FREAKS 作:メヤニ
ハヤマの後に続いて廊下に出る。病室と同じく清潔に保たれているが、病室で微かに漂っていた消毒液の匂いはほとんどしない。
廊下には、起きてすぐに見た看護師のような格好の者はおらず、すれ違う者のはほとんどが上等そうなスーツを着ていた。
そして、その誰もが俺と目が合うとすぐに逸らし、足を早めて離れていく。
「ここの人間は職業柄、異能者について知っている者が多い。新しい異能者がここに運ばれていることも噂になっているんだろう」
「やっぱり、怖がられてるってことだよな」「まぁ、そういうことだろうね。気を悪くしたならごめんよ」
前を歩いていたハヤマは歩調を緩めると、俺に並んだ。その顔には申し訳なさそうな苦笑が浮かんでいる。
「・・・・・・あんたは恐ろしくないのか?」
「君が? まさか」
白衣の男はあっけらかんと答えるも、一瞬逡巡し、再度口を開いた。
「人は理解出来ないものを怖がる節がある、というのはよく言われるだろう」
ハヤマはどう説明したものか迷うように、顎に手を当て、ゆっくり話し始める。
「私の個人的な意見にはなるが・・・・・・、例えば、君に針を通すために使った麻酔だって、未だにどういう原理で神経に作用してるのかまだはっきりしていない。だからって、麻酔を怖がる人はごく一部だし、現代医療において麻酔を全く使わない、というのは不可能だろう」
「ようは、使えるモンは使うってことか?」
「そんな乱暴な言い方はしてないだろう? つまり・・・・・・。うん、そうだな、未知に対する耐性のない人間は時代遅れの野蛮人って言いたいんだ」
これはこれで少し乱暴な言い方だけどね、と付け足し、ハヤマは口角を上げる。
「随分、過激な発言だな」
俺がつられて苦笑すると、ハヤマは「まぁね」と一言答え、また進行方向へと視線を戻した。
しばらく歩き、一つのドアの前で立ち止まる。
「本来なら彼女だけで行ってもらうつもりだったんだが、丁度良く君も起きたからね」
ハヤマがノックをするも、部屋の中から反応はない。彼は特に気にした様子も見せず、すぐにドアに手を掛けて開く。中は簡素な会議室だった。
長机が並べられた室内には、一人の少女がいる。パイプ椅子に腰掛けている少女は、部屋に入ってきた俺たちに気付くと、肩の少し上で切りそろえた黒髪を揺らし、こちらに顔を向けた。前髪の間から気の強そうなつり目が覗いている。
「なんで先生が来るの? 室長は?」
「相変わらず、私は嫌われてるようだね。室長は外出中、今回は私が代理だよ」
「・・・・・・そう」
少女はつまらなそうに顔を背ける。
「自己紹介でもしたらどうだ。これから同行するパートナーなんだから」
ハヤマは呆れたように言うと、少女は俺を一瞥して小さくため息を吐き、微かに聞き取れるような声量で呟いた。
「シズク、十六歳」
あまりにも端的な情報に、彼女が名前と年齢を口にしたのだと理解するのに数秒かかった。
「まったく。・・・・・・さっきまでの話で分かると思うけれど、彼女も異能者の一人だよ」
「・・・・・・どういった?」
外見からすると、何の変哲も無い少女を見やる。一見するとフリークスと戦えるのかすら怪しく思えた。
「どう説明すればいいのか・・・・・・。まぁ現場で実際に見せてもらうと良い。なかなか強烈だが」
「その人も、そうなの?」
「ああ。現地ですでにフリークスと交戦してもいる重要な参考人でもある」
「じゃあその人の尻拭いってことだ」
一切こちらを見ずに、情を感じさせない言い方をする少女に眉を顰める。何か言い返そうと俺が口を開こうするも、ハヤマの声がそれを遮った。
「彼は今回の件で異能を宿したんだ。異能を持たない状態で大型を駆除しただけでも賞賛されるべきだろう」
「・・・・・・へぇ」
視線だけをこちらに向けると、少女は口角を上げる。
「一般人のままでも大型を倒せる人が、異能まで手に入れたんだ? 『特変室』にとってこれ以上ない駒ってことだね。・・・・・・それとも脅威になるのかな」
「特変室?」
「さっき君にも話した『特殊生物及び変異人類対策室』の略だよ」
「私たち、フリークスと同列で対策を講じられる存在なんだってさ」
ハヤマの端的な回答に続く彼女の言葉に、ハヤマがわざとらしく大きくため息を吐いた。
「悪意のある言い方は止めてくれないか? それに、彼の異能は攻撃性の高いものではない。・・・・・・君と違ってね」
ハヤマの言葉に少女は端正な顔を歪ませ、睨み付ける。
「悪意のある言い方してんのはどっちだよ、大人げない」
今度は俺がため息を吐く番だった。