”ピッ”通信が入ったことを伝える機械音が、無機質な操縦席のような箱に響く。
点滅するボタンを雪のように白い細い手が指先を伸ばし答えるように押す。
『各機に通達、作戦開始が通達された......敵の
「...了解」
『作戦開始』
操縦席に座る少女が、レバーを引くと同時にそれまで静かに小さく鳴る程度の機械音が、生物の鼓動音のように聞こえ始める。
「”んッ”」
少女は硬くなった身体をほぐし小さな声を出す。
「はあ」
溜まった疲労感を吐き出すようにため息を吐くと、膝上に置いていたヘッドデイスプレイを装着する。
少女は先ほどとは別のボタンを押す。
『うー、この狭い空間に毎日待つのもさすがにキツい、ね、フレスヴェルグ2もそう思わない?』
「私は......狭いところの、方が落ち着く、から」
通信の相手は、ハキハキとしたミカンの連想させる少女の声で、愚痴を零す。
『フレスヴェルグ3、私語は慎めといつも言っているだろう、第一待つと言っても一時間ぐらいだろう。普段の授業のと変わらないじゃないか』
愚痴をいうフレスヴェルグ3に対して咎める声を出す、クールさを感じさせる声でいう彼女はヘッドデイスプレイにフレスヴェルグ1と表示されている人物。
『むー、
「......慣れた、から、違いが分からない、かな」
『ほら、フレスヴェルグ2だって慣れたら違いはないと言っているだろう、フレスヴェルグ3は待つことを覚えるべきだな』
『むきー、フレスヴェルグ1だってスワローのパフェ前にしたら待つことなんかできないじゃん、そっちこそ待つこと覚えたらどうなの、普通皆の分が来るまで待つでしょ』
『なっ、それとこれとでは話が違うだろ、第一だな―――』
話が徐々にヒートアップしていく中テキパキと操作を進めるフレスヴェルグ2。フレスヴェルグ2の操縦席には、吹雪が猛烈に吹く景色が映し出されている。
そして各部の初期動作及びシステムの確認を行い、異常がないことを確かめる。
オールグリーン、全ての確認を終えたフレスヴェルグ2は操縦レバーやペダルを動かし始める。
ペダルを踏み、レバーを引くといった操作を行なうのに合わせて操縦席のディスプレイに表示される景色も合わせて動く。
『はいは~い、二人ともストップ、とにかく今は作戦が優先でしょう。子供みたいな喧嘩はあとでして、もうフレスヴェルグ2は動き出してるわよ』
『む、むう、了解』
『別に......了解』
キャリアー104と表示された年長を思わされる声によって二人の話は鎮静化される。
『フレスヴェルグ1より各機、これよりレイリッシュ氷原の制圧作戦に入る。事前情報より敵は4個小隊12機がこのレイリッシュ氷原に展開していると思われるが、対してこちらは私たち一個小隊計3機だけだ。だが私たち第104小隊には大した差ではない......
「ん、フレスヴェルグ2了解」
『フレスヴェルグ3了解、いいねすごくワクワクするよ』
『ふっ、そう言って貰えると悪くない、まもなく会敵だ』
会敵まで残り1分と少し、フレスヴェルグ2の操縦席に座る少女は自信が操作する機体の引き金とも言える部分に手を掛けようとする瞬間。
フレスヴェルグ1からの個別の通信がその時入る。
『......フレスヴェルグ2、今日は好きに撃て、何も考えず、冷徹に、全ての責は彼ら自身にある、私が許可する撃て、一人残らず、全て』
フレスヴェルグ1の声色には先ほどまでの温かさは感じられない。それに答えるようにフレスヴェルグ2、一人の少女の纏う雰囲気も変わる。
冷たく無感情な機械、まるで少女が操作する機体の持つスナイパーライフルのように敵を倒すことを目的とする兵器のようだった。
「了解」
吹雪の中動く小さな人型ロボット、フレスヴェルグ2のスナイパーライフルのスコープにその黒い影が写る。
雪のように白い肌をした手の指先はまるで死をもたらす死神のように、冷たく引き金を引いた。
『―――レイリッシュ氷原の支配はクルセイダー側の全滅により支配権はアラビスタ同盟になりました―――』
《enemy:0》
『フレスヴェルグ1よりフレスヴェルグ2へよくやった作戦は終了だ......お疲れ様」
フレスヴェルグ2のディスプレイに映る視界には、無惨に破壊された戦士の姿をした人型ロボットLBXの残骸たちを徐々に暗くなる中で吹雪が吹く氷原はまるで恐ろしい化け物のように呑み込んでいった。
□■□■□■□
