「ねえ、一華」
「何、どうしたの」
予習をしていた手を止めて後ろでミリタリー漫画を読んでいた二葉に呼ばれて振り返る。急にどうしたのだろうか。
「……物理の勉強教えて」
「えっ」
読んでいた漫画にでも影響されたのだろうか、急に物理を教えてとは、唐突すぎる。
「えっと急にどうしたの、頭でも打った?」
「誰が馬鹿だって!?っていやそうじゃなくてさ、その……テスト勉強してない」
「………」
ああ、そう、そっと手元のミニカレンダーを見る、そこには明日の試験の日程が書かれている。そして二葉が言った物理の試験日でもある。
「なーんで今言うかなああああ!?」
「いやあ、これ読んでて思い出したの、てへぺろ」
くっそ、無駄に顔面偏差値が高いからつい許したくなる、がそれ以上に呆れが上回ってしまう。
「はあ、で何処まで覚えているの」
「自由落下運動の名称、ぐらい?」
「(絶句)」
名称覚えてんなら公式ぐらいは覚えてろ馬鹿野郎、野郎じゃないが…いやそれはどうでもいい。
「えっと、一華」
「う、ん」
「助けてくだせい」
「あ、えっとうん……や、っやってやらぁあああああ嗚呼ア」
ま、まあ、二葉は、一応出席は毎日しているから、最低ラインを取れれば、何とかなるだろう。きっと、多分。
「じゃ、えっとまずは速度と加速度から――――――――――――」
そういえば、二葉の妹に昔、こう言われたことがあったな
『お姉ちゃんは色々抜けている上に馬鹿です、でもスポンジにみたいに覚えてスポンジみたいに忘れます』
とはいえさすがに一日で忘れるわけないよな……
試験が、終わりテスト用紙が返却され自身の点数に一息つく。まあまあの点数。が、背後の人物、二葉は一枚の用紙を抱え見事に撃沈していた。机に突っ伏す二葉のテスト用紙をそっと見る。デカデカ描かれた赤いゼロが答えだった。そっと添えられている先生の慰めるような一文がさらに悲哀を漂わせていた。
「……空欄全部埋めてるじゃん、よく頑張ってるよ二葉は」
「う~一華ああああ」
しまった、涙鼻水の状態でくっつくのを許してしまった。おかげ制服がドロドロである。まあ、いいか……
「ほら、ハンカチで拭いてあげるから」
「一華ぁぁ」
よしよし、と二葉の頭を撫でる。とりあえず落ち着くまで動けん、がっしりホールドされて動けない。......とはいえ周りの視線がとても痛い。それにまだ他の授業もあるのだが、大丈夫だろうか。この調子だと同じ展開になりそうで、変な噂も立たなければ良いけど、いやほんと(切実)