FREAKS 作:メヤニ
フリークスと思しき足跡を辿って数分ほど歩いていると、見慣れた動物の足跡それに混じるようになった。おそらく二ホンイノシシ、それも痕跡からすると成獣のものだ。
「襲われてたみたいだ」
猪の成獣にとって野生動物の天敵は存在しないというのが通説だ。山の王者が襲われるという事態を目の当たりにした猟師たちは一様に動揺を見せた。
猟師の一人が足跡をさらに追った先で、地面に赤黒い飛沫が散っているのを見つけた。おそらく猪のものだと、誰もが何を言うでもなく分かった。ほかの猟師を率いるアオキは焦りからか、先ほどまでよりも少しだけ足取りを早めた。
「近いぞ、警戒しろ」
声を低くして、呼びかけるリーダーに他の男たちも無言でうなずいた。耳を澄ますと落ち葉が踏みにじられる乾いた音が彼らにも聞こえた。物音がする方に目を凝らすと、木々の間で何かが動いている影が見える。
すでに息絶えた猪の後ろ脚を咥えたまま、そのまま引きちぎろうと振り回す獣が一匹。一見すると犬のような相貌だが、従来の生物にあるべきはずの二つの目がなく、代わりに眉間にあたる場所に一つだけ、視線を忙しなく動かす目玉が見えた。
リクシはフリークスという名が表す通り、これから討伐する生き物が異形の化け物だということは分かっていたはずだ。だがいざ不気味ともいえる存在と対峙して、その場から逃げ出したい衝動に駆られる。
外貌だけで言えば想像していたよりも、知っている生物に形は似通っていた。一つ目の犬、言ってしまえばそれだけだ。しかし、猪の死骸を闇雲に振り回す異様な狂暴性と、ギョロギョロと動く一つの目玉が生物としての違和感が、見るものに不気味さを与える。
ふと陸士は自分の師である男を見やる。青木はすでにライフルを構えていた。化け物から視線を外さないように瞬きを堪え息を飲む姿は、先ほどまで軽口を叩いていた男とはまるで雰囲気が変わっている。
「構えろ、リク坊。多分一発じゃ仕留められない」
視線を一切投げかけずに掛けられた声に青年は我に返り、師に倣い銃を構え始めた。獲物は散弾を何回も食らってようやく動きを止める化け物だ。いくら貫通力のあるライフルだとしても、一撃で倒れることはないだろう。そもそも貫通力のある火器は、生き物の急所を確実に射貫いてこそ殺傷力が高くなるものだ。この生物の脳や心臓にあたる急所が果たして犬と同じ場所にあるのかわからない。
だからこそアオキは一目見てわかる明らかな急所、化け物の眉間にある目玉に銃口を向けた。その貫いた先に、普通の動物と同じく脳があれば儲けものだという考えもある。
異様な存在を前に呆然としていた他の二人も、次第に冷静さを取り戻しそれぞれに猟銃を構えたことを察したアオキはゆっくりと引き金に掛ける指に力を込めていった。
ライフルから轟音が鳴るとそれを追うようにさらに三つの銃声が響いた。フリークスの体が跳ねるように倒れ、その口にくわえられていた猪の脚はそのまま千切れて胴体から離れた。
アオキの放った弾は狙い通りその眉間を貫通した。その空いた穴からはタールのような光沢のある黒い液体が溢れるも、重力に従い地面に辿りつくまでに気化していく。
一方、リクシの散弾銃から放たれたスラッグ弾は、フリークスの右前脚を削るように当たっていた。そこからも眉間からのものと同じ、黒い液体がとめどなく流れている。他の二人の猟師が放ったものもそれぞれ胴体にあたっていた。一つは生物であれば心臓があると思われる場所に黒い染みを作っている。
四人とも倒れた化け物から目を離さず、次弾の準備を進めている。
「たしか死んだら砂になるんだよな、こいつらって」
銃口を獲物に向けたまま、リクシは尋ねた。
「砂かは定かじゃないけど、死体は残らないって話だったはずだ」
「……だよな」
目の前のフリークスは動きを止めたものの、まだ生き物としての形を留めていた。
青年は再度引き金を絞り、轟音を鳴らす。空いたばかりの眉間の穴を、更に広げる形で命中したスラッグ弾が、化け物の頭を貫通して地面に突き刺さった。
「無駄弾……って言ってる場合でもないか」
日本の規制上、二発までしか込めることができない散弾銃で、装弾されたものを躊躇なく撃ち切った弟子に対して、叱るに叱れず苦笑するアオキは、徐々に崩れ落ちる化け物の死骸を視界に収めながらようやく銃を下げた。