アラビスタ同盟の司令室から見える無数のコントロールポッド。その一つから、戦闘を終えた生徒が現れる。鴉色の美しいロングヘア、無関心に見える変化の乏しい表情、身長は平均的な152センチ、男子が、強く握ったら折れてしまいそうな華奢な手足、服装はアラビスタ同盟のカーキー色の学園の制服とスカート、膝上までのニーソを履いている。平均的に見目が良い生徒が多い学園でも上位に入るだろう。
名を有久・イリス、一年四組に所属、アラビスタ同盟の第104小隊通称フレスヴェルグ小隊の二番機をつとめている。
「ねぇねぇ、イリス今日はさ、久しぶりにスワロー行かない?」
「・・・・・・行く」
「よしよし、あっ隊長も当然行くよね?」
「・・・はあ、全く・・・ペルル、奢りは無しだからな」
「ギクッ⁉︎ 、だ、だいじょうぶだしぃぃ、余裕、余裕あるもんほんとだよ?ほんとほんと・・・・・・うん」
「・・・・・・足りなかったら、代わりに、払う、よ?」
「おい、イリス、甘やかすのもーー「イリスちゃん、ダメよ、情けは人の為ならず」
「ペルルの為にもならないし、あなたのためにもならないわ。甘やかし過ぎるのはダメよ、ペルルも、手持ちの範囲で我慢なさい」
「・・・・・・わかった。」
「むむ、ミネおねちゃんが、言うならわかった」
「・・・観音の言うことは聞くのか・・・」
隊長と呼ばれた生徒は灰色の髪を後頭部で一纏めに結んだ身長160センチの美少年、フレスヴェルグ小隊の一番機で隊長。名前は竹橋・クロ。苦労人。
ペルルはフレスヴェルグ小隊三番機、水色のショートヘアで、外見は活発な感じ、身長147センチと、隊の中で一番低い身長。
最後に観音、ミネおねえちゃんと呼ばれる少女は、フレスヴェルグ小隊のメカニック、緑色の髪を三つ編みに結び背中側に流している、身長158センチ、外見は落ち着いた雰囲気を出している。
四人は喫茶店スワローに向けて夕方の大通りを歩く最中。イリスは三人の少し離れた後ろをゆっくり歩いていた。
イリスはまるで三人と自身が歩むことを避けているようだった。
けれど前を行く三人は振り返り、イリスの側まで近寄る。
「もう、イリスっていっつも後ろにいようとする」
「まるで小隊で仲間外れにしているみたいじゃないか、ほらせっかくの機会だペルルの馬鹿より前にきたらどうだ? 今日のMVPはイリスだからな」
「そうね」
そして三人の輪の中にイリスを引き込むとイリスの歩幅に合わせて歩き出す。
イリスは先ほどまで冷たく機械と化した自身を三人は日常へと引き戻してくれる。
四人は寮に帰るまえに、喫茶店スワローに寄る。座り心地のいい椅子に座って四人はそれぞれ注文をする。
「君たちが来るのは久しぶりだね、注文は何かな?」
「マスター私は、砂糖マシマシのコーヒー!」
「自分は、マスターオススメのコーヒーを頼む」
「私は、セイロンティーでお願いするわ」
「今日はモンスーン・コーヒーがオススメだね、イリスちゃんはいつもメープルティーかい?」
「・・・ん」
「注文は以上だね、すぐに用意するよ」
喫茶店スワローのマスターは注文受けると離れていった。
すると真っ先にペルルが今日の話を切り出した。
「ねぇ、イリス今日の狙撃さ、どうやって当てたの、吹雪で殆ど視界ゼロだったでしょ」
「確かに、そうねあの距離あの視界不良を幾らクロの観測支援があっても正確 に狙撃するのは難しいと思うのだけど」
ペルルの切り出した話に観音が同意する。
「別に、大したことじゃない・・・ただ言われた通り撃っただけ」
内容を説明することが苦手なイリスは何一つ説明にならない返答を返した。
「イリス、それだけ言われてても分からないよ」
「まぁ、イリスちゃんに聞くよりはクロに聞いた方が早そうね」
イリスのこの苦手は今に始まった事ではない、なら観測支援をしていたクロに当然のように説明を求めた。しかしクロは面倒な事になったと思いながら、事の次第を話そうとする。しかし
「ねえ、あれってアラビスタの死神小隊じゃない? 」
「確か噂じゃバイオレットデビルの戦果と小隊で同等だっけ」
悪気はないのだろう、彼女らの話が耳に入る。
「死神か、まあ、間違っちゃいないな、俺たちの小隊の名前の由来は北欧神話の鷲の姿をした巨人、フレスベルグ、古ノルド語で、死体を呑み込む者、だからな」
「むう、でもさ私的にはもっと可愛いのがいいなあ、ほらわっしぃ小隊とか」
「・・・・・・はずかしい、それ」
「そうね、ペルルの意見は可愛らしいけれどイマイチね」