憶に残っていないけれど、何かとても大切なことを忘れてしまったこと、そして先の人生で大きな失敗をしたことだけは覚えていた。当然、生まれ落ちたばかりの私は声帯が未発達で、上手に喋ることも出来ずふにゃあ!と産声を上げただけだったのだが、それで周囲の空気が柔らかくなったのでいいとしよう。ハッピーバースデートゥーミー。ところで産み落とされるからI was bornで受動態だが、自ら母体の腹を割いて生まれればbirthを名乗っていいのだろうか。来世があるなら腹裂き系クリーチャーになるのも面白いかもしれない。

 

 産まれて早々にクソほどしょうもないことを考えて、その思考のまま、自分が生まれ変わった理由について考える。おおよそ全ての人が人生を複数回経験していて、それを隠しているのでなければ、この現象は稀なものになるのだろう。もちろんこの世界はみんな2週目以降が集まっている可能性もあるが、そこまでは考えていられない。私がどこか特別で、奇跡を賜ったのだと考えた方が嬉しいじゃあないか。人はいつだって、オンリーワンの特別に憧れるものなのだから。

 

 一応、みんな2週目説の反証としては、産まれて直ぐに虚空に向かって祈りを捧げていた赤ん坊を見て、おかしな反応をしなかったこともあげられる。私の前世の幼なじみ様が、病み上がりだったかつての私を反射的にぶっ叩くような酷い惨状。それを赤ん坊が見せたら、生まれ変わりが当たり前な世界なら“我が子が異常者だった!”となって捨てるだろう。異常者なんて動けるようになったら何をしでかすかわからないのだから、潰せる時に潰しておくべきだ。少なくとも私ならそうするし、そうしなかった以上生まれ変わりは一般的ではないか、我が両親様がとんでもないお人好しかの二択である。そしてそんなお人好しが、子供を作れるまで生きていられるはずがない。よってこの世界で生まれ変わりは一般的ではない、以上Q.E.D。

 

 ともあれ、ハッピーバースデー!おめでとう、今日がお前の命日だ!をされなかったのはいいことだ。思わず虚空に祈ってしまったが、私は今天啓を必要としていない。気を失っている間に得たのか、はたまた別の理由かはわからないが、ふにゃあ!と生まれた時にはもう得ていたのだから。

 

 

 そう、ここで話は、私がやらかしたというところに戻る。価値あるものがそれを失う瞬間、それを至上の美として日々邁進してきた私が、これまでのものは全て無価値に近いと知ってしまったのだから、その衝撃たるや。

 

 ふにゃあと生まれた瞬間に、私の頭の中には天啓が降りていたのだ。本当に価値のあるものとはつまり、取り返しのつかないものであり、替えのきかないものである。私ごときが自力で作れるようなものでも、お金を払えば買える程度のものでもない。作ろうとして作れるものではなく、自然と積み重ねによって完成するもの。そこに人の意思が介入するのは仕方のない事だが、一度失ってしまったら元に戻すことも新しく作ることも出来ない、そんなものこそが価値のあるものである。

 

 つまり、人こそが、人の心こそが何よりも価値のあるものである。それも、とびっきり純粋で、綺麗なもの。たった一つの目的のために、極限まで磨き抜かれたそれこそが、私の求める価値あるものであった。まったく、とんだ遠回りをしてしまったものだ。

 

 さて、そうなると、いかに価値の高いものを作るかが問題になってくる。それは純粋で、磨き抜かれたものでなければいけない。気高く、尊く、麗しく。真のプリンセスでなければいけない。いや、別にプリンセスである必要はないのだが。

 

 作りたいのはそんなもので、けれども悲しいことに、そんな素敵な人材はそこら辺に溢れていたりしない。人はそれぞれみんなオンリーワンであるのだが、人材的に取り替えがきくものも多いのだ。ここに誰か違う人が入っていれば、きっともっと世の中は上手く回るだろう。そんなふうに思っている人たちによって、世界は成り立っているのだから。

 

 たった一つの物でも、替えがきくものであれば価値はそれほど高くない。替えが効かず、一度失われれば世界の損失になってしまうようなもの。科学史を100年進めた才能。科学史に限らずとも、100年でなくてもいい。けれど何かしらの界隈の星。そういうものがいいのだ。キラキラ輝く一つの才能、切磋琢磨し磨き抜かれたナンバーワン。

 

 そういうものを、貶めたい。貶めなくてはならない。それこそが、私がこの世にふにゃあと生を受けた意味なのだから。

 

