FREAKS 作:メヤニ
空港まで黒塗りのセダンで運ばれると、待ち時間はほとんどなく飛行機に搭乗させられた。小型のプロペラ機ではあったが、乗客が数人しかいないせいで手狭な印象は全く受けない。見た限り、一般客の搭乗はないようだった。俺とハヤマ、そしてシズクのほかには、スーツを着た男女が数人。その男女も空港でハヤマと何度か会話をしていた辺り、こちらの関係者なのだろうと推測できた。
俺の服装は病衣からハヤマに渡されたスーツへと変わっている。きちんとサイズを測って作られたものではないため、首回りが多少きつい。首元一番上のボタンは外して、一緒に渡されたネクタイは締めずにジャケットのポケットにそのまま突っ込んでいる。
「私たち以外の乗客はいないから、好きなところに座ると良い」
ハヤマは機内へと俺を促しながら、自身も適当な窓側のシートへと腰を下ろした。
「あんた、移動中に色々説明してくれるって話、忘れてないか?」
俺はそう言いながら、ハヤマと通路を挟んだ席へと身を収めた。
「そういえばそうだ。まずは警察と自衛隊がフリークスに積極的な介入をしない理由についてだったかな」
「ああ」
すっかり忘れていたらしいハヤマは身を乗り出して、俺に視線を合わせる。
「いくつか理由はあるんだが、うん、何から説明すればいいいかな……」
ハヤマはこめかみに指を当てて唸る。しかしその表情は困っているようには見えない。むしろ、謎解きの種明かしをするような楽し気なものに見えた。
「まず政府としては異能者の存在を隠し通すつもりだ。それもあって、可能な限り異能者の発生を抑えたがっている。ここまでは前提の話だ」
それは施設内でも薄々と感じていたことだった。
「異能者の詳しい発生機序についてはまだはっきり分かっていない。しかし、皆何かしらフリークスと接触したことがある者ばかりだ」
彼は眼鏡の奥の瞳を飛行機に同乗している少女にちらりと向けた。俺もつられて視線だけを動かした。一見、普通の少女に見えるシズクも異能者なのだとハヤマは言っていた。彼女はいつ、どういった状況であの化け物に遭遇し、そして生き残ったのだろうか。
「異能者を発生させないために、フリークスへの対処としては大規模な組織を当てたくないわけだ」
「その結果、地元の猟友会が駆り出されているんじゃ世話ないな。結果として俺っていう異能者が発生している」
冗談とも皮肉とも言えない言葉を吐くと、ハヤマは少し視線を泳がせて、声のトーンを下げる。
「極端な話だし、誤解を招く言い方かもしれないが……外部の人間、それこそ猟師一人くらいなら始末できる」
「なんだと」
思ってもみない言葉に眉をしかめる。
「それこそ軍や警察を使えば異能者といえど処分することはできる。だが、その警察や軍に所属する異能者が生まれた場合、それは誰が処分するんだい。最初のうちは内部で処理できるだろう。しかし、すぐに彼らも気付くんだ。命令によってやらされるフリークスの討伐によって異能者になり、その結果、同僚たちに銃を向けられることになるかもしれない、と。そうなったら最悪クーデターだ」
「そんなこと……」
「ないとは言えないだろう? まぁクーデターは盛りすぎたかもしれない。せいぜい退職者が増えるくらいかな。それでも国防や治安維持の能力低下は免れない」
ハヤマは片方の眉を上げてこちらをうかがっている。
「君たちみたいな犠牲を、これ以上出さないための組織でもあるんだよ、私たちは。最初から異能を持っている人間なら、いくらでもフリークスと対峙できる」
「……それでヤツらを根絶したら俺たちも始末するのか?」
「そうはならないよ」
俺の想定した最悪のシナリオを、ハヤマはあっさりと否定した。
「今の話を聞いて、その言葉を信じるのは無理じゃないか?」
「だから極端な話だと言ったんだ。上は異能者の扱いに困惑しているだけで、危険視まではしていない……と思う。少なくとも今は」
「そんなはっきりしない言い方があるかよ」
「発生を抑えたいというのと、すでに発生したものを処分したいかっていうのはまた別の話ってことだよ」
『処分』という言葉に引っかかりながらも、ひとまずハヤマの言いたいことは理解できた。
「これ以上は言葉ではどうしようもないから、態度で示していこうじゃないか」
ハヤマは機内まで同行している体格のいい男性に手を挙げて合図をする。それを見た男性は一度頷くと、そばにある細長いバッグを持ってこちらに歩み寄った。そしてバッグを無言で手渡すと、シートへ戻っていった。
「これは君に用意したものだ」
中から重い金属音のするバッグをハヤマから受け取り、ファスナーに手をかける。中身は一挺の小銃だった。
「君の銃は駄目になったと聞いていたから準備しておいた。六四式小銃だ。すぐに調達できる火器がこれしかなくてね。使い方はさっきの彼に教わると良い」
黒服の男に再度、目をやると彼は視線を合わせて会釈をした。同時に、機体が揺れ動き出す。
小銃の扱いを押してくれた大柄な男は、名をサノと言った。分解、整備まではできずとも、弾を込め、放つことまでは問題なくできそうだ。
「供与という形にはなりますが、弾薬や部品の紛失、破損は都度届け出て下さい」
彼が言うには本来、自衛隊の装備であるそれは、民間人に持たせるには色々と問題があるものらしい。俺に対して特別職の公務員としての辞令を最短で下したりと、ハヤマが色々と手を回したのだという。
「あいつ、獣医だって言っていたけど、そんなに偉いんですか」
「あまり名乗りたがりませんが特変室の副室長です」
サノさんは苦笑しながら教えてくれた。
「保健所上がり、なんて本人は言いますけど、要は厚労省の方です。因みに私は、すでに察していると思いますが、防衛省からです」
サノさんは喋りながらも、その手は黒いビニールテープを銃の数か所に巻いていた。部品の脱落防止のためだというそれが終わると、彼はバッグへと再度六四式を仕舞い、そのバッグごと俺に手渡した。
「任務が終わったら、剥がして粘着面を磨いといてください。分解整備については後日お教えします」
内心はともかく、ハヤマ以外の職員の中にも異能者に対して普通に接してくれる者がいることに安堵し再度シートに腰を下ろした。