FREAKS 作:メヤニ
周囲に広がる火薬の臭いの中で、リクシは打ち切った散弾銃に弾を込める。
獣の足跡はまだ森の奥へ続いていた。痕跡からまだ複数はいるはずだ。ここではぐれた一匹を仕留めることが出来たのは猟師たちにとって僥倖だった。
足跡が続く木々の間に目を凝らす。男たちは己の目と耳を頼りに、周囲を警戒しながら森の奥へと進む。しかし、やがて異常に気付いたのは視覚で聴覚でもなかった。
足を進めるごとに血の臭いが濃くなっていく。先ほど嗅いだ、フリークスに食い荒らされた猪の死骸から発せられるものと似た血の臭い。臭いの元は鬱蒼とした木々を抜けた拓けた場所だった。
猪の幼体を咥えて奪い合う様に引っ張り合う異形が二体。既に息絶えてフリークスのされるがままになっている幼獣は、おそらく最初に見た猪の子どもだろう。
猟師たちは誰が何を言うでもなく、銃を構えた。一体でも手こずるような存在が目の前に二匹。仕留めたばかりの獲物に夢中になっている今が好機だと誰もが思った。
「僕とリク坊で右をやる。もう一体を頼むよ」
アオキは獲物に悟られないよう小さな声で仲間に声を掛けた。
「・・・・・・リク坊、二発撃て。撃ちきったらすぐに装弾。次はスラッグじゃなくて散弾で頼むよ」
「わかった」
指示の意図を理解したリクシは、肩に銃床を一層強く押し当て狙いを定める。
「……いくよ」
アオキの言葉を合図に、銃声が連続して鳴り響いた。撃たれた化け物はそれぞれ口から死骸を離し、衝撃で飛ばされる。しかし、致命傷にはなっていない。すぐに地にしっかりと四足を据えて身体を持ち上げた。
その獣の目玉は銃弾が飛んできた先の猟師たちを見つける。化け物は己を攻撃しきた相手を見据え、血がしたたる口を大きく開けて威嚇した。その口に再度、リクシが放つ銃弾が叩きこまれた。口から入った弾丸は化け物の喉を突き破る。それでもその獣の視線は男たちから焦点を外さない。リクシはアオキの指示通り、スラッグではなく散弾を込め始めた。
アオキが指示の際、散弾でとあえて付け加えたのは、仕留め損ねたフリークスが距離を詰めてくるはずだと考えたからだ。
散弾銃でも発砲可能な一発弾頭であるスラッグは中距離から長距離での狩猟に適している。有効な距離に於いてはライフルよりも殺傷力が高いことすらある。リクシとしても日頃は散弾よりもスラッグ弾を多用している。しかし近距離で、かつ外してしまえば後がない状況では、弾が広範囲に広がる散弾の方がメリットが大きい。
リクシは師が言外に含んだ意図を理解していた。それが故に、化け物が自分目掛けて距離を詰めてくる焦りと緊張で、弾を込めるが震えた。
アオキたちに撃たれたフリークスとは別のもう一体は、すでに距離を詰めるためにその体躯を走らせていた。弾を込めるリクシに向かわせまいと、二人の男は行く手を塞ぐように間に入り、正面から照準を定めた。
すぐに轟音が一度鳴り、化け物の前足を貫いた。バランスを崩し、勢いそのまま転がったフリークスは、転がった先で続けざまに銃弾を撃ち込まれると動きを止める。その体が崩れ始めてようやく、猟師たちは残るもう一体へと視線を移した。
喉を貫かれた化け物は、仲間がやられたことに一切関心を示さず、なお目の前で弾丸を放ったリクシに襲い掛かる。しかし、陸士はすでに装弾を終えていた。十分に引きつけたリクシはしっかりと目の前の化け物に銃口をむける。その手の震えは、もう止まっていた。
一発の銃声と共に、火薬の臭いが一層濃くなる。リクシの放った散弾を全身に浴びたフリークスは跳ね返るように後方に吹き飛ばされる。顔面の中心にある目玉の弾痕から、黒い液体が滲み出す。左右上下に視線を動かしながらも、その瞳孔はすでに機能を果たさず、獲物に焦点が合わなくなっている。
フリークスは金属を擦り合わせるような不気味な鳴き声を上げ始める。リクシは警戒しながらも横たわる獲物にゆっくりと近付くと、弾倉に残るもう一発を焦点が合わず動き続ける眼球に放った。耳を塞ぎたくなるような、一際大きな鳴き声を上げると獣の体は徐々に形を失い始めた。
その光景を見下ろしながら、リクシは空になった銃に、ゆっくりと使い慣れたスラッグを装填する。
呼吸を落ち着けようと深く呼吸をし、硝煙を吸い込み咽せそうになった青年を見て、アオキはいつものからかうような表情で口を開く。
「なんて顔してんだよ。……まぁともあれ、お疲れ、よくやった」
フリークスの消滅を確認した他の猟師たちも各々緊張を解き、武器を下ろした。