 しかしここでひとつ、大きな問題があった。というのも、そんな素敵な人は、簡単に私のものにはならないということだ。当然である。一番星を手の内に収められないことなど、当たり前のことだ。私のような凡人に、そんな大それたことができるはずない。

 

 突然自分に正論で殴られて、悲しくなってしくしく泣いてしまう。私のメンタルは木綿豆腐なので、とても繊細なのだ。突然泣き出した私を心配した両親がおーよちよちと慰めてくれた。いないいないばあとガラガラであやされるまで、私は本当に落ち込んでいたのである。脳みそ赤ちゃんかな?と思ったが、赤ちゃんだった。今私の脳みそはツルツルだ。

 

 泣いたことでシワが一つ増えて、一つ知に近付いた。それによって私が思いついたのが、類は友を呼ぶ作戦だ。簡単に言えばネゲントロピーの働きによって偏ったもの同士は惹かれ合うという諺だが、今回引き寄せたいのは私のようなものではなく、キラキラの才能たち。つまり、私もそんな素敵な才能があるように振舞っていれば、自然と引き寄せられるんじゃね?という事である。

 

 もちろん私のような凡人には、そんなふうに人に自慢できるような才能はない。才能はないが、知識はある。これでも人生一周分のリードはあるのだから、15で才児を装うことくらいはできるだろう。もちろん20を過ぎればただの人に戻る訳だが、十分だ。シンデレラだって12時までに自分の痕跡を残せたのだから、私だってできるはず。若い才能に唾を付けておいて、絶頂期に潰す。それくらいもできずして、なぜ転生者を名乗れようか。

 

 食事と睡眠と排泄を繰り返すだけの生活を送りながら、私はそこまで思い至った。天啓に頼ることなく、考えることが出来た。まあ、赤ちゃんってなんにもできないからね。転生者はとっても暇なのだ。

 

 考えることしかできない生活を送っているうちに、いつの間にか見えるようになっていた目で、幼い天使が映る鏡を見る。お目目はキラキラで、脳みそはツルツルで、お肌はモチモチの天使だ。とてもではないが、素敵な才能を踏みにじることを目的にしているとは思えない。転生ガチャはSSRだな。ルッキズムに栄光あれ。

 

「あらら、なにか嬉しいことでもあったの?あなたが笑顔だと、ママもうれしいわ」

 

 わーい、わたしかわいい!キャッキャッ!としていたら、突然私を覗き込みつつ微笑む誰かがやってきた。もちろん、本人の一人称の通り私のママである。自分のことをママと思い込んでいる精神異常者に私が拉致されたのでなければ、この人が私のママである。

 

 さて、このママ様。突然だがとても美人だ。野郎どもなら間違いなく守りたくなる綺麗な顔に、聞いているだけで落ち着く声。よく分からないが1/fなんたらではないだろうか。詳しいことは知らないけど、そんな気がする。

 

 私のことを叩いたりもしないし、明らかにメロメロだし、優しいし、いい匂いするし、かわいいママ様。親ガチャは最高レアだな。パパ上の方もママ様ほどではないが面がいいし、きっと私はこのまま天使になるだろう。生まれながらに約束された勝利。もう何も怖くない。

 

 そんな素晴らしい両親と容姿を持って生まれた私は、すくすくと大きくなった。ママ様が私の代わりに何でもしてくれるから、自分で動けないままでもいいかと考えた時期もあったが、鉄の意志で自らを律した。……まあ、ママ様に外道なことをさせるわけにはいかないからね。どちらにせよ動く体が必要ならば、早めに作っておく方がいい。

 

 むっちりしたあんよとぷにぷにのおててで床を這いずり回り、全身にみなぎるエネルギーを消費しては気絶したように眠る。自分の睡眠時間と体力を把握してからは、夜泣きをすることもなくなった。寝不足で辛そうにしているママ様を見るのは私も辛いからね。起きて夜泣きして、辛そうなママ様を見てまた悲しくなって泣いてと、悲しみのループが始まってしまうのだ。私は赤ちゃんなので、ママが悲しそうにしていると自分も悲しくなってしまうのである。ふにゃあ。

 

 そんなふうに夜泣き対策のためにも頑張って這いずっていたら、いつの間にか足腰が強くなっていた。ムチムチだったのが、ムチムチッくらいになった。見かけ上はほとんど何も変わらないが、大きな変化だ。何せハイハイができるようになったのだから。赤子を育てる親が、大きな感動とともに恐怖を覚えるというハイハイ。それまではころんと転がしておけば安心だったのに、自力で動けるようになったら、少し目を離している隙にいつその辺で死ぬのかわからないのである。

 

 まあ、私は人の親になったことなどないので、人聞きの知識でしかないのだが。そして私はこれでも元成人、ママ様に心配をかけるようなことはしない。その辺を探索するよりも、ママ様の足元をクルクル回っている方が楽しいからね。

 

「うちの子、夜泣きもしないし、心配かけるようなこともしないし、よく食べよく寝てよく動くし……もしかして天才なのかしら!?」

 

 そう言えば、よその子はまだハイハイ始まらないって聞くわ!と、私を持ち上げながらクルクル回るママ様。まだ確かなことは言えないが、心做しかおツムは少し弱めである。馬鹿な子ほど可愛いって言うし、むしろチャームポイントだね。ママ様かわいいよママ様。

 

 ニコニコなママ様と、その事で笑顔になる私と、それによってさらに嬉しそうになるママ様。いっけなーい、永久機関が完成しちゃう!これを笑顔の第一永久機関と名付けよう。ほっといたら勝手に摩耗して終わるから、ピッタリだね。

 

 そんな悲劇を止めるために突然真顔に戻ってママ様を困惑させて、再び周りをぐるぐる回るのに戻る。そのまま程よく疲労して、ママ様のミルクを貰えば完璧だ。

 

「あなたは本当に元気ね。健康で、元気で、健やかで。このまま大きくなってくれるのなら、それだけで幸せだわ。あなたが立派に育ってくれるためなら、私はなんだっ……あら?お客さんかしら?」

 

 私のことを見ながら、誰に届くでもない独り言を呟いていたママ様。もちろんほかの誰が聞いていなくても他ならぬ私は聞いているのだが、私は赤ちゃんなのでノーカンである。だって赤ちゃんだもん。

 

 そうして、ママ様がなんだか感動的なことを言おうとしていたタイミングで、インターフォンがなった。空気の読めない話だが、まあ外から家の中の空気を読まれるよりはマシかもしれないので、それほど気にしないでおく。理不尽な怒りはとっても良くないからね。

 

「突然すみ……わた……です。なにかと……お願いします」

 

 ハイハイを続ける私を置いてきぼりにして、ママ様が来客対応をする。聞こえる声や、断片的に理解できる内容を繋ぎ合わせれば、きっと来ているのは新しいお隣さんだ。私以外の鳴き声も聞こえるから、きっと赤ん坊を連れているのだろう。

 

 それなら、顔を見に行くしかないではないか。これから長い付き合いになるかもしれない家族を相手に、私の顔を売らないなんて選択肢はない。この大きさでハイハイしたら他所のお母さんも褒めてくれないかな、なんて期待は、あんまりない。生きているだけ、動いているだけで褒められる生活に、私の承認欲求は暴走気味であった。

 

 ぺたぺたとハイハイをしながら、ようやくたどり着いた先は玄関。お外に出るのが健康にいいとかで、何度か公園で日向ぼっこをしたことがあるから、赤ちゃんな私でも自宅の玄関の位置くらいはわかる。

 

 そこに居たのは、ママ様と同じくらいの年頃の女性。とっても若いね。あとそれに連れられた赤ん坊。おぎゃあおぎゃあと泣いていて元気だ。知らないところに連れてこられて不安になっちゃったのかな。わかるわかる。私も同じだからね、ふにゃあ。

 

 こっちまで来ちゃったのね、とママ様に抱き上げられ、お隣さんにこんにちはする。キャッキャッとしながら短いお手手を伸ばせば、お隣さんもにっこりしながら挨拶してくれた。

 

「こんにちは。よかったらうちの子と仲良くしてあげてね」

 

 なんて言ってもわからないかー。なんて言いながら、自分の子供を私に見せるお隣さん。私に負けず劣らずむっちりな赤ちゃん。かわいいね。さっきまで泣いていたのに突然笑顔になったのは、私が天使だったからだろうか?

 

 キャッキャッと嬉しそうにしながら、私の方に手を伸ばすベイビー。伸ばされたから伸ばし返してみて、触れ合う手と手、つながるヨダレの橋。この私に唾付けとくなんて、おもしれーガキ。見る目あるな。




 才能に唾をつける時、お前もまた唾をつけられるのだ(╹◡╹)、ペッ
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