正雪先生の隣に寄り添ってあげる人を置きたかった話 作:浪人Aです。なんか書いてる奴です
彼を私の私塾に寝泊まりさせるようになって数日が経った。
殺しを生業としていたらしい彼に足を洗わせたかったからこそ、用心棒として雇うと言ったのだ。
それからだろうか、浪人たちがどこか緊張したような、ソワソワしたような様子を見せるようになった。
だから、私はそれを彼らの一人に聞くことにした。
すると……
「先生は……、アレが何か知らぬのですか?あの黒い着物と黒塗りの鞘、聞いたことはないのですか?」
と困惑したような表情を浮かべた。
私は、黒狐と名乗っていることだけを知っていると答えた。
すると、浪人はひどく怯えた様子で
「アレは、殺し屋なのです。政府の高官から貧民まで、金さえ払えば誰の命令であろうと完璧に、衆目の中でも証拠さえ残すことなく殺しを行う……、江戸の不審死のほとんどは奴だと言われています」
「そうだったのか。なら、他の皆にも安心するように伝えて欲しい、今の彼はただの用心棒だ」
すると、唐突に真後ろから足音が聞こえた。
「お呼びですか?先生」
件の彼がそこに立っていた。
途端に、話をしていた浪人は怯えて走り去ってしまう。
黒狐はただ私の背後に静かに佇み
「あの男は?不都合ならば、」
そう言って刀に手を掛けた彼を、私は手で制した
「ただ、あなたのことを聞いていたんだ。──随分と多く殺していたそうだな」
「唯一の生きる術でしたので」
彼は、私に丁寧な言葉を使うようになった。
彼曰く対等にいるよりもその方が楽らしい。
人と対等にいるよりも、大志の下に支える方が楽だとは彼自身の言葉だ。
「孤月」
「……?」
「これからの貴殿の名だ、これよりはそう名乗るといい。」
「─────、わかりました。これよりは先生の剣として、使い潰して頂ければ」
殺し屋としての恐れから付けられたもの以外の名を持たぬ彼を案じて名を与えたが、それは彼にとって別の意味を持ったらしい。
彼との関係性すら図りかねるまま、私に盈月の儀に関する知らせが届いたのは二週間後のことだった。
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数日後、月のない新月の夜のこと
「……其の方、土御門泰広とお見受けする。間違いはないか?」
「いかにも。…だが、お前のような浪人が何の用だ?」
黒い着物の、笠で顔を隠した浪人が土御門泰広の前で立ち止まる。
そして、土御門へと言葉をかける
「〝件の儀〟に際しまして、質問が」
「──ほう、貴様、儀について知るのならどこかの陣営の手先か。それで?質問とは?」
土御門は、明らかに見下した様子で浪人に相対する。
浪人は、それを気にもしない様子で
「……儀は、そろそろ始まるものだと聞いたが、用意は済んでいるものだと考えてよろしいか?」
「あぁ、既に盈月の儀の用意は整っている。刻限になれば盈月は動き出し、参加者に令呪とサーヴァントを与え…さらに七騎の英霊を呼び寄せるだろう」
「もはや、あなたの介入すら必要はないと?」
「あぁ、一応は監督として務めるが、その必要性は少ないだろうな」
「───質問に答えていただき、感謝する」
浪人は軽く会釈をして泰広の隣を通り抜ける。
カチリ、と鞘と鍔の打ち合う音がした。
その後に土御門は振り向く。
ふと、違和感を感じ首に手を当てる。
「……なん、だ?」
その手にはべたり一面にと血が付いていた。
土御門の首から血が滲み、それが一直線に線を作っていく。
「……おい、お前…待……て」
どさり、と思い音を立てて土御門の首が落ちた。
「─────御命、確と頂戴した」
読了ありがとうございました
鍔鳴りは刀に悪いという話は知っておりますが、二次元あるあるの刀にダメージのない謎のカチリだと思っておいてください