FREAKS 作:メヤニ
一息吐いた男たちは、それぞれ自分の持つ銃の点検と装弾を終えた。咽せるほどに充満していた火薬の臭いは木々の間を抜ける風によって薄まっている。
ふと気付いたように一人の猟師が、チームのリーダーである青木に訊ねる。
「討伐の証拠とか、なにか持ち帰った方が良いのか?」
「それなんだけど、特に何も言われてないんだよね。写真だけでも取って帰ればいいかな」
仕事を終えたものの、それを猟友会や自治体に報告するための証拠が何もないのだ。
通常の害獣駆除であればその死骸を持ち帰れば事足りる。しかし、フリークスは実際に討伐してしまうとその体は崩れ落ち、後には灰とも砂とも言えない塵残るだけだ。その塵をかき集めようにも、その大半は硝煙と一緒に風が運んでいってしまっている。
「歯形とかは残ってる訳だし、襲われた猪だけでも持ち帰るか?」
「うん、そうしようか。写真だけだとさすがに何か言われそうだ」
リクシの提案にアオキは苦笑しながら頷くと、手の空いている猟師に周囲の写真を撮るように指示した。そして自分は少しでも荷物を軽くするために、猪の死骸の血抜きを始め、すぐにあることに気付いた。
「食べるために襲ってる訳じゃないのか……」
その死骸を見ると、損壊は激しいものの、欠如している部位がない。野生動物に襲われた場合、真っ先に内臓を狙われ、胴体を食い荒らされる。しかし猪に残っている大きな傷は、致命傷となったものと考えられる首への噛み傷と、引きちぎられた脚の傷ぐらいだ。通常残るはずの食いちぎられ、抉れるような傷がどこにも残っていなかった。
「腹が空いてなかっただけか? いやそもそも餌を必要としない? ……まぁ死んだら砂になるような意味わからん存在だしな」
推測を重ねるも、生物学の権威でも何でもない自分では答えには辿り着かないだろうと、アオキは止めていた作業の手を再び動かし出す。
「次の駆除依頼が入った際には、ウェアラブルカメラでも付けようか」
「……こんな化け物の相手は二度と御免だけど」
「うん、それもそうだ」
なんとなしに改善案を口にするも、確かにリクシの言うとおり、できれば二度目はご遠慮したいと同感し、苦笑を浮かべる。
噛み傷を避けるように猪の頸動脈にナイフを入れたあと、頭が下になるように位置を調整すると、赤黒い血がゆっくりと出始めた。
「内臓は?」
「抜かなくていいさ、別に食用にするわけじゃないからね」
アオキの言葉で、一先ずやる仕事はないと悟ったリクシは、血で濡れていない地面を見繕い腰を下ろす。血が抜けきるまで、少しの休憩時間が与えられたものだと判断し、リュックから水の入ったペットボトルを取り出す。
「ビールが飲みたい」
「持ってきてるわけないだろ」
唐突に飲酒を希望するアオキに、リクシは胡乱げな視線を向けた。
「帰ったらって話だよ、まったく」
「アンタこの前、狩猟帰りにそのままキャンプするとかほざいて飲み始めただろうが」
当たり前だと言わんばかりの返答にリクシは少しむっとして言い返す。
「あぁ、そんなこともあったねぇ」
まるで他人事のように笑うアオキに呆れながら、青年はボトルに口を付けて水を流し込んだ。
「向こうも終わったみたいだね」
周囲の写真を取り終わったのか、男性二人は煙草を吸い始めていた。
突如、完全に気を抜いて談笑している猟師の一人に黒い影がぶつかる。木々の間から気配もなく飛び出してきたその影は、男の肩に深々と牙を突き立てていた。
唖然とその光景を見ていた男たちが、それをフリークスだと認めるまでに数秒かかった。「くそ、まだいたのかよ」
飲みかけのペットボトルを投げ捨て、リクシは再度銃を握った。
先ほどまで二頭のフリークスが暴れていたせいで、足跡を含むその痕跡が掻き消えており、誰一人その存在に気付かなかったのだ。
襲われた男は痛みで声を上げながらも、持っている銃から弾を放った。構えも何もない姿勢から放たれた銃弾は、それでも至近距離で撃たれたこともあり、化け物の脇腹を貫通した。
反撃されたことに怒りを露わにしたフリークスは、一度顎を猟師から離した。そしてうなり声を一つあげると、再度噛みついた。その牙は男の首筋に突き刺さる。そのまま己の頭を振り回す化け物。刺さった牙は傷を広げ、そのまま肉をえぐった。その血肉の隙間から骨が露わになる。
「おい、嘘だろ」
遠目から見ても明らかに致命傷だと分かり、リクシは声を震わせる。一つ目の獲物を仕留めたフリークスは、最早その死体に興味を無くし、すぐ側で同じく煙草を吹かしていた男に狙いを定めていた。