FREAKS 作:メヤニ
血を滴らせながら、男たちを威嚇する異形は、既に駆除された個体と一目で分かる差異が数点あった。
まずはその大きさ、リクシが遠目から見ても先ほどまで対峙していた個体よりも一廻りほど大きい。そして異様とも言えるのがその形状だった。前脚と後ろ脚の二対の脚に加え、脇腹に当たる位置からそれぞれ左右に一本ずつ生えた脚があり、その化け物は計六本の脚を持っていた。そして、血で汚した顔面に視線をやると、眼球が二つ忙しなく周囲を警戒していた。従来の生物なら顔の左右に位置するはずの眼孔は、顔の中心で縦に並んでおり、三人の男の動きを窺っている。
今までの個体よりも不気味さを一層増した異形を前にしてか、それとも先ほどまで談笑していた仲間がやられたからなのか、近くでフリークスに牙を剥かれた猟師は後ずさりながら歯をガタガタと鳴らす。
恐怖に自制心が負けそうになりながらも、銃はしっかりと構えたままだ。しかし、その標準は震える身体のせいでしっかりと定まらない。
いつ飛びかかられてもおかしくない状況で、男は少しでも距離を取ろうと、化け物に銃口を向けたまま後ずさりをする。その距離を維持するように、フリークスはじりじりと男に近付く。その緊迫した状況を一発の銃声が崩す。男に化け物の注意が向いている隙に、アオキが一発の弾丸を放ったのだ。
銃声の瞬間に化け物の身体は飛び跳ねる。しかしそれは銃弾を食らった反動ではなかった。
「避けやがった……」
リクシがその光景を見て唖然とする。
化け物が弾丸を食らったのは、死んだ男が放った一発のみ。銃声の途端にその場を飛び退いたということは、その一発でフリークスは銃という武器を理解したことを意味していた。
「勘弁してくれよ……。その意味分からない身体で知恵まで持ってるなんてね」
アオキはあまりの事態に射撃姿勢を維持しながらも苦笑を浮かべた。
「リク坊、同時に撃つよ」
リクシは頷きながら標準を合わせた。
「3……2……1……、撃て」
アオキが低い声でカウントを始めると、リクシは呼吸を止めて銃口を化け物に向けて固定し、合図の声と同時に引き金を静かに絞った。
重なった銃声が一度だけ聞こえる。フリークスは同じようにその場から飛び退く。リクシの放ったスラッグ弾は、地面に当たり土埃を上げるも、アオキの持つライフルから放たれた一発の弾丸が化け物の首を貫いた。
猟師たちは弾が当たったことを喜ぶが、すぐに化け物の様子みて考えを改める。生き物であれば急所になるはずの首を貫かれても、その六本の脚はしっかりと地を踏みしめている。
「……クソがっ!」
突如、轟音が続けざまに鳴る。化け物に一番近い場所でその光景を見た男がパニックを起こしたようにフリークス目掛けて銃を乱射し始めたのだ。しかしそれもすぐに装弾数の問題で鳴り止んだ。
それでもなお引き金を鳴らし続け、ようやく弾切れになったことに気付いた男は、震える手で弾を込めようと、片手を弾を仕舞っているポーチに伸ばした。
全弾とは言わないまでも、数発はその身体に弾丸を食らったはずだ。それにも関わらず、大型のフリークスはまだ死んでいなかった。
先刻までギョロギョロと周囲を見渡していた不気味に並ぶ二つの目玉は、いつの間にか、己に銃弾を乱射した男にのみ視線を注いでいる。
震える手でようやく銃弾を取り出した男は、その視線に気付くと、小さく声をあげてその弾丸を取り落とした。
化け物はもう目の前の男が弾丸を放てないことを理解したのか、更に距離を詰めようと脚を動かす。
「た、助けてくれ!」
男は既に半狂乱になっていたのだろう、銃すらも手放し化け物に背中を向けると、助けを求めながら、逃走を始める。化け物はその様子から、完全にその男を獲物と見定め、すぐにその後を追い始めた。
「位置が悪い……なんて言っていられる状況じゃないんだよな」
男が逃げた方向はアオキたちから見ると真反対だった。それを追うフリークスを撃とうとすれば、その直線上に男がいるため下手をすれば彼が被弾してしまう可能性があった。講習などであれば絶対に発砲してはいけない、と言われる状況だ。
それでもアオキは銃を構えた。六本脚から出される速度は常軌を逸しており、生身の人間が逃げ切れる速さではない。放っておけばすぐに追いつかれて噛み殺されることは目に見えていた。
「他のやつには黙っててくれよ」
アオキはリクシに言い含めると、ゆっくりと引き金を絞